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第22話 至福の夜

 夜の戦闘と夜食回。

 球体が出現した瞬間、古貞は夢を見て幸せそうな寝顔が少し歪んだ。

 彼が見ている夢は紫の肌で全裸のような女淫魔が突然現れて戦闘になった夢だ。夢なので刀がなくパンチやキックで攻撃しているが液体のような体の女淫魔には、あまりきいていない。

 自分の夢ではないような感じで、うまく動けず不利になっていく。


『おれを殺した岡井 古貞!! たとえ肉体を失っても、お前を道連れにしてやる!!』


 聞き覚えのある男の声が夢の古貞を苦しめる。その声は夢馬の声だった。


『復讐しろ、呪いの使い魔!! 古貞のエネルギーを吸い、悪夢を見せて衰弱させろ!!』


 女淫魔は夢馬の応援で力を増し、少年を押している。


「う~ん……」


 悪夢を見ている古貞はうなされており、腹部の黒い球体はエネルギーを吸って大きくなっていく。そして夢と同じ女淫魔の姿になり少年にまたがった。

 夢馬の保険で自分を殺した相手を衰弱させる呪いの使い魔だ。古貞の体に触れてエネルギーを吸い、悪夢を見せて苦しめ、衰弱させている。

 苦悶の表情を浮かべ、寝汗をかき、またがっているので寝返りをうつことができなかった。

 深い悪夢のせいで起きることができず、このままでは少年のエネルギーがなくなり干からびて死んでしまう。

 しかし、ここには古貞を助ける女神達がいる。


「夢馬の置き土産め!!」


 アイシャドウがない宮はひどくうなされている古貞に気づいて起き、使い魔を睨んだ。


夢捨夢捨むしゃむしゃ!!」


 宮は少年の頭に近づき、彼が見ている悪夢を具現化し、クッキーのようにかじって全部食べた。


『ぎゃあああ!!』


 夢馬の悲鳴が響き、悪夢が消えたので古貞の寝顔が穏やかになった。


「こいつ!!」


 緋恋も起きており少年のエネルギーを吸って殺そうとしている使い魔に激怒し殴りとばした。この使い魔も液体のような体なので、あまりきいていないが少年から離れた。


「治師手!!」


 古貞に危害を加えたので慈悲はなく聖華は手の平から光を放ち、使い魔を浄化して消滅させた。三人だけで使い魔を倒し静かな夜に戻った。


「残党の暗殺に使い魔か。安心して眠れないな」

「本当に気をつけないといけませんね」


 使い魔が消えても緋恋と聖華は警戒している。このような人生を選んでしまったが自分のためでもあるので後悔はしていない。


「それじゃあ、あーしは甘い夢を食べたから歯をみがいて、絵亜郎にこのことを伝えてくる」


 宮はベッドから下りた。


「夢って甘いお菓子のようなものなのですか?」

「そうだよ。あーしの能力で甘いお菓子に変えたのさ。ひどい悪夢ほど甘くておいしいんだよ」


 聖華に自分の能力を教えてテントから出た。彼女の夢を食う能力で眠っている相手の夢を食べて自分の力にすることができる。味の好みの問題でいい夢ほどまずい。


「さあ寝よう。今日はいろいろあって、さっきので、さらに疲れた」

「はい」


 緋恋と聖華は横になり少年を守るように抱いて両目を閉じた。まともな戦闘では強いが、あのような攻め方には弱いので守る必要がある。力強く抱く頑丈な緋恋と優しく抱くやわらかい聖華の感触で古貞はいい夢を見ており、笑みを浮かべて、よだれをたらした。


 ◇


 絵亜郎が利用しているテント。部屋のようでデスクや椅子、ベッドなどがある。歯をみがいた宮は絵亜郎に先ほどのことを報告していた。


「それじゃあ、おやすみ」

「おやすみ。報告ありがとう」


 報告を終え、彼女はテントから出て古貞達がいるベッドへ向かう。


「これから戦いはもっときつくなる」


 絵亜郎は椅子に座った。デスクには資料などがあり遊んでばかりいる幼仲と違い、彼はいろいろなことを考えて、まとめていた。


「まだ獣人団とドラゴン団、白鳴家などがいる。ドワーフ団を確実につぶさないといけないけど、やつらだってドワーフ団が弱いことを知ってるから放置はしないだろう」


 簡単に勝てる近い相手を倒すのは当然のことで次の標的はドワーフ団と決めており満場一致だった。

 バカ当主を倒して沼束を解放するという大それた目的で押しつぶれそうだったが、デスクの上にある写真立てを見て耐えた。幼仲に殺された母と妹の写真で、これを支えにしてがんばってきた。


「絵亜郎」


 ふたつのカップラーメンを持った雪達が入ってきた。


「どうした、雪達?」


 親友と両手のカップラーメンを見た。


「いろいろ考えて小腹がすいてると思って夜食を持ってきた」


 雪達は笑い、近くのテーブルにカップラーメンを置いた。


「そうだな。それを食べて寝ることにしよう」


 絵亜郎は立ちあがり、近づいてテーブルの上にある電気ケトルを持った。


「雪達はこれだよね?」

「うん」


 大きなカップラーメンのフタを開けて、お湯を注ぎ、自分が食べる小さな方にもお湯を注いだ。あとはフタに重りをのせて待つ。


「この重りって」


 重りを見て雪達は笑った。両方のフタにのっている重りには幼仲の写真がついていた。


「やつは熱いカップラーメンのフタで苦しみ、フタの重りにしかならない無能だ。いや胡麻見家をつぶし、沼束の人々の足を引っぱる重りだ」


 絵亜郎はバカ当主が苦しむ姿を想像し、冷たくて怖い目で写真を見ていた。それだけ幼仲のことを恨んでおり、写真を貫きそうな目つきだった。


「たしかにそうだね」


 雪達も母を殺されたようなものなので彼の気持ちがよく分かる。


「ここに練治がいないのが残念だ」

「うん」


 二人は死んだ親友がいることを想像して悲しむ。


「この戦い、私も練治のように死ぬかもしれない。まあ死ねば母と妹、練治に会えるな」


 不安でいっぱいの絵亜郎は自虐的な笑みを浮かべた。


「僕が死なせないから会えないよ」


 親友を失いたくない雪達は真剣な表情でとても頼もしい。絵亜郎のように難しく考えていないので精神が強かった。


「敵が強いだけでなく敵の中に仲がいい女友達がいるのだから不安になるよね」


 反逆者になる前は胡麻見家に従っていたので雪達と練治の他にも友達はいた。


「彼女は胡麻見家派。敵として出てきたら私は戦う。その覚悟はある」


 反逆者になった途端、友は敵となった。友だから戦わないという甘い気持ちなどなかった。


「話はこれくらいにしよう、雪達」

「そうだね」


 二人は話をやめて、カップラーメンに手を伸ばす。時間どおりではなく自分の好きなタイミングで食べるタイプだった。

 中を見ようとフタを開けると凄まじい湯気とともに女淫魔が出てきた。


「「わっ!!」」


 絵亜郎達は驚き、テーブルから離れ、女淫魔達を見た。麺のような色の肌で全身から細い触手が無数に出ており、人間ではなかった。


「なんだ、これは!?」

「カップラーメンじゃなくてトラップラーメンだ!! お湯を入れると敵を攻撃する姿になるやつだ!!」


 雪達はすぐに分かり、絵亜郎に説明した。淫魔団の食糧倉庫にあったもので食べようとした敵を攻撃する罠だ。


「攻撃してくるけどカップラーメンと同じだから食えるよ!!」

「そうか!! なら食べよう!!」


 敵にばれないように本物と同じなので二人は食べることにし二体の使い魔に向かっていく。使い魔達は無数の触手を伸ばして攻撃する。

 武器で倒すと消滅してしまうので絵亜郎は無数の触手をかわし手で瞬時につかみ、ひとつにまとめてすすった。


「おいしい!!」


 麺と同じ味でスープと一緒にすすっているような感じだった。

 槍がない雪達は触手などものともせずに殴りまくり、使い魔を弱らせる。そしてかみつき、卑猥な音をたててすする。


「ジュルルル!! いいコシだ!!」


 自分好みの麺のかたさなので喜ぶ。食われている二体の使い魔は苦しんでおり、体が小さくなっている。

 夜のカップラーメンは魅力的で少年達は一心不乱に食べていき、使い魔達を消した。激しい夜食は終わり、この日は終わった。


 私もカップラーメンは麺の状態を見て食べるタイプです。

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