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第10話 嫌なやつらの刺客達

 苦旅との闘い。彼の過去。

 ◇


 ベジカラフル尋問後の夜。仕事を終えた古貞は家へ向かっている。


「今日はいろいろあったなあ」


 今日の出来事を思いだし、疲れた体がさらに疲れた。


「今日の晩ご飯はなんだろう?」


 母の料理が待っているので舌なめずりをして急いで帰る。その時、怪しい影が彼の背後に近づいた。


「お命ちょうだい」


 闇夜に一瞬光る刀で静かに斬りかかる。古貞は後ろを見ないでかわし、刀を抜いて振り向いた。


「だれだ、てめえは?」


 刀を構えて睨む。白い団員服姿の男性で顔は深編笠で隠れていて見えなかった。


「名乗る名はない。苦旅と呼ばれている。お前を斬り捨てる」


 秀羽の依頼で闇討ちにきた。無駄なことはしゃべらず刀を構える。


「なんで、おれを斬るんだ?」


 スキがない少し強そうな相手なので警戒しつつ話をする。


「このような仕事をしていれば、だれかに恨まれるのは当然だろう?」

「たしかに」


 余計な詮索をやめて笑い、降りかかる火の粉を払う。


「ゆくぞ」


 斬りかかる苦旅の刀を受けた。そして、刀同士のぶつかり合いが始まる。


(剣術では、やつが上だな!)


 動きなどで熟練の腕だと分かり、少年は相手の攻撃を防いで攻める。


(この動きは!?)


 古貞を殺すことしか考えていなかった苦旅は彼の動きを見て剣術が乱れていた。


「お前!! その剣術、だれに教わった!?」


 離れた途端、冷静な感じがなくなって話しかけてきた。


「なんだよ、急に?」


 訳が分からず古貞は警戒しつつ攻撃をやめた。


「答えろ!! だれに教わった!?」


 殺意が乱れており、うるさいので答える。


「繭林団の元指揮官 船津さゆりさんだよ」

「……そうか! やはり、あの人か!」


 苦旅はひとりで納得しており、ますます訳が分からなくなった。


「さゆりさんを知ってるのか?」


 闇討ちしてきた相手に言えることはそれくらいだった。


「ああ、それがしは繭林団にいた。若い連中についていけず職場を追いだされ、今はあちこち回って食客生活」


 スキだらけだが、哀愁を感じたので攻撃せずに聞く。


「優秀でそれがしにまで気をかけてくれたさゆり殿。その方の闘い方を忘れるわけがない」


 涙声で苦旅の殺意は完全に消えていた。


「さゆり殿の弟子なら斬り捨てることはできない」


 刀を鞘にしまって背中を見せた。


「おれが言うのもなんだが、おれを殺さなくていいのか?」


 古貞は刀をしまっておらず、いつでも斬れる状態だった。


「このまま、ここを出るので問題ない。古貞。さゆり殿から教わったことを腐らせるな」


 苦旅は去っていき、闇夜に消えた。


「なんだったんだ、あいつは? まあいいか」


 見えなくなったので刀を鞘に入れて歩く。細かいことは考えずに家へ帰る。そして、その後、苦旅は死んだ。


 ◇


 次の日の朝。古貞は基地へ向かっている。


「古貞君、おはよう」


 さゆりがあいさつをして近づいてきた。


「おはようございます」


 彼女を見て苦旅のことを思いだしたので消し去るようにあいさつをした。苦旅のことを聞く気などなかったので話さなかった。


「あんたが古貞ね!?」


 突然の怒声とともに目の前に中年女性が現れた。おばさんという感じで醜くて嫌な感じがあった。まったく知らない女性でさゆりも知らない。


「あんたのせいで!!」


 少年の胸倉をつかみ、顔を近づけた。一般人のようなので、さゆりは止めることができなかった。


「だれだよ、あんたは!?」


 醜い顔と臭いに圧倒されつつ、なんとか話す。


「私は重月の母だよ!!」


 女性の正体を知って二人は驚いた。そして、ここへきたことも察した。


「あんたがうちの子を倒したせいで、すっかり自信をなくして部屋にこもってしまったのよ!! どうしてくれるの!? エースだった自慢の息子を!!」


 泣いて喚き、少年を責める。かかってきたのは重月なので古貞は悪いと思っていない。それに彼はあれくらいでくじけるタイプではない。


「あんた、うちの子が言ってたダメなやつでしょ!! あんたみたいなのは、おとなしく殴られていればいいのよ!! うちの息子があんなになって、これからどうやって生活すればいいのよ!!」

(本気で言ってんのか、このおばさん?)


 言いたいように言わせていたが、さすがに頭にきた。野次馬が集まり、重月の母親に同情的で古貞の味方はいなかった。


(嫌なやつの母親でも手を出すのはな)


 相手は一般人なので気がすむまで言わせることにし抵抗しない。しかし、さゆりが重月の母にビンタをした。

 叩かれると思っていなかったおばさんは少年をはなして、さゆりを見た。今まで見たことがない氷のような冷たい表情だった。古貞と野次馬は凍りついたようにびびっている。

 重月の母は一瞬だけ怯み、烈火のように怒る。


「あんた!! 団員が一般人を叩いていいと思ってるの!?」

「団員ではなく人間のさゆりとして叩きました。あなたはひどい母親ですね。古貞君だけを責めるのはおかしいです。同じグループだった秀羽君や凪さん達は責めたのですか?」

「そ、それは」


 静かな怒りを感じる声でおばさんは押しつぶされそうになり、くちごもる。


「秀羽君は特権階級、凪さん達は大勢いて隠れて人を傷つけるタイプだから、ひとりで庶民の古貞君を責めたんでしょ? 自慢の息子のためとは思えない打算的な行動ですね」


 秀羽達が重月を突きはなさずに支えていれば壊れなかっただろう。


「これ以上、失礼なことを言わない方が身のためですよ?」


 諭すような口調で脅す。なにも言えなくなったおばさんは絶望し両膝をついた。


「まあ自慢の息子なら一生面倒見れるだろ?」


 古貞はバカにするように笑って見下ろし、言いたいことを言って移動した。さゆりは満足し彼についていく。


「わあー!!」


 重月の母は狂ったように泣き叫び、地面に何回も頭をぶつけている。野次馬がなんとか止めて、家へ送ろうとしていた。


「あんなことをしたら、さゆりさんの評判が悪くなりますよ」


 彼女の行動はうれしかったが心配もしている。


「そんなこと気にしていないわ。弟子を守って怒るのは師匠の役目よ」


 まったく気にしておらず頼もしかった。


「おはよう、岡ちゃん!」


 野次馬の中にいた稲子が駆け寄り、あいさつをした。


「さっきのはいくらなんでも言いすぎだよ」


 責めるというより少年のことを心配していた。


「いいんだよ。それにおれは言葉を選ぶほど器用じゃねえ」

「まったく」


 ぶっきらぼうな態度に呆れて笑い、古貞から離れて基地へ向かう。


「最後に言ったこと、悪者になって私を庇うために言ったんでしょ?」


 稲子がいなくなった途端、耳もとで囁く。


「ばれていましたか」

「分かるわよ」


 お見通しといった感じで微笑む。いくら強くなっても彼女には敵わなかった。その後、古貞が重月の母親を泣かせたことは基地中に広がった。人徳の差で古貞だけが白い目で見られていたが、気にせずに仕事をしている。



 


 古貞の立場はさらに悪くなる。そして強敵との対決が始まる。

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