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報告会のようです。

投稿が遅れてすみません!

急きょ仕事が入り、いつもとは違い、出先からスマートフォンにて投稿しております。

表示の不具合などございましたら、本当にすみません。

 最初に目を覚ました直文の家まで戻り、ベッドに横になってからログアウトを選んだ唯は、フッと浮上した意識に押されて瞼を開けた。

 一番初めに視界に飛び込んできたのは、真っ青な光。ほのかに青く輝く正方形のブロックが積み上げられた部屋に唯は立っていた。ゲームを始めようとVRゴーグルを被った時に真っ先に目にした光景だ。

 その部屋の真ん中で、案内人が四角いモニターに笑顔のマークを表示しながらフヨフヨと浮かんでいる。


『おかえりなさい、ラインカー様! 『イーストグリシン』の世界から目覚めますか?」

「目覚めたいです」

『分かりました! 五秒後に接続を解除します――』


 案内人の声が途切れ、VRゴーグルを外した唯は、見覚えのある現実の直文の部屋にホッと息を吐く。エアコンのきいた部屋は涼しく、手のひらにじっとりと滲んだ手汗の熱さが余計に際立った。

 目を瞑ればまだ思い出せる。街を歩く人々の雑踏。緑の濃い森の匂い。鎧が擦れる音、硬貨が重なる金属音。日本にいるだけじゃ味わえない興奮に、まだ指先が震えている。


「ゲームってすごい」


 今日、何度目になるか分からない台詞をもう一度口にした唯は、晩ごはんを作るべく付けていた機械を全て外し、直文の部屋を後にした。

 それから数時間後。

 唯は、夏期講習から帰ってきた直文と本日の夕食である生姜焼きを囲みながら報告会をしていた。


「姉ちゃん、どうだった?」

「あのね、ものすごく楽しかった」

「でしょ」


 直文がふふんと得意気に鼻を鳴らす。大きな口に吸い込まれていった豚肉と白米を眺めながら、唯は麦茶をぐいっと飲んだ。話したいことはたくさんあるのだが、いったい何から話せば良いのやら。


「結局どのくらいやってたの?」

「三十分くらいかなぁ。ゲームの方の時間だとだいたい一時間半」

「めっちゃやってるじゃん。さては寄り道とかしたんでしょ」

「そんな余裕ないよ。ただ、森で薬草を採ろうとしたらえらい目にあってさ。ナイフからいきなり渦巻が出てくるんだもん。驚いちゃった」

「……それって、もしかしてポセイドンのナイフ?」

「当たり! よく覚えてるね」

「よく覚えてるね、じゃねーよ!? あれ戦闘用のナイフなんですけど!?」


 突然、直文が勢いよく椅子から立ち上がった。あり得ないと言わんばかりの勢いに唯の方が後ずさってしまう。


「姉ちゃん! あれ! 戦闘用のナイフ!!」

「そ、そんな怒鳴らなくても聞こえてるよ。なに、ナイフに種類とかあるの?」

「あるに決まってんじゃん! 採集用のナイフは貴重品入れに入ってるって、ヘルプにも書いてあったでしょ!?」

「そんな細かいところまで読んでないよ」

「読めよ!!」


 ゼーゼーと肩で息をする直文が疲れたように椅子に崩れ落ちる。少し温くなった麦茶を一息で喉に流し込むと、はぁぁぁと盛大なため息をついた。


「姉ちゃん、いい? 戦闘用のナイフで採集しようとするのは、スライムにメラゾーマするようなものだから」

「例えが難しくて分からないよ」

「じゃあ、世界一の天才に1+1=2の問題を解いてもらった上に、お礼として一億円払ったようなもんなの」

「うーん……なるほど? 確かにそれは過剰すぎるかも」


 喩えになっているようでなっていない例えに頷きながら、唯は食べ終わって空いた皿を重ねキッチンに行く。

 直文のお皿も受け取りながら、スポンジに食器用洗剤をかけた。スポンジを泡立て汚れた皿を洗っていく。


「でもナイフが使えないなら、結局薬草はどうしたの? まさかクエスト達成できなかった?」

「ううん、引っこ抜いた」

「引っこ抜いた!? というか、薬草って人の手で抜けんの!?」

「あはは、何言ってんのよ。薬草って言ってもそこら辺に生えてる草と同じでしょ。スポーンってすぐ抜けたけど」


 ケラケラと笑う唯に、直文はひくりと頬をひきつらせる。言いたいことは山ほどあったが、深く突っ込んだら負けだと直文は一旦忘れることにした。姉ちゃんに常識なんてものは通じないのだ。


「あっ、そうそう。薬草渡しに行ったらね、報酬と一緒になんかの情報も貰ったよ。えーと、ふぇんりる? の住みかの場所だったかな」

「なんで!? 俺が所持金全部渡しますって言ってもくれなかったのに!?」


 叫びすぎてもう直文の喉はガサガサである。姉は昔から突拍子もないことをする人間だったが、どういう経緯があればそんなことになるのだろう。

 慌てて経緯を聞くと、あのギルド長相手にボディビルのポーズをとってもらったと言われ、直文の目の前がくらりと真っ暗になる。

 唯は知らないが、ゲームの中とはいえあの若さでギルド長を任されているのは相当優秀な設定(あかし)であり、さらにあの街は初心者が集まる場所なこともあって、素行の悪い者も中には居る。

 その連中もギルド長の言葉には逆らえないというのだからその怖さが窺えるのだが、知らぬが仏である。

 唯は、そんな直文の様子をきょとんとしながら眺める。


「そんな凄いことなの?」

「そうに決まってんじゃん!! 姉ちゃんよく生きて帰って来れたね!?」

「えぇ……? ギルド長さんもマーシーさんもユウリンさんも優しかったけどなぁ」

「えっ! うそ、ユウリンさんと話したの!?」


 突然上擦った弟の声に肩を跳ねさせながら、唯はこくりと頷く。途端に直文の顔がパァッと輝いた。


「まじか、ユウリンさんと話したのか。いいなぁー」

「直文は話したことないの?」

「当たり前じゃん。ユウリンさん、普段は裏方にいて表に出てくるの滅多にないんだよ。それにめちゃくちゃ綺麗だし……」

「そうなんだ。運が良かったのかな」

「姉ちゃん、昔から運だけはいいもんな。うわ~~っいいなぁ、俺も話してみたい」


 恋する乙女のように顔を赤らめる直文に、唯はあらあらと口を押さえる。弟ながら隅に置けない男である。


「つーか、姉ちゃん人見知りとか言っときながら、がっつり交流してんじゃん。俺、収集とかは好きだけど、知らない人と話すの緊張しちゃってさ。いつも最低限のやり取りしかしたことないんだよね」

「いつも友だちとプレイしてるのに?」

「あいつらはリア友だもん。緊張する方がおかしいでしょ」


 声をたてて笑う直文に、そういうものかと唯は首を捻る。唯からして見れば、友だちとプレイする方が迷惑をかけないかとか気になって緊張しそうなものだが。


「まぁでも、姉ちゃんが楽しそうで良かったよ。それでどう? 明日からやっていけそう?」

「どうだろう……でも、またプレイしてみたいなーとは思ったよ」

「少しでも気に入ってくれたなら良かった。じゃあまたメモ残しておくから、明日から素材集めお願いしてもいい? 無理なら別にいいけど……」

「オッケー。大丈夫、姉ちゃんに任せておきなさい」


 ドンと力強く胸を叩く姉の姿に、直文が苦笑する。不安はあるが、珍しく楽しそうな姉を信じてみようと思った。

 その後、合宿に行く前に最後のプレイをしようとした直文は、ログインして自分の姿を鏡で見た瞬間、ぎょっと目を見開いて絶叫した。鏡の中で『Let's Go!!』のプリントが誇らしげに輝いていたからだ。

 初期装備に身を包む自分の姿を見て、直文は早まったかなと冷や汗をかくのだった。

ここでひとまずチュートリアルが終わり、大変遅くなりましたが、いよいよ次回から本編に入ります。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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