表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
民の主  作者: 垣屋但成
4/7

初陣(4)

 完顔襄は破顔してトオリルを自身の天幕に迎え入れた。

「よくやってくれた」

トオリルは大声で言った。

「タタル部族の首魁、メグジン・セウルト以下、ことごとく討ち取りました」

これに対して完顔襄は次のように応えた。

「汝を封じて王となす」


 こうしてトオリルは「オンカン」と名乗るようになった。「オン」は王、「カン」は汗の意味であり、西遼から与えられる称号「グルカン」ではなく「オンカン」と号することで、ケレイト部族が金朝派であることを誇示したのであった。


 テムジンにも「ジャウト・クリ」の称号が与えられた。「百人長」の意である。これを受けたことは、西遼に対する裏切り、金朝への寝返りを公表したことを意味する。モンゴル部族の大多数は、テムジンに敵意を向けた。これ以降、テムジンの主敵はモンゴルとなる。同族相食む状態がつづくこととなった。


 完顔襄は自らの戦功を、ケルレン河南岸の石壁に漢文と女真文で刻んだ。世に言う、「セルベン・ハールガ碑文」である。この碑文にはトオリルもテムジンも登場しない。金朝にとって、彼らは卑小な北朔(ほくさく)の族長にすぎなかった。


 ジョチは、捕虜にしたタタル部族の貴族の子女たちが黄金の耳輪や鼻輪をつけ、クロテンの毛皮だけでなく、きれいな絹織物をもっていることに驚いた。銀細工をあしらった乳母車や、大きな真珠のついた布団も初めて見た。


 阿海は近づいてきて、勝手に説明し始めた。

「タタル部族は馬や羊を売るだけでなく、より東の森林地帯から毛皮や真珠を手に入れ、金朝に貢納を行っています。その代りに、金銀などを得ているのです」

草原では貨幣を用いないが、少量で大きな価値をもつ金銀や真珠は、好んで蓄えられた。真珠はアムール河流域の淡水性の貝から採れる。


 ジョチは、毛皮獣を狩り真珠を採る森の民と独占的に取り引きできれば、莫大な利益が上がることを理解した。そこでジョチは阿海に問うた。

「タタル部族と懇意の森の民と、その拠点はどこか」

阿海は答えた。

「タタル部族の取引相手はス・タタルと呼ばれています。ナン河が居住地です」

ス・タタルは漢字で水達々と書き、後にはス・モンゴルとも呼ばれる。ナン河は満洲の大河・(のん)(こう)で、その東岸がス・タタルの主な居住地である。草原の民はチョルゲ(漢語では「路」)といって、河川の流域ごとに地域や住民を区分する。


 タタル部族が、草原の北と東を取り囲む森林地帯に、いつでも逃げ込めること、森の民が軽視できない力を持っていることを、ジョチは知った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ