落ちていく。
「あと30分かぁ...。」
「なんか言った?」
「なにも。」
私には好きな人の寿命が何となく分かる。何となくというか割と正確に。そういえば小学校で好きだったアイツも中学校で好きだった彼も急に死んじゃったなあ。カッターで削られた鉛筆の芯のように、隣の男の寿命が細くなっていくのをぼーっと見ていた。
「さっきから僕のことずっと見てない?というか屋上寒いしもうそろそろ教室戻ろうよ。」
「あと15分!15分だけ一緒にいて!」
「15分?えー帰りたいんだけど。まあ君が言うなら。」
そのあと何か小声で呟いていた気がするが、まあ私への文句とかだろう。うん、あと15分。今回も本当に好きだった。前回と前々回はダメだったけど、今回は絶対隣で、目の前で好きな人が死ぬところを見届けたい。男が死ぬ前にいっそ私が殺してしまうのもいいかもしれない。好きな人に殺されるなんて男も本望なのではないか。ウキウキとした気持ちで歌を口ずさんでいると、いきなり男が立ち上がった。
「うわぁ!びっくりさせないでよ!」
私の声が聞こえなかったのか、男は無言で屋上の隅の方にスタスタと歩いていく。
「ほら!こっちに来なよ。ここから真下を見ると、ちょうど花壇が見えるんだよ!花とか好きでしょ?''最後"にどう?」
ん?最後?まあどうせもうすぐ男は死ぬんだし、最後くらいはお願いを聞いてあげようかなと思い、立ち上がって男の方に駆けていく。男の隣に立って、ねぇ、と声をかけようとしたその瞬間。
''ドンッ''
暗転。
「ーーーーーー」
私を見下ろす男が何か言っている。本当に好きだったのに、なんでこんなことに。死ぬ瞬間まで一緒にいたかったのに。
もうその言葉は出ない。
もう何も聞こえない。
ただ落ちていく。