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ゾンビかと思ったらヴァンパイアだった

 目が覚めた。


 目が覚めて最初に思ったのは、天国って現実世界と大して変わらないんだなって、そんなくだらないことだった。白いベッドにカーテン。光の差し込む薄暗い部屋。まるで学校の保健室みたいだ。

 その瞬間に分かった。みたいなんじゃない。ここは学校の保健室なんだと。


 ベッドから起き上がる。体の動きが異様に悪い。手は全く動かないし、足の動きも鈍い。だから、どうしてもゾンビスタイルになってしまう。

 そう、ゾンビスタイルだ。


 僕はどうやら、ゾンビになってしまったらしかった。

 そう考えれば死んだはずの僕が生きているのも納得がいく。映画なんかだと、ゾンビは凄まじい再生能力を持つ。死ぬ前にゾンビになったのだとしたらその再生能力で一命をとりとめられるかもしれない。

 ……ゾンビになるのが無事だとは思えないけど。

 ただ不思議なのは、僕は僕——浅葱譲あさぎゆずるとして自分の意識が残っていることだ。


 弥月先輩は言っていた。『思考能力が著しく低下して自我が無くなる』と。でも僕の自我はなくなっていない。ということは、周りからは反応を無くしても中身には意識が残っているのかもしれない。

 それからゾンビに関して考えたことがもう一つ。逃げるときに見たゾンビも、僕の体もどちらも腐っていない。ということは、ゾンビが腐っているのではなく、腐った死体がゾンビになるから腐るのだろう。僕や生徒たちのように、死にたてピチピチ(死にたてピチピチという表現もおかしいけど)な死体がゾンビになればしばらくは腐らずに綺麗なゾンビになるようだ。


 とはいえ、理性があるとはいえ見た目はゾンビ。この状態で人前に出れば射殺されかねない。いくら再生能力があるとはいえ映画の中でも頭を潰されたら死んでいたし。


 そういうわけで、どこへ行こうか。そんなことを考えた瞬間、強烈な喉の渇きを覚えた。

 喉が痛い。熱い。かきむしりたい。


 ……血が、誰かの血が飲みたい。そんな吸血衝動に駆られる。きっとゾンビが人を襲うのは、人間の血が飲みたいからなのだろう。

 ふらふらと、外へと歩み出る。誰か、誰かいないかと。


 ……ミツケタ


 あの長い黒髪は相楽さんだ。いつも見ているから見間違えようがない。見た感じゾンビ化しているけどこの際問題ないか。

 いやいやいや問題ないわけないだろ。そんな生きている人を噛んで血を飲むだなんて。

 でも、のどの渇きが……、


 気づいた時にはもう遅かった。止める間もなく僕は相楽さんのきれいな白い首筋に牙を突き立てていた。

 ゴクリゴクリと喉を鳴らす。もっとだ、もっと欲しい。血がもっと欲しい。でも……、


 まずい。とてつもなくまずい。やっぱりゾンビだからか腐ったヘドロみたいな味がする。食べたことないけれど。だけど、まずくても飲むのをやめられない。

 飲んでも飲んでも喉の渇きは癒されなくてそのたびに相楽さんから血を吸いだしていく。


 2分ほどそうしていただろうか。ようやく喉の渇きが収まった。だけど、まだ首筋から顔を離すことができなかった。本能の赴くまま今度は自分の血液を牙から相楽さんの体へと流し込む。失った分を補充するかのように。


 熱い。気づかないうちに体が熱を持っていたらしい。気づいた瞬間、カッと眩むような熱が全身を駆け抜ける。飲んだことないけど強いお酒をいっいに煽った時のようなそんな感覚だろう。そして、体中が悲鳴を上げた。

 メキメキと体が内側から作り変えられているような、そんな感覚がする。いや、作り変えられてるようなじゃない。実際に作り変えられてるんだ。体がすごい勢いで再生していく。潰れていた腕が、足が。骨や関節や神経がもとあった正常な場所へ戻っていく。それが熱となって、僕の全身を駆け巡って。


「あ、あ゛あ゛ああああ゛!?」


 そして、僕は達した。体からふっと力が抜けて寄りかかるように相楽さんに手をつく。


 手をつく!?


「……体が、動くぞ?」


 さっきまで感じていた体の不自由さが嘘みたいになくなっていた。喉が渇いたから相楽さんの血を飲んだ。それだけのつもりだったのに。


 違ったんだ。僕はゾンビじゃなかったんだ。手足の動きが悪いからてっきりゾンビになったものだと思っていたけれど、再生能力が高いのはゾンビだけじゃない。血を飲んで再生したことから考えると、どうやら僕はヴァンパイアになってしまっていたらしい。

 信じがたい。こうして体が再生していくのを目の当たりにしても信じがたい。だけど、ゾンビが現れた世界なんだ。ヴァンパイアが現れても不思議ではないのかもしれなかった。


 そして、僕がゾンビではなくヴァンパイアだったこと以外に驚くべきことがもう一つ。


「えっ、あれっ!? これ、どういう……」


 パチっと、相楽さんが目を開けた。

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