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木星で春を待つ鬼  作者: 箱守みずき
第1章 奇妙な選択
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第5話 私のパソコンがよく固まる理由

 次は私の発表だ。


 私もこれまでに多くの学会で発表してきていいるのでもう緊張はしない。

 最初の学会発表は無我夢中で、全く内容を覚えていなかった。

 聴衆を気にする余裕もなかったけど、今なら聴衆の反応を見ながら内容を変える余裕すらある。


 慣れとはすごいものだと思う。

 15分の内容を作ってきたがとっとと終わらせようと思った。


 題目は「遺物の年代と用途」。



「もらった写真と土器サンプルの年代測定について報告します」


 土器7点の画像を表示する。

 洞窟のような背景で、壁際に一列に並んでいる。


「写真の内、中心にあるものを除く6点については、すべて縄文時代晩期の岡山周辺によく見られる文様が刻まれています。土器に付着している色素を14炭素年代測定で鑑定した結果、起源前800~600年という結果が出ています」


「次に、この遺跡の目的ですが、土器7点の内6点については文様や造形から祭事に使われたと思われます。煮沸痕、料理などに使った形跡が見られないことからも、普段の生活に使っていたものではないと言えます」


「1点は未知の土器でした」


 スライドを切り替える。

 7点の内、中心にあったサンゴのような下から上に向かい、無数の枝が伸びたような土器が映し出された。


「サンゴのように見えますが、このような土器の発見例は他にありません。縄文土器のモチーフは動物や人間など身の回りのものであることが多いのですが、これについてはわかりません」


「瀬戸内海にサンゴは生息していないので、他の地域との交易などで得たものとも考えられますが、サンゴのある地域でこのような土器が見つかった記録はありません。もっと他の何かをモチーフにしている可能性もあります」



「それは当時の技術で作れるようなものなのですか?」


 そう聞いたのは純ちゃん。なるほどこの流れだと妥当な質問かも。


「作ることは十分可能です、これよりも複雑な形状をした土器も発見されていますから。ただし、先に説明したとおり、1点については何をモチーフにしたかを考える必要がありますね」



 何枚かスライドを飛ばして目的のスライドを表示させる。


「これは新潟県で発見された縄文時代の土器ですが、動物をかたどった造形に、幾何学模様が描かれています。今回の遺跡にあるものより複雑な形状ですよね」


「さてこの遺跡ですが、このように土器数点が完全な状態で保存されていることは極めて稀です。このような洞窟遺跡は、長期間人類が住処や祭殿として利用することが多く、当時の状況が保存されているということはまずありません。何らかの原因で、この時代以降洞窟に入ることができなくなったと推測されます」


「私からは以上です」


 やっと終わった。

 皆興味を持って聞いてくれた割に、これまでの2人のような驚くべき内容ではなかったと思うけど。



「ありがとうございます、みなさん大変わかりやすいご報告で助かりました」


 さて純ちゃん。本題を聞かせてもらおうじゃないですか。


 純ちゃんがスクリーンの横に立ち説明を始める。


 題目は「近年のハッキング事件と首相に届いたメッセージ」。


「まず最初に謝罪させていただきます。皆様の発表に悪影響を及ぼす可能性があったので、本会議の内容を明かせませんでした。申し訳ありません」


「まず近年多発しているハッキング事件について皆様はご存知でしょうか?」


 スライドが変わる。

 近年発生した国や企業へのハッキング事件のリストだ。

 個人情報から技術情報まで様々なデータが盗み出されている。マスコミなどは某国が組織的にハッキングを仕掛けているという見解が多かったと記憶している。


「表向きは犯罪組織や他国のせいということになっていますし、実際に証拠も上がっています。ですが中にまったく犯人の目星がついていない例が数点あるのです。その数点に関してはハッキングの方法がわかっていません」


「未知のセキュリティーホールを突かれた可能性もありますが、明らかに『暗号鍵』を解除してハッキングした形跡がありました」


 ほとんど理解できなかったが、理解できているふうに深刻な顔をする。

 ふむふむ。たぶんパスワードか何かを取られたのだろう。

 画面の上に貼ってある付箋を見たのだな、あぶないあぶない。

 私も研究室に戻ったら剥がしておこう。



「もちろん内部犯の可能性もありましたが、ハッキングされた範囲を考えると、かなり大規模な組織が存在していることになります。政府としても他国の謀略や、国内の大規模組織の可能性を探りましたがしっぽを掴むことはできていませんでした」


「そんな中、総理の携帯端末に以下のメッセージが送られてきたのです」



『我々は貴殿らとは異なる知的生命体です。訳あって地球上に存在していますが、帰還を果たすため木星へ向かう必要があります、貴国の協力を求めます。貴国にとっても悪い話ではありません』



「いたずらの可能性も考えられました。しかし、盗まれたデータの一つが添付されていたことから調査の対象になっています」


 私達とは異なる知的生命体。

 全員が息を呑む。こんな所で、こんな会議が開かれているのだ、ドッキリのたぐいではない。

 それに、我々より高度な文明のなせる物も見つかっているのだ。



「文章には場所を示すデータも送られてきており、そこで、皆様に調査していただいた物を発見したのです」


 洞窟の内部のような写真が示される。

 大人が立って歩けそうな広さの洞窟だ。

 人工的な洞窟かはわからない。



「瀬戸内海にある無人島にある洞窟です。海中に入り口があり、奥行きは500メートル程と推測されます」


「まず自衛隊が調査に入りました。そこで、複数の人骨と思われるもの、謎の人工物の破片を発見しました。今回皆様に発表していただいた物です。ここで我々は異星人が本物である可能性について検討をはじめました」



 異星人。


 どうにもこの真面目な場所には似合わない響きだ。

 大の大人が真剣に議論するにはいささか滑稽。

 それにあまりいいイメージは無いなぁ。

 異星人といえば大概地球を侵略しようとしているものだ。



「自衛隊でも付属の研究施設で解析を行いましたが、皆様と同じ結果が出ています」



 なるほど我々はセカンドオピニオンというわけか。



「しかし、これ以上の情報が得られていないのが現状なのです。遺跡の発見からすでに1ヶ月が経過していますが、異星人からの連絡も来ていません。我々としては事態を重く見て、外部専門家を招いての追加調査をすることになりました。それが皆様ということになります」



 なるほど彼らが来いと言ってきて、行ってみたものの彼らからの連絡は無い。

 かといって放置するわけにもいかないと。

 彼らが異星人だとして、放置して国際問題にでもなったら大変だ。

 いや、星際問題か。

 地球より進んだ文明を持っているからには粗相があっては事だろう。



「皆様にもお知らせしていたとおり、今週中に一度、遺跡調査を行う予定です、その調査にご同行願いたいのです」


「もちろん、断っていただいて結構です。相手が相手な以上、危険性が無いとは断言できないのが現状ですので」


 そう言われて断る人が居るのだろか。

 ここに居るのが皆研究者なのだとしたら、この好奇心を抑えられまい。



「質問などたくさんあるかと思いますが、残りの発表が終わった上で、質問の時間を十分に取らせていただきます。ここで一旦休憩を挟んで、15時半から再開したいと思います。お食事については、お弁当をご用意していますのでご安心ください」


 時計の針は15時13分を示していた。

 まだ始まって1時間も経っていない。

 そんな気は全くしなかった。



「休憩の前に、皆様のご紹介をさせていただいきます」

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