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木星で春を待つ鬼  作者: 箱守みずき
第1章 奇妙な選択
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第3話 結構なお茶番で

 月曜の昼間だというのに東京には人が多い、意味がわからない。


 研究会などで東京にはよく来るけど、人の多さには慣れることができないなぁ。

 これだけ大きな建物とこの人数とが遺跡になったら発掘する方はさぞ苦労することだろう。

 後世のために記録を残してくれると嬉しいです、できれば石版みたいに数万年残る形で。

 後世の考古学者のためにぜひご一考を。


 このままだと「定礎」だけがたくさん残って論争の火種になるかもしれない。


 『先生、また「定礎」が出ました! こんなにたくさん出てくるってことは、やはり「定礎」はこの時代の為政者の名前なんですよ!』


 おやおや島田くん、そう簡単に結論を急いではいけませんなぁ。



 四ツ谷駅から出ると純ちゃんが待ち構えていた。

 いつもの笑顔に安心する。


「お待たせー」

 

 熊本で会ったときのカジュアルな格好とは違い、今日の純ちゃんは上下にきれいにアイロンがけされたスーツを着ていた。

 これが今の純ちゃんの仕事着か。

 そのままどんな厳格な場にも行けそうだ。

 

 カジュアルな格好をしてきたことを少し後悔する。

 

「意外と元気そうでよかったわ、切り替えの速さは変わってないね」


 そう言うと純ちゃんは歩き出し、私も続く。

 切り替え早かったのか私は?

 

 駅しか指定されていなかったのでどこに行くか知らされていなかったけど、周辺の地図を見ると大体の想像がついた。


 やはりここに入るのか。

 

 防衛庁。もとい、防衛省。

 


 一生入ることはないと思っていた。

 純ちゃんに続いて入構する。純ちゃんは慣れたものだ。

 私も堂々としていれば良いはずなんだけど、厳格な雰囲気に萎縮してしまう。

 

 これは本能的なものなのかもしれない。


[5号館7階 小会議室]


 扉が分厚い気がしたが多分気のせいだろう。

 窓はなく、長方形で奥に広い。

 奥にはスクリーンがあり、プロジェクターが、何も接続されていない旨を主張している。

 中央に長机が置かれていて両側には向かい合うように椅子が5席づつ並べられている。

 

 すでに6人が着席していた。

 

 知った顔が一人もいない。

 確かに考古学関連の研究者は多種多様だ。全国の大学の考古学者から、博物館や郷土資料館の学芸員まで多岐にわたる。

 考古学関連の学会には1000人を超える参加者が集まる。任期付きの職を点々とする過程で様々な研究会に参加してきたので、全員知らない人というのはいささか不可思議だ。

 

 一人見たことがあるような人物が居たが思い出せない。

 

 個性的な人が多いなという印象だった。

 私と純ちゃんは一番手前の席に向かい合わせに座った。

 私の列には私を含めて4人、純ちゃんの列にも4人がそれぞれ向かい合って座っている。

 

 私の列は、手前から私、ちゃらそうな男、私と同じぐらいの年だろうか。

 次にロリータ、だっけ、フリルの多いワンピースを着た女性、年齢はよくわからない。

 一番奥はスーツの男性、50代に見える。


 純ちゃんの列は、純ちゃんの隣にはジーンズにジャケットの優しそうな高齢男性。

 次にスーツの紳士風の男、奥にスーツの若い女性。



「それでは皆さんお集まりいただいたところで、これから『特定遺跡に関する研究会』を開催します」


 

 純ちゃんがそう言うと奥に座っていた50代と思われる男が苛立ちながら話しだした。


「結局なんなんだねこの茶番は!」



 どうやらここにいる人たちは私と同様に用件をあまり知らされないまま研究を依頼されてきたのだろうか。確かに目的もわからず研究させられて、防衛庁で研究会を開きますと言われても納得できないのは理解できる。


 私も友人からの依頼でなかったら彼と同じように怒っていたかもしれない。


「もうしわけありません、まだ研究会の概要をお教えすることはできません。祖谷そたに様と宮笥みやけ先生、田辺先生のご報告が終わったあとに説明させていただきます。防衛上の理由だと理解してください」


 防衛上の理由だと言われると流石に反論できない。

 男はまだ納得のいかない表情だ。



「私は内閣官房副長官補 向山(むかいやま)です。本件を担当させていただきます」



 手で奥を示しながら純ちゃんは続ける。いつもの純ちゃんとは違って新鮮、というか少し恥ずかしい。自分が仕事をしているところを見られるのは恥ずかしい。友達の仕事を見るのもなぜか恥ずかしくなる。


「それでは祖谷そたに様から発表をお願いいたします。祖谷そたに様はNCC基礎研究所 次世代デバイス部門で主幹をされておられまして、次世代コンピュータがご専門です」

 


 幾人かが怪訝な表情を浮かべていた、私もその一人だ。

 NCC基礎研究所で次世代コンピュータ? NCCといえば国内最大手の通信企業だ、国営企業を前身としていていて、携帯電話やインターネットも手がけているはずだ。

 そんな研究所を持ってたとは知らなかった。今回の研究会が考古学の研究会だと思っていた私は混乱している。遺跡研究と次世代コンピューターになんの関係があるというのだろうか。

 どうりで知らない人ばかりだ。ということは他の人達も全く異なる分野の人なのだろうか。


「さっさと報告させていただこう」


 さっき苛立っていた男だった。NCC基礎研究所 主幹 祖谷そたに心一。PCをプロジェクターに接続し話し始める。こなれた動作だ。


 発表題目は「未知のデバイスに関する報告」。


 未知のデバイス?

 私は壊れたUSBメモリをパソコンに繋げたときのことを思い出していた。



「防衛省から解析を依頼されたデバイスについての解析結果を報告する」

 

 画面には顕微鏡写真のような画像が映し出されており、複雑な迷路のというか、乱雑に巻いた毛糸玉のような模様が見える。

 電子顕微鏡の写真のようだ、電子顕微鏡は考古学の研究でも使う事がある。

 光学顕微鏡が可視光を使って物を見るのに対して、電子顕微鏡では電子を使う。

 そうするとより小さなものが見える、らしい。何度か同様の説明をされて、説明の暗唱はできるようになったものの、意味については理解できていない。

 

 普通の顕微鏡より小さなものが見えるってことさえわかれば問題ないはず。



「一般の人にもわかるようにとのことだったので初歩的なところからいくが」


 発表に入るといらつきは無くなり、流れるような説明が続いていく。


「今現在使われいるコンピュータやスマートフォンなどのデバイスはすべて電気で動作しているということはみなさんご存知のことと思います」


 パソコンなどは苦手な私であったが、さすがにそんなことぐらいは知っていた。

 むしろ電気で動かないものなどあるのだろうか。


「現在のデジタル回路、パソコンなどで使われている回路の基本は電圧の大小で0と1を表すものがほとんどです。現在、電気以外を使って計算を行おうという様々な試みが進められています。例えばDNAを使った例を紹介すると……」


 説明は文系の私にもわかりやすかった、以降様々なコンピューターの紹介が続いた。

 彼の説明によれば、現在電気以外のもので動作するコンピューターを作ろうとする様々な試みがあるが、どれも実現には程遠く、試作の試作の段階であるということだった。


「さて防衛省から依頼を受けたデバイスだと思われるものですが、電子顕微鏡で見たところ、このような画像が得られました」

 

 最初に表示されていた画像だ。迷路。


「これは一見するとー集積回路に見える、しかし似て非なるものだ。まず材料が違う。一般的な集積回路はシリコンなどの半導体が使われている。しかしこのデバイスでは酸化物が使われている。元素分析では複数の種類の金属酸化物であることがわかった。一部の材料は現在の技術でも作成することが可能だ。しかし数万気圧という超高圧化での合成が必要で、このような精密な加工などの技術は確立されていない」

 

 場が静まり返った、私もあっけにとられていた。


 現在の技術で作れない?

 

 でもそこにあるのに。

 じゃあ誰が作ったのよ。

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