表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星で春を待つ鬼  作者: 箱守みずき
第1章 奇妙な選択
3/36

第2話 力学は苦手です

 純ちゃんから、部外者で10年ぶりに会った彼女からそんな言葉が出るとは思わなかった。


 彼らの学び舎。私の職場。

 それが来年あるかどうかわからない。

 そんなこと。突然のことで、言葉がうまく出ない。


 しかし話が全く見えない。


「大丈夫?」

「どういう、こと? なんで純ちゃんがそんなこと言うの?」


「ごもっともね。実は今抱えている案件で文科省の人と話す機会があってね、聞いた話なの。今ってどこの大学も経営が苦しいのは知ってるよね?」


「知ってる」


 ほとんどの大学が厳しい経営状態であることは、この業界にいれば誰でも知っている。

 大学の数はどんどん増えているのに、学生は少子化で増えないのだから当たり前だ。

 

 現に、今いる大学だって定員に達している学科のほうが少ないのだ。


 高校への営業などはどこの大学でもやっていることだ。

 エレベーターへの張り紙も、出張先の大学で見かけないことはなかった。登下校時の交通整理だってどこでもやってることだ。

 

 だから、どこの大学も危ないけど、当面は大丈夫、そう思っていた。



「でもなんで、なんでうちの大学なの? 他にももっと危ない大学はあるでしょ?」


「私も詳しくはわからないわ。永田町の力学も絡んでいるらしくってね。今ってどこの大学も厳しいんでしょ? でも大学は潰せないと思ってて危機感のない所が多い。だから見せしめとしてどこか倒産させるということにしたそうよ。明日は我が身となれば、流石に必死になるだろうって」


「そんな、見せしめだなんて。学生はどうなるの?」


 大学がなくなるということは学生も路頭に迷ってしまう。

 大学がなくなると聞いて最初に浮かんだのは学生たちの顔だ。

 

 彼らに罪はない、と私は思うけど、世間はそうは思わないのかもしれない。

 自己責任だと言うのかもしれない。


「そこらへんの詳しいところはわからない。最悪はみんな路頭に迷うことになる。でも学生にまでそんな仕打ちをしては文科省への風当たりも強くなるだろうから、それ相応の対処はすると思う」



 それ相応の対応と言っても学生にとっては一大事だろう。自分の大学がなくなるのだ。

 急に純ちゃんが冷たい人間に見えてきた。

 無理もない、内閣の仕事なんて、このような取捨選択の連続なのだろう。

 

 まして大学なんてなくなったって人が死ぬわけじゃない。

 彼女にはもっとシビアな判断をくださなければならない時もあるのだろうから。



「わざわざこんなことを伝えるために来たんじゃないのよ。本題に入りましょう」


 本題? これ以上の本題があるというのだろうか。

 今の私に何ができるというの?


「今から話すことは内密にね。それに、いまの話とも無関係では無いの」


 そう言って、純ちゃんはUSBメモリを取り出した。


「この中のデータと、あとから送る土器を調べてほしいの、分かることがあればすべて。来週開けに、東京で研究会を開るくからそこで結果を発表してちょうだい。そのあと、ある遺跡についての調査に同行してほしいの」


「来週?」


「急だというのはわかってるわ、でも必要なことなの。悪い話じゃあないわ、引き受けてくれるなら十分な報酬になると思うわ。それだけの価値があの遺跡にはあると思う」


 遺跡の調査ならば確かに私の出る幕なのかもしれない。

 しかしわからないことが多すぎる。


「ごめんなさい、なにもかも前例のないことだからこちらも混乱しているの」


 そう言われると何も言えない。

 ただでさえ、こちらも大学のことで頭がいっぱいなのに。

 

「そういうわけだから、よろしくね。研究会や調査の詳細は土器と一緒に送るわ」


 そういって、純ちゃんは嵐のように去っていた。

 なすがままに了承したが、了承して良かったのか考える余裕が無い。


 彼女が去ってから、当分の間、動くことができなかった。気持ちの整理がつかない。



 気を紛らわせるために、彼女からもらったデータを見てみることにする。


 USBメモリには土器数点が置かれている写真が入っていた。

 場所は洞窟のように見える。


 洞窟遺跡。

 洞窟を住処や神聖な場所としていた人類の痕跡が残る場所だ。


 洞窟は天然の冷蔵庫として働くこともあるので、保存状態の良い遺物があることが期待できるが、ほとんどは盗掘などの被害にあっている場合が多く、残っていることは稀だ。


 洞窟遺跡で写真のような保存状態のよい縄文土器が見つかったのなれば大発見だ。しかも、これまでに見たこともない土器が写っている。


 これだけでもかなりの研究ができそうだ。もちろんこれが本物ならの話だが。

 

 ここまで良い状態だとレプリカなどの可能性を疑わないといけない。

 こればかりは写真だけでは判断できない。

 彼女が送ってくれるという土器の年代鑑定をすればわかるだろう、14炭素年代測定装置の予約をしないといけないな。



 確かにこれほどの遺跡が本物で、調査を担当できるのなら、かなりの業績を稼ぐことができそうだ。

 私が業績を上げれば大学も助かるという算段なのだろうか。

 そんなに甘くはないと思うけどなあ。


 データを見て少し気が紛れたというか、やる気が出てきた。

 どうせ大学云々を私一人がどうこうすることなんてできんのだ。今やれることをやるしかなかろう。



 今週いっぱいは遺跡の発掘作業を行う予定だった。

 純ちゃんからもらったデータの調査にはそれほど時間がかからなそうだったので、発掘は予定通り行うことにした。


 あっという間に約束の日はやってきた。 

 

 飛行機で行くことも考えたけど、より確実な新幹線に乗ることにした。

 飛行機の遅れで学会発表に遅れて以来、極力新幹線を利用することにしている。

 始発に乗ってきたので眠い。新幹線の中で発表内容のチェックをすることも考えたが、人に見られてしまうだろうから、夜遅くまで家でやっていた。


 新幹線の中で仮眠を取ろうとしたけど眠れなかった。新横浜を越えたあたりで、スマートフォンを使い純ちゃんに指定された四ツ谷駅までのルートを調べる。


 四ツ谷駅、降りたことのない駅。

 ここから行けるところなんて限られている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ