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木星で春を待つ鬼  作者: 箱守みずき
第1章 奇妙な選択
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第12話 それぞれの答え

「やれやれやな。私は賛成や」


 菱垣ひしがき先生は出入り口付近の岩に足を組んで座っている。


「理由は――、そうやな、これも実験やからかな」


「実験?」


「そうや、パリキィはんは超知性をもってはるんやろ。そんな超知性と人類が接触したとき、人類にどの様は変化がおこるんか、私はそれが見たい」


「パリキィはんは今でこそ、わてらに合わせて話してくれよるが、一緒に難しい問題を解こう言うときには、わてらに理解できんようなことを言いよるはずや。そのとき、わてらはどう思うんやろうな。どういう行動をとるんやろうか。これはわてらが一段階上へ進化するためのきっかけになるやもしれん」



「つまり我々は目の前にバナナをぶら下げられた猿だと?」


「はっはっは、面白いことをいいよるな。だがまぁ似たようなもんや」


「猿がバナナの育て方を教えられるようなもんやな。猿は理解してバナナを育て始めよるのか、理解できずにバナナを探しに行きよるのか。こんな興味深い実験を他国にゆずれるわけないやないか。いずれ私らもパリキィはんのような超知性を作ることができるかもしれん」


「でも作る前に人類が滅びてしまう可能性だってある。いまここにチャンスがあるんなら、掴まない手はなかろう。類人猿の中には人間が教えた手話を使いこなしよる個体おるが、パリキィはんは私らに何を教えてくれますのかな?」



 理由に驚いた。実験だって?

 この人は、宇宙人すら自分の実験の道具にすると言う。

 こんなときに、なにを言っているのだろう。



「次は私が」


 そう言って、皆の中心に立つ歌影うたかげ先生。

 彼はちゃんとした答えを出してくれるのだろうか。

 

 ちゃんとした答え。

 ちゃんとした答え?

 

 あれ、ちゃんとした答えって何だっけ。



「私は反対です。理由は、そうですなー、言うなれば、あともう少しだから、ですかな」


 また反対? 二人も反対がいる?

 私は更に困惑する。

 なぜ皆、ここに来て、こんな場で?

 反対するっていうことは。

 学生は。私の大学は。



「反対?」


 爾比蔵にいくらさんも、思わず声を出していた。


「そう、反対です。私はこれまで、ロケットや衛星開発に従事してきました。この国のロケットは、我々が、先人たちが、試行錯誤を繰り返してきた結果なのです。そして、その成果は地球を飛び立ち、他の星から石を持って帰るまでに成長しています」


「そしてこれからも、我々は技術を受け継いでいく。近い将来、我々の手で、人を宇宙まで送ることもできるでしょう。そう、あともう少し、もう少しなのですよ」



 ああ、言いたいことは分かります。

 分かりますよ。

 でも……。


「ここまで私達が積み上げてきたものを、最後の最後で、宇宙人がもっといい方法を知っているからそっちを使いましょうだなんて。先人たちに合わす顔がない。冒涜に他ならない」


「正直私は、迷いました。宇宙人の存在。それは我々が宇宙でひとりぼっちではないと証明されることにほかなりません。この広い宇宙で、2つの知的生命体が邂逅するなど奇跡と言う言葉すら陳腐に思えるほどです」


「ですから私の中には、彼に最大限の協力を向けたい私と、彼の協力を受け入れたくない私がいました。私があと5歳若ければ、彼に協力したでしょう。しかし今の私には背負うものが増えすぎてしまったようですね、申し訳ありません」



 いつもの、ひょうひょうとした口ぶりの歌影うたかげ先生とは違い、心がこもっている。

 しかもこの感情には怒りと喜びが混ざっている。

 苦渋の決断であることが聞いていていひしひしと伝わってきた。



「意外にロマンチストなんだな先生」


 海良かいら氏は嬉しそうだ。

 そりゃあそうだろう。


「先人への敬意を忘れていないだけですよ。彼に協力したい気持ちもあります、彼の技術を使わずに我々のロケットを飛ばすこともできるのかもしれません。でもそれで納得するかと言われると、無理でしょうな。予算の問題もあります。彼に賛成することになれば、膨大な予算がおりてくるでしょう。予算は喉から手が出るほど欲しいのですよ。ですが、譲れないものもあるのです」


 そう、予算だ、パリキィ氏は予算をくれる。

 宇宙開発の予算も減らされていると聞いている。

 どこだって研究費がないのだ。

 それでも、それをわかった上で反対だという。



「私は賛成だ」


 次は、祖谷そたに氏だ。


「まぁ、考え方は人それぞれだ。私の考えを述べよう。私は技術の到達点を見てみたい、だから賛成だ。私の生きているうちにね、見てみたいんだよ。技術的特異点という言葉はご存知かな、シンギュラリティと言ったほうが今風かもしれない」


「そう、彼のようなコンピュータ、人類の知能を超えたコンピューターができる日をそう呼んでいる。いつか訪れるかもしれないし、訪れないのかもしれない。ここに居る彼を見る限り、技術的には可能なようだがね、それが分かっただけでも収穫だ」


「人類に到達できるかはわからん。こんな仕事をしているとね、生きている間に見ることのできるテクノロジーというのが、想像できてしまうんだ。悲しいことにね、私が技術的特異点を拝めるかどうかは微妙なところだ。だが彼が協力してくれるというのなら話は別だ」



 祖谷そたに氏はいつになく、雄弁に語る。

 いつか描いた夢を思い出しているように。



「私は反対」


 宮笥みやけ先生はパリキィ氏の前に立ち、皆に背を向けている。


「理由は、可能性を消したくないから。確かに宇宙人さんから答えを聞ければ、簡単に問題は解けるかもしれない。まだ私達はこの世界について全然理解できてない。それはわかってる。だから答えを教えてもらおう? それで良いと私は思えない」


「だって答えは一つじゃないと思うの。人類が人類であるがために到達できる答えだってあるはず。一つの答えを知ってしまったら、どうあがいてもその答えに引きずられてしまう。勝手に一つの答えに収束させないでもらいたいね」


「ここが地球で、ここに生まれた私達がいて、私達が一歩ずつ、私達に合った答えを探しているの。それを何? 答えを教えてあげるから手伝えだなんて勝手もいいとこだわ。以上よ」



 宮笥みやけさんも少し、怒っているようにも見えた。

 彼女も反対。もう反対が3人。

 これって多数決? 考え方の違いなのかな。

 考古学では答えは一つだ、なぜな過去に起きたことは変えられないからだ。

 だが彼女は未来を扱う。だからこそ反対するのだ。


「みんなどうしたの? なんでそんな反対するの? 勝手すぎない?」


 爾比蔵にいくらさんが叫んだ、みんな驚いている。

 温厚そうな彼女が怒っている。

 皆に対して、敵意を向けている。



「私は賛成です。これでたくさんの命が助かるのなら、大賛成です」


「私がここに来ることで、何ができるか分かりませんでした。私が来たところで、何ができるのだろうと思っていまいた。それでも来ることにしたのは、後悔したくなかったからです。もし私が参加しなくて、何も発見できなかったとき」


「私は後悔したと思います。私が参加していればなにか発見できたんじゃないかって。ここに来る前、向山むかいやまさんは言いました。革新的な技術について話し合いたいと。宇宙人に会えれば、革新的な技術を世に出せるかもしれないと」


「しかもその技術は、世界を変えるほどの力を持っていると」


「そんな技術、とっとと世に出してほしかった。そうすることで、一体どれだけの命を救えると? 医療は発展しています。それでもまだ救えない命はたくさんある。私は助けたい。できることはすべてやるべきだと思います」


 これが彼女の答え、彼女の信念。

 他のみんなも、信念を語っていた。

 それぞれの、曲げら得ない信念。


 私は、信念を持っているだろうか。

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