遭遇編もしくはチュートリアル3
『Episode03 アルカディア皇国連邦』
■ 4月30日 草原地帯 逢坂ゆう
しばらく歩いただろうか。 あるけどもあるけどものどかな平原が広がるばかりで一向に街につきそうにもない。
「これいつになったら街につくの……」
歩く足取りは徐々に重くなりだんだんと疲れが溜まってきた。 最初は真上に上がっていた太陽も、もう沈みそうなところまで来ていた。 このまま野宿するか? いやダメだ。
またあの魔物が襲って来るかもしれないし、そもそも野宿のやり方なんて知らないから野宿そのものができない。
「ううっ こんなことならなにか食べ物持ってくればよかった。 っていうかこんなこと想定して準備してる奴なんていないでしょう。 ねえジブリ―ル。こっちに行ったら街があるの?私方角間違えてたりしてない?」
【……………………………】
「……反応がない。 ハァ 」
さっきから呼びかけても反応がない。声が聞こえてないわけがないからこれは反応してこないのだろう。
「本当、どうしよう」
早くしないともうすぐ日が落ちる。しかしこの世界の地理は全くわからないので、街にたどり着けない。 あたりは段々と薄暗くなり昼間の穏やかな雰囲気は一変して夜の帳が徐々に広がっていこうとしてた。
焦燥に駆られ始めたゆうは歩みを速めて道を進もうとしたその時
??????????グァワワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ?????????????????????
遠くからなんとも形容し難い獣の叫び声が聞こえて来てしまった。 またか またなのか? なんで1日目から魔物が向こうからやってくるのかな? フェロモンなんてばらまいてないぞこんチクショ?????????
「あああもう? ジブリ―ル! また魔物が出てきたんだけどどうすればいいの?」
【ふぁぁああああ んっ? マスター? 街についたの? まだついてないじゃん なんなの大声で呼んできて】
「寝てたんかい!? 今はいい! 魔物がまた出た!」
【おお! 魔物討伐! それじゃあ今回もサクッと行きましょうか! はい剣構えて~♪】
いわれるまでもなく背負っていた剣を手に取り構得た。 さっきは蛇だったが今度は四足歩行のどでかい何かが地響き上げながら走ってきた。 一見ワニにも見えるがこれまた体長がでかい
さっきの蛇が5~6mだったのに対して今度は10m超えのでかさ。 しかも全身が金属質な鈍い銀色の鱗に覆われ、そこからはとげが生えていた。
今回もまたぞろとんでもなくヤバそうな魔物が出てきた。その他は……ん?
「あれ? 誰か追われている?」
よくワニ型の魔物の前方を走っている一人の少女がいた。金色の髪をなびかせ 息を切らしながらこちらに走ってきた。状況から考えて追われているのはその少女のようだ。
■4月30日 草原地帯 ジェニファー・フォード
「ああもう! またか! 今日はなんでこんなにも魔物との遭遇率が高いのよ!? しかも脅威判定の高い魔物ばかり! ツイてないよまったく」
その少女ジェニファーは焦燥に駆られながらも冷静に相手の動きを見極めながら迅速に移動していった。
○ダイヤモンドクロコダイル
脅威判定:B
生息区域 ヤグラ山岳地帯
そのどでかいワニは巨体に似つかわしくない俊敏な動きでジェニファーを翻弄していた。しかも表面の鱗がまるで装甲車の装甲のように硬いのがこのワニの厄介なところである。先ほどからダイヤモンドクロコダイルの
追撃を避けながら大剣を振り下ろし、攻撃していったが何分刃が入っていかないためダメージは入っているが致命傷には至らず、決定打に欠けていた。
【ちょっとご主人! こいつバリ強いんですけど! マジ卍~ さっきご主人が死亡フラグ立てたからじゃないですか~!? マジメンディー!」
「相変わらず何言ってるのか意味不明だけど私のせいじゃないと思うわ」
【でもでもご主人。ガトリング砲は残弾ゼロだし、スキル系統ももう全部使い切っちゃったから、かなーりヤバめじゃにゃいかしらん?】
「だろうね。 おまけに刃が刃こぼれしてきてる。魔動力が切れかかってるかもしれない。倒すのはやめて牽制しながらあの装置のある場所まで逃げよましょう。あそこからなら逃げることは容易だしね」
【はげど! それでいきましょご主人~】
■ 逢坂ゆう ほぼ同刻
追いかけてくるワニ型の魔物から走って逃げているみたいだが、どう考えても走る速さが異常だ。およそ人間が出せる速さではない速度で走っていた。
そして走りながら手に持ったどでかい武器を構えてワニ型の魔物を牽制していた。
そこではじめて気づく。少女が持ってる武器が自分の手にしている武器…天使に似ているのだ。
「ねえ? あの娘が持ってるのってもしかしてあなたと同じような天使なの?」
【う~ん? ああ、あれはおそらく天使でしょうね。詳しくはわからないけど多分『強襲型』天使じゃないかな。 ほらよく見て、刀身が向こうのほうが太いでしょう?
それに銃身が多連装になってるじゃない。 私みたいに一発必中で命中即粉砕じゃなくてあくまでも大量の弾をバラまいて敵を倒すのをコンセプトにしてるよアレ】
「じゃあタイプが違うと」
【近いけど違う。こっちが一撃に重きを置いているのに対して向こうのは手数て攻めるタイプ 私みたいにスマートに戦えない粗雑で野蛮な天使ね】
「やたらと悪態つくんだね……そこまで言わんでも」
【だってあんな馬鹿みたいに弾丸バラまきまくることしか能がない上に切れ味の悪そうな刀身だよ? あれのどこがいいの? もっと機能美にあふれてこそ天使でしょう?】
「いやでもあれはあれで一つの戦闘スタイルなんじゃないの? そういう手数で攻めるタイプとかよくゲームとかでも見たし」
【手数? ハッ! 一発で仕留められない雑魚天使の言い訳にしか聞こえないわ。私はもっと洗練されてるけど?】
なんだかずいぶんと辛辣だな。あんまり話してないからわからないけど、この天使結構気難しい性格してるのか? だとしたら今後大変かもしれないな…。
「それで… あれって助けたほうが……いいよね?」
【それを決めるのはマスターだともうよ。私はその辺あんまり関知しないつもりだしね。マスターが戦うというならそれに従うのみだからね】
「じゃあ助けたほうがいいか。 というか……こっちに走ってきてるし、そもそも体力の限界。逃げれないよ」
そう、逃げようにも物凄い速さでこっちに向かってきてるのだ。しかもご丁寧にワニ型の魔物が私のことロックオンしていた。最悪だ。
【それじゃ物は試しね。私の刀身についている金属の箱状の部品に模様がついているでしょう。そこをタップしてみて】
言われた通り手に持ったジブリ―ルの刀身の箱状の部分のパソコンの電源のマークのような模様をタップしてみた。ポンッと軽快な音とともに目の前にウィンドウ画面が表示され、そこには色々な数値が表示されていた。
さすが異世界。なんちゅうハイテク機器。そこから更に指示を受けウィンドウ画面をスライドさせると色のついた弾丸のアイコンが描かれたウィンドウが出た。
【それじゃあ青色のアイコンタップして。 そうしたらあとはもう一度模様の部分をタップしてウィンドウを閉じてあのワニっころに銃身向けてぶっ放して。それであいつ仕留められるから】
言われたとおりにウィンドウを閉じ、走ってくるワニの魔物に向かって引き金を引いた。 パァァアン 乾いた音が響き渡り
その直後直径20cmの穴が開きそこから血を吹き出しながらワニ型の魔物は地面をこすりながら倒れこんだ。
【先ほどは榴弾を使ったから、今度は徹甲弾をにしてみたの。ちょうど相手が硬いみたいだったし、どの程度貫けるか試してみたかったしね】
「…なんかあっさり倒せちゃったね。 あれ?こんな楽に倒せるほどの魔物なの?」
「…ねえ」
【う~ん多分だけどマスター基礎スペックが凄く高いからじゃないかな? レベルと基礎スペックが比例してないんだと思う】
「え そうなの?」
「……ねえってば!」
【そういうのもたまにあるんじゃないかな? そもそも私を含めた『天使』という存在自体この世界にはイレギュラーな存在だし。……もちろん転移者たるマスターもね】
「う~んなんだか判然としない事柄ばっかりだな~」
「ねえってば! 無視しないでよ!?」
大声で叫ばれてそちらの方向を見ると先ほどの少女が不貞腐れたような表情でこちらを見ていた。 よくよく見てみると身に着けている服装はところどころ破けて、あちこち擦り傷や切り傷があり致命傷ではないが全身ボロボロだった。
「ああ、すみません。えっと…あの大丈夫ですか? なんだか全身傷だらけみたいですけど」
「大丈夫。このくらい平気。それよりもあなたは何者?いったいどこから来たの?」
「あーえっと…私の名前は逢坂ゆうです。どこから来たかと言われると……う~ん 異世界?」
「え!? まさかあなた『転移者』なの!?」
「へ!? あっはい。まあそうだと思います」
少女は合点がいったようで私を値踏みするかのようにジーと見つめてから衝撃的なことを言い出す。
「ということは地球から来たのね。見た感じから察するに東洋人かな?」
え 今地球って それに東洋人……って
「もしかして、あなたも地球からこっちにきたのですか?」
「そうよ。私も地球からこの世界に飛ばされてきたの。 ああ、自己紹介がまだだったわね。
私の名前はジェニファー。ジェニファー・フォードよ。そしてこっちが……」
【はいはーい! バラはバラキエルっていいまーす! 好きな食べ物はもりもりイノシシのBQです! お二方よっろしくね~!】
ジェニファーが手にしていた武器が光に包まれてジブリ―ルと同じくらいの年の少女になった。オレンジ色のショートヘアに頭から飛び出たアホ毛。
クリクリの青い瞳。黒いジャケットに黒のホットパンツを履き、白とピンクのニーハイソックスというかなり派手な出で立ちをしていた。
「はじめまして。 ゆうです。こっちがジブリ―ル」
【よろしく】
ジブリ―ルは案の定というか素っ気ない態度をしたがバラキエルは気にした様子もなくカラカラと笑いながら「よろしく~」といった。
「それで、私の予想が正しければあなたは見たところこっちの世界に来た直後みたいだけれど行く当てにはあるの?」
ギクッ!
「あはは……彷徨ってました」
「まあ、そうなるわよね。 それじゃあ私についてきて、街に連れて行ってあげるから」
「ほんとですか!」
「ええ、ちょうど今回襲われていたところを助けてくれたお礼もしたかったし、いいわよ?」
「是非とも!」
こうしてジェニファーと名乗る少女についていきなんとか街にたどり着くことができたのだった。彼女との出会いは偶然だったのかはたまた必然だったのかはわからないが、のちに複数人のおかしな仲間を交えて
世界を巻き込む一大組織を創り上げるとはこの時誰はも想像もしなかっただろう。
「そろそかな」
「結構歩きましたね~ でも街なんて見えないですよ?」
「う~んまあ 街はここにはないんだよね」
「え どういうこと?」
「ああいうこと」
そういってジェニファーは上を指さした。
「え えっ!? えええええええええええええええええええええええ??????」
そこには空高くを浮遊しているど馬鹿でかい街があった。 いや大地が空を飛んでいると表現したほうがいいだろうか。とにかくとてつもない大きさと広さだった。遠くからでもわかるほどたくさんの高層建築物が密集するように立っており
よく見てみると街そのものが一つの構造物のようにも見える。
「あれがアルカディア皇国の首都 メビウスよ」
「なんなんですかあれ!? そらにあんなでかい街が浮いていますよ!?」
「詳しくは知らないけれどなんでも重力場の反転?だかなんだかの魔導力学方式を使ってるんですって。大地と反発しあうようにあの都市は浮いているらしいわ」
「うん。まず魔導力学がわからないです!」
「簡単にいえば科学文明と魔術文明の融合技術って感じよ。
アルカディア皇国はこの世界で唯一魔法文明と科学文明の両方を発展させているのよ。
というよりこの世界では科学文明そのものがこのアルカディア皇国にしかないんだけどね。だから専門家でもない限り詳しい原理や法則はわからないけど生活する分には困らないから大丈夫よ。
地球でもスマートフォンの詳細な設計やソフトウェアの詳細知らなくても使うことはできるでしょう?それと一緒よ 知らなくても困らないの」
詳しく知りたいなら専門知識を学ぶ教育機関があったりもするらしいから、余裕が出てから学んでみるのもいいんじゃないかしら?」
「そ…そうですか。 それはそうとあそこに行くんですよね? ……どうやって行くんです?」
「あれを使うのよ」
彼女がい指をさした先には草原には似つかわしくない機械的な円形の円盤が地面に設置されており円の内側が黄緑色に光っていた。脇には四角い箱状のものが設置されておりそこから駆動音が鳴っていた。
「ああ…なんとなく察してきました。 ワープでもするんですね、アレ」
「よくわかったわね。そう、あれが空間歪曲転移装置。まだ設置した場所同士でしか転移できない上に一度にワープできるのが人数人程度なの。だから大量の資材や物資を運ぶ時は別の方法で運ぶの」
転移装置に近づくと黄緑色の光が円に沿うように円状になり、円の中心部分が外れて浮き上がった。 どうやらタッチパネル式になっているらしく、ジェニファーは慣れた手つきで操作し始めた。
「ほら早く円の中に入っちゃって。飛ぶよ!」
言われるがまま円の中に入るとジェニファーがタッチパネルとタップした。 すると円の外枠が浮かび上がり黄緑色の円柱状の膜を張った。次の瞬間目の前が真っ白になったかと思うとさっきまでの草原地帯とは打って変わって活気は触れる街並みが目の前に広がっていた。
「さぁ、着いたわよ! ここが首都メビウス。 都市面積は2万? 人口560万人 アルカディア皇国で最も巨大で最も経済規模が大きく最も堅牢でそして最も栄華を極めた街よ」
目に映った光景に呆然とし、まるで物語の中にでもいるかのような気分になった。
建物が整然と立ち並び 街にはゴミ一つ落ちていない。
修学旅行で一度訪れたことがある東京を彷彿とさせる光景が眼前に広がっていたのだ。
「どう? すごいでしょう。私もここに始めて来たときは度肝を抜かれましたわ」
歩き出した二人は街の歩道を歩きながらジェニファーがところどころ説明を交えながら街を見て回った。このメビウスという都市は円形になっており東西南北で区切られて管理されているらしい。
「ここはメビウス東部方面中間区画 12番地区の高層都市エリアよ。色々な企業のオフィスが入っているビル群があるのが特徴ね。あとはここには東部方面で唯一の『異世界人登録管理館』があるところよ」
「異世界人登録管理館?」
「ええ、この国は異世界人……とりわけ私やあなたのような『天使保有者』を登録管理しているのよ」
「えっと『天使保有者』というのは……」
「あれ、知らない?〝天使を保有しそれを行使することができる異世界人〟のこことをこの世界では『天使保有者』って言われてるのよ。あなたもそう。だからつれてきたっていうのもあるんだけどね」
「えっと…登録するとどうなるんです?」
「管理館から発行された身分証明書を持つことができるから少なくとも不審者扱いされずに済むし、なにか品物を買いたいときとかに優遇を受けれたりとかできるから便利よ。
それに、異世界人登録管理館側としても未登録の人物がうろうろしているのはあまりいい顔しないだろうしね」
「まあ、完全に知らない赤の他人が街に入ってきてるわけですからね…」
「それもあるだろうけど、最もたる理由は期待のできる戦力であり、そして同時に無視できない脅威だからじゃないかな」
「脅威?」
「私たち天使を持つものは持ってない人達、とりわけこの世界の住人にとっては異形の怪物そのものなのよ。
戦闘型の天使を持つものは鍛え上げればたった一人で一個大隊(約600人)を一方的に殲滅できてしまうし、電子制御に特化した天使ならばネットワークに侵入してインフラは改することもできるでしょう?
そういった脅威に対応できるようにするためにあらかじめ登録管理してその人その人の防衛対抗策を講じたり、その人に取っ天敵ともいえるシステムをくみ上げたりするためのいわばデータバンクの役割も果たしているの」
それと同時に登録されている天使保有者は有事の際緊急招集されて戦場に駆り出されたりもする。まあ緊急兵役の義務が課せられてるのよ」
「それってメリットよりもデメリットのほうが大きくないですか? 私たち登録しても損するほうが大きいですよね」
「そうとも限らないのよ。確かに面倒事に巻き込まれるけど、皇国はその辺のことをしっかりと踏まえていて仕事の報酬は結構いいし、待遇もいい。 まあそれでも反発して出ていく人もいるんだけどね。
私自身は結構満足できてるかな。 あ、見えてきた」
「あれはなんですか?」
「さっき話した異世界人登録管理館よ。まあ強制はしないけどこの街を拠点に活動するなら登録していったほうがいいかなって思ったの。 さっきも言った通り有事の際の戦力としてカウントされる代わりに報酬がいいし、保障もしっかりしている。待遇もいいから私としては登録していいんじゃないかなって思うの」
目の前には周りの高層建造物とは打って変わってレンガ造りの大きな建物にたどりついた。
3階建てで赤いレンガに深緑色の屋根 柱にはこれまた細緻な彫刻が施されており趣と歴史的価値のありそうな佇まいだった。
中に入ってみるとすぐそこはエントランスになっており正面に広い受付、美しい置物 そして外だけでなく、中の壁や窓枠会談の手すりに至ってまで彫刻が施されておりとても造り上げるのに手がかかっているのが目に見えてわかる。
そして建物の内部には多種多様な人物がいてあるものは壁際にある巨大なモニターに表示されている依頼を見ていたり、あるものはほかの人たちと談笑していたりしている。
そんな中をジェニファーはまっすぐ歩いていき正面の広い受付の窓口の一つに行き女性職員に話しかけた。
「ただいま~ 仕事終わったよ~」
「ああ、おっかえり~ ……ずいぶんとボロッボロだけど大丈夫? どうしたの?」
「目標の討伐対象以外にも何十匹も魔物が出てきて全弾打ち尽くしたし、スキルも使い切ったわ。はいこれ倒した魔物のコアね。 あとこっちは追加で倒した魔物のコア」
「ん。ちょっと待ってね。………はい依頼は完遂だね。はい報酬明細ね、バンクに自動預金されてるから。それとこっちは追加で討伐した魔物の換金報酬ね」
そういって職員は封筒に入った札束を渡していた。 一体いくらなんだろうアレ
「うん。 それともう一つあるのよ」
そういってジェニファーは私の手を引いて女性職員の前に出した。
「この子の登録をお願いしたいの。最近こっちに飛ばされてきたみたいで下の平原地帯彷徨っていたから連れてきたの」
「初めまして。私はここで受付兼依頼受領などの処理を行っているエレオノールと申します。以後お見知りおきを」
「はい! 逢坂ゆうともうします。よろしくお願いします」
エレオノールと名乗ったその女性職員は手元の書類の中から一枚の用紙を取り出して目の前に出した。
「さて、登録とのことですがその前に事前事項の説明をしないといけません」
「はい。ジェニファーさんから大まかなことは聞いております」
「そうですか。ではより詳細な説明をいたします。」
そういってエレオノールは登録する前の注意事項および特記事項を説明した。その説明内容を要約すると以下の通りとなる。
●要約概要
・異世界人登録管理館にて登録を行った場合それぞれの個別の識別コードが渡される。
・識別コードとは別に身分証明書が発行される。これを持つことによって異世界人登録管理館によって身元が証明されたことになる
・身分証明書を提示すればアルカディア皇国内部での各種インフラや公共交通機関、医療機関にて優遇される
・登録すると管理館発行の依頼を受理することができる。これは後で報酬未払いになったりしないし、達成不可能になってもペナルティなどがないのでそういった面で有利になる
・アルカディア皇国内で一定の権限を有する
・異世界人登録管理館で登録したものは総合評価システムによってクラス分けが行られるものとする なおクラス分けに応じて受理できる依頼に制限がかかるものとする
・皇国国防軍での准尉相当官の権限を有するものとする。ただし正当性のない職権乱用は厳禁であり、場合によっては厳罰に処す
・有事の際は皇国の求めに応じて依頼又は徴用に応じるものとする。
・『天使』を保有するものはその力をむやみに乱用し、公共の安寧を崩してはならない
・『天使保有者』同士で無差別に無作為に戦争しない。話し合いにる解決を模索し、それでも解決しない場合は第三者を交えてルールにのとって実力で決するものとする
・皇国内で犯罪を犯した場合は通常よりも重い判例となる 力あるものは行動にも気を付けるための戒めとする
・犯罪に手を染めた場合登録抹消となり、また再登録は2年間できなくなる
●特記事項
・『天使保有者』同士で第三者を交えたルールにのとっての実力行使はその責任の所在を当事者にあるものとする。これは生死も含まれる。
・『天使保有者』のなかでも特に強度の高いものは特例的に発信機と天使制限機能の付与を行う場合がある
「このようになっております。 なにか不明な点はございますでしょうか?」
「えっとその、登録には何か必要だったりしますか?」
「一応登録自体は全然無償でかつ即日でできますよ。ただし戦闘及び特殊技能が必要となる依頼は受けれません。戦闘試験又は特殊技能試験に合格しないとできません」
「ということは試験を受けて合格さえすればいいのですね?」
「はい。そうなります」
う~んそっか……
「まあ、戦闘職に関しては即日試験でできますが……」
「え! そうなんですか?」
「でも!あまりおススメしません。戦闘経験のないものが受けるのは危険すぎるので―」
「エレオノールさん! その試験受けます!」
「え?」
「は?」
今まで黙って話を聞いていてくれたジェニファーと窓口で説明をしてくれたエレオノールが揃って一瞬固り、すぐに我に返り慌てて試験を受けるのを考え直すように言ってきた。
「いやいやいや? 逢坂さん!戦闘職の試験は本当に危険なのよ?? この前なんて腕一本足一本落として重傷を負ってしまった受験者もいたのよ!? 考え直したほうがいいわよ!」
「そうです! そこの金髪お嬢様ならともかくあなたはまだこちらに来てすぐなのでしょう? だったら戦闘経験なんてほぼ皆無に等しいではありませんか。再考を」
【いや私もそれでいいと思うよ】
ジブリ―ルが人型になってサラサラの銀髪をなびかせながら私の考えに賛同してくれた。
「まさか! 人型になれるっていうの!?」
「それこそありえないですよ! …となるとこの世界に来たばかりというのが嘘 ということに」
「いや、それはないよ。追加装備が全くないし、見た感じもこっちに来たばかりとしか思えない格好しているし」
「確かに……いやしかし…」
【え?なになに どったのご主人】
バラキエルが二人の会話に混ざってきた。というかさっきまでどこにいたんだこの子 建物のなかに入ったっきりどっか行ってたぞ。 しかも手に食べ物ごっそり抱えて口にも詰め込んでるし
「いや、この二人本当にこっちに来たばかりなのかなって…天使が人型になるにはあれを満たさないと……」
【あ~あれね。 確かにそうだね~ で疑ってるんだね~ じゃステータス見せてもらえばいいと思いますよご主人】
「ああ…確かに。いやしかし……個人情報を見せろとは……」
【ダイジョブダイジョブ!】
なんだか雲行きが怪しくなって来た。なんで私疑われているんだろう。やっぱりさっきの発言はマズかったのかな?
【気にすることはないよマスター マスターは何も悪くない。 それよりもさっさと疑惑を晴らしたほうが面倒がなくて済むからステータス見せちゃおう】
「それって大丈夫なの?」
【個人情報だけどここで疑われ続けるよりはいいんじゃないかと思うよマスター。 ステータス提示していいね?】
「う、うん。お願い」
自分の個人情報を提示するので少し躊躇したが、ここで疑われるよりはいいと思い許可を出した。
ジブリ―ルは私からの言質を取ると、左手の甲に浮かんでいた模様をタップする。そしてそこからステータス画面を表示してジェニファーとエレオノール、そしてバラキエルに見せつけるように情報を開示した。
「え えええ!?」
「これは!? どういうこと???」