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私が好きなのは 7

 放課後、帰る用意をし始める私。タダに呼ばれるのを内心非常にソワソワ、そしてもちろん態度には極力表さないようにしてゆっくりと用意しながら待つ。

 が、教室の前の方のドアのところから他クラの女子が3人、タダをキャピキャピした声で呼んだ。

 「「「イズミく~~~ん」」」

 

 たまにタダのところへタダを見に来ている子たちだ。いつもタダを呼ぶんだけどタダが振り向くと手を振ったりするだけ。なぜならタダが振り向くだけだから。振り向かない時もあるし、振り向いてもたいていは一瞥だけでそのまま無視することがほとんどだ。他にもそういう子たちは何人かいて、来るたびに男子たちは「おおっ?」みたいな反応。女子のみなさんは「また性懲りもなく来てるよ」みたいな反応。「イズミ君はうちらのクラスメートですから!」みたいな反応。「アイドルじゃねえんだぞ気安く騒ぐな同クラの私たちが我慢してんのに」みたいな反応。「気安く呼んでんじゃねえぞ自分のクラスの男子で我慢しとけ」みたいな反応。

 中学の時はみんな気持ちも幼いから、バレンタインの前とかテンション高くなってるときは特にもっとひどかったよね。そういえば勝手にシャーペンとか消しゴムとか取られて、さすがにブチギれてしまったところも見た事がある。ヒロちゃんも一緒にキレた事あったよね…「お前ら山賊か!」とか言って「オレのも持っていけや!」って言いながら結局ヒロちゃん最後にはゲヒゲヒ笑ってたけど。


 私はというと、そういうのを目撃したら結構面白がってたんだけどな…

 この夏くらいまでは完全に面白がってた。タダの事が気になり始める前までは、また来て騒がれてる、でもまた知らんぷりしてるし、ほんとアイドル扱いじゃん、て。たまには手ぐらい振ってあげればいいじゃん、て。

 それがタダの事が気になり始めたとたんに、そういう子たちがやって来ると、わ~~来た~~~、って思うようになった。タダがいつもみたいにスルーしますように、全く相手にしませんように、って思うようになった。

 そしてうちの文化祭の時にヒロちゃんとヒロちゃんの彼女のユキちゃんと、私とタダの4人で校内を回った後ぐらいから、他クラの意志強めの子たちは、わざと私に聞こえるようにタダに声をかけたりするようになった気がする。

 …たぶん私がタダの事を意識するあまり、やたらそう感じてるだけかもしれないけど。


 

 今日もスルーしろ!と心の中で思う。ここで私があんまりじっとりと見てたらいけない。気にしない気にしない…気にしないけど念じる。

 スルーしろ!

 が、その他クラの子たちのうちの一人が返事をしないタダに言った。

「イズミく~~~ん。イズミくんが今日からマフラーして来てんの見たって言ってた子たちがいたから見に来た~~~」

 気にしないはずなのに、『マフラー』という単語で思わずタダを見てしまうと、いつもならそこに誰もいないかのように流すタダが思い切りその子たちを見ている。

「ねえねえ~~、見たいな見たいなイズミくんがマフラーしてるとこ~~~」


 …これは…

 これはこの子たち、私がタダにあげたマフラーだっていう情報をどこかからか仕入れてるやつ?それとも純粋にマフラーしてるタダを見たいだけ?いやでも、今朝サトウさんは完全に知らなかったし、知ってたのはユマちゃんとハタナカさんだけのはずだ。

 とりあえずタダ、スルーして!

 するはずだよねいつもなら。



 あ、マズい。来ている他クラの女子のうちの一人と目が合ってしまった。その女子がちょっと私を睨んだような気がしたのは、やっぱり私の気のせいなんだろうか。

 気にし過ぎだよね私!…気にしない気にしない。そして誰も私の事なんて気にしてないよ。

 …気にし過ぎかなぁ…



 ホンダとヨシオカが、タダのそばに行ってなにか話し始めた。他クラの女子はまだ廊下でキャイキャイと何かしゃべっている。

 まだ帰らないのかな…私、タダより先に帰る用意終わっちゃいそうだけど…

 が、そこで「大島ユズルちゃ~~~ん」と私を呼ぶ声。

 教室の後ろの入り口にオオガキ君だ。オオガキ君は体育祭の時の二人三脚の私のペアの他クラの男子。たまに廊下とかで会うとフルネームで声をかけてくれる。

「これ、ほらぁ」とオオガキ君。「化学室に忘れてたよ~~」

え?化学基礎のノート…

 オオガキ君の所へ走り寄ってノートを受け取る。

「オレら5限が化学基礎でさ、オレの友達の席の椅子んとこに置いてあって、オレの知ってる子だから渡しとくわって預かってきたよ」

「そうなの?ありがとう!私忘れてることにも気づいてなかった。ありがとう」

 タダと帰る事を考えていたからぼんやりしてたんだと思う。ダメだな、と思ってもう一度オオガキ君ににお礼を言った。「…あの、ほんとにありがとう」

「うん。いや、渡せて良かった」

ニッコリ優しく笑ってくれるオオガキ君は今日もさわやかだ。

「なんかさ、」とオオガキ君がさわやかな笑顔のままで言った。「それと、ついでにイズミ君のマフラー見れるかなって思って」

「え?」

「あげたんでしょ?ユズルちゃんが。今日イズミ君それ着けて来たって女子が騒いで帰りに見に行くってて騒いでたけど。もう来てたね」

 うそでしょ!?と思う間もなく、さっき声をかけてきた3人だけじゃなく、その周りにも、後オオガキ君の後ろの方にも他クラの女子のみなさんが。

 

 うそでしょっ!!と今度ははっきり心の中で叫ぶ。情報回るの早くない?早過ぎない?これで一緒になんて帰れるわけない。タダが他クラの女子に捕まってる間にこっそり帰ってしまいたい。

「なんか嫌だなあ、と思って」と言うオオガキ君。「付き合ってない付き合ってないって言ってたのになって思って。オレにはほんとの言ってくれてもいいんじゃないかなって思って。ペアだったのに」

「…」

「大島!」とタダに呼ばれた。

 振り返った私の方へタダが近付いてくる。なんでこんな状況で近付いてくんの!

「どうしたん?」と私に聞くタダ。

廊下に来ている他クラの女子のみなさんがザワザワッ、ギャヒギャヒッととする。

「ユズルちゃんが化学室にノート忘れてたからオレが…」と、私の代わりに説明しかけるオオガキ君を無視してタダが私に言う。

「帰ろ」

「あ、うん。あの、オオガキ君わざわざありがとう」

「うん。どういたしまして」にっこり笑ってくれるオオガキ君だ。

でも「それで?」というオオガキ君。「イズミ君のマフラーどんなんかなぁ~~。ユズルちゃんがあげたやつ。見たいわすごい」

タダが聞く。「なんでオオガキが見たがんの?」

「確認」

「なんの?」ムッとして聞くタダ。

マフラーなんてしなくてもいいんじゃないかな。だって今の時間、朝ほど寒くはないし。教室に中で着ける意味ないし。校門出てからでいいじゃん。

 オオガキ君がふざけるように答える。「どんだけ似合うんだろうっていう確認」

「そんな!」と思わず言ってしまった。「普通だよ!普通のマフラーだから!」

ザワザワザワザワザワザワザワザワ!


 …マズい。

 大声で『普通だよ!』って言ってしまった。自分が似合うだろうってあげといて、着けてきてくれてすごく嬉しかったのに。タダも嬉しそうにしてくれたのに。タダの顔が見れない。



 




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