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私が好きなのは 3

 それは中学の時、仲の良かったアコちゃんが設定してくれた勉強会だった。男女合わせて12、3人で、途中から参加した子や途中で帰った子もいたけど、学区内にある市立図書館の勉強室に集まった。ヒロちゃんがふざけはじめて監視の係の人に注意され、結局たいした勉強も出来ないまま、図書館の近くにある小学生の時から時々行っていた駄菓子屋で駄菓子を買って、図書館に隣接している小さい公園で駄菓子を食べながらダベった。

 …あの時は楽しかったし嬉しかった。ものすごくアコちゃんに感謝したよね。あの後アコちゃんがいいって言うのにお小遣いでケーキ奢るくらい感謝した。



 「…嫌がってなんて…いないけど…」と、尻すぼみな感じになってタダに答えた。

 なんか恥ずかしい。『好き』って言ってしまっているみたいに恥ずかしい。

「いや、」と、タダはそんな私のいじらしい恥ずかしさなんて、なんとも思ってないようにきっぱりと言った。

「オレは気付いてるからな。学校でそこまでじゃないけどなんとなく、やんわりオレの事避けてるよな?そんなに一緒にいるとこ見られたくねえ?」

「違うよ!…違わないけど」

「どっちだよ」

「見られたくないのはそうけど…」

「…」

「いやそれより…」

「それより何」

そんなキツい感じで問いたださなくても…

「それよりね…なのかアレだけど、恥ずかしいからだから!」

「恥ずかしい?」

「…タダと…」言いかけて、これはほんと言うの恥ずかしいやつだよね、と思う。

「なんか二人だと落ち着かなくなるんだよ…なんか変だけど。…前は別にそんな事なかったけど」


 タダが勘違いしてもっと気分を悪くしたら嫌だから、ちゃんと言おうとさらに頑張ってみる。

「タダは目立つのも見られるのも慣れてて、どうも思わない感じでいつも普通な感じだけど。普通に今日とかも帰ろうって言ってくれるけど。私はほら、なんか…変だけど…ちょっとわ~~~ってなるっていうか、…でも一緒に帰るのは嫌なんじゃないよ。勉強とかも誘ってくれて嬉しいってちゃんと思うし。でもタダが普通な感じだから、余計私だけソワソワしたような感じになって…」

もうほらね、説明も下手くそだし。

 タダが無言で下を向いたので「ごめん」と謝る。説明は失敗だ。もうワチャワチャしてるじゃん私。しゃべんなきゃ良かった。



 で、その夜はヒロちゃんから久しぶりに電話が来た。タダの事が好きになっている私としてはおかしいのかもしれないけど、ずっと片思いしていた相手からの久しぶりの電話だとやっぱりドキドキはする。

「なんかイズミから電話が来てな。珍しく機嫌悪くて、それが中学の時ユズと一緒にやった勉強会の事で、なんでニシモトが入ってたのにオレがいなかったんだって聞いてくんだけど、オレはそのメンバーで、勉強会やった事さえ覚えてねえわ。なんでだったかなそれ」

覚えてないのか!!マジか…

「…それを私に聞く電話なのこれ」

もう~~~、と思いながら聞く。ヒロちゃんはもう~~。そういうとこもまだ今でも好きだけど。

「イズミ機嫌悪いし気になって。いやオレもずっとイズミ押しで、なんとかニシモトにユズをあきらめさせたのになんでそんな事したかなって」

「それを私に聞く電話なの?」

久しぶりにかけてきてくれたと思ったら。


 「…知らないよ…」と力なく答えた。「ていうかニシモトもそんなじゃなかったってこの前言ってたじゃん。だから私をちょっと好きだったからとかでニシモトの事からかわないでよ。なんか私が悪いなって気になるから」

「いやそんなことはねえわ、ニシモトもいいやつだからな。もったいねえよな。イズミがいなかったらニシモトを薦めてたのに」

それを、あんたの事をずっと好きだった私に言うか?


 そしていったん電話を切ってまた割とすぐにヒロちゃんが電話をかけてきた。

「なんかな、さっきの話気になってな、アコにわざわざ聞いたらアコもよく覚えてなくてな、でもたぶん、アコはイズミがどうもユズの事を好きだって気付いてたから一緒にしたくなかったんだと思うって言ってた。アコもイズミが好きだったんだと」

「…知ってたけどアコちゃんがタダを好きだったのは」

「マジか。どうせ今付き合ってんだろって言ってた」

「…」

「…」

 なんでヒロちゃんまで黙る。

「…なんて答えたの?」

「いや、まぁまぁまあな…それでオレが聞くのもどうかと思うけどどうなん、イズミと」

「…」

「オレが言うのもどうかと思うけどな」

「…」じゃあ聞くな。

「なんかな、イズミがユズは自分からはラインあんましないし、電話もあんま、って言っててな」

「…」

タダはそんな事ヒロちゃんに話してんの?

「なんかな、オレが言うのもアレなんだけど…」

 『オレが言うのも』発言多すぎ!!


 それでも「別にそんな…」と、もごもご答える私。

「まあな、でもユズはユズだからな」

「どういう意味それ」

「オレはな、嬉しいんだけどな」しみじみとした感じで言うヒロちゃん。「イズミとユズが付き合うのは。オレが言うのもなんだけどってもう一度言うけどな」

「…」

「なんかな、イズミにユズとの進展具合を聞いたらいつになくイズミがぐじぐじ言ってきたからな。ゆるく避けられてるって言うんだけどマフラーやりあっこしたんじゃないん?」

「…」

「どうなん?イズミの事どんな感じなん?オレが聞くのも…」

「いやもういいからヒロちゃん。ヒロちゃんがそんな心配しなくてもいいです」

「…そうか?」

「そう!」



 力強く『そう!』と言ったがその後もタダと二人きりになるのはやんわりと避け続け、ふと気付くとタダもあんまり私に話しかけて来なくなっているような気がする。

 テスト期間を終え、というかテスト期間中もちょっとその事が気になったが、これで点数をあまりにも落とすような事があったらタダの手前すごく恥ずかしいような気がして、なんとか踏ん張って現状維持に努めた私だった。

 それでやっとテストが終わった夜のタダからのラインが、『寒くなって来たから明日くらいやっと着けていけるかな』ってやつ。

 

 近付いていた距離が、この1週間くらいでさわ~~~とまた離れた感じだったけれど、そのラインを見たらすぐに胸がほんわか暖かくなった。

 着けてくれるんだな、私のあげたマフラー。私のあげた深緑色のマフラーを着けているタダを想像した。

 似合うよね?

 絶対似合うはず。そう思いながらテストの話で返す私だ。

「テストどうだった?」

「あんま。普通」と言うタダの素っ気ない答え。

 …私は結構、絡みが少なくなったタダの事を気にしてたんだけどな。タダはその事はなんとも思わなかったのかな。ヒロちゃんにはちょっと愚痴を言ってたのに。ヒロちゃんが私にバラしてるって、タダはきっと知らないよね。

「私はなんか、あんまりダメだったかも」とラインする。

「そうなん?」とタダからの返し。「じゃあやっぱ今度1回勉強しよ。オレが数学教えるから英語教えてよ」

「無理だよ!私よりタダの方が英語も成績いいじゃん」

 既読は付いたけどその後はもう何も返って来なかった。



 なんかやっぱりタダ、我に返ったんじゃないかな。

 大島好きだったオレ絶対おかしかった、みたいな気持ちになってんじゃないかなもう。

 でもマフラー着けるって言ってくれたよね…


 そう心配しながら登校しての今朝だ。

 サトウさんに絡まれた後、タダはマフラーを外して教室の後ろのロッカーになおしてたけど…

 やっぱ似合ってた!嬉しそうにマフラーの端をつまんで見せてくれた。…なんかメッチャ可愛い。

 ダメだ…ニヤニヤしてくる。


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