私が好きなのは 2
タダも私もお互い部活動をしているから登下校も別だ。
それでも12月考査前の部活のない時に、「明日一緒に帰ろう」ってラインで誘われたけど、「歯医者の予約がある」ってウソの理由を付けて断ってしまった。
バカだ私…。
あ~~~もう~~~~!せっかく誘ってくれたのに…!
でもダメだ。
タダの事を好きになったとはっきり自覚してからは、タダと二人きりになるとなんだかワチャワチャしそうになるから。
実際タダが普通の会話の中に、たまに私がドキッとしてしまうような言葉を挟んだりしてくると、どんな風に答えていいかわからなくなる。下手な反応をしたらいけないが、黙り込んでただ赤くなるとかも絶対恥ずかしいし、タダの前でそんな風になってしまう自分は相当気持ち悪いと思ってしまう。
だから出来るだけ二人きりになるのは避けるようになってしまっていた。もちろんそんなあからさまに避けてはいないけど。やんわりと避ける。
ワチャワチャして変な、落ち着かない私を見せたりしたくはないのだ。
けれどその翌々日、帰ろうと思って靴箱のところを出たらタダがいた。
「帰ろ」と普通に言ってくる。
まるでいつもそうやって帰っているかのように。
でも、「え…」と、つい周りを見てしまう私だ。
「なに、」とタダ。「今日も用事あるん?」
「…ううん」
「じゃあ帰ろ」
「…うん」
「歯医者どこが痛かったん」と歩きながらタダが聞く。
「歯医者?…あ、え、…っと、奥歯?」
「見して」
「ふゅえ?」変な声出た。「やだよ恥ずかしい」
口開けて見せるなんて絶対恥ずかしいし、第一歯医者に行くっていうのはウソだったもんね。
「なんかな」とタダが言った。「ほんとは一緒に勉強とかもしたいけどなあ。…でもやっぱダメだな」
え、だめ?なんでダメ?なんでなんで?まあ私はダメだけどね。うんダメだよね。二人きりで勉強なんかしたらもうワチャワチャしまくるに決まってるもん。
と思ったら、タダも言ったのだ。ちょっと笑いながら。
「どっちかの家とか行ったりして部屋で一緒に二人きりで勉強したりしたら、すげぇいろいろ気になって来て全然勉強出来なさそう」
「…」
ちょっと驚いてタダをじっと見てしまった。
私と二人きりが気になって?私と同じようにそんな風に気になってきて勉強出来なさそうなの?
ぽっ、と赤くなりそうになるのをなんとか抑え思いなおす。
こいつ本気でそんな事言ってんの?いやそんな事ないよね。気にしないじゃんタダ。私の事、好きだって言ってくれて、それでもいつだって普通じゃん。今も普通だし。
でもタダは続けた。「なんか大島は全然気にしなさそう。っていうより、まずめんどがって一緒に勉強しようとかぜってえ言わねえよな」
「…」
また驚いてタダを見てしまう。
なんで私がそんな風に思われる!?
いろいろ気にしてないの、あんたじゃん。めんどくさいとかじゃないんだよ、二人きりだと落ち着かなくなりそうだから一緒に勉強とか出来ないんだって!
でもタダはムッとした感じを出して続けた。
「一緒に帰れそうな時も特に一緒に帰ろうとはしないしな。先帰るしな。歯医者の予約あるとか軽く言うしな。口の中見せないし」
「…」
ダメだ…。
ダメだ嬉しい。
そんなすねたような感じで言われたら…どうしようさっそくワチャワチャしかかってきた私の小さな胸の中が。
「でも敢えてな」とタダがすぐに普通の感じに戻って言う。「敢えて1回試しにしてみるっていうのもありよな。まず図書館とかからって事で」
「…」
「…嫌なん?」
「…いや、そんな事…ないけど」
学校の図書館だったらきっと、タダの事を気にする女子にめちゃくちゃ見られそう。
「そんな事ないけどなに」とタダが聞いた。
「…なんか…そういうのは止めといた方がいいような気がする」
タダを前に落ち着かない感じになる私を、タダの事が好きな女子のみなさんの目にさらしたくはない。
「そういうのってなに」とタダが聞いた。「二人で勉強するのが嫌なん」
「…そうじゃなくて…」
「じゃあなに」
「いや学校の図書館はちょっと…」
「だからなんでかって」
「なんか…みんなに見られそうでやっぱり落ち着かなさそうな感じするがするよね」
「見られる?」
「私じゃないよ。タダが。来てる女子に見られるでしょ?そしたら私の事だって見るじゃん。なんで一緒にいるんだろうって」
「一緒にいるところを見られるのが嫌って事な」
「違う!…うん…いや…ていうかそうじゃないんだけど…」
「どっち」
「いろんな人にいろんな事思われたり言われたりしたら…なんかちょっと…」
「…」
またムッとしてきたタダに慌てて言う。
「それにね!なんかソワソワしそうだから!私ほら、男子と二人でとか勉強とかしたことないし」
ふっ、とタダが笑った。
なに笑ってんだこいつ。今までムッとしてたくせに。
「そっか」と言ってまた嬉しそうに笑うタダ。
笑われたのがちょっと嫌で、「タダは!」と力強く言いかけて、一方で、あ、とも思って黙り込んだ。何聞こうとしてるんだ私…
当然、「なに?」と聞かれた。
「なんでもなかった」
「なに」
「なんでもない」
「いいから、なに」
じっと私を見つめてくるタダに、仕方がない、と思って言った。「…女子と二人で勉強したことあるのかとか、ちょっと思っただけ。…別に答えなくていい」
聞きながら顔が赤くなりそうだった。そんなことまで気になるなんてダサ過ぎる。
「二人ではない」と即答するタダ。
「…じゃあ何人かでならあるの?」とやっぱり聞いてしまった。
すごく気にしてるじゃん私…。
中学の時のタダと、ヒロちゃんやその周りいた男子たち、そしてタダの事を騒いでいた女子たちを思い出してしまう。きっといっぱい誘われてたよね。誰とかと一緒だったんだろ…何回も行ったのかな…
「なんか、ヒロトたちが女子に誘われてて、その中にヒロトがいいなつってた女子がいたからヒロトが行きたいってなって、オレも無理くり誘われたやつとか」
やっぱりね。
やっぱりそういうやつか…っていうかそれ、女子たちはタダ狙いでヒロちゃんたちを誘ったんじゃない?
「なんか、ただ騒ぐだけで全然勉強にならなかったけどヒロトは喜んでたな。女子がミニスカートとかで来てたから」
なんだと!!喜んでたぁ?ヒロちゃんめ~~~。
私も女子何人かと一緒にヒロちゃんたちと勉強したことがあったけど、その時は喜んでたかな…ふざけてはいたけど別にたいして喜んではいなかった気がする。
…あれ?あの時、タダはいなかったような気がする。
いたかな。
今では二人きりになるとついワチャワチャしそうになるのに、当時はヒロちゃん一筋だったからなあ。タダはいなかったよね。それでニシモトはいた。でもあの時はヒロちゃんと勉強出来て嬉しかったよねえ…
思い出しながら「そうだよね」とタダに同意した。
「ヒロちゃんいたら勉強にならないよ。すぐふざけるから。なのに普通にちゃんと点数取れるし。不思議だよね」
「…ヒロトと一緒に勉強したことあんの?いつそれ?」
「中学の時だけど」
「…二人で?」
「違うよ」そんな嬉しい事1回もなかったよ。
「アコちゃんとかニシモトとか…」
「ニシモト?」
あ…、とちょっと思った。ニシモトはヒロちゃんが言うには中学の時に私の事を好きでいてくれた時期があったらしい。ほんの一瞬だったっから絶対気にするなって本人に言わるくらいの気の迷いみたいな感じだったらしいけど。
「へ~~~」とタダが言った。「それ、オレは知らないわ」
「…タダいなかったよね。ヒロちゃんがいるところには必ずいたのに何でだったんだろ」
それには答えずにタダが今日一番にムッとした感じで言った。
「勉強会してるじゃんニシモトと。信じらんねえ。オレとは嫌がっといて」