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私が好きなのは 1

 は~~~、と白い息を出し教室に入る。

 寒くなって来たよね…マフラーがいる季節になった。

 

 12月8日、それでもまだ私はマフラーを着けていないが、タダが初めてマフラーを着けてきた。

 タダの誕生日に私があげたマフラーだ。

 夕べそのことでラインもくれた。「寒くなって来たから明日くらいやっと着けていけるかな」って。

 それを見たら、ぽふん、と胸が温かくなって、タダにマフラーをあげた11月2日の事を細かく、何回も何回も思い出してしまった。『やっと』って言ってくれてるから、待ち望んで着けて来てくれたみたいで胸がソワっとした。

 


 私があげた深緑色のマフラーを着けて教室に入って来たタダをチラっと見て、わ~~~~、と思い目を反らす。

 どうしよう着けてきた着けてきた…と思って、すぐにまたチラっと見てしまうと、目が合ったタダが恐ろしく眩しい笑顔で私に向かってマフラーの端をちょっと触って見せた。

 うわ~~~~、と思ってまた目を反らす。


 なんでだろ…なんでこういう感じの時に私はいつも目を反らしちゃうんだろ…

 感じ悪いわ私。なんで同じくらいの眩しい笑顔でニッコリ出来ないんだろ。…まあそんな事が出来ないのが私だけどね。それにみんなの前でそんな事大っぴらにするのはどうかと思うし。私があげたって事もばれたくないし。

 

 そう、私があげたってばれたくない。タダにもばらして欲しくない。ないんだけど、嬉しそうにマフラーを着けて来てくれて欲しい。

 だから、と思ってやっぱりちゃんとタダの方を見て、うん、と他の誰にもバレないように小さくうなずいて見せると、今度は、ふっ、とちょっと困ったような顔で笑うタダ。

 また、わ~~~~、と思ってしまう。

 素直じゃないからだよね私が。私のあげたマフラーを嬉しそうに着けてくれていることが確実に嬉しいのにこんな反応しか出来ないから。そりゃタダだって苦笑するよ。そのうち我に返ったタダに、何だったんだ今までのオレのこの気持ち、やっぱ大島なんてやめとこ!、って絶対に思われると思う。




 「おはようイズミ君」とさっそく女子に声をかけられるタダだ。

 サトウさんだ。

 サトウさんはタダの事を好きな女子で、周りもそれをわかっているんだけど、露骨に攻めはしないし私にも絡んでは来ない。私とは普通にしゃべる事も少ない女子なのだけれど、用事があってしゃべる時には結構塩っぽい対応をされてしまう。

 いや…タダに対して露骨に攻めてはいなかったのに、最近は前よりよく話しかけているのを見かけるんだよね…まあハタナカさんがいない時を狙ってるような感じもするけど。

 そう思うのは私が、前よりずっとタダの事を気にしてるせいかもしれない。


 

 「…はよ」とテンション低く挨拶を返すタダの声が聞こえる。

 タダというのは多田和泉。タダイズミは、私が小学低学年からずっと好きだった男の子、伊藤裕人の親友だ。ヒロちゃんに振られた私の事を好きだと言ってくれて、私の誕生日も祝ってくれて、私もタダの誕生日にマフラーをあげて、でも今のところ私とタダは付き合ってはいない。

 距離は俄然近付いてきているなと明らかに感じるし、自分がタダの事を好きだと思っているのもちゃんと自覚しているのだけど、私たちはまだ付き合ってはいない。周りの子たちの中には、付き合ってる、って思っている子もいるみたいだけど付き合ってはいない。


 付き合ってはいない、の認識、しつこいな私。



 

 タダもたぶんサトウさんが苦手なのだ。

 …いや、そう聞いたわけじゃないけど。私の願望だよね。苦手であって欲しいっていう。

 でも実際タダは中学の時も、ガンガンあけっぴろげに迫る子たちより、地味に普通を装いつつ隠しきれない好意をあからさまに出してくる女子が苦手だと言っていたってヒロちゃんが私に面白そうに教えてくれた事があった。その時は、まあねぇウザいよねぇそういうの、と思ったがすぐに、え?それヒロちゃんに対する私の事言ってんの!?と思ったのだ。地味に普通のくせにヒロちゃん好きがどうにも隠せていなかったから。『それ、もしかしてヒロちゃんは私の事言ってない?』とその時、結構勇気を出して聞いたら、一瞬ふん?て顔をしたヒロちゃんはこう言った。『とうとうユズもイズミが好きになって来たん?』て。へ?って顔をした私に、へ?って顔をしたヒロちゃん。その少し後ヒロちゃんに頑張って頑張って告白した時には、一緒にタダがいて私の事を笑ったんだった。


 

 そして今も地味で普通の私は、サトウさんがタダに声をかけてからそっちの方は見ないようにしている。タダが女子に話しかけられている事を、私が気にしていると他の子にも思われたら嫌だから。

 …まあ気にしてはいるんだけど。実際気にしているからそれがバレるのが嫌で見ないようにしている。


 「今日からマフラーして来たんだねイズミ君。夕べから寒かったもんね」

サトウさんがタダにそう言うのが聞こえてドキッとする。

 マフラーに食いつくの早いな!

「いい色だね」とサトウさん。「イズミ君にすごく似合ってる」

そりゃそうだよ、だって私が似合う色選んだんだから、と思うがタダの返事が聞こえない。うん、とかうなずいてんのかな。ダメだタダの方見ちゃいそう。

 でも、『言うな!』とタダに念を送る。絶対に私にもらったんだって言うんじゃないぞ。



 サトウさんがまだ続ける。「私のマフラー紺色なんだ。イズミ君のみたいな色もいいな。そういうの今度探してみようかな」

タダの返事が聞こえない。

「どこで買ったの?」というサトウさんの質問に、「これ大島にもらったやつだから」と答えるタダ。

 あ、答えた。驚くほど普通に答えたね。なんの抑揚もない淡々としたいつものタダのしゃべり方だ。


 「え?大島さんに?」と聞き返しているサトウさんに、うわ~~~、と思う。

そして周りの子たちもザワっとする。

「そうなんだ~~~~いいなぁ~~~~」とさっきより幾分声が低めのサトウさん。

ザワ~~~~、と回りの子たち。

「そうなんだ~~~~」ともう一度言うサトウさんだ。

 なんで2回言う!?

 そしてやっぱりザワつく教室。

 嫌だなあ…



 タダは全然変わらない。

 文化祭のあった先月11月2日はタダの誕生日だった。私の誕生日にチーズケーキを作ってくれたお返しに、タダに欲しいものを聞いたら、『文化祭を一緒に回る事』って言われたのだけど、二人で回って目立つのが怖くてそれを断った私は、マフラーを買ってプレゼントしたのだ。


 その誕生日、私がマフラーを渡したらまずそれを私に着けさせて、私が着けたやつが欲しかったからって言ってみたり、代わりに自分が去年から使っているマフラーを私にくれて、マフラー交換、みたいな付き合いたてのカップルのイチャコラみたいな事もして来たくせに、タダはその後も全然普通。

 学校で私に話しかけるのも普通。家に帰ってから送ってくれるラインも普通。別にその前と頻度も増えたわけでもなく。宿題すんだかとか、部活がしんどかったとかテストの範囲の確認とか。後、晩御飯なんだった?とか。

 嬉しいけどね。そういう普通の事を言い合えるのってなんか幸せ、と思ったりするけどね。

 

 私のラインももちろん普通だけど。それに私からはあまり送らないようにしてるし。

 だって前タダが言っていたのだ。『女子ってどうでもいいようなラインを送って来る』って。『こっちはもう終わりだって思ってもずっと続けようとする』って。そんな事思われたらもちろん嫌だ。それにタダの事を好きだと自覚してきた今は、こちらからラインを送ってしまうと返信が気になってしまうから。

 できるだけそんな余計なソワソワはしたくない。




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