絆 時空を超えて
1.26世紀 高化学研究所
時は26世紀、この国の総力を上げて作った「最高機密高化学研究所」。時空を崩す恐れがあるとして、毒薬に指定されている「ジェグ」。厳重警備の中、「ジェグ」を狙う者が後を立たない。
この夜も、「ジェグ」を狙ってこの国では知らぬ者はいない、超天才怪盗「馬飼野 大凰」23歳が高化学研究所の第一の門を突破した。
「俺に、この手は甘いな」
得意気な顔で、大凰は自分で作ったサングラス型のPadを立ち上げた。薄く透けたキーボードが大凰の前に現れ、右目で第二の門のキーワードを探し、左目で指紋、静脈の認証コードをハッキング。
左腕の時計型時空パソコンを、右腕の時空パソコン制御装置を発動させながら、第二の門を突破した。
第三の門の前では、右目で門前に張り巡らされている警報レーザーを回避し、左目でレーザー停止スイッチをハッキング。同時にして警備室に気づかれないようにした。
《高化学研究所 警備室》
警備ロボット24体が、時空パソコンの気配をすでに察知し、原因を調べ始めていた。
微かな時空パソコンの気配が、第三の門で消えた事をロボットは人間に報告した。
第四の門(最高知能扉)に、大凰が到着。
この門は、これまで以上に難しく知能が高い。開ける認証コードも気紛れで、門の気分によって変わる。
大凰は両目のPadを開き、時計型時空パソコンも開き、3つを高速で動かし始めた。
コードは、全部で4つ。
全てを、20秒以内に解除しなければ、警報が鳴る。
大凰は凄い速さで、3つのコードを見つけた。
「よし、後1つ」
隅から隅まで探すが、コードが見当たらない。
時間が迫る。
「マズい」
焦った大凰は、時空パソコンの方を両目で必死に探す。
残り3秒。
汗が、頬を流れた。
時空パソコンの真ん中で、光るコードが1つ。
「よし」
慌ててコードを入力。ギリギリで、クリアした。
「あっぶね」
第四の門を開けると、大凰は座り込んで汗を拭いた。
そして、背負っていたリュックから色々と取り出した。
この先は、空気も無い無空間。このまま入れば、死んでしまう。
リュックから出した小型酸素を口に加えると、次にスプレーを取り出し、スプレーを振った。靴の裏にスプレーを念入りにかけると、大凰はその場でじっとした。
少しすると、大凰の体は3㎝程浮いた。
大凰はゆっくりと中に入り、部屋の一番奥にある透明な箱に入っている「ジェグ」を見つけた。ピンク色に光り、見る者を誘惑する不気味な液体。
大凰は「ニヤリ」と笑いながら、空中を歩いて「ジェグ」を目指す。
「ジェグ」に辿り着いた大凰は、目を輝かせて透明の箱の鍵をあっという間に開けた。
警備ロボットから報告を受けた人間5人が、必死で時空パソコンの足跡を探った。1人が微かな、時空パソコンの足跡を見付けてボスを呼んだ。
「ボス、第三の門で同時、ハッキングです。第四の門も開けられたかもしれません」
「何!?」
ボスは慌てて第三コードの同時ハッキングを確認すると、すぐに第四の門を調べた。
「ボス、やはり第四コードも破られています」
「何!?」
絶対に破られ無いと思われた、第四の門。
破られた事にも驚きだが、5人の人間には心当たりがあった。
「ボス、こんな事するのは」
「ああ。大凰しかいない」
ボスが警備ロボットに、全ての道を封鎖させ、人間は裏階段から第四の門へと走った。
大凰は「ジェグ」を嬉しそうに、リュックに詰めていた。
「大漁~大漁~」
大凰は嬉しくて、鼻唄を歌いながらリュックに詰めていた。
少しすると、大凰の右目の警報ランプが赤く点滅。
「チッ。もう気付かれたのか。早いな」
舌打ちをし、持てるだけの「ジェグ」をポケットに入れると、リュックから道具を取り出すと、全てのPadと時空パソコンを起動させ
「よし、後は時間との勝負だな」
大凰は1つ大きく深呼吸し、全てを高速で動かした。
「ジリジリジリー!!」
その途端、高化学研究所内に、大音量の警報ベルが鳴り響いた。
第四の門に走る人間は、大音量のベルに立ち止まった。
すぐに何が起きたのかを、1人が調べた。
「ボス、大凰が時空パソコンを起動させています」
「何?」
もう1人が、違う事を調べ始めた。
「あいつ、何するつもりなのか?」
ボスが考えていると、1人の部下が
「ボス、もしかしてあいつは、アレで未来か、過去へ行こうとしてるのではないでしょうか?」
「アレで?アレだけじゃ、人は時空を移動出来ないぞ」
「確かに」
ボスが更に考えていると、違う事を調べていた部下が
「ボス、大凰はここ最近、毒薬ばかりを盗んでいます。我々凡人には分からないけど、超天才の奴の知能なら、その毒薬で人間を移動させる物を作れるのではないでしょうか?そして、アレが加えると完成になるのではないでしょうか?」
そう深刻な顔で言うと、ボスに盗んだ毒薬の種類を見せた。
「確かに、あいつならあり得るかも」
人間は納得し、第四の門へと急いだ。
第四の門に人間が到着。
門は開けっ放しになっており、人間がそっと中を覗くと、中では大凰がゴソゴソと何かやっている姿。
「大凰!!」
ボスが叫んだ。
大凰は驚いて振り向き、慌てて時空に「ジェグ」をかけた。
「ジェグ」がかかった時空は、揺れ始めて歪みが発生。
大凰は人間を気にしながらも、時空が開ききるのを今かと待っている。
ボスは急いで中の酸素スイッチをオンにすると、酸素メーターに目をやった。
時空が開ききるのが先か?酸素メーターがクリアになるのが先か?
大凰も人間も、この時間がもどかしい。
時空が開いた。
酸素メーターがクリアになった。
大凰は急いで、時空の中に飛び込んだ。人間も急いで、歪みまで走った。
時空に飛び込んだ大凰は、人間に手を振ると嬉しそうに消えていった。
ボスの一歩前で歪みは消えて、人間は大凰を取り逃してしまった。
「くっそ!!大凰め」
「ボス、あいつの後を追いましょう」
「どうやって?あいつだから、この時空も歪みも作る事が出来たんだ。例え作れたとしても、未来、過去、どっちに行ったかもわからないんだぞ」
息を切らしながらボスは、悔しそうに歪みがあった空間を睨み付けた。
2.1986年 11月。
刑事、小池 慶吾26歳は、銀行強盗の立て籠りで緊迫した現場にいた。
慶吾の姉、鈴恵28歳が人質に取られているとあり、慶吾の心中は穏やかではなかった。
立て籠りからすでに8時間。犯人は車とお金を要求すると、二人の人質を連れて走り去った。
二人は慶吾の姉とその同僚。
「姉さん!」
人質として連れて行かれた鈴恵を追い、車の後を走って追いかけるが追いつけず、慶吾の悲しい声だけが響き渡った。
それから警察は、人質を探し回った。
慶吾も我を忘れて、鈴恵を必死で探した。
父親を早くに亡くし、病弱だった母に代わり、慶吾の世話をしてくれたのは鈴恵だった。慶吾にとって、大切な家族。
そんな鈴恵がこの前、「会わせたい人がいる」と、言ってきた。
慶吾は「結婚」を考えている相手がいるのだと、本当に嬉しかった。その話をしてる時の鈴恵は幸せそうで、慶吾も自分の事のように喜んだ。
しかし、警察の目をかいぐぐり、犯人は逃走車両を何度も乗り換えていて、足取りが途中で途切れてしまった。
それでも警察は、2000人を導入し犯人を追い続けた。
2週間後。
連れ去られた二人は、悲しくも、海辺の倉庫裏側で遺体となって発見された。
知らせを受けた慶吾は、雨の降る中、鈴恵の元へと駆け付けた。
「姉さん!」
同僚の制止を振り払い、変わり果てた鈴恵の前で、崩れるように膝を付いた。
「ね、姉さん。嘘だろ?姉さん」
震える声で、慶吾の頬を涙がこぼれた。
「姉さん!姉さん!姉さん!」
慶吾は何度も、鈴恵に呼び掛けた。
しかし、鈴恵は何も答えない。
「嫌だ。姉さん」
唇を噛み締めて、慶吾は何度も鈴恵を揺らした。
「小池!」
上司が止めに入るも聞かず、4人がかりで慶吾を抑え、やっと鈴恵から引き離した。
その後も現場には慶吾の声だけが響き、周りの警察官達は慶吾に掛けるごとも見付からず、慶吾を沈痛な思いで見ていた。
事件から2年後。
この日、慶吾は母と二人で鈴恵のお墓参りに来ていた。
母が先に鈴恵のお墓に手を合わせ、続いて慶吾が手を合わせた。
お参りを終えた二人は車に乗ると、母は鈴恵の大好きだったチューリップの花束を慶吾に渡し
「慶吾、これお願いね」
と、言って、悲しい顔で俯いた。
「わかった。じゃ、俺はこれを姉さんに届けてくるよ」
花束を受け取って、慶吾は母に優しく言った。
母はまだ、鈴恵の死から立ち直れない。
そんな母の気持ちが分かる慶吾は、母を家に送ると、次は鈴恵の発見された海辺の倉庫裏側へと車を走らせた。
3.底の世界
ここは、地の底の世界。
人間の悪人の魂だけが、もがき苦しみ、生前の罪に対する罰を受けている。
人間の言葉を借りて言うなら、「地獄」だろう。
「ティリナ.テーゴ.ユルルガアイ.ユウタリマ」通称「ユウ」は、底の世界でも上位の力を持つ悪魔。
この日もユウは、仲間と『魂狩り』のゲームを楽しんでいた。悪魔は底の世界を自由に飛び回り、あちこちに浮遊する悪人の魂の悪力を悪魔の力へと変える。
「ユウ、行くぞ!」
仲間がユウに向かって、浮遊する人間の悪人の魂を取ると、投げつけた。
突然だが、ユウはギリギリで魂を避けた。
「ちょっと!」
ユウが仲間を睨み付けると、仲間達の目がキラリと光った。
あちこちからユウ1人にしぼり、仲間達が魂を持ってユウとの距離を縮めていく。
嫌な予感。
ジリジリと距離を詰めていく仲間に、ユウは後退りするが、仲間は10人に増えて、ユウに魂を向けた。
「お、おい!」
10人が一斉に、ユウに魂を投げた。
ユウは次々に飛んで来る魂を何とか避けながら、あちこちへと逃げ回った。
後ろを気にしながら、ユウは天界横の間際まで逃げた。
天界先には、悪魔は行けない。
下を見下ろしていたら、ユウの目の前に一番の仲間がゆっくりと現れた。
「ユウ、隙があるぞ」
そう言って、仲間は『ニヤリ』と笑うと魂をユウに投げた。
慌てたユウは避けきれないと分かると、魔力でとっさに魂を弾き返してしまった。
『バーーン!』
凄い音と共に、魂は上へ。
「マジか」
仲間もユウが本気で魔力を使うとは思わず、魂が遠くに飛ばされてしまったので、唖然としていた。
魂は高く高く、更に高く上がり、上空の天界の境目に向かっている。
「マズい」
ユウと仲間は目を見合せ、境目に飛んでいく魂を慌てて追い駆けた。
しかし、悪人の魂は、天界の境目までもう少し。
そして
『バーーーン!!』
悪人の魂は凄い音と光と共に火花のような物が散り、天界へ行くはずだった良人の魂と激しくぶつかってしまった。
ユウと仲間は、眩しすぎる光線に目がくらみ、光線が引くまで目が開けられなかった。
「眩しっ!」
その間にも、天界へ行くはずだった良人の魂は、真っ逆さまに底の世界でも立入禁止となっている森へと落ちて行く。
「えーー」
ユウの体が思うように動かず、落ちていく魂を見送るユウ。
悪知恵ならか、そのまま天界へ行こうとした、悪人の魂を仲間が境目の手前でキャッチして、底の世界へと投げつけた。
ユウはまだ、天界へ行くはずだった良人の魂が落ちて行くのを呆然と見ている。
そして、良人の魂は暗い森へと消えて行った。
「あーあ」
仲間はため息をついて、ユウの肩を叩き
「ユウ、これはかなりヤバイと思うぞ」
と、苦笑いで言った。
「だよな?」
ユウもヤバイ気がしていた。
「魔王様にすぐ、届くぞ」
「だよな?」
「ユウ、考えてみればさ、あれやったのユウだし、俺は関係ないって事で、退散な」
そう言うと仲間は、魔王の怖さからユウを置いて逃げてしまった。
近くまで飛んできていた他の仲間達も、状況が分かると、苦笑いし「さよなら」と、逃げてしまった。
置き去りになれたユウ。言い訳を、必死に考えたが、何も思い付かない。
「マジかよ」
<トライアングル>
この世界は、天、地、底の三角形が上手く回っている事によって成り立っている。
天は地の生物の生と死の繰り返しをする事で、天の者は存在している。
底は地の生物の悪の魂に罪に対する罰を与え、底の悪魔は悪人の魂を魔力に変えて底で存在している。
天も底も、地の生物がいなければ存在出来ず、互いの領域を侵してはならないという「ルール」がある。
いわゆる、そのルールをユウは破ってしまったのだ。
何の策も思いつかぬまま、ユウが立ち尽くしていると、突然、底の世界が激しい雷に包まれた。
「ヤバイ」
ユウがそう思った瞬間、ユウの体が強い何かに引っ張られて、凄い勢いで底の底へと移動した。
ユウは分かっているのか、何の抵抗もせず、諦め顔で身を任せている。
しばらく引きずられるように移動したユウは、魔城の大広間、魔王の目の前に雑に投げられた。
「痛っ」
ユウは服についた砂を払い立ち上がると、そこには元々がとっても恐ろしい顔なのに、更に恐ろしい真っ赤な顔の魔王がユウを睨んでいた。
「怒ってる」
怖くて口には出せないが、ユウが始めて見る顔。
「ユウ、言いたい事は分かってるな!」
魔王が底の世界が揺れる程の低い声で、ユウを怒鳴った。
ユウは体をビクッとさせ、ユウの悪魔の翼もシュンとなっていた。
「ユウ、天界から激しい抗議が来ている。お前が落とした天界行きの魂は、天狗に調べさせたら、前魔王を封印した森に落ちている。そして、その前魔王はその魂を自身の欠片がある地上のある年代に飛ばしてしまったようだ。ユウ、まずはその魂を飛ばした年代に行って見つけ出し、天界に返せ。その後で、ユウの処分を決める」
魔王は恐ろしく低い声で言うと、右手を上げた。
すぐに側近の天狗二人が、ユウの片腕づつを持ち、魔王の目線にユウを持ち上げた。
「ユウ、お前の落とした魂は、1986年11月に命を落とした、小池 鈴恵 28歳だ。この魂は、天界へ行った後、すぐに生への転換が決まっていたそうだ。転換は小池 慶吾の長女としての誕生。その急ぎの転換で、天界も忙しい中でのお前の失態にかなり腹を立てている。この転換を早めにしたいと望んでいるから、早く見付けろよ」
魔王はそう言って、ユウの目の前に大きな右手を広げた。
ユウは怖くて目を合わせられない。
魔王は目を閉じて、呪文を唱え始めた。
すると、魔王の右手から青白い魔力が集まり、魔王はユウと天狗を地上へと飛ばした。
4.出会い
慶吾は鈴恵の発見現場の倉庫裏側に着くと、持ってきたチューリップの花束をそっと置いた。
「姉さん、今日はいい天気だよ」
海からの風を受けながら、慶吾は悲しく微笑んだ。
「姉さん、ごめんね。もう2年も経つのに、まだ犯人を捕まえてないんだ」
慶吾は2年前の鈴恵が発見された日を思い出し、再度、犯人逮捕への意欲を掻き立てた。
すると
「ドドドドドーーーーン!」
「ドドドドドーーーーン!!」
地響きがして、大地が大きく揺れた。
「えっ?地震?」
あまりの大きな揺れに、慶吾も驚いた。
揺れは段々、大きくなり縦、横、と大きく揺れた。
「これは大きい」
慶吾は倉庫から離れ、何も落ちてこない所で伏せた。
横揺れが増えて、慶吾がふと、置いたチューリップに目をやった時、チューリップの上の空間が波打つように歪み始めた。
「えっ?」
地震とは明らかに違う、不思議な揺れ。
慶吾は目をこすって、何度も見返した。
時空の不思議な歪みは、何と開き始めた。
「何?」
開き始めた空間に、慶吾は唖然。
開いた空間は、人1人が入れる大きさまで開くと、急にそこから人間の頭らしき物が見える。
「えっ?」
慶吾には何が何だかわからない。
頭の次に見えたのは、顔。ゆっくりと空間から現れたのは、慶吾が見た事のない身なりの男。全身が見える頃には、上から下まで全て黒。見慣れないサングラスをし、両腕にはいくつもの時計らしき物を着けている。靴もスニーカーなのか?見慣れない、黒で何か色々と付いている。いかにも怪しい男。慶吾の刑事の嗅覚が、犯罪の匂のす男。と、言っている。
男は全身が出ると、嬉しそうに足を地面に付けた。
そして、開いた時空に怪しいピンクの液体「ジェグ」をかけた。
男の掛けているサングラスに、不思議な文字が走り、男の右腕からキーボードみたいな透明な物が現れて、男はそれを高速で打っている。しばらくすると、かけられた液体は光りを放ち、開いてた不思議な空間が、また揺れながら閉じて行った。
今までに、見た事のない光景。
その空間が閉じると、今までの大地震が嘘のように、大地の揺れは収まり、辺りは静かになった。
『何が起きたのか?』
『この男は何なのか?』
慶吾が動揺していると、男は慶吾が鈴恵の為に置いたチューリップの花束を目にすると、驚いたように花束に近付き、また透明のキーボードを出すと何やらやっている。
そして、嬉しそうに
「これって、チューリップでしょ?24世紀中まで存在した、人の心を癒すという素晴らしい花でしょ?」
と、不思議な質問をしてきた。
「えっ?」
慶吾には質問の意味が分からず、男から目が離せない。
「本当に、色んな色があるんだね。ねえ、触ってもいい?」
「えっ?」
『何なんだ、この男は?』慶吾が怪しんでいるが、男はそんな事お構い無しに、チューリップを優しく触ったり、匂いを嗅いだりしている。
次に男は、耳に届いた『波』の音に反応した。
男は砂浜を走り、海が見渡せる所まで来ると、また、透明のキーボードを出して何かを打つと
「これは、海ってやつでしょ!この音は、波ってやつでしょ!25世紀まで存在した、大自然ってやつなんだね。これ、絶対に見たかったんだ」
男は大喜びで、砂浜を駆け回ってる。
不思議過ぎる行動に、慶吾も男を追いかけた。
「初めて見る海は、本当に大きいんだね。凄い」
慶吾にはこの男が何かのか?全く分からないが、とても気になる。
「君は誰?」
慶吾が、男に尋ねた。
「お、俺?俺は、馬飼野 大凰 23歳。26世紀の超天才怪盗さ」
男は自慢気に、笑顔で答えた。
「に、26世紀!?」
慶吾は、凄い驚きた。
「そうだよ」
大凰は、ここに来た理由を思い出し
「あっ、そっか。俺は26世紀の未来から時空に歪みを作って、ここに来た未来人さ。ここに、どうしても見たい物があってね」
慶吾は大凰の言ってる事が理解出来ず、ポカンと口を開けている。
「ちなみにね、時空って歪みだけじゃ人は移動出来ないんだよ。26世紀の毒薬を盗んで、俺の頭脳でここに来たのさ」
大凰は自分の天才をアピールしつつ、慶吾に盗んだ「ジェグ」を見せた。
大凰の話は理解出来ないが、慶吾は「怪盗」「盗んだ」と、いう言葉に反応さした。
「それ、盗んだのか?」
慶吾は刑事の目で、大凰に確認した。
「ああ。俺は超天才怪盗だからね」
「そうか」
慶吾は完全、警察官モード。未来から来たと言う、大凰を信じてる訳ではないが、この男の現れ方や持っている持ち物が、現代の物とはかけ離れてるという事だけはわかった。
「所で、君こそ誰?」
大凰が慶吾に尋ねた。
「あっ、俺か。俺は、小池 慶吾28歳。君が言っている26世紀の事は分からないが、この時代を守りたいと思っている刑事だよ」
「け、刑事?」
「ああ」
大凰は嫌な言葉を聞いた。自身の世界でも、これに追われている事が多かった気がする。
大凰は一歩、下がった。
「た、大凰君だったかな?もしも怪盗だと言うのが本当なら、俺は君を捕まえる立場だ」
慶吾が真面目な顔で言うと、大凰との距離を少し縮めた。
大凰は急いで左目のPadを起動させ、過去年表から「小池 慶吾」という刑事について調べた。
膨大な人物過去年表から、1988年を記入し慶吾の顔写真を探した。
過去年表には「義理と人情の刑事」「この時代を守り抜こうとする、正義の塊」。1986年11月、最愛の姉を亡くす。と、ある。
慶吾が大凰との距離を更に縮め、大凰は焦ってきた。
「1988年のけ、刑事さん」
「その呼び方は辞めろ」
慶吾が大凰に、ジリジリと近付く。
「じゃ、刑事さん。あの花束は何であんな所に?」
大凰の問いに、慶吾の足がピタッと止まった。
慶吾は2年前の、鈴恵の発見時を思い出してしまった。
「別に、君に話す事じゃないよ」
慶吾は大凰から目を反らし、暗い顔で俯いた。
その顔を見て、大凰は倉庫をPadで獲ると、過去事件年表と照らし合わせて、倉庫に何があるのかを調べた。
ヒットしたのは「1986年、銀行強盗が銀行員を人質」。倉庫は二人の人質の遺体発見現場。うち1人が、小池 鈴恵。
『そうか、ここはこの刑事の姉の遺体発見現場だったんだ』
花束の意味を知った大凰は、この事件を時空年表と共に辿った。
すると、2001年「時効」の文字。
大凰の手が止まった。「時効」制度が存在したこの時代ならではの、事件の終止符の仕方。
『この人は、これからもずっと姉の事件を追い続けて行くのだろう。そして、時効が成立した時に、何を思うのだろうか?』
『きっと、俺の頭脳を使えば、この犯人は捕まえられるかもしれない。でも、過去を変えると、未来に少々の歪みが出るはず。過去を変えてはいけないのは、未来人としてそこは暗黙のルールのはず』
大凰の頭を、色々な思いが駆け巡った。
『でも、俺がここに来てる事がすでに未来への歪み。まっいいか!楽しいそうだし』
と、いう結論に至った。
「ねー刑事さん。あの倉庫は、1986年11月に起きた銀行強盗事件の人質になった、刑事さんのお姉さんが遺体で見つかった場所でしょ?」
「えっ?」
慶吾は何も言っていないのに、大凰が詳しく言う物だから、目を丸くして驚いた。
「刑事さん。残念な事に、お姉さんは連れ去られた後、すぐに殺されてここに捨てられたんだ」
「えっ?」
「刑事さんのお姉さんは、小池 鈴恵、当時は28歳。刑事さんのお父さんは早く亡くなって、お母さんは病弱で、お姉さんが刑事さんの面倒をみてくれたんでしょ?」
「えっ?」
「もっと、言ってもいいけど、刑事さん俺が未来から来た事、信じてくれる?」
大凰が言う全てが当たっている物だから、慶吾は言葉が出ない。
大凰が何者なのか?本当に、未来人なのか?
慶吾の中で、大凰が怪しいのは間違いないが、悪い奴ではないと言う事だけは、確信に変わっていた。
「刑事さん?刑事さんは、この事件をどうするつもり?」
大凰がサングラスを取って、真面目な顔で慶吾に聞いた。
「も、も、も、勿論、犯人は必ず捕まえる!」
慶吾は急にムキになって、大声で叫んだ。
その顔を見て、大凰は決めた。
「そっ。わかった。じゃ、犯人捕まえようよ」
ニコッと笑って、大凰はまたサングラスを掛けると、右目Padを起動させて、高速で調べ始めた。
大凰は産まれて初めて、警察に協力する。
何か、盗みに入るより、遥かにワクワクしていた。
大凰は慶吾の側で、左目Pad、両腕の時計型時空パソコン、全てを起動させて早速、調べ始めた。
慶吾は大凰が凄い速さでキーボードを打ち、大凰のサングラスに英数字が流れるのや、透明な宙に浮いた画面から、色々な暗号らしき物が高速で流れるのを、口を開けて『ポカーン』と見ていた。
「すごい」
思わず関心の声が出た。
しばらくすると、透明の画面に慶吾でも分かる鈴恵の写真が出てきた。
「ねえ、刑事さん。お姉さんは事件の前に、変わった事とかなかった?」
大凰の問いに、慶吾は腕を組んで鈴恵の事を思い出してみた。
「姉さんの、変わった事?」
「そう。何でもいいんだけど、何かいつもと変わった事をしたとか。何か買ったとか。何でもいいんだけど」
「う~ん」
慶吾が必死に思い出そうとするが、以外にも何も浮かばない。
すると、2年前のある会話をふと、思い出した。
「あっ!そう言えば、結婚を考えている相手がいるような事を言ってた。俺に紹介したいって、言ってたし」
「結婚?」
「ああ」
慶吾は鈴恵との会話を2年経って、ようやく思い出した事に少し興奮していた。
「じゃ、その相手の名前は?」
「えっ?」
「だから、お姉さんが紹介したいって言ってた、結婚相手の名前だよ」
大凰にそう言われて、慶吾の顔が強張った。そして、初めて気が付いた事がある。
確かに鈴恵は、「結婚」を考えている相手がいると言っていた。しかし、自分はその相手が誰なのか?全く知らない。
そして、その相手は、鈴恵の葬儀にも来ていないし、死後にも名乗り出て来てはいない。
急に恐ろしい顔になった慶吾に、大凰も少し驚いた。
「ど、どうしたの?刑事さん?」
しかし、大凰の言葉は慶吾に届かない。
冷静に考えてみれば、普通、「結婚」まで考えた相手が死んだのに、遺族にも名乗り出ない奴なんているのか?
大切な人が殺されたなら、尚更、自分のように犯人を捕まえたいと思うはずなのに。
慶吾は、そんな大事な事に気付かなかったこの2年間の自分に、物凄く腹が立った。そして、物凄くショックだった。
「刑事さん?」
「あっ」
ようやく、大凰の声が届いた。
「刑事さん、どうした?結婚相手が思い出せないとか?」
慶吾は苦痛の表情で、大凰の方に目を向けた。
「悪い。俺、言い訳かもしれないが、仕事に追われていて、姉さんの結婚相手の名も知らない。しかも、その相手は姉さんが死んだ後も名乗り出てきてない。そんな重要な事に気付かなかったなんて、本当に俺はダメな弟だよ」
慶吾は、大きくため息をついた。
大凰もさすがにそれ以上、聞けない雰囲気になり、仕方なく左目Padから必死に違う方面で探し始めた。
慶吾はあまりのショックからか、肩を落とし座り込んでしまった。
その様子をチラチラ見ながら、大凰は鈴恵の仕事関係を洗っていた。
「ねえ、刑事さん、お姉さんの死後に変わった事はなかった?」
「えっ?」
うなだれていたが、次こそは、何か手掛かりになるような事を思い出そうと、慶吾は必死に考えた。
ふと、1年前のある夜の事がよみがえった。
「そう言えば1年前くらいに、姉さんの同期とかいう女性が、寿退社するから引っ越すので、その前にお線香をあげに家に来てくれた事があったよ」
「なるほど。その人の名前は分かる?その人の結婚相手の名前も分かるといいんだけど」
「結婚相手はわからないけど、同期の女性はその時に聞いたんだ。確かーーー桜場 陽さんって言ってた」
「桜場 陽。わかった」
早速、大凰は桜場 陽の名を打ち込むと、過去時空年表で彼女の人生を辿った。
この女は急に金回りがよくなっている。結婚相手も、結婚前は借金を抱えている状態だったのに、1987年から急に豪邸に住み、会社を立ち上げ成功を納めている。会社の出資金など、どこにあったのか?この二人は、死ぬまで贅沢三昧の日々を送っている。金にまつわる疑問点がいくつも出てきた。
気になった大凰は桜場 陽の現在の姓と住居を調べた。
これは行ってみる価値はある。と、判断した。
「刑事さん。さあ、行くよ」
「はっ?」
大凰は右目のPad以外を全てシャットダウンし、慶吾の腕を掴んだ。
「ちょっ、ちょっと、何処へ行くんだよ」
「確信はないけど、行ってみるべきだと俺の直感が言ってるんだ。だから、刑事さんが言ってた桜場 陽。現在は生田 陽の家に行くんだよ。さっき、確認したら刑事さん、車ってやつで来てるんでしょ?それで、行けるっしょ?」
大凰は、車の事は過去の乗り物で知っているだけで、乗った事はないから、車に乗れるのも楽しみだった。
いまいち分からぬまま、慶吾は大凰に言われるままに車を走らせた。
2時間後
慶吾は大凰の案内で、現在の生田豪邸に到着した。
大凰は右目Padで豪邸の様子を見てから、右か左かを左目の方で調べていた。
慶吾は大凰に言われるままに到着した場所が、見た事もない大豪邸なのであっけにとられていた。
右だと分かった大凰は、マヌケ顔で大豪邸を見上げている慶吾の腕を引っ張って裏口へと向かった。
裏口といっても、慶吾の家の倍はあるだろう立派な裏玄関。
そしてこの時代としては、高セキュリティの暗号式の鍵と普通の鍵が2つのトリプルロック。かなりの厳重警戒。慶吾は初めて触れるセレブの世界に、変な緊張が走った。
大凰はそんな大豪邸に目もくれず、立派な裏玄関の暗号式の鍵を右目Padであっという間に開けてしまった。
「何だ、やっぱり簡単じゃん」
続いて、普通の2個の鍵も何秒もかからず、あっという間に開けてしまった。
見事な手さばき。慶吾も感心してしまった。
「チョロいな。これじゃ、入りたい放題だな」
大凰が簡単過ぎて呆れ
「お前が特殊なだけだよ!」
慶吾がすぐさま、突っ込んだ。
「よし、刑事さん。行くよ」
「えっ?入るの?」
「開けたんだから、当たり前じゃん」
戸惑う慶吾をよそに、大凰は中に入って行った。
「お、おい。待てよ。俺、一応、刑事なんだけど!」
大凰は無視して、先へ消えていく。置いていかれても困ると、慶吾も慌てて大凰の後を追った。
大凰は豪邸の中を右に走る。その後を、抜き足差し足と慶吾が着いて行く。
大凰が豪邸の中を左に走る。その後を、抜き足差し足と慶吾が着いて行く。
「これって絶対、不法侵入だよなー」
大凰の後を着いて行くも、慶吾は罪悪感で一杯だった。
また右にまた左にと、大豪邸ながら何となく、さっき行った部屋だったりと、大凰が同じ所に何度も行っている事に気付いた。
「あれ?ここさっきも来た気がする」
慶吾がぼやいても、大凰は気にせず、また次の部屋へと移動。
慶吾には大凰が、何をしたいのかが分からない。
「お、おい、大凰。さっきから何してるんだ?迷子なのか?」
「えっ?いや、迷子ではないよ」
「じゃ、何で同じ部屋に何度も来るんだよ」
「ああ、ちょっと探してる物があってね」
「探してる物?俺、一応、警察の人間なんだよね」
「そう。俺には何の問題もないけど」
「でしょうね」
怪盗に言った、自分がバカだったと慶吾は後悔した。
それからしばらくして大凰は、ある部屋の壁に耳を着けて、ある物を探していて、それは隠し扉の中にある長い廊下の先にあった。
廊下の先には、更に隠し扉があり、その右に地下室への入口を見つけた。
「すげーな。秘密基地みたい」
慶吾が、あちこちと見回している。
大凰は更に進み、地下室の入口の扉にも、暗号式の鍵が掛かっていた。しかも、不用意に解除すると警報が鳴るという優れ物。
「あれー結構、いいの付けてんじゃん」
大凰はこの時代にしては、かなりの知能だと感心しながらも、宙に腕時計から透明キーボードを出すと、何秒もしないで暗号式を解除し、同時に警報をOFFにして鳴らないようにした。
慶吾には未知の世界。大凰が動かしている、パソコンらしき物が全く理解出来ない。
中に入った二人は、今度こそ二人とも抜き足差し足と、音を立てないように前へと進んだ。
『地下室をこんなに厳重にするなんて、おかしい』慶吾の刑事の勘がそう言っている。
ちょっとすると扉があり、そこから怪しい声が聞こえてきた。
少し争っているかのような、1人は興奮している。
「おい!俺等は、お前等の心臓なんだ。もう少し、丁寧に扱った方が身の為だぞ」
男が、荒い声で言っている。
「何、言ってるのよ!あんた達には、十分過ぎるくらい渡してるわ」
男に対して、女が強く言い返した。
「あれくらいじゃ、割りに合わないだろ!危ない橋は、俺等が引き受けたんだ。あんた等は何もしてないじゃないか」
男が女に詰め寄るような音と共に、怒鳴った。
「何よ!計画を立てたのは、こっちなのよ」
女は負けじと言い返している。それに対して男も言い、男と女は言い合いを始めた。
少しすると
「まあ、二人とも落ち着きなさい」
と、二人が過熱しそうな所で、違う男が低い冷静な声で言うと、二人はその男の言う通り、すぐに言う合いを辞めた。
冷静な声の男は、女に対して
「確かにあなたの言う通り、もらってはいます。でも、それ以上の協力をしてると、俺は思ってる。話には聞いていない、『人殺し』の手伝いまでしてるんですよ。そうでしょ?奥さん」
と、自信あり気な声で女に言うと、女は何も言い返せないのか、悔しそうな「うっ」という声だけが聞こえた。
更に冷静な声の男は、他の誰かに話しかけた。
「あれ?そう言えば、あんたが殺した女を、運んだのも俺等でしたよね?あの女の名前って、何でしたっけ?あんたの所に連れてきた時、あの女、凄く驚いていましたよね。あんたの女だったんでしょ?生田さん」
冷静な声の男の問いに、話かけられた生田という男の、鼻で笑う音が慶吾と大凰に聞こえきた。
「その女は、金を手に入れる為の捨て駒に過ぎない。あの銀行で唯一、金の取りやすい動きと時間を知っていて、銀行での信頼を得てるのはあの女だけだったからな。こいつは同じ銀行にいながらも、バカだから信頼無かったからな」
生田は笑いながらそう言うと、女もクスクスと笑った。
「俺との関係は、絶対に言わないようにキツク言い聞かせてたから、誰にも知られてはいないさ。信用させるのに1年。聞き出すのに1年かかってるしな。『結婚』を匂わせたら、まあ、色々と聞かせてくれて助かったよ。強盗に入る事は言ってなかったし、人質になって、黒幕が俺だってわかってあの女は驚いてたけど、あの女が生きてたら面倒だし、俺は結婚する気なんて更々無かったし、消した方が俺等の為だろ?」
「まっ、まあ」
冷静な男が、少し怯んだ。
「そう言えば、あの女は鈴恵。小池 鈴恵って言ったよ。まあ、俺のこの先の人生に必要ないから、久々に思い出したけどな」
生田は、悪びれた様子もなく高笑いをした。
慶吾は、『ドーン』と何かが胸を突き刺し、顔面蒼白。
「何て、悪い男だ」
慶吾と大凰が聞いているとも知らず、冷静な声の男も続いて笑いだし、始めに興奮してた男も笑いだし、女も声に出して笑っている。
慶吾の鼓動が、早くなっていく。
「嘘だろ?」
この時、慶吾は全てがわかった。
鈴恵は男に騙されて、銀行のお金の動きを教えてしまっただけではなく、強盗に入られ人質にされ、惚れた男に殺された。と、いう事。
でも、慶吾はそれが事実だとは、信じたくなかった。
しかし、奴等はすぐ側で、鈴恵を殺した事を笑ってやがる。
段々、慶吾の頭に血が登り、慶吾の全てを怒りが支配していく。
もう、慶吾自身でも止められない。
「こいつ等、絶対、許さない」
慶吾が無謀にも、中に1人で乗り込もうとする。
「ちょっ、ちょっと」
慶吾の異変に気付いた大凰は、すぐに全てのPadや時空パソコンを起動させ、我を忘れて中に1人で飛び込もうとする慶吾に抱き付いて必死に止めた。
しかし、凄い慶吾のバカ力。
大暴れする慶吾に、中にいる奴等に気付かれないようにするのに必死の大凰。慶吾にしがみつき、慶吾に小声で何度も「待てって」と繰り返す。
慶吾を必死の形相で止めながらも、大凰はパソコンで色々な所にアクセスして、全日本の警察の全てのパソコンをハッキングした。
すると、北は北海道から警視庁を通り、九州、沖縄まで全ての警察のパソコン画面が突然、2年前の銀行強盗事件の詳細と、さっきまで話していた生田等、四人の会話が大音量で流れたのだ。その会話は警察無線にも、大音量で流れた。
北海道では
「えっ?」
全警察官が、聞き入っている。
「はっ?」
警視庁では、トップも全てこの声を驚きながら聞いていた。「何?」
突然、変わった画面に全国の警察官は驚いた。
パソコンの側にいる警察官、無線を聞いている警察官がその会話に耳を傾けた。
「おい!行くぞ!」
四人の会話が終わると、生田邸管轄の警察官達は、慌てて生田邸へと急いだ。
大凰が必死に止めるが、慶吾のバカ力に大凰もそれそろ限界。
「まだかなー」
歯を食い縛りながら、何とか大凰は耐えている。
少しして、大凰の右目に反応があり、生田邸に大量のパトカーが来た事を知らせていた。
「やっと、来たかー。もう、限界なんですけど」
到着した警察官は、大凰が解除しておいた正門から入り、大豪邸の中を大凰が残した印を辿ってあっという間に、大量の警察官が地下室に押し寄せた。
「えっ?」
大量の警察官を見て、ようやく慶吾も我に返り、大量の警察官にもみくちゃにされた。
生田等、四人の部屋になだれ込んだ警察官達は、生田に流れてきた録音した会話を聞かせ
「証拠は全てあがってる。お前等、全員、逮捕する」
と、大勢の警察官が四人を確保した。
四人は唖然としていたが、生田は高いセキュリティが破られた事に驚いたのと、さっきの会話が録音されてた事にも驚き、抵抗出来ずにあっという間に手錠を掛けられた。
生田邸、外。
慶吾の上司も駆け付けて、鈴恵を殺した犯人は逮捕され、銀行強盗事件も解決となった。
外で慶吾が、犯人四人が通り過ぎるのを見ていた時、陽が慶吾の前をうつむき加減で通った。
陽は慶吾をまともに見る事が出来ないのか、慶吾の前だけは足早に過ぎて行った。
慶吾は鈴恵を殺した犯人が、パトカーに乗せられるのを精一杯、我慢して見ている。
そんな慶吾を、上司が肩を叩いて慰めた。
鈴恵の気持ちを考えると、慶吾はとても心が傷んだ。
犯人を乗せたパトカーが去るのを、見送っていると
「おい、小池!」
「えっ?あっ、はい!」
慶吾は先輩に呼ばれ、先輩の車に駆け付けると、先輩は乗ってきた車の後ろに止まっているパトカーを指差した。
「あの、よく分からない奴は何とかならないのか?」
迷惑そうに言った。
「えっ?」
指差したパトカーに目をやると、パトカーに頬をスリスさせて、目を輝かせてる大凰の姿があった。
「あっ」
「小池、あれは何だ?」
「い、いや、あれは、その」
慶吾はため息をつき、苦笑いで大凰の所へ行くと、パトカーから引き離そうとした。
「こら、離れろって。大凰!」
「ヤダー!」
「大凰」
「ヤダー!」
中々、離れない大凰。
「カッコいいな」
ニコニコで、大凰はパトカーに触っている。
「離れろ!って」
「ヤダヤダ」
やっとの事で大凰をパトカーから引き離し、乗ってきた車に押し込んだ。
すぐさま、上司にこのまま1度帰る事を告げて、上司の返事を待たずに、急いで車を走らせた。
車での、帰り道。
「大凰、何してんだよ」
「だって、あれ、パトカーでしょ。24世紀まで存在したタイヤ付きのパトカーでしょ。超、レアじゃん。もっと、見たかったのに」
大凰は口を尖らせて、ブツブツ文句を言っていた。
「はいはい。未来の事は俺には分からないけど。でも、大凰のおかげで、姉さんの殺した犯人を捕まえる事が出来た。ありがとうな」
さっき、ちゃんと言えなかったお礼を、慶吾が笑顔で言った。
「別にいいよ。俺は面白かったし、刑事さんがお姉さんの敵が取れて良かったよ」
事件解決という凄い事をしたにも関わらず、大凰はパトカーから引き離された事を根に持って、機嫌悪く、まだブツブツ言っていた。
「ハアー。大凰、そんなにあれが良かったのかよ?何か違うので我慢してくんない?」
「えー」
大凰の口は尖ったまま。
「じゃ、チューリップまた、触らせてくれる?」
「チューリップ?!」
「うん」
「そんなんでいいのかよ?」
「うん」
「はいはい。分かったよ」
パトカーの変わりがチューリップとは。大凰の事が、やっぱり分からない。
「大凰は、家族とかいるの?」
協力してくれたお礼に、慶吾は大凰の家族にも何かあげたいと思って聞いたが、大凰は「家族」と言う言葉に不思議そうな顔をした。
「家族って、お父さん、お母さん、子供って事か?」
慶吾は変な事を聞いたのか?
大凰の返答に、驚いた。
「まっ、そうだな」
「そういう事なら、俺には、家族って奴はいないんだ」
「えっ?」
悪い事を聞いてしまった。と、慶吾は思った。
「悪い。大凰」
「いや、別に。25世紀後半に、内戦や自然災害が大きくて、人間が大量に死んだんだよ。人間が少なくなって、国が打ち出した『人間大量生産』によって俺は26世紀に産まれたんだ。カプセル産まれ、育児ロボット育ちなんだよ。だから父親、母親とかは知らない」
「に、人間大量生産?!」
そんなの聞いた事、ない。
「育児ロボットが、沢山の事を教えてくれるから、人間としての教養はあるつもりだぜ」
「何だそれ?」
この話を聞いて、慶吾は何の言葉も見つからなかった。
遥か未来に、そんな凄い政策によって人が産み出されるなんて。
ちょっと、慶吾には信じられなかった。
慶吾はとりあえず、大凰を自分の家に連れて行き、母親に大凰から目を離さないように言って、すぐに仕事へと戻った。
5.出会い2
ユウは1988年、小池 鈴恵のお墓の前に、天狗に放り投げられた。
そして、底の世界に迷惑をかけてるユウを天狗が睨んだ。
魔王様の次に恐い天狗。天狗はユウを睨み付けながら、底の世界へと消えて行った。
天狗が去った後、ユウはゆっくりと立ち上がり、服の砂を手で落とした。
「全く。皆して雑なんだから。ああ、痛かった」
魔王様に翼を取られて飛べないユウは、小池 鈴恵のお墓を前に、鈴恵の魂の場所を知る為には、鈴恵の生前の私物を触る必要があった。
お墓にそれが無い事はわかっている。
とりあえず鈴恵の私物がありそうな、鈴恵の生前の家に向かう事にした。
魔力まで取られたわけでは無いので、鈴恵のお墓に手をかざし、鈴恵の家を探した。
家はすぐに見付かった。
ここから約、10キロ。
ユウの足なら30分走れば着く。でも、ユウには1つ気掛かりな事があった。
前魔王の強力な欠片に落ちた鈴恵の魂を、鈴恵の私物に触れる事が出来たとしても、鈴恵の魂が何処にあるかを見付ける自信がなかったのだ。
相手は、封印された前魔王。
今の魔王様が封印しか出来ないと言う事は、魔王様よりも強力な魔力の持ち主だからだと、ユウにも分かっていた。
魔王様でも封印しか出来ない相手を、ちょい上の悪魔のユウが敵うはずもない。
正直、前魔王の欠片に会う事さえ怖いのだ。
躊躇しながらも仕方なく、ユウは鈴恵の家を目指して走った。
鈴恵の家の前人に着いたユウは、人間の家という物が何処から入るのか分からずに、小池家をウロウロとしていた。
きっとこれだ。と、いう扉らしき物を見付けた。
間違いなく、玄関の戸であっている。
しかし、これをどうやって開けるのかが分からない。
手で回すのか?
ノブを握ってみた。
軽く右に回すが、途中で止まってしまって開かない。
鍵が掛かっているからだ。
おかしいな?と、思うが、ユウは少し力を入れて右に回した。
「バキバキ」
変な音と共に、ノブは右に回りきった。
そして、鍵が壊れて、扉ごと外れてしまった。
「開いた。これで、いいのか?」
壊れているのに、そんな事も分からないユウは、扉はこうやって外すのだと思い、中に入ると扉をもう1度、ズレてはいるがユウなりに戸を付けてみた。
「まっ、こんなもんでしょ」
絶対に違うが、ユウは満足して、土足のまま上がった。
中には部屋らしき物がいくつかあり、階段もある。
そして、奥からはとてもいい匂いがしてくる。
その匂いにつられそうになるが、ユウは鈴恵の私物のありかを探す為に、魔力を家中に放った。
「バチ、バチバチ」
少しずつ力を強めていく。
「バチバチバチバチバチバチ」
あちこちで火花が散り始め、ユウの魔力が何かに反応している。
それが何なのか?分からないユウは、あまり気にせずに更に魔力を強めていく。
「バチ、バチ!バチ!」
魔力が他の力に反応し、ユウも辺りを警戒していると火花が大きくなり
「バッ、バーーーン!」
凄い音と共に、ユウが前に飛ばされ、いい匂いをする方からユウの魔力に反応した大凰が、ユウの目の前に飛び出てきた。
「えっ?」
「はっ?」
ユウも大凰も、お互いの容姿に驚き合い、固まって見合っている。
ユウの頭にある小さな2つの角と、口を開くと見える小さな2つの牙から、大凰はこいつが人間ではない事はすぐに分かった。
大凰の全身黒ずくめ、頭にあるサングラスと腕にしてる沢山の腕時計。異様な姿に、ユウもこいつが人間なのか?悪魔なのか?微妙な所だ。
「お前は、誰だ?」
ユウが立ち上がると、大凰に偉そうに言った。
その言い方に、『カチン』ときた大凰も立ち上がり、背は少し大凰の方が高いだろうか。ユウを見下ろして、腕組みして
「俺は26世紀の、超、超、超、超、超天才怪盗の馬飼野 大凰だ。お前こそ誰だ?」
自分より少し背が高い大凰に、ユウは腹を立て
「俺様はな、ティリナ.テーゴ.ユルルガアイ.ユウタリマ。上位の悪魔だ!」
と、言い返した。
「えっ?ティリナ?テーゴ何だって?」
長すぎて分からない。絶対、覚えられない。
ただ、悪魔というのだけはわかった。
「人間には無理さ。ユウでいいよ」
鼻で笑うと、『勝った』と心で思った。
大凰はユウの、勝ち誇った顔がまたしても気に入らない。
「あら?大凰君、お友達?」
奥の台所から慶吾の母が、何だか騒がしいのに気付き、お玉を持って出てきた。
さっきから異様な音や、火花が散ったりしてるのに、慶吾の母は全く気付かない事に大凰はある意味、驚いた。
「いや、俺、お母さんの側からここまで結構、飛ばされたんだけど」
思わず、大凰が突っ込んだ。
「あら、そう?」
天然なのか?ユウの姿を見ても、一切、驚かずにユウに笑顔を向ける慶吾の母。
「いい、匂い」
お腹ペコペコのユウが、鼻をヒクヒクさせて、匂いのする台所へ導かれるように進む。
「あら?お腹空いてるの?一緒に食べましょ」
「はっ?いいの?」
ユウに優しく言う慶吾の母に、この人はユウが何者なのか分かってるのか?悪魔だぞ!こんな怪しい奴を、迎え入れるなんて。と、怪しい格好してる大凰が思った。
ユウは慶吾の母に、笑顔で「食べたい」といい、ユウも混じって慶吾の母の支度を何故か手伝った。
夜、慶吾が仕事を終えて帰ってくると、玄関のドアノブが壊れていて、ドアがどう見ても反対に付いている。
「えっ?何?」
驚いた慶吾は、慌てて家に飛び込んだ。
何があったのか?
ドアがこんな壊れて方するなんて、普通じゃない。
中に入り、急いで母親と大凰を探し回り、あちこちの部屋を開けた。
「母さん!」
台所の隣の部屋を勢いよく開けると、そこにはテレビを見ながらカレーを食べる母親と大凰と、見知らぬ怪しい奴。
「えっ?」
何なんだ、この光景は?
何故か三人は、とても楽しそうだ。
「母さん?」
慶吾に気付いた母親は、笑顔で『お帰り』と言うと、慶吾のカレーをよそいに台所に行った。
座ってカレーを食べる大凰はわかるが、この怪しいもう一匹は何なのか?
どう見たって、人間からかけ離れてる。
「はい、慶吾、食べなさい」
母は慶吾の分を置くと、また楽しそうに食べている。
「いや、そうじゃなくて」
慶吾が突っ込むが、聞いていない。
母親が楽しそうに食べている。
鈴恵が死んでから、久々に見る母の笑顔。
言いたい事は沢山あるが、母親の笑顔を見たら、何も聞けなくなってしまった。
とりあえず、慶吾も静かにカレーを食べた。
食後、慶吾は大凰と見知らぬ怪しい奴を泊めるから。と、母親に告げると、二人を連れて二階の自分の部屋へ上がった。
慶吾は、椅子に座ると腕組みをして
「所で、お前は誰だ?」
と、ユウに聞いた。
容姿を見て、人間からかけ離れてはいるが、大凰を見ているせいか。もう、何を見ても驚かない。
偉そうな慶吾に、ユウはちょっと腹を経てて、慶吾と同じ腕組みをして
「俺様は、ティリナ.テーゴ.ユルルガアイ.ユウタリマ。上位、悪魔だ」
そう言って、背伸びをした。
「えっ?ティリナ.何だって?」
長すぎる名前に、全く覚えられない慶吾。
ユウは『勝った』と思い、クスッと笑った。
「人間には無理さ。ユウでいいよ」
「ユウ?」
「ああ」
思いっきりバカにされてるが、慶吾は我慢した。
「あっそう。じゃあ聞くが、その上位、悪魔とやらが、ここに何の用だよ?」
慶吾が頭をかきながら聞くと、ユウの様子がおかしい。
「うっ」
固まっている。
「えっ、何?」
ユウは困った。
今までの内容からすると、慶吾が鈴恵に関係してるのはわかった。
こいつに頼めば、鈴恵の私物に触れる事が出来る。
でも、どうやって?
秘かに魂をサクッと返して、帰ろうと思っていたけど、前魔王が絡んでる時点でそう簡単にはいかないよな。
なにより鈴恵の魂を、『魂狩り』の遊びで悪人の魂にぶつけてしまい、前魔王の欠片に落とした。とは、言いにくい。
そして、それが自分のミスだなんて、絶対に言えない。
本当の事は、言いたくない。
どうするか?
1人で探すのが無理なら、こいつ等に手伝わせればいい!
「その手があった」
ユウは名案だと思った。
でも、どう説明して手伝わせるか?
ユウは、初めて悩んだ。
慶吾と大凰は、さっきからユウが七変化で顔が変わるから、何なのかさっぱり分からないがその顔が面白くて見ていた。
「で、悪魔が何の用だよ?」
笑いながら慶吾がもう1度聞くと、ユウは真面目な顔で、自分の悪魔の仲間がふざけて鈴恵の魂を飛ばしてしまい、天、地、底の世界を我が物にしようとした前魔王が封印されている場所に落としてしまった。前魔王は自分の欠片があるこの時代の何処かに、鈴恵の魂を隠している。
仲間が現魔王に捕らわれの身となっているから、自分が仲間の為に鈴恵の魂を前魔王から取り返す為にここに来た。
そして、鈴恵の魂はすぐに転生が決まっていて、弟の子供として生まれ変わる事も、鈴恵の私物をすんなり出して欲しくて、付け加えた。
そう。仲間のせいにして、ユウは熱く語った。
慶吾は鈴恵の生まれ変わりが、自分の子供と知って、「ドキッ」とした。
「姉さんが、俺の子供」
ちょっと、嬉しかった。
「そうか。なるほどね」
大凰に出会ってから、この世は信じられない事もある。と、確信した慶吾は、鈴恵が絡んでる事もあり、あっさり信じた。
「そのユウが言ってる、姉さんの魂を天に返す為には、前魔王の欠片を探さなくてはならないんだろ?姉さんの魂を天に返さないと、姉さんは生まれ変われず、ユウの仲間も捕らわれたままで、ユウも底には帰れないって事になるのか」
「そうだ」
「ユウの仲間が落とした、姉さんの魂が何処にあるのかを探す為に、姉さんの私物を触りたいと」
「そうだ」
「それを触れば、姉さんの魂の場所がわかる?」
「そうだ。思い入れの強い物だと、すぐにわかるはずだ」
「なるほど」
「そう。俺様は上位悪魔だからな」
「あっ、そう」
威張って見せたユウだが、本当は魂の場所がわかるか?ドキドキしていた。
自信たっぷりのユウを見て、慶吾は席を立つと部屋を出ていき、鈴恵の私物を持って戻ってきた。
「ユウ、これは姉さんが大切にしていたオルゴールだ。多分、俺が知ってる限りこれを一番、大切にしていたと思う」
ユウはドキドキしながらも、慶吾からオルゴールを受け取った。
オルゴールに、魔力を集中させてから5分。
何も見えない。
10分。
何も感じない。
15分。
何も感じないし、何も見えない。
20分。
何も感じない。ヤバい。
ユウは、かなり焦ってきた。
予感的中。強すぎる前魔王の力に、ユウの力は足元にも及ばない。
ずーっと見守っていた慶吾と大凰。
慶吾は、『ダメだ、こりゃ』と呆れ顔。
もう、こいつは当てにならない。
まっ、始めから何故か、期待はしてなかったけど。
慶吾は次の手を考えていた。鈴恵の魂の場所を探すには、どうしたらいいか?
ふと、大凰と目が合った。
「大凰、お前の持ってる物で、何とか探す事は出来ないのか?」
「えっ?」
大凰は魔力とかは専門外。自分には関係ないと思っていたから、急に振られてちょっと慌てた。
超天才怪盗と名乗っている以上、『出来ない』とは言えない悲しいプライド。
「大凰?」
「分かった」
大凰は、自分の頭脳で何処まで魔力に対抗できるのか?
魂の場所を探すなんて出来るのか?
何も思い付かないが、両面のPadを開き、両腕の時空パソコンを起動させ、透明なキーボードを高速で打ち、膨大なデーターから何か手掛かりになる物を必死で探した。
30分。
ユウは、何も見付けられぬまま、汗だくで仰向けになって力尽きた。
「もう、ヤダ。やらない!」
スネたように、足をバタバタさせ始めた。
そんなユウを、慶吾は放っておく。
しばらくして、大凰は何かを掴んだのか『ニヤリ』と笑った。
大凰をずっと見ていた慶吾も、大凰の手が止まった事に気付いた。
「刑事さん。魂の場所は分からないけど、その魂を見つけられる、凄い力を持った人間なら見付けたぜ」
「本当?誰?」
「ああ。それは平安時代後期、この世で1番の力を持っていたであろう人物」
そう自信たっぷりに言って、大凰は壁にその人物を映し出した。
「賀倉 滋陰陰陽師さ」
「陰陽師?」
「そう、陰陽師!」
6.陰陽師
時は平安時代、初期。
天皇に支える『陰陽師』を決める儀式、明築家と賀倉家が一目置かれていた。
自分の信じる陰陽道で、正々堂々と挑む賀倉家に対し、明築家は何が何でも天皇に支えて、莫大な金欲を手に入れるのだと、賀倉家に汚い罠をいくつも仕掛け、儀式に挑んでいた。
儀式で、賀倉家はまんまと明築家の罠にはまり、天皇の前で散々な姿をさらした。
その無様な賀倉家の姿に、天皇は大変ご立腹し、都の恥だと賀倉家を罵り、賀倉一族を都から永久追放とした。
明築家は天敵、賀倉家がいなくなった事を喜び、天皇の陰陽師としてこの後、長きに渡って名をはせた。
一方、都を追われた賀倉家は、山の奥の奥でひっそりと暮らしていく事となった。
時は流れ、平安時代後期。
都から遠く離れた山奥を、高貴な男を乗せた籠と高貴な女と子供を乗せた籠が、家来達に守られながら山の奥の奥へと急いでいた。
籠一行の前後を、剣を持った側近4名が、辺りを厳重に警戒しながら進んでいく。明らかに、ただ事ではない。
しかし、迷ったのか?一行は同じ所を行ったり来たり。目的地に着けないようだ。
「痛いよー」
籠の中の、子供が泣き出した。
すぐに側近が籠を止め、籠をゆっくりと降ろさせると、籠の前に膝まずいた。
「奥方様」
側近の声に、籠の中から苦痛の表情の女性が顔を出した。
「まだ着かぬのか?この子だけでも、早く」
女性は額から汗を流し、女性の腕の中には、幼い子供が抱かれていて、子供の首と右胸辺りに、ドス黒いアザがあった。アザは不気味に鼓動を打ち、鼓動を打つ度に痛みが走り、子供は泣いていた。
女性にも腕や顔に、同じアザがあり、前の籠の男性には、そのアザが全身に広がっていて、すでに意識が無いようだった。
「承知しました」
側近は家来達に合図を送ると、籠をゆっくりと上げて、山奥へと急いだ。
『チリーーン』『チリーーン』
山奥で静かに時を過ごす、賀倉 滋陰は式神からの知らせを受け取った。
「そうか」
式神は山をウロウロする一行と、一緒に着いてくる良からぬ物も知らせてきた。
「なるほどね」
滋陰は晴れ渡った空を見上げ、式神に新たな術をかけて、山に再び飛ばした。
賀倉家はすぐ下にある小さな村の人々に愛され、村の人々の為に術を使ってきた。賀倉家が村に来てからというもの、村は栄え大病で苦しむ人も減り、活気に溢れていた。
村人はそんな賀倉家に感謝をし、長年、賀倉家のお世話をしてくれていた。
今だに同じ所を、行ったり来たりしている一行は、一刻の猶予もないと先を急いでいた。
しかし、いくら行っても先程も見た気色。
焦るばかりだが、山道は険しく一行もクタクタになってきた。
『チリーーン』
式神が、一行の上をスッーと通った。
すると、一行の目の前が一気に開け、一行の目の前に、畑を耕す老夫婦が現れた。
「うわっ!」
一行は、突然の事に驚いた。
しかし、ようやく会えた人間に、少し安堵し、先頭の側近が夫婦の元に駆け寄った。
「その者達。訪ねるが、賀倉家は何処にある?」
側近がそう訪ねると、老夫婦は何事かと顔を上げた。
老夫婦は訪ねてきた身なりの高そうな男と、その後ろに控える家来達と、高貴な籠を見て、顔が強張り、持っていた鍬を構えて睨み付けた。
「お前等、滋陰様に何の用じゃ!」
老夫婦はそう叫び、今にも襲いかかろうとしている。
「なっ?」
老夫婦の行動に驚いた側近だが、一人がすぐに剣を抜いて、老夫婦に剣を向けた。
「その方達、こちらの籠を知っておるのか!都の帝様、皇后様、藤若君様であるぞ。農民風情が屈辱な物言いは、許さぬぞ」
他、三人の側近もすかさず剣を抜き、老夫婦の前に立った。
しかし老夫婦は怯む事なく、鎌と鍬を振り回し
「都がなんじゃ。わし等は、滋陰様にお仕えしているんじゃ」
「帝がなんじゃ。都から賀倉家を追放したのは、そっちではないか!この山は生きた山なんじゃ。お前等みたいな奴等は、さ迷い続けて果てるがいい」
と、興奮しながら叫んだ。
「何だと!」
老夫婦の言いぐさに、腹を立てた側近は、格下に言われた事に我慢が出来ず、老夫婦を切り捨てようとした。
「やめなさい!」
外の様子に、籠の中から女性が叫んだ。
籠から皇后と呼ばれる女性が顔を出し、老夫婦に軽く頭を下げ
「この者達の非は、我等を思うての事。許して下さい」
と、苦痛の表情で言って、今出来る精一杯の笑顔を老夫婦に向けた。
皇后の顔などに、ドス黒いアザがあり、そのアザが不気味な鼓動を打っている事に、老夫婦は目が飛び出る程に驚いた。
皇后は自分達の身に、何が起きているのかを話し始めた。
「今、帝様、私、藤若君は、恐ろしい呪にかけられております。この呪は、我等に支える陰陽師、明築家をも死に至らしめ、都は荒れています。明築家は、この呪を消せるのは『賀倉家』と言い残していきました。初代が賀倉家にした事を、帝様、明築家から聞いております。帝様はすでに呪が全身に回っており、口も聞けぬ状態。私では不足ですが、本当に申し訳なく思っております。賀倉家に、千年に一度の陰陽師がいると聞きました。帝様、私はさておき、我が子、藤若君だけでも何とか助けて頂けないでしょうか?お願い申します」
苦しいなかまらも必死に話す皇后に、老夫婦も子供を持つ身。
少し可哀想になってきた。
皇后の言葉に、側近4人も剣を収め、老夫婦に深く頭を下げた。
老夫婦は鎌と鍬を下ろしたものの、どうしてよいのやら。
とりあえず、皇后の籠にいる藤若君という、幼い子の様子を覗き込んだ。
中の幼い子は青白い顔で、何とか呼吸はしているようだが、危険な状況に変わりはないようだった。
『チリーーン』
老夫婦と一行の間に、式神が降りてきた。
それを見た老夫婦は、式神に丁寧にお辞儀すると、皇后の籠に近寄り
「良かった。滋陰様がお連れしていいと、おしゃってます。」
そう言って、優しく笑った。
皇后は涙を流して喜び、老夫婦にお礼をいうと、安心したのか?
そのまま、意識を失った。
老夫婦の案内で、一行は山の奥へと進んで行く。
段々畑を過ぎると、また急に道が開けて、村が広がった。
男は働き、女は井戸で洗濯し、沢山の子供が遊び回っていた。
活気に溢れ、村は栄え、何より皆が笑顔でいる。
この光景に、一行は「こんな山奥に、こんな栄えた村があるなんて」と、非常に驚いた。
一行は村を通り過ぎ、少し上がって行くと静かな道が続き、やがて立派な屋敷が現れた。
屋敷の前の小さな橋を渡ると、大きな門をくぐった。
門の左側から、裏の大庭へと一行は着いた。
大庭に着くと一行の前には、式神が三体。
式神は一行の目の前で、青い炎を上げて突然、消えた。
『オオー!!』
一行は、声を揃えて驚いた。
式神が消えると、屋敷の中から賀倉 滋陰が現れた。
滋陰は老夫婦にお礼を言い、老夫婦も笑顔で滋陰にお辞儀すると、帰って行った。
「あなた様に、帝様、皇后様、藤若君様をお助け頂きたい。何とぞ、お願い申します」
側近の1人が滋陰に近寄り、深く頭を下げた。それに続いて、他の側近と家来達も頭を下げた。
滋陰は大庭に降りると、2つの籠の中を覗き込んだ。
帝は、かろうじて生きている。
皇后は、大丈夫であろう。
問題は、藤若君。彼には、恐ろしいく強い呪がかけられている。
女の怨念。帝に対する妬みと恨み。長期に渡っての因縁のような物の全てが、帝、皇后よりも強く藤若君にかけられている。
『これは、どうするか?』
強い呪であるとは覚悟していたものの、予想を超えた強さに、この呪を消す方法を考えた。
「では、ここでは何も出来ないので、広間に3人を移動させましょう」
側近、家来達は、滋陰の指示に従い、広間の3つの円が書かれた場所に、3人を寝かせた。
滋陰は4人の側近を、四隅の結界に1人ずつ入るように言うと、他の家来達には隣の部屋の大円の結界に入るように指示した。
これから、何が始まるのか?
全く想像もつかないが、側近4人は四隅の小さな結界に胡座で座り、家来達は隣の大円の結界に身を寄せ合って座った。
その間にも滋陰は色々と準備をし、大量の式神を寝かせた3人の回りを囲ませた。
「では、始めます」
滋陰が四隅の側近に言うと、四隅の側近は息をのんだ。
「この呪は非常に強い。下手をすれば君達に飛ぶ可能性があります。4名とも決して、その結界から出ぬように心して下さい」
更にそう言われ、側近は見えぬ恐怖に、1つ深呼吸をした。
滋陰が3人の前に立つと、目をつぶり術を唱え始めた。
辺りが静けさに包まれて、術を唱えてからどれ位、過ぎたのだろうか?
3人を囲んでいた式神が宙に浮くと、赤い光を放ち、式神が赤い光を3人にぶつけると、3人も宙に浮いた。
すかさず滋陰は、神紙を3枚、3人に向かって投げた。
神紙は3人の胸に張り付くと、青い炎を上げて燃えると、3人は突然、苦しみ出した。
3人が苦しみ出した所で、滋陰が目を見開き、術を強く大きな声で唱えた。
術に共鳴して、神紙の青い炎が3人を包むと、3人の不気味なアザが激しく鼓動を打ち、アザも意志があるかのように苦しみ始めた。
アザが段々、膨らみを増し、青い炎に耐えられなくなった、アザの悪呪がおぞましい姿でアザから出るのを拒んでいた。
四隅の側近は、恐怖で動けない。
滋陰は更に術を強め、アザの悪呪に青い炎を集中させた。
青い炎で悪呪は、アザの中で苦しみ悶えて、とうとうアザから飛び出た。
悪呪は3人から追い出されると、変わりの体を探すかのように、四隅の側近めがけて飛んで行った。
側近4人は、結界に守られているから悪呪が入って来ないものの、悪呪は結界に何度も体当たりし、側近に飛び込んでくる。
側近は、あまりの恐怖に、全く動けない。
滋陰は飛び出た悪呪を、新たな神紙で囲むと、神紙に強い術をかけて、火花を散らして爆発させた。
隣の部屋の家来達も、もの凄い音にビックッとして、何とか恐怖に耐えていた。
すぐに滋陰は、帝と皇后を式神に下ろさせると、側に藤若君を持ってきた。
この幼い中に潜む、強力な嫉妬と恨みと怨念の悪呪を、出さねばならない。
さっきの力では、びくともしない程の悪呪。
新たなる神紙で囲むと、式神の赤い光と共に藤若君を強力な術をかけた。
藤若君の奥底にある悪呪が、体から徐々に浮き上がってきた。
悪呪は、藤若君を使い体を乗っ取ると、藤若君は不適な笑みを浮かべて滋陰を見下ろした。
「体に移ったか」
舌打ちをして滋陰は、神紙を更に増やすと最終手段の術を唱えた。
苦しみ出した悪呪は、急に体を藤若君に戻すと「痛いよー」と、幼い子の泣き声がして、慌てて滋陰が術を弱めると、すぐに悪呪が現れた。
それの繰り返しをやる悪呪に、滋陰は腹を立て、式神を藤若君の体の中へと送った。
体の中と外から術をかけられた悪呪は、ようやく外に飛び出てきた。
飛び出てきたのは、恐ろしい姿をした女。
「悪に身をとうじたか」
滋陰がその姿に、帝への愛しさと切なさと怒りと裏切られた悲しみと絶望の、全てを感じ取った。
すると、円の中にいた帝が目を覚ました。
「その結界から、出てはならぬ」
滋陰の一喝に帝は驚いたものの、藤若君の側を浮遊する、おぞましい姿をした女の姿を目にした。
「お静のお方?」
そう帝が呼んだ。
悪呪はその声に気付くと、悪呪は急に悲しい顔をした。
「帝、様」
か細く悪呪が言い、滋陰も悪呪の方に目を向けた。
「そ、そなたが何故?」
帝にそう問われた悪呪は、後ずさりをするかのように、滋陰の後ろまで下がると、この場の苦痛に耐えられなくなったのか、自爆してしまった。
「お静のお方!」
帝が叫び、円から出ようとする。
「出てはならぬ!女は自分の体に戻っただけだ。死んではおらぬ」
「えっ?」
自爆した悪呪の火花が、帝の結界に飛び散って、結界に当たって消えていく。
帝も火花に驚き、結界の円の中央に移動した。
「ただ、悪に身を投じた報いは受けねばならぬがな」
「えっ?それは」
「お主は、1人の女を悪にしてしまった事を悔いよ。この女が、これからどのような報いを受けるのかは分からぬが、2度と会わず、女の幸せを願うのがお主が出来る事だ」
滋陰にそう言われ、帝は「お静のお方」と呟き、女が自爆した場所を見つめていた。
そして、帝は自分のお行いを悔いているのか?定かではないが、うつむいて悲しい顔をしていた。
これで、完全に悪呪は消えた。
滋陰は全てが終わったが、女の事を思うと胸が痛んだ。
四隅の側近にも、終わった事が分かり、安堵の表情に変わった。
少しして、静かになった広間で皇后と藤若君が目を覚ました。
藤若君は自分の体を触り、何処も痛くない事を確認すると、嬉しいそうに皇后に抱きついた。
皇后もまた、体が治っている事を喜び、幼い我が子の無事を喜んだ。
帝は簡単には喜べないのか、面持ちならぬ表情で俯いたままだった。
少しして、隣の家来達も側近も、帝、皇后、藤若君に駆けつけると、3人の無事を喜んだ。
この後、帝は滋陰に深々と頭を下げて、滋陰を都に陰陽師として迎えたいと申し出るものの、滋陰は『この村から離れるつもりはない』と断り、一行は渋々と都へと帰って行った。
7.出会い3
大凰は、陰陽師、賀倉 滋陰の一生のうちで、一番、力の強い時期を探していた。
何の役にも立たないユウは、大凰の結果を黙って待っていた。
しばらくして大凰は「ニヤリ」と笑い、ポケットから「ジェグ」を取り出すと、時空パソコンを高速で動かし始めた。
両目も腕時計型も全て起動し、慶吾の部屋の壁側に歪みを発生させて、「ジェグ」をかけた。
「えっ?」
ユウが驚いて歪んだ部分を、何度も見返していると、かけられた部分が凄い音と共に時空が開き始めた。
「な、何?」
「まあ、見てな」
ユウは驚いてばかりだか、慶吾は2回目なので、落ち着いて見ていた。
「ジェグ」がかかった部分が更に揺れ、人、1人程入れる大きさまで開くと、大凰は時空空間に両手を入れて、ゴソゴソと何かを探した。
『賀倉家』
一行が帰ってから、滋陰は村人が作ってくれた食事を、ゆっくりと取っていた。
大仕事をした後のご飯は、格別に美味しい。
一口、一口、村人に感謝しながら食べていた。
食事を作っている村人達は、滋陰が都に行かなかった事に安堵し、いつもより豪華に、滋陰の好きな料理だけを並べていた。
「滋陰様、お代わりいかがですか?」
「ああ。すまない。貰おうかな。今日のもとても上手いよ。ありがとう」
そんなほのぼのとした時間の中、急に家が大きく揺れた。
「地震?」
滋陰も村人も驚き、辺りを見回していると、揺れは更に大きくなり、村人は柱につかまり、滋陰も柱に移動しようとした時、滋陰の目の前の空間が、地震とは明らかに違う揺れをし、何と、開き始めた。
不思議な揺れの空間に、滋陰は釘付け。
目を丸くして驚いていると、開いた空間が、人1人程の大きさまで開くと、中から見た事もない人間がヒョコッと顔を出した。
顔を出したのは男で、「よっ!」と挨拶してきた。
髪は短くて、見た事もない格好。
びっくりし過ぎて、声も出ない滋陰。
「初めまして。僕は大凰。あなたは、賀倉 滋陰さんでしょ?」
男はフレンドリーに言うと、滋陰はやっとの事で頷いた。
「そう。それは良かった。じゃ、これね」
大凰が手を出すと、滋陰はそれが何なのか?確かめようと側に寄ると、大凰は滋陰の腕を引っ張り、滋陰を時空の中へと引きずり込んだ。
「えっ?嘘」
ふいを付かれて、引きずり込まれる滋陰。
「し、滋陰様」
その姿を、あたふたしながら何も出来ない村人。
村人の前で、滋陰は時空の中へ引きずり込まれていく。
そして、滋陰が消えると、開いた時空も閉じ、嘘のように地震も止んで、辺りは静かになった。
「滋陰様」
村人は、何が起きたのか?
分からないまま、その場に崩れ落ちた。
『慶吾の部屋』
慶吾の部屋では、時空に半分体を入れた状態で、大凰がジタバタとしていた。
2人に助けを求め、慶吾もユウも慌てて大凰の体を引っ張った。
「重い」
3人で力一杯、引っ張ると、ようやく滋陰の顔が時空から出た。
『よいしょ!』
3人は滋陰を、慶吾の部屋に下ろした。
そして、静かに時空は閉じた。
突然、知らない所に連れて来られた滋陰は、大凰と慶吾とユウの姿を見て更に驚き、声が出ない。
「えっと、何処から説明する?」
大凰が困って、慶吾の方を見ると、慶吾も何処から話せばいいのか、少し悩んだ。
そうしていると、滋陰はユウを見るなり、滋陰の力が反応した。
「怪しか!」
大声で叫ぶと、怖い顔でユウを睨み付け、術をかけようと式神を大量に出した。
これは、まずい!
滋陰の力を知っている大凰は、慌てて滋陰を止めた。
慶吾も慌てて止めに入り、何とかユウを退治しないように頼み込んだ。
2人が必死で頼み込み、ようやく滋陰は術を止めた。
その間、ユウは悪魔とは思えぬ程、ビビっていた。
滋陰が落ち着いた所で、慶吾は細かく細かく滋陰に経緯を説明した。
慶吾の説明で、滋陰もようやく、自分の役目を理解し『人の為の、陰陽道』である教えに基づき、帰る為に、仕方なく手を貸すのを承諾した。
上の騒ぎに気付いた、慶吾の母は心配して部屋に勢い良く入ってきた。
「慶吾、大丈夫?」
慶吾の母の慌てぶりに4人は驚き、4人が慶吾の母を見ると、1人増えているにも関わらず「全員、無事ね」と、安堵して部屋を後にした。
「普通、気づかない?」
大凰が、慶吾を見ると
「母さんは、普通じゃないかもしれない」
と、慶吾も苦笑いした。
次の日、慶吾は休みを取り、慶吾の部屋に日本地図を広げた。
滋陰は慶吾から、鈴恵のオルゴールを受け取り、陰陽五行説の上に置くと術を唱え、鈴恵の魂の場所を探した。
まずは日本から、鈴恵の魂の光を探り、地方を特定。光からの声を聞いて、地方地図を広げて県を特定。更に細かい地図を広げて、声からの波動で魂の居場所を特定した。
「わかったぞ」
滋陰はそう言うと、場所を指差した。
そこは『鹿児島県の山奥』。
これ以上は、滋陰も山に入らないと詳しくは分からない。
結果を受けて、慶吾はすぐに鹿児島に行く事を決めた。
「よし、行こう!」
「おし」
大凰は面白くなってきたと、嬉しそうに立ち上がった。
ユウは底に帰る為に、立ち上がった。
滋陰は、魂を救うため、元の世界へ帰してもらう為に、立ち上がった。
慶吾は、最愛の姉の魂を天に送る為に立ち上がった。
先に大凰、ユウ、滋陰が部屋を出ようとした時
「ちょい、3人、お待ちなさい!」
慶吾が、鋭い目で睨みながら3人を止めた。
「えっ?」
「何?」
3人は振り返るが、慶吾が何故、睨んでいるのかが分からない。
「君達は、そんな格好で行くつもりかい?」
眉をピクピクさせながら慶吾が言うと、3人は一応、自分の姿を見るが「うん」と言って、また行こうとした。
「こら、待てーい。あのね、1人は全身真っ黒。1人は角と牙があって、人間じゃない。1人は、時代劇の中でしかみない格好。これじゃ、怪しいし、即、職質でしょうが!捕まえて下さいって言ってる様な物なの」
慶吾が息を切らしながら、叫んだ。
『しょ、しょくしつ?』
職質の意味が分からない3人は、慶吾が何が言いたいのかが分からない。
「もう、いいや。とりあえず、3人ともその格好ではダメなので、俺の服を貸すからそれに着替えてもらいます。わかりましたね?」
慶吾がそう言うと、3人は声を揃えて『えーーっ!』と叫び、とっても嫌な顔をした。
「えーーじゃありません」
3人の不満は聞かず、慶吾は3人を着替えさせた。
3人は異様に慶吾が怖く感じ、睨むので仕方なく渋々と着替えた。
大凰は着替え終わると、鏡に写る自分の姿を見て
「ダサイ。昔の人って感じ」
文句ばっかし。
ユウはダサイとは言わないが、服を自分好みに細かく引き裂いた。
「何だ、この着物は?体中を締め付けて、苦しいし着心地が悪い」
慶吾は言われたい放題。
やられたい放題。
「それは、悪うございましたね」
腹が立つものの、何とか我慢した。
8.鹿児島上陸
慶吾のお金で、4人が鹿児島空港に到着した。
全てが初めての経験の3人は、空港に着くとやりたい放題。
ユウはお土産屋で散々、ダダをこねて、4つの青くて小さい星形のキーホルダーを慶吾に欲しい!と、店先で暴れて慶吾を困らせた。
仕方なく、キーホルダーを買わされた慶吾。
「わーい」
「全く」
慶吾は呆れ顔。
子供のように喜んだユウは、1つを自分の首のネックレスに付けて、後、3つを大凰、慶吾、滋陰に渡した。
1つ受け取った大凰は、それを腕時計のPadに付けて、滋陰は苦笑いしながら懐にしまい、慶吾は「払ったの俺だし」と思いながらも、いくつか鍵が付いたチェーンに付けた。
「お揃い」
それを見たユウは、大満足。
次に大凰が目を輝かせて、慶吾にある物を見せた。
それは、花園と動物園のパンフレット。
慶吾は、嫌な予感しかしなかった。
「刑事さん。ここ行きたい」
大凰はニコニコしながら、パンフレットの花と動物を指してアピール。
「やっぱし」
大きくため息を付いた慶吾は、一応、パンフレットをパラパラと目を通した。
大凰は、行ける物だとすでに、大喜び。胸がワクワクしていた。
慶吾は空港でレンタカーを借りて、3人を押し込むと、仕方なく花園に向かった。
花園で花に夢中な大凰、ユウは花の明るい色が眩しいと怯んでいる。滋陰は山奥で見慣れているせいもあり、「おお、綺麗じゃ」と花を見て歩いている。
すぐに動物園に向かい、中の猛獣に大凰は大興奮し、ユウは自分よりデカイ生き物が怖いが、トラとライオンが格好いいとお気に入りに。滋陰は見た事もない動物に、驚いている様子。
とりあえず、3人とも楽しんでくれて良かった。と、慶吾はお財布の少ない中身を見ながら嘆いていた。
その後、4人はある店で、静かに夕食を取っていた。
「こら!ユウ、ブロッコリー食べなさい」
慶吾の皿に、ブロッコリーを入れてくるユウに、慶吾が注意する。
「やだ。これ、苦い」
ユウは皿に戻されたブロッコリーを、また、慶吾の皿に移した。
「全く」
そう呆れていると、何故か、慶吾の皿にはブロッコリーが大量に乗っていた。
「えっ?」
大凰と滋陰の皿を見ると、そこにはブロッコリーがない。
「お前達!」
二人は知らん顔で、皿を抱えて、滋陰に背を向けて食べている。
「全く」
慶吾が、大きくため息を付いて、仕方なくブロッコリーを口に運んだ。
しばらくすると、店にガラの悪い連中が入ってきた。
慶吾は、この連中が何かしなければいいが。と、目で追っていた。
そいつ等は勝手に席に座ると、1人はテーブルを嫌がらせのように何度も大きく叩き、1人は何もしてないのに、接客態度が悪いと怒鳴り出し、1人は店に無い物を注文し続けて、店員を困らせていた。
更に何人かは、食事中の客にちょっかいを出し始め、客に嫌がらせをしていた。
最初は黙って見ていた慶吾だが、連中の横暴振りに我慢の限界。
この連中を追い出そうと、立ち上がった。
すると、慶吾の腕を滋陰が掴んで止めた。
「見てて」
と、言うと、慶吾の足元を指差した。
足元には、滋陰の式神が沢山、ヨチヨチと歩いている。
滋陰は右手を口元に持っていくと、術を唱えた。
術と共に式神は一斉に散らばり、一体は机を叩いている奴の肩に登ると、髪の毛を引っ張り、顔を何度も叩いた。
「いっ、痛っ!」
怒ったそいつは、「紙が、紙が」と式神を捕まえようとするが、中々捕まえられない。
式神がそいつに捕まってしまうと、他の式神が加勢に入り、そいつをコテンパンに痛めつけた。
店に無い注文を、並べていた奴の所に行った式神は、店員の肩からそいつに飛び付くと服の中に入り、式神が何処からともなく針を出して、奴の体中をチクチクと刺した。
「痛ーーっ!」
そいつは飛び上がって驚き、その痛がりように、ユウが大笑い。
接客態度が悪いと、怒鳴っていた奴の所に行った式神は、奴の足を釘で刺しまくっていた。
他の客に、ちょっかいを出している奴等の所に行った式神は、何度もそいつ等を感電させて『ビリビリッ!』とさせた。
そいつ等は感電する度に、転げ回って痛がり、その姿にユウはお腹を抱えて笑い続けた。
そんなユウを苦笑いで見る、大凰と滋陰。
「笑いすぎ」
慶吾も苦笑いで、ユウを見る。
何が起きているのか?理解出来ない店員と客達。ただ、ただ、驚いて見ていた。
痛みに耐えられなくなった連中は、逃げるように店を出て行った。
連中は式神の止まぬ攻撃に悶えながら、乗ってきた何台かの車に慌てて走った。
『ドッカーン!』
奴等が乗る前に、凄まじい音を立てて連中の車だけが、大爆発を起こした。
しりもちを付いて、驚く連中。
凄まじい音に、店の中にいた人々もかなり驚いて窓の外を見た。
こんな爆発って?
慶吾、大凰、滋陰が、ユウの方をおそるおそる見ると、獲物を仕留めたかのように、ユウは舌なめずりをしている。
『やっぱり、お前か』
3人はそう思った。
「ククク」
ユウの笑いは止まらない。
「ああ。お腹痛い」
爆発により、外が騒がしくなって来た。
サイレンの音も聞こえ、ややこしくなる前に、慶吾は3人を連れて慌てて店を出た。
9.決戦
次の日の夜。
『闇の方が、悪を見付けやすい』
そう滋陰が言うので、慶吾は3人を乗せて夜道を車で走っていた。
滋陰は力を使い、感じる方を指示して、車はどんどん山奥を進んで行く。
山の奥へ奥へと車が入り、やがて暗闇が広がるだけ。
慶吾は、少しずつ緊張してきた。
「止まって!」
急に滋陰が真剣な顔で言い、車を止めると、滋陰はゆっくりと車を降りて、何も見えない暗闇の奥に術を唱えた。
「ここで、間違いない」
車の中の慶吾にそう言うと、慶吾も車を降りた。
慶吾がトランクから懐中電灯を取って、1つを滋陰に渡すと、滋陰はすでに来た時の服に着替えていた。
「早いな」
そして、大凰もユウもすでに来た服に戻っていた。
大凰はサングラス型のPadを開くと、それは光を放った。
ユウは元々、悪魔なので暗闇は見える。
慶吾が懐中電灯を暗闇に向けると、そこには大きな岩があり、その隣には洞窟の入口。
入口の隣には、小さな小さな鳥居があり、その鳥居には古い物から新しい物まで、沢山の御札が貼られていた。
「これは?」
その鳥居の御札に、滋陰は少し懐かしさを感じていた。
誰も来ないような場所に、鳥居があるなんて。
慶吾は洞窟の入口を見ながら、これから始まる戦いに覚悟を決めた。
4人は早速、洞窟の中へと歩みを進めた。
静かな洞窟の中、しばらく進んで行くと、『ドクン』『ドクン』と、奥の方から不気味な音が響いてきた。
滋陰はその音の力の強さが、今までに感じた事の無い、自分の遥か上を行く、悪呪である事がすぐにわかった。
そしてこの悪呪を、倒す事など不可能。
それだけは、分かった。
滋陰は悪呪の強さをビンビン感じながら、この悪呪をどうするか?
そればかり考えて、進んでいた。
更に奥へ進んだ4人は、奥に微かに光る明かりを見付けた。
明かりに向かって進んで行くと、そこには開けた大きな空間があり、一番奥に『ドクン』『ドクン』と音がする、大きな不気味なドス黒い塊が現れた。
「これだ!」
滋陰が叫んだ。
「ま、まさか」
ドス黒い大きな塊。4人合わせても、更に倍はあるであろう大きさの塊。あまりの大きさと、不気味な鼓動に4人共、息をのんだ。
こんなのに、勝てるはずはない。滋陰はそう思った。
何だ、このデカイ塊は?生きてるのか?慶吾は、あっけに取られた。
見た事もない物体に、大凰は興味と恐怖が入り混じった感覚に囚われていた。
さすが、前魔王。魔王様より、遥かに強い魔力。
ユウは前魔王の欠片を前にして、恐怖しかない。
すると、塊の中に光る1つの光りを見付けた。
その光りは強く光ったり、弱く光ったり。
「あれは?」
慶吾がその光を差すと
「ええ、あれがそなたの姉上の魂である」
と、滋陰は声を強張らせて答えた。
その面持ちならぬ表情に、慶吾は驚いた。
「どうした?陰陽師」
「そなたに、言うておかねばならぬ事がある。気付いたと思うが、この悪呪は私でも倒す事など不可能。私に出来る事と言えば、この悪呪からそなたの姉上の魂を取り出す。それも、出来るかは分からない。しかし、やるしかない。そして、私1人では出来ぬ。そなた達に手伝ってもらわねば、悪呪の中から魂は救えぬ」
滋陰は真剣な顔で言うと、慶吾は力強く頷き、大凰はちょっと怖いが頷いた。
しかしユウは、後退りをし
「お、俺は嫌だよ。魔王様より怖い前魔王だぞ。悪魔の塊。そんな物に敵うと思ってるわけ?お、俺はただ、魂狩りしてただけで、あいつ等が魂を投げなければ、俺だってこの人の姉の魂を飛ばさなくて済んだんだ」
と、恐怖のあまりか、底での事を自白してしまった。
「えっ?」
ユウの聞き捨てならぬ言葉に、慶吾が眉をひそめた。
「犯人、お前なの?」
大凰は、少し呆れてユウを見ると、ユウは自分の言った事に驚いたのか、目をパチクリしながら固まっていた。
「お前が、姉さんの魂をこうしたのか?」
慶吾が睨んでくる。
「私が、ここに連れて来られたのは、そちのせいじゃったか」
滋陰も横目で、絶対、睨んでいる。
3人の目線が、恐ろしい。
「やばっ!」
ユウはマズイとばかりに、慌てて3人から目を反らした。
3人はユウにかなり頭にきたが、『こいつに何、言っても無駄だ』と思っている。
それよりも、この塊をどうにかしなくてはならない。
ユウは放っておき、目の前にある物に、3人は向かう事を決めた。
「で、俺はどうすればいい?」
慶吾が、滋陰の方を見た。
「慶吾殿にはあの悪呪を私が何とか開くから、開いたら中から姉上の魂を取り出して欲しい」
「開く?」
「ああ」
「わっ、分かった」
悪呪を開くというのに、慶吾は驚いたが、やるしかない!と、改めて、自分に言い聞かせた。
「では、慶吾殿は悪呪の近くで、待っていて下され」
「あ、ああ」
「それと大凰殿には、私とあの悪呪を開く方法を探して欲しい」
「開く方法?」
「私の力だけでは、どうしようもない。大凰殿の持ち合わせている物で、何か方法がないのか?探して下され」
「わ、分かった」
慶吾は滋陰の言う通り、震える足で悪呪の鈴恵の魂が見える側に立った。
大凰は、全てのPadと時空パソコンを起動させた。
ユウは、隅の方へ移動した。
「では、始めるぞ」
滋陰は、神紙を何枚も取り術をかけると、塊に向かって投げた。
神紙が当たった部分から、急に青い炎が舞い上がり、悪呪の鼓動が一瞬、止まった。
それを見た大凰は、悪呪の場所に時空を開くと「ジェグ」をかけた。
開いた時空は、「ジェグ」をかけられた事で、凄い勢いで悪呪か開いた。
悪呪が開くと同時に、中から悪霊がわんさかと出てきた。
悪霊は飛び出ると、4人に向かって襲ってきた。
すぐに滋陰は式神を放つと、式神は慶吾、大凰に向かう悪霊を何度も追い払い、ユウは自分で悪霊を消した。
悪呪がかなりの大きさまで開くと、開いた箇所に滋陰はまた大量の神紙を投げた。
「今です。慶吾殿」
滋陰の合図で慶吾は、悪呪の中へ手を突っ込み、鈴恵の魂の所まで急いだ。
慶吾が、鈴恵の魂を掴んだ。
「よし」
慶吾がそう思った時、凄い力が滋陰、大凰、慶吾に襲いかかり、3人は全く動けなくなった。
「ああーー!」
全身に、電流のような物が流れたかと思うと、針で刺したような痛みが走った。
『ドドドドーン』
低い地割れのような音が響き、塊が揺れだし、一気に大量の悪霊を放った。
「ウッ!」
塊にいる慶吾に、悪霊が入ろうとしている。
滋陰は悪霊に神紙を投げつけて、何とか慶吾に入ろうとしている悪霊を消していく。
更に塊は、滋陰の抵抗を嘲笑うかのように、悪霊を出し続けていく。
滋陰は悪霊の多さに、神術でいっぺんに悪霊を消す事とするが、塊から限りなく出続ける悪霊。
きりがない。
また、3人の体中が痺れる程、強い力が走る。
「ああーー!」
慶吾と大凰の悲痛の声が、洞窟内に響く。
「くっそ!」
滋陰は、何とか悪霊が大凰と慶吾に行かないようにしていた。
滋陰はこの苦しみに耐えながら、今の状況を維持するのが精一杯。
「このままでは、ダメだ!」
滋陰はそう思うものの、どうしてよいか分からずにいた。
「どうする?」
「どうする?賀倉 滋陰!」
自分を何度も奮い起たせ、策を巡らせる。
その時、隅の方でユウが、自分に近付く悪霊を消し続けているのが横目に入ってきた。
「あいつは悪魔だもんな。悪霊は、自分で消せるって事だな」
ユウの心配は始めからしてないかったものの、ユウが悪魔を簡単に消す姿に感心した。
ユウは自分に近づく悪霊を消しながらも、3人が大変な状況なのはわかったが、魔王より恐ろしい前魔王になど、敵わないのが分かってるから、どうして良いか分からずにただ、自分の近辺の悪霊を消していくしかなかった。
苦しい戦いだけが、永遠に続くのか?
滋陰は何の策も思い浮かばぬまま、自分の不甲斐なさに腹がたった。
滋陰が目をつぶった瞬間、暗闇から光が差した。
その光の先は
外の小さな鳥居。
小さな鳥居の御札が、光合しく光続けている。
滋陰が、ハッとした。
「あの御札」
あの鳥居は何の為なのか?
何故、あんなに沢山の御札が貼られているのか?長きに渡って、貼り続けた御札の意味とは何なのか?
鳥居の御札があれば、何とかなるかもしれない!
そう直感した。
やってみるしかない!
そう思った滋陰は、鳥居の御札を取りに行くしかない。
しかし、今、自分がここを離れる訳にはいかない。
離れれば、悪霊はすぐに慶吾と大凰に入ってくるだろう。こんな大量に入ってこられたら、もう手がつけられない。
「どうする?」
するとまた、ユウの姿が横目に入ってきた。
「取って来てもらうか?」
ユウに行ってもらうしかない。でもユウは悪魔で、あの御札に触れたりしたら、タダでは済まないかもしれない。
しかしこの状況で、鳥居の御札を取りに行けるのはユウしかいない。
「ユ、ユウ殿」
「えっ?」
滋陰の微かな声に、ユウが振り向いた。
「ユウ殿、頼みがあります」
「えっ?な、何?」
「この洞窟の入口の隣に、御札が沢山貼ってある鳥居があります。鳥居に貼ってある御札、全てを私の元に運んで下され」
「えっ?御札?」
「そう御札、全てじゃ」
「えーーーー!」
ユウは凄い嫌な顔をして、後退りをした。
「頼みます。私は慶吾殿と大凰殿を守る為に、ここを離れられません。あの御札があれば、今の状況を打開出来るかもしれません。慶吾殿の姉上の魂を取り出せるかもしれません」
「えっ?」
「頼みたす」
「だ、だって、御札なんか触ったら、痛いじゃん。俺、悪魔だぜ」
「それは承知です」
苦しいながらも滋陰が頼むが、ユウは行きたくなさそう。
「ユ、ユウ、頼む。行ってくれ」
大凰が体の痺れを我慢しながら、何とかユウに頼むが、ユウは行く気がなさそう。
「ユ、ユウ。姉さんの為に頼む」
慶吾も必死に頼んだ。しかし、ユウは近付く悪霊を消しながら、首を横に振った。
「む、無理だよ」
ユウは色々と理由を付けて、行こうとしてくれない。
「だって、俺は悪魔だし、鳥居とか御札とか、絶対、無理じゃん」
3人の体力も、限界になってきた。
「やっぱ、俺、悪魔だし」
ユウがブツブツ言ってると、3人のユウへの怒りも限界になってきた。
3人の顔が、怖くなっていく。
3人が、一斉にユウを睨み
『お前のせーだろ!!』
揃って、ユウに怒鳴った。
3人に怒鳴られユウは『ドキッ』として、慌てて洞窟の入口へと走った。
洞窟の隣の鳥居に着いたユウは、鳥居に貼ってある沢山の御札を前にして、凄く悩んでいた。
「御札」
御札に触れたら、自分はどうなる?
悪魔の自分に、何が起きるのか?
ユウは御札に触ったら、何が起きるのかが分からず、恐怖でいっぱいだった。
「ああーー!」
『ウッ』
洞窟の奥から聞こえる、3人の苦痛な声。
どうしようか?
3人は助けたいけど、御札に触れるのが怖い。
でも、3人は助けたい。
揺れ動く気持ちと戦いながら
「ああーー」
戦っている、滋陰の悲痛な声が耳に聞こえた。
「くそっ!もう、どうにでもなれ!」
ユウはヤケクソで、鳥居の御札を全部取ると、3人のいる洞窟の奥へと走った。
「痛ーー」
3人の元へ走るユウの手の中の御札は、ユウの手を焼き、青い炎が上がった。
「ウッ!」
ユウはその痛みに耐えながら、何とか滋陰の所へ御札を持っていった。
ユウが3人のいる場所に入ると、悪霊は先程より多く浮遊していて、一気にユウに襲ってきた。
ユウは御札の痛みを堪えながら、向かってきた悪霊を魔力で消すと滋陰に御札を手渡した。
「お、御札」
御札を渡すと、ユウの手は焼けただれたように酷くなっていた。
受け取った滋陰は、ユウの手を見て
「かたじけない」
ユウに感謝して、御札に念を送ると、全ての御札を塊に向かって投げた。
御札を投げた瞬間、滋陰の目に御札を鳥居に貼ってくれた者の姿が、走馬灯のように現れた。
滋陰と同じ格好をした男性が、鳥居の前で御札に念を込めて、貼っている姿。
親子だろうか?父と一緒に御札に念を込め、幼き子が鳥居に御札を貼っている姿。
満月の夜に、老人が御札に念を込め、鳥居に貼ってる姿。
服装が変わって、楽な着物になり、若き青年が御札に念を込めて、鳥居に貼ってる姿。
また服装が変わり、髪が短くなった中年の男性が、御札に念を込め、鳥居に貼ってる姿。
また服装が変わり、家族であろうか?夫婦と見られる2人と、2人の子供が御札に念を込め、鳥居に貼ってる姿。
「これは」
御札を貼ってくれた者の思いが、滋陰には痛い程、伝わってきた。
滋陰が飛ばした鳥居の御札は、塊の側にいる慶吾を包むと、塊の力を弱め、慶吾の痛みを取り去ると、慶吾が離さず必死に掴んでいた鈴恵の魂を塊から引き離した。
すかさず慶吾は、鈴恵の魂を抱えて、塊から離れた。
「やった!」
魂を抱えながら、慶吾はヘトヘトで座り込んだ。
大凰に飛んで行った鳥居の御札は、大凰の周りの悪霊を全て消し去ると、体を包み込み、塊から放たれてる大凰への電磁波を遮断して、大凰の体の痛みを取った。
「ふう、やっとか」
大凰は体の痛みが取れると、ホッと一息。
そして御札はユウを包み込むと、悪魔のユウの手の傷を、消し去った。
「えっ?俺も」
まさかの展開に、ユウは心が暖かくなってしまった。
滋陰の予想以上に、御札は更に塊を包み込み、塊をしっかりと御札で縛った。
「凄い」
滋陰があっけに取られていると、御札は滋陰の体を包み込むと、滋陰の傷を全て取り去った。
「素晴らしい」
驚くくらいの御札の力に、滋陰は感無量だった。
「子孫に、心から感謝する」
そう小さく滋陰がつぶやくと、御札は役目を終えて、塊に貼り付いた御札以外は全て、青い炎と共に燃えた。
戦いが終わった。
塊である前魔王を消す事は出来なかったが、封印する事は出来た。
これから先、この塊を消せる者が現れるまで、塊を封印するしかない。でも、鈴恵の魂は救い出せた。
そして、封印された塊は、鼓動が完全に止まった。
静かになったこの場所で、4人は放心状態だった。
『鈴恵』
慶吾は座り込みながらも、鈴恵の魂を大事に抱えていた。
すると、抱えている魂が、眩しいくらいの光を放ち、慶吾の腕の中から浮き上がると、慶吾の背丈より少し高い位置で、魂は鈴恵の姿へと変わった。
光に導かれ慶吾は驚きながらも、ゆっくりと立ち上がり、鈴恵の姿に変わった魂と向き合いになった。
「姉さん?」
「うん」
2年振りに見る、懐かしい鈴恵の姿に、慶吾は涙目になった。
「慶吾」
2年振りに聞く鈴恵の声に、慶吾の頬を涙が落ちた。
「ごめんね、姉さん。すぐに、助けてあげられなくて」
「何、言ってるの?慶吾は良くやってくれたわ」
「でも、俺は姉さんの事件の時に、姉さんを助けられなかった。俺は、刑事なのに」
2年前の事件の事、鈴恵が男に騙されていた事、魂を中々、助けられなかった事。慶吾がずっと悔やんでた事を、鈴恵に謝った。
「慶吾、慶吾は何も悪くないよ。元々、姉さんが騙された事が原因で、全てが始まったのよ。それでも慶吾は、犯人を捕まえてくれた。そして、私の魂も救ってくれた。慶吾は私の、自慢の弟よ」
「ね、ね え さん」
鈴恵の言葉に、慶吾は胸が痛かった。
すると鈴恵の上に、金の綺麗な粉が、雪のように降り注いだ。
「姉さん?」
「もう、行かなくちゃ。ありがとう、慶吾」
鈴恵がゆっくりと上がり、少しずつ鈴恵の姿が消えて行く。
「姉さん!」
慶吾の叫び声に、鈴恵も笑顔で答え、涙を流した。
「俺、俺、待ってるから。俺の子供として姉さんは生まれ変わる。俺、凄い大事にするからー!」
そう慶吾が叫ぶと、鈴恵は消えていった。
『姉さん、約束だから』
慶吾は強く心で思い、鈴恵の魂と別れた。
また、辺りは静まりかえった。
すると、上から青い光る雪のような物が降り始めた。
「何?」
4人が上を見上げ、青い光る雪が手に平で、溶けるように消えていく。冷たくはない。
慶吾が手の平で消えていく、青い光る雪のような物を見ていると、慶吾の側にいた3人がゆっくりと宙を浮き、3人の体全体を青い光が包み込んだ。
慶吾が驚いて、3人を見あげると、大凰はそれが何なのかを察しているように、少し悲しい顔で慶吾を見下ろした。
「刑事さん。どうやら、タイムリミットみたいだ」
「えっ?」
「もう、戻らなくてはならないみたいなんだ」
大凰がそう言うと、慶吾も青い光る雪の正体がわかり、凄く寂しい気持ちに襲われた。
「タイムリミット。。。」
「刑事さん。俺、凄い楽しかったよ。過去は捨てたもんじゃないって、思ったし」
大凰が慰めるかのように、慶吾に言うと、慶吾は鼻で笑って
「未来も捨てたもんじゃないって、お前には思って欲しいよ。だから俺、お前が生まれるまでに何が出来るかわからないけど、せめて、カプセル産まれ、育児ロボット育ちを無くしたい。それは俺には、悲し過ぎる。俺、頑張るから」
慶吾が必死に言うと、大凰は静かに頷き「待ってるよ」と、涙を見せないようにサングラスPadをかけた。
続いて慶吾は滋陰の方に体を向けて、深く一礼をした。
「こちらの都合で、勝手にこんな所まで無理矢理、連れてきて本当に申し訳ない。でも、どうしても君の力が必要で、そのお陰で姉さんの魂を救う事が出来た。本当に感謝しています」
「いや、困っている人を救うのが私の定め。強敵ではあったが、救えた事がなにより。それに、ここに来たからこそ得た物も多々あります。私には未来は捨てたもんじゃない。って、痛感してます」
滋陰は優しい顔で笑うと、封印した塊に貼り付いた御札に目をやった。
「本当にありがとう」
「こちらこそ」
慶吾は頭を上げ、滋陰に微笑んだ。
続いて慶吾は、ユウの方に体を向けた。
ユウは、怒られるのではないかとちょとドキドキで、慶吾と目を反らしてしまった。
「ユウ、全てはお前のせいだ!」
ユウは「ドキッ」とし、その通りだから何も言い返せない。
恐る恐る、ユウが慶吾を見ると
「でもお前の事、嫌いじゃない。お前がミスがなければ、姉さんはの魂はあんな事にはならなかったし、過去から陰陽師を無理矢理連れて来る事もなかった。でも、お前がした事で、大凰と陰陽師、賀倉 滋陰と出会え、悪魔のお前とも出会えた。お前が来た日に、母さんの笑顔を久しぶりに見る事も出来た。そして何より、姉さんの姿にもう一度会えて、姉さんの生まれ変わりが、俺の子供と知る事が出来た。そこには、感謝してる」
始めは怒った顔つきで言っていたものの、最後は優しい顔でユウに笑った。
ユウは、驚いたが、少し照れたように笑顔を見せた。
「ユウ、お前の本名は、俺には一生、覚えられん。でも、お前の世界で元気でやれよ」
ユウとの別れを惜しむかのように、慶吾が涙目になると、ユウも少し心が痛んで
「俺は、ティリナ.ティーゴ.ユルルガアイ.ユウタリマだよ」
かすれた声で、本名を言った。
「だから、無理だって」
鼻をすすりながら、慶吾が見上げると、3人は更に高く上がり、青い光りが強く光るとともに、消えて行った。
「本当に、ありがとう。忘れないから」
慶吾が、見上げて呟いた。
10.それぞれの道
時は26世紀、この国の総力を上げて作り上げた「最高機密高化学研究所」で、時空を崩す恐れがあるとして『毒薬』に指定されている、厳重警備の「ジェグ」。これを狙う者が、後を経たない。
この夜も「ジェグ」を狙って、この国では知らぬ者はいない、超天才怪盗「馬飼野 大凰」が高化学研究所の第1の門を突破した。
右腕の時計型パソコンに、青くて小さな星形のキーホルダーが光っている。
「だから、俺にはこの手は甘いって」
得意気な顔で、サングラスPadを開き、ドンドンと進んでいく。
《高化学研究所 警備室》
警備ロボット24体が、時空パソコンの気配を感じて調べ始め、第3の門でパソコンの気配が消えた事に、ロボットはそれを人間に報告した。
第4の門(最高知能扉)に、大凰が着いた。
この知能が高い門を開ける、認証コードは4つ。
気紛れで、その都度コードを変えてくる門を前に、大凰は両目、時計型の全ての時空パソコンを開き、同時に時空パソコン制御装置も動かした。そして、透明度キーボードを高速で動かし始めた。
全てを20秒以内に解除しなければ、異常ベルが鳴る。
物凄い速さで、3つのコードを見つけ、残りは後1つ。
見当たらない。
「マズイ」
必死に探し、またまた何とかクリア。
「危なかった」
ホッと胸を撫で下ろし、大凰は第4の門を開けた。
ここは、無空間。空気はなく、地面にはベルのセンサーが張り巡らされている。
そして、大凰の目に飛び込んで来たのは、奥で厳重に守られている光る液体「ジェグ」。
右ポケットから、小型酸素を取り出すと口に加えて、リュックからスプレーを取り出すと、靴の裏に吹き付けた。
すると、大凰は3㎝浮いた。
「ニヤリ」と笑うと、大凰はゆっくりと空中を歩いて「ジェグ」の所を目指す。
「ジェグ」に辿り着くと、目を輝かせて「ジェグ」の入れ物の、ロックを簡単に解除して手に取った。
警備ロボットからの連絡を受けた人間5人は、時空パソコンの足跡を辿り、第4の門へと急いでいた。
「ボス、第4のコードが破られています」
「何!」
「ボス、これって」
部下の1人が、同じような事があった事を思い出した。
しかし、それは5人とも思っていた。
「ああ、間違いない。大凰だ!」
「あいつ、帰って来てたんですね」
「何を企んでやがる」
ボスは全ての道を、警備ロボットに封鎖させ、近道から第4の門へと走った。
大凰が「ジェグ」を詰めていると、右目の警報ブザーが光った。
「チッ。もう気付かれたか。早いな」
舌打ちをし、「ジェグ」をポケットにも詰めて、全ての時空パソコンを開いて準備に取りかかった。
時空パソコン、全ての起動させた途端、高化学研究所に大音量の異常ベルが鳴り響いた。
『ジリジリジリーー』
5人の人間は、その凄い音に少し驚いて足を止めた。
「またあいつ、何かやらかす気だな」
「また、未来か過去に行く気ですかね?」
「あいつなら、やりかねん」
「ですね」
「急ぐぞ!」
「はい」
大凰がゴソゴソやっていると、右目の警報ランプの点滅が早くなった。
「急がなくちゃ」
大凰は、追っ手がすぐそこまで来ている。時間がない。と、察すると、時空パソコンで歪みを発生させると、「ジェグ」をかけた。
すると、大きく揺れ、時空が少しずつ開いて行く。
「よし。後は待つだけ」
少し安堵していると
「大凰!」
到着したボスが、息を切らしながら、大声で叫んだ。
「ゲッ!」
その形相に驚いた大凰は、時空が開ききるのを、今か、今かとジタバタしながら見ていた。
ボスは急いで酸素スイッチを入れ、酸素メーターがクリアになるのを、今か、今かとジタバタしながら見ていた。
時空が開くのが先か?酸素がクリアになるのが先か?
「おし!」
人1人が入れる位の大きさまで、時空が開いた。
『ピン』
同時に酸素メーターが、クリアになった。
大凰が慌てて、時空に飛び込んだ。
ボス達、人間が大凰の元に走った。
「俺は、過去に行くんだ!過去に行って、恐竜と戯れるんだーー!」
大凰がボスに向かって、嬉しそうに叫んだ。
「はっ?」
ボスはあっけに取られて、思わず立ち止まってしまった。
笑いながら消えていく大凰は、人間5人に向かって、右手親指を立てて『グッド』のポーズをする。
人間5人は、大凰を追いかけるのを辞めてしまい、顔を見合わせた。
「ボス、あいつバカですかね?」
「そうは思わんが」
「恐竜の時代に、行きたいなんて」
「確かに」
「一応、歴史は知ってるはずですよね?」
「多分」
「ボス、恐竜ですよ」
「ああ。喰われて終わりだな」
「天才のする事は、分かりませんね」
「全くだ」
5人して、大きくため息をついた。
今日は本当に晴れた、雲1つない空。
滋陰はある場所で、目を瞑り、御札に念を込めていた。
御札に強く強く念を込め、御札が青白く光ると、御札に赤い文字が浮かんだ。
「よし」
滋陰はその御札を手に取り、立ち上がると、小さな鳥居に貼り付けた。
「頼んだぞ」
そう鳥居に言うと、晴れ渡った空を見上げた。
「いい天気だ」
「滋陰様、お食事のお支度、整いました」
遠くから村人の声がした。
「ああ。すまぬ。今、行きます」
滋陰はそう手を上げると、また鳥居に目をやって、鳥居の隣にある大きな洞窟に目を向けた。
そして、懐から青い小さな星形のキーホルダーを取り出すと、いとおしそうに握りしめた。
「本当に今日も、いい天気だ」
底に戻ったユウは、前魔王の欠片の鼓動を止めた事(ユウはほとんど何もしてない)が評価され、地位が高くなり、拝めめなしで、翼も返してもらえた。
「おい、ユウ行くぞ!」
「ちょ、ちょ、大勢では辞めろよ」
ユウは仲間と、魂狩りの遊びを楽しんでいた。
ユウが逃げると、大勢でユウを追いかけた。
ユウは前魔王の欠片の鼓動を止めた事で、ちょっとは底の世界で有名になっていて、魔王からの褒美で上位悪魔から高上位へと力をあげた。
ユウはあちこち移動しながら、仲間の投げる魂を上手く避けていくと、その楽しさに、魔王の右腕、天狗まで混じってきた。
「ユウ、高上位の力が俺より勝るのか?確かめさせてもらう」
天狗はニヤニヤしながら、高スピードでユウを追いかける。
ユウも負けじと、高スピードで逃げる。
天との境目に、追い詰めた天狗。追い詰められたユウ。
ここからどうするか?
ユウが急下降した時
「それは、お見通し」
天狗が、ユウに向かって魂を投げた。
「くっそ!」
もう少しで当たってしまう。
その時、ユウの首から青い目映い光が、底の世界を照らし、投げられた魂と天狗とユウの仲間達の目が眩んだ。
ユウ以外、全員、目があけられない。
「な、何だこの光は?!」
天狗が、苦しみながら叫び、仲間達もその光の眩しさに苦痛の声をあげた。
「ユ、ユウ!それ、何とかしろ!」
一番の仲間が叫ぶと、ユウはやっと気付き
「あっ、悪い」
と、青く光る、青い小さな星形のキーホルダーがついたネックレスを、服の下にしまった。
すると、光は止み、辺りは底の世界の色に戻った。
すぐに一番の仲間が、ユウに近寄り
「お前、その首にかけてるの、取れないのか?」
と、頬を膨らませて、怒ったように言った。
ユウは服の上からキーホルダーに触れ、地上での事を思い出し
「悪い、これは、この世で一番大事な物なんだ」
と、一番の仲間に笑いかけた。
「あっ、そっ」
一番の仲間も、諦め顔でため息をついた。
「さっ、続きをやるぞ」
ユウの掛け声で、また魂狩りが始まった。
今日はいつにも増して、暖かな日。
玄関で大きな仏花と、チューリップの花束を抱えた慶吾の母が、2階に向かって叫んだ。
「慶吾!まだ?」
「待って、今行くよ」
今日は鈴恵の命日。二人で鈴恵のお墓と、発見場所へと行く事になっていた。
慶吾の母は、大凰、ユウと過ごした夕食以降、気持ちにも余裕が出来たのか、鈴恵の事を受け止められるようになっていた。
慶吾は朝まで張り込みだった為、母との約束の時間に起きれず、慌てて用意をしていた。
服を着て、2階から駆け降り
「母さん、お待たせ」
と、靴を履こうとした時に、鍵を部屋に忘れた事に気が付いた。
「鍵。ごめん、取ってくる」
「まったく」
慶吾はまた、2階に駆け上がり、自分の部屋の机の上の鍵を取った。
「あった、あった」
『チリン』
鍵と青い小さな星形のキーホルダーが当たって、音がした。
ふと、慶吾は青い小さな星形のキーホルダーを見つめ、3人の事を思い出した。
鮮明に蘇る記憶の中、鹿児島の飛行機代、花園代、動物園代、レンタカー代、夕飯代、そしてこのキーホルダーを4つ。
全て、払わされた事も思い出した。
「全部、俺が払ったんだったな」
ちょっと嫌な気分になり、首を横に振ったが、楽しかったのも確かで、懐かしくなった。
「さっ、行こう」
2階から下に、駆け降りた。
靴を履く間に、母に車の鍵を渡し、先に乗ってるように言うと、自分は玄関の鍵を閉めようと鍵穴に鍵を入れた。
するとまた、ある記憶が蘇った。
「そう言えば、玄関、直すのに7万もしたっけ」
その修理代も、自分が払った事を思い出してしまった。
またまた、嫌な気分になり、少し腹が立ってきた。
「ユウめ!」
ブツブツ言いながら鍵を閉めると、慶吾は母の待つ車の運転席に座った。
「母さん、お待たせ」
慶吾の顔を見て、母はすぐに気づいた。
「何か怒ってるの?嫌な事でもあった?」
母の問いに、慶吾は1つため息をついて
「いや、ちょっとね」
「そ、そう?」
「さっ、行こう」
嬉しそうに言って、お墓に向かって車を走らせた。
終わり