赤色残滓考
白い煙は曇天に混じって溶け、地上にいる私たちを見下ろしていた。
寂しい葬式だった。若い女性の死は唯でさえ遣る瀬無くさせるというのに、参列者の少なさが輪をかけて、黒縁の写真の彼女の笑顔を悲しく見せた。
嫁に行って半年で彼女は死んだ。子も産まなかったからと、嫁いだ先の墓には入れられず生家の墓に入ることになった彼女は、今、骨になってから帰るために焼かれていた。
嫁したのが遠い土地であったせいか、彼女の友人らは来ることが出来ず、親族以外の参列者は私を除けば一人二人で、親族も彼女の血族は兄だけで他は嫁いだ家の方の親族らしく、始終よそよそしい雰囲気が漂っていて、彼女の死を純粋に悲しんでいるのはいくらもいない有様だった。
子供の頃は、彼女と彼女の兄の3人でよく遊んだものだった。彼女の兄とは今でも友人付き合いがあり、葬式に参列したのも両親をすでに亡くしていて親しき親族もいない、たった一人の妹を亡くしてしまった彼の付き添いも兼ねていた。
彼女とは長じるにつれて性別も年齢も違うため、顔を合わせることは少なくなった。それでも、会えば気軽にあいさつをして互いの近況なども話すくらいには親しかった。私にとって、妹のような存在であった。
そんな彼女と最後に会ったのは、嫁いでいく直前のことだった。
赤く染まる花瓶が浮かぶ。祖父が手に入れたというその花瓶は活けられた花を喰らい、喰らった花をその身に移す、不可思議な花瓶だった。
花など持っている様子もなかった彼女が、その日、花の色を移す花瓶を赤一色に染め上げたのだ。赤一色に染まる前は、活けられた色とりどり花々の花弁を敷きつめ、賑やかしい姿をしていたのに、花瓶は身に取り込んだ数々の花を散らした。
どのようにして彼女が花瓶に赤を塗り込めたのか、分からない。私が所用で部屋から出た隙にそれは果たされてしまっていたから。
問うても、謝るばかりで答えることのなかった彼女は逃げるように嫁いで消えた。そうしてそのまま逃げ切って、謎は永遠に分からなくなってしまった。
病気の影など感じぬ顔色であったのに、病魔は彼女を蝕んでいた。ひっそりと急速に、死をもたらすほどに肥大して。
鮮烈な赤が脳裏を過る。あまりにも美しい血潮のような赤い花瓶。たくさんの花の命を押しのけて全てを一色にさせた、花の命よりも強きものの色。
もしかして彼女は花の代わりに、花瓶に自分の命を落としこんでしまったのではなかろうか。白く色の抜けた、棺の中で眠る彼女を見てそんな風に思った。
火葬場の煙突から出る彼女の煙を私は見上げれば、雫がぽつりと頬に当たる。
彼女の煙を飲み込んだ雲が、人が流した涙のように温い雨を降らす。けれど、涙とは違い雨粒は流れ落ちることなく微かな感触だけを残して消えていった。
雨は次々と落ちては消えてゆく。
消えた筈なのに、気づけば私を濡らして透明に染め上げていた。