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第九話-特殊な能力とは

 道中、この世界について何も知らない俺は二人に色々と質問した。

 ゾルフこそ最初は怪訝そうな顔をしていたが、俺が住んでいた所とはかけ離れた地域であること、そしてその文化の違いは一般常識にすら影響を及ぼしていることを伝えると快く受け答えしてくれた。

 温室育ちの世間知らずステフで今のところは通している。

 多少心苦しい評価ではあるものの仕方がない。こちらの世界では転生という概念自体がまだ浸透していないらしいからな。言ってもわからんだろうし怪しまれたりしたら面倒だ。


「この世界には、前エラが言ってた『人族』っていう種族の他にも色々いたりするのかな」

「そうですね、かなり多くの種族が存在します。なので各特徴ごとに、大きく三つに分類されます。我々魔術が使える種族を『人族』、魔術が使えない代わりに特殊な方法で身体強化を行う『獣族』、そのどちらにも恵まれなかった種族を『人間』と呼びます」

「それは遺伝によって決まる感じ?」

「はい。ハーフという可能性も考えられますが、より濃い血筋に影響されるので大体が人族か獣族のどちらかに決定されます。但しごく稀に両方の血を半分ずつ受け継いで産まれる子供もいます。その子供は魔術と身体強化の両方に秀でているので『神童』と呼ばれますね。しかし相容れない血を幼い体に蓄えた子供は皆若くして亡くなっているのです」

「へえ、体内の血がそのまま能力に影響されるのか。あれ? じゃあ『人間』との間に産まれた場合は?」

「・・・『人間』は我々『人族』と『獣族』に対して激しい敵対心を抱いています。『人間』たちは国がらみで幼いころからそうなるよう指導されているんです。なので彼らから寄ってくることはまずありえないのです。現に今まで『人間』と交わったことのある者は一人もいません」

「それはまた凄い嫌われようだね・・・理由を聞いても?」

「私は構いませんが、何分学校で教わった内容ですのでどこまでが本当か・・・恐らく情報も都合のいいよう書き換えられたはずでしょうから」

「それでも今後のために知っておくべきだと思う。大まかな話でいいから教えてよ」

「・・・わかりました。ではお話ししましょう。これは3000年近く前までの歴史に遡ります――」


 そう前置きをしてエラメリアはこの国の、この世界の歴史について語りだした。



~~~~~



 昔、世界には一つの大陸があった。そこには三つの部族が暮らしていた。互いにその存在を認知することなく、上部、中部、下部に分かれて平和な生活を営んでいた。


 上部は気候に恵まれない土地であった。動植物は姿を見せず、生が感じられるものは既に食い尽くされていた。そこに住む者達はいつも寒さとひもじさに苦しんでいた。

 ある時一人の若者は考えた。このまま体力を温存しながら生きていてもじりじり死んでいくだけだ。ならば、残り少ない体力を限界まで使って狩りに挑んではどうか。

 それを聞いた彼の仲間は腹を抱えて笑った。馬鹿な男だ。それじゃあ自ら寿命を縮める様なものじゃないか。たとえいつもより多くの餌にありつけても、長い目で見ればそれは死に急いでるだけではないか。

 だが男は彼らの嘲笑を無視した。

 馬鹿はどっちか。長生きすることにばかり目が行ってしまい、肝心の人生が飢えと寒さに支配されていては本末転倒ではないか。そんなのは御免だ。だったら自分は己が身を削ってでもうまい飯を食う方がいくらかマシだ。


 男は一度心に決めてしまうと他人に一切耳を貸さなくなる性格の持ち主だった。

 家族が必死で説得するも聞く耳をもたず、野蛮な雄たけびを上げながら夜の荒野へと消えていった。家族は焦って知り合いに助けを求めた。しかし、誰一人としてまともに取り合ってくれる者はいなかった。


 はじめ彼らは男の帰りを待った。

 なんだかんだ男の事を馬鹿にしつつも好奇心の方が勝っていたためだ。不可能だろ、いや彼ならあるいは。

 連日のように男の話題で町は賑わっていた。


 一日たった。男は帰ってこない。

 二日たった。男は帰ってこない。

 三日たった。男は帰ってこない。簡素な捜索隊が山へ送られたが、男の身柄は疎か死体すら見つけられなかった。

 四日たった。男は帰ってこない。男は何者かに跡形もなく食べられたのではないか。そんな不安が彼らの胸に芽生え始める。

 五日たった。男は帰ってこない。何も食べずに五日も生きていくなど不可能にも近しい。彼らはみな男が死んだと思っていた。

 10日たった。男は帰ってこない。いい加減彼らも男に飽きが差していた。彼らは男を愚か者だと罵り笑い、家族すら男の蛮行を非難する始末だった。

 一ヵ月たった。男は帰ってこない。この頃には男の存在など誰も意識していなかった。たった一人の馬鹿者を気にかけていられる程彼らも暇ではないのだ。


 半年たった。思い出したように、男の弔いがひっそりと行われた。涙するものは一人としておらず、こんな馬鹿げた式などさっさと終わらせてしまいたいというのが皆の本音だった。

 淡々と式は進み、あっという間に終わろうとしていた。そんな時に事件は起きたのだ。

 式場に仲間の一人が駆けてきた。なんでも、突如として町に大男が侵入してきたという。人々は急いで外に出て、その姿を目撃した。その大男は筋骨隆々で脂ぎっており、体中に狩ってきた獲物を巻いた男であった。

 彼らはその屈強な肉体に恐怖し、戦えるものも小便を垂れて逃げ出す始末だった。誰もがこの後起きるであろう大男の蛮行に絶望し、彼に命乞いをした。大男は黙ってそれを見ていた。

 無様にひれ伏す彼らを前に、唐突に男は笑い始める。そして言った。


――言った通り俺は帰ってきたぞ。大量の餌を連れてな。


 大男がかつてのひ弱な男と同一人物とわかると彼らは目を剝いて驚いた。そして己の考えを改め、男に心からの謝罪の意を伝えた。男は彼らを寛容な姿勢で許してやると己が身に起きた出来事について説明し、極限まで高まった身体能力について詳しく教えてやった。それは瞬く間に人々へ広がっていった。


 男は初めの数日、全く食べ物にありつけなかったという。

 飢餓感は我慢の限界に至り、肉体もとっくに悲鳴を上げていた。それでも最後の力を振り絞って最後に山を駆けた。

 結果は当然のように失敗。雑草にすらありつけなかった。

 心も体も完全に疲弊していた彼は近くの洞窟で人生を終えようと決める。


 朦朧とした意識の中手探りで平らな場所を見つけた。

 ここなら気持ちよく寝られるだろうか。

 死を目前にしてはじめて彼は己の愚かさを呪った。こんなことになるなら仲間達と同じように多少の空腹に耐えつつ、それでもゆったり生き延びていく方がよっぽどマシだったに違いない。彼は瞳を閉じ、世界に別れを告げようとしていた。そんな時だった。

 洞窟の入り口からのっそりと侵入してくる影がある。見たところ寒さを凌ぎに来たデラコ(※熊の様な巨大生物)のようだ。普通の者だったら度重なる不幸に絶望し、死の瞬間を静かに待つことしかできないだろう。

 だがこの男は違った。デラコの姿を見た途端、己の底から溢れんばかりの力が湧いてくるのを感じる。やっとだ。やっと餌を見つけた。これで自分は生きていける・・・。男は我を忘れてデラコに飛びついた。

 気が付くと自分は肉を食んでいたそうだ。傍らにはデラコの死体。無傷の自分の身体みて、彼は飯を食いながら自分の目論見が当たったことを確認したのだった。残りの日数で男はその力を完全にコントロールしきって見せた。


 この能力の仕組みは簡単なもので、自分の少ない生命力をもってして全力で狩りに挑む、というものだ。空腹と危機感によって解放された力は、肉体の各部を限界まで強化してくれる。そして肉を食らえば生命力は維持できる。命を懸けて命を手にするというのが狩りの意義だったのだ。

 これを知った人々は自分たちに備わっていた能力に感動し男を賛美した。こうして彼らは貧困から脱する手立てを得た。その後長い年月を経て、彼らの肉体はその能力に順応した新たなものとして完成していくのだった。

 後にこの能力は『超獣力』と呼ばれるようになり、それを使う者たちは『獣族』と称された。








 下部は温暖な気候に恵まれ、動植物がのどかに共生していた。そこに住む者達も同様に健やかに生きていた。丈夫な体に産まれ、生活基盤も何不自由なく得ることが出来た彼らは非常に長い時を生き続けた。

 だが、不自由は無けれど満足のいく生活は送っていなかった。


 長寿である彼らは半生は自分たちの発展に貢献し、残りの半生はただただゆったりと過ごしていた。理想の人生設計である。

 だが若いころの苦労を慰安するのにかかる時間は一瞬であった。

 すぐに彼らは余生をこの退屈な世界で生きていかねばならぬことに我慢ならなくなった。とはいえ、老いた体で積極的に動くわけにもいくまい。若者の様に一生懸命働けるほどの体力は持ち合わせていなかった。

 だから彼ら半生を生きた者たちは、動かなくても何か楽しめる余興を考えることにした。そして、有り余った生命力を別の力に変換する方法を思いついた。


 それはある老人が始めたことだった。

 老人はあるとき自分の腕を傷つけてしまった。そこまで深い傷ではなかったが、不便を感じるほどには大きな傷だった。

 身寄りはなく自分一人の力で生きていかねばならない彼にとって、それは結構な痛手である。

 老人は困った顔をし、どうにか治ってくれないかと祈っていた。その時それは起こったのである。


 老人は体内の血液が傷口に集中する感覚を覚えた。老人は流血に慌て、急いで治癒を試みた。

 それは無意識下の出来事であった。傷の周辺で荒れる血液をコントロールしようと模索しているうち、腕の痛みがすっと引いていくのが分かったのだ。

 老人は腕を治そうと躍起になっている自分に気が付く。そしてこの血を操作しようとする感覚が自分を回復させようとしているのだとわかった。そのあとは簡単だった。

 激流を宥めようと丁寧に力を籠める。すると、腕に集まった血がすぅっと引いていくのに合わせて傷が塞がっていくのを見た。

 老人はこの現象に激しく興奮し、すぐさま仲間にそれを伝えた。

 当初人々は彼を怪しんだ目で見ていた。当然だ。そんな不可思議な現象が起こるとは到底考えられないからだ。だが老人が目の前で実践して見せると、あっという間に皆の興味はそちらへ向いた。

 当時の彼らは未知なる物への探求心にかけて、老若男女関係無く満ち溢れていたため、日々その特殊な能力への研究に最大限の関心を当てた。

 数日のうちに様々なことが分かった。


 一つ、この力は血液ではなく別の何かによって成し得ているのだということ。

 二つ、これは自分の体内のみならず、外界への干渉も可能だということ。

 三つ、同じ能力であれば使えば使うほど前よりもっと楽に再現することが出来るということ。

 四つ、今まで自分たちが行ってきたことは全てこの能力で再現でき、さらに応用させることすら可能だということ。


 彼らがこの力に溺れるのにそう長くはかからなかった。

 念じれば水が出、土は耕され、木は伐られていく。一年とたたずして彼らはこの力なしでは生きられなくなってしまったのだった。

 だがこの力にはもう一つ恐ろしい副作用があった。この能力を幼いころから使い続けてきた者たちは皆早い段階で死んでいった。平均的な年齢が800歳ほどだった彼らは、この能力を使うようになってから80歳にまで落ち窪んだ。

 この能力はつまるところ、自分の寿命、つまり生命力を糧に実現されていたものだったのだ。何百年も経って彼らはようやくこのことに気が付いた。しかしそのころにはもう能力は生活の一環だった。

 生きる事とはすなわち能力を使用すること。元の退屈で不便な生活に戻ることなど到底出来ようもなかった。

 だからそれに気付いて尚、寿命が減ったというのに誰一人としてそれを懸念するものはいなかった。この便利な力を使えるなら、最早長寿などどうでも良かったのだ。


 その後も能力の使用を抑えようとした者はいない。こうして彼らは寿命が縮まった代わりに特殊能力を得ることが出来たのだった。

 後にこの能力は『魔術』と呼ばれるようになり、それを使う者たちは『人族』と称された。



~~~~~



「・・・とまあ、ここまでが『人族』と『獣族』の成り立ちです。要するに、どちらも『生命力』をそれぞれが持つ特殊能力に充てているわけですね。ちなみに『生命力』というのは全生物が持つ生きるために必要な力です。直接寿命と関係しています」

「はぁーなるほど。だから俺が今魔法が使えなくとも生きている限り使うのは可能だってわけなんだ」

「その通りです。『人族』はもともとその能力使えるように体ができていますから」

「ふむふむ。努力次第で俺も魔法が・・・。あ、じゃあ『人間』はその能力を持ってないから大陸から追い出されちゃったのか?」

「うーん、半分正解ってところですかね。確かに『人間』は戦う術もなく非力でした。しかし、大陸から追い出されたのには別の理由があるんです。それはこの後起きる大きな戦争が密接に関係しています――」

【獣族について補足・・・】

理性がある比較的『人間』や『人族』に近い獣族はそのまま”獣族”、理性が無く本能の赴くままに活動する獣族を”魔物”と呼びます。

理性ある”獣族”に向けて”魔物”と呼んでしまうのは、近いイメージで言えば我々が”サル”と呼ばれるような感覚ですね。

指定する語にも蔑視的な表現にもなり得るので注意が必要です。

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