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第三十九話-忙しい一日⑤

 数分経った頃、エラメリアが出口に顔を見せた。

 ゾルフが手を振り彼女に位置を伝えると、人込みを上手にかわしながら近づいてくる。

 俺たちの下へ戻ってきた彼女は、若干疲れたような顔をしていた。

 見れば、額に汗も滲んでいる。


「お疲れさま。で、どうだった?」


 労いの言葉もそこそこに早速そう問うと、エラメリアは右手に持っていた布袋を掲げた。


「なんとかお金を下ろすことは出来ました」


 そう言って安堵のため息をつく。

 袋は結構な量の貨幣が入っているのか、ふくらみが大きくエラメリアも重そうだった。

 それをみて、ゾルフがニヤニヤと下品な笑みを浮かべる。


「これなら当分の間は金に困らなくて済みそうだな。いや~エラたんにはご迷惑おかけします」


 コイツ完全に世話になる気満々じゃねえか。

 いや、俺もそうっちゃそうなんだが・・・。

 にしても、もっと態度があるだろ。


 案の定、エラメリアも不快そうに眉を顰める。


「は? 誰があなたの分も支払うと?」

「またまたぁ、そういってなんだかんだ奢ってくれるエラたんマジ最高」


 調子良く挑発を重ねていくゾルフ。

 エラメリアはこれ以上は相手にするのも無駄だと考えたのか、無視して歩き出した。


 わあ、なんかわかんないけど凄く大人って感じだなぁ・・・。

 俺だったらまず間違いなく口論になっている。

 それともゾルフがアホすぎるだけか・・・。


 じゃなくて。


「ちょ、待った! 俺は? ギルドには行かなくていいのか?!」


 まるっきり目的地と逆の方向へ歩き出すエラメリアの背中に、そう疑問を発する。

 すると彼女はぎくりと足を止め、困ったような顔で振り向いた。


「今日は立て込んでたようなので、また後日にと考えています」

「そんなぁ・・・」


 ずっと楽しみにしていたのに・・・。

 目の前で財宝を奪われたような感覚に陥る。

 いやまあ、そこまで大げさじゃないにしても、精々”楽しみにしていた遠足が雨天延期になってしまった時の小学生”ぐらいのダメージは受けている。

 つまり程々な喪失感だ。


 何とかエラメリアの意見を変えられぬものかと思考を張り巡らせるも、すぐにやめた。

 だってどうしようもない。

 彼女の決定を覆す権利が俺には無いからだ。

 ここでゴネても周りに迷惑を掛けるだけだろう。

 素直に身を引くのが吉だ。


 それに、俺も一応(中身は)大人である。

 大人だから・・・これくらいなんてことない。

 我々は我慢強いのです、大人なので。

 くそぅ。


 諦めて肩を落とし、とぼとぼ付いて行く。

 そんなあからさまにダメージを受けた姿を不憫に思ったのか、エラメリアが元気づけるようにポンと背中を叩いてきた。

 顔を上げると、彼女は両手を胸の前で合わせ眉尻を下げた顔でこちらを見ている。


「ごめんなさい。ステフが危ない目に合うのは嫌なんです。わかってください・・・」

「エラ・・・」

「その代わり、お店でとっても良い服を選んであげますから。プレゼントしますよ」


 貨幣の入った袋を揺らし、ニコリと微笑みかけるエラメリア。

 その笑顔を見た俺は、彼女の気遣いに、優しさに、ただただ自分の我が儘を恥じるしかなかった。


 そもそも最初から文句があろうはずもなかった。

 こちらはお世話になっている身だ。

 その分在で、これ以上何を望もうというのか。

 エラメリアに謝らせてしまったことが、今になってかなり申し訳なく思えてきた。


「いや、こっちこそゴメン。ちょっと気が緩んでて。だから大丈夫、服とかもいらないよ」


 ちゃんと詫びつつ、後半はしっかり拒否していく。

 エラメリアには悪いけど、服にときめくほど女子に染まったわけではないです。

 しかし、それでもエラメリアはぐいぐい圧してきた。


「遠慮はしなくても大丈夫です。だってこのお金は私の物じゃないですから」

「え」


 んん? エラメリアの私財じゃない?

 だとすると、一体その手にある金はどこから来たのか。

 何となく不穏な空気を察知。


 その間にエラメリアは懐から一つの短剣を取り出した。


「あ、それオレの相棒!」


 突然見せつけられた短剣をはてな顔で見つめる俺をよそに、ゾルフが驚きの声を上げる。

 そして、はたと何かに気が付いたように、恐る恐るエラメリアの顔を見た。


「え、エラたん。もしかしてだけど、その金って・・・」


 そんなゾルフの疑惑に対し、ちょっぴり恥ずかしそうな笑顔で応じるエラメリア。


「はい、この剣の持ち主にお借りしちゃいました♡」

次の章も、明日の朝六時の投稿です。

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