第十八話-やはり立ちはだかるおっぱい
あれからすぐに俺に適した日々のトレーニングメニューを作ってもらった。
聞いたところによれば、素振りや足運び、重心コントロールなどの基本動作を繰り返し練習して体に刷り込ませるタイプの内容だった。
というのも、例の技を習得するに当たって当然体幹と筋肉を鍛える必要があり、魔術の使えない俺はゾルフが身体強化系の魔術で補強したうえで成していた剣技を自然体のままで完成させねばならない。
それにはトンデモなく強靭な肉体が要りようになってくるだろう。
しかし筋トレはエラメリアの猛反発のせいでナシになってしまったので、仕方なく技に適した体づくりから始めることになったのである。
それにあの技はあくまで目標の一つであって、それ以外にも基本的な動きは身に着けておく必要もある。
あくまで護身のための剣技なのだから、少なくともオークやゴブリンなどの数の多い魔物(ひとつつけたしておくと、スライム同様そういった魔物もやはり存在するようだ。ゲーム脳の俺には結構想像しやすい敵だったことは幸いだ)は一人で太刀打ちできるようには強くなれとのこと。
なのでまずは基本を身に着けて体を慣らし、それからいろんな動きに発展させていく方向で話が進んでいった。
それに合わせたメニューで明日から鍛錬を行う。
厳しい修行になりそうだ。
ただ、つらい事だけでなく嬉しい話もあった。
それは身体の特徴についてだ。
木登りを簡単に覚えることが出来たように、俺の肉体は日頃行う動作について高い順応性を誇るらしい。
要するに体つきが生活に合った形へと変化しやすいのだ。
しかもただ単に順応するだけでなく、自分の意志ではコントロールできなかった魔力を自然の内に使用して基本性能を上げてくれていたみたいだ。
理屈はわからないが、稀にそういった魔術の才能を授かることがあるらしい。
魔術に才があるんだか無いんだかどっちなんだろうか。
でもまあ言われてみると、道理で日々体が軽くなったように感じるわけだ。
もちろん、エラメリアに診断してもらった結果なので実際に見て確かめたわけではないが、それでも高確率で無意識のうちに魔力を使用しているだろうとされた。
これは数少ない俺の才能らしいので、存分に活かしきっていきたいと思う。
その調子で魔術もつかえるようになるといいんだけど・・・こっちはまだ難しそうだ。
コツコツ練習していこう。
一般に子供が剣技や魔術を習う時は、両方をうまく組み合わせてた修行スケジュールを組むのが常識らしい。
立ち位置や状況によって術者にも近接戦闘者にもなりうるので、そのどちらでも動ける準備をしておくためだった。
それに剣と術を巧みに織り交ぜた戦闘はこちらをかなり優位に立たせてくれる。
なので基本両立させて勉強するのだそうだ。
だが俺は偏りが激しい体質なのでそれぞれで分けて学ぶことになった。
魔術の使えないうちは剣技との複合型戦闘は望めないので、剣ならば剣のみ、魔術なら魔術のみの戦闘スタイルを習得する。
どちらも戦闘に十分な技術を身に着けてから二つを混ぜた戦い方を練習する様に決めた。
「・・・せいッ!・・・・・・やッ!」
ちなみに俺は今素振りの練習をしている。
ちゃんとしたメニューに入るのは明日からなのだが、今日とて怠けるわけにはいかない。
ゾルフに見てもらいながら剣を振ることで、正確な振り方と体幹を鍛えようとしているのだ。
何度か指摘されつつ順調にこなしていくと、一時間もする頃にはだいぶ様になってきた。
やったことはないけど剣道やフェンシングなんてスポーツは現世にもあったしな。
原理や理屈を考えなくてもいい剣術は結構俺に合ってると思う。
そんな感じで丁寧な素振りを繰り返していると、エラメリアの方から声が聞こえてきた。
「晩ごはんが出来ましたよー! そろそろ遅くなりますし、今日はその辺にしておきましょー」
「はーい、分かったー!」
結構距離が離れているためか、間延びした声が飛び交う。
ふと空を見上げる。
太陽もほとんど沈んでおり、辺りは薄暗い林へと変化しつつあった。
エラメリアが熾してくれた焚き木の火が仄かな光を振りまく。
俺はゾルフに確認を求めるように顔を向けた。
目が合うとゾルフもこくりと頷く。
「もういい時間だし、続きは明日にすっか」
「うん、程よく疲れてきたしね」
「そうだな」
ゾルフもそういっていることなので今日はここまでとし、「ありがとうございました」とちゃんと一礼する。
ゾルフはおうと照れくさそうに返事をしてくれた。
今朝こそヘラヘラしていた彼も、今は真面目に付き添ってくれている。
柄でも無いことをしたという自覚はあるのだろう、彼は始終居心地の悪そうな顔をしていた。
メリハリがある人は結構好きなんだけどな。
”ダラダラ伸び伸び”がモットーの俺には羨ましく感じられるのだ。
そう言葉にするとゾルフは気持ち悪い声で笑って何かと体を触ってこようとしてくる。
好きって意味をどうはき違えたのか知らないが、とにかく不快な勘違いをされたようだ。
めんどくさいからもうゾルフを褒めるのはやめよう。
ちょっとしたアクシデントもあったが、初日の修行はは順調に終わりを告げたのだった。
俺の改善点やコツなどの話をしながら、俺たちはモタモタとエラメリアの元へ歩いて行く。
エラメリアは近づいてくる俺たちに気が付くと、胸の前で小さく手を振る。
彼女が指さした先には晩飯は三人分用意されていて、焚き木の近くで美味しそうな香りをまき散らしていた。
――きゅるるるる
――ぐおおぉぉぉ
タイミングよく俺とゾルフの腹が鳴る。
まあ、結構激しい動きもしたしな。
腹も減るだろう。
人の前だというのに全く気にしたそぶりも見せず堂々と立っている俺たちを見て、エラメリアは思わず吹き出していた。
涙を拭きながら俺たちにタコスモドキを渡してくれる。
「二人ともお疲れ様。はいどうぞ」
「待ってました! んまそ~」
「サンキュー。いい香りだなぁ」
「ちゃんと噛んで食べてくださいね」
母親の様な事を言いつつ自分も一生懸命ほおばるエラメリア。
俺が修行で晩飯を調達できなかったので代わりにエラメリアが採ってきてくれたようだ。
他にも彼女は色々してくれていたらしく、服がところどころ土埃で汚れていた。
彼女も大概疲れていたのだろう。
上品さは残しつつも食べるスピードはいつもより早かった。
普段見せない思わぬ一面にほっこりしながら、俺もありがたく飯を頂戴する。
がじっ、と大口で噛みつく。
染み出る旨味に感動しながら、丁寧にもぐもぐと咀嚼する。
と、ここで俺はいつもと違う何かを覚えた。
エラメリアがちらりとこちらを気にする素振りをみせる。
「モ?」と首を捻り、改めてタコスモドキの中身を確認してみた。
「もぁっ・・・(ごくん)・・・あ、コレ!」
「おお、ラビーの肉じゃねえか! やっぱ獲れたての新鮮な肉はうまいなぁ」
「気づきましたか。実は先ほど単体でいるところを見つけたんです。久々に体を動かしました」
そう言ってニコニコと笑うエラメリア。
モドキに入っていたのは、いつもの様な乾いた肉ではなく脂ののった焼き肉だった。
程よく身が引き締まっており適度な歯ごたえがある。
ちょっとだけ野生動物特有のにおいを含んでいたが大して気にならない。
普通に美味しい。
どうやらエラメリアの服が汚れていたのはラビーと呼ばれる魔物を追っていたかららしい。
久々のちゃんとした肉に俺はたっぷり満足していた。
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その後は晩飯を食べながら今後の予定について話をする。
といっても、大したことではない。
ウェンポートまではあとどれくらいで着く、だとか、そこではどのくらい滞在する気なのかといった話だ。
すでに昨日ある程度聞いていたので深く気にかける事の程でもなさそうだった。
ほかにも色々と他愛もない話をしながら晩飯を食べる。
エラメリアが余分に用意してくれていたモドキをすべて食べ終わるころにはすっかり夜になっていた。
「ふぅー食った食った」
「腹いてぇ。幸せ~」
「ここは素材に恵まれていたので良かったです。蓄えもできたので当分は食料にも困らなそうです」
エラメリアは嬉しそうに話していた。
肉はその日のうちに食べるのが一番いいのだが、タコスモドキの生地や他にも応用できそうな食材が手に入ったので俺もわくわくしてくる。
たった今晩飯を食べ終えたばかりだというのにもう明日の飯について思いをはりめぐらせてしまう。
気持ちに余裕が生まれた証拠だった。
さて、食べ終えたからといっていつまでもダラダラしているわけにはいかない。
思いのほか話がはずんでしまい、時間もかなり経ってしまったようだった。
ちょとばかし休憩すると、そそくさと就寝準備に入る。
俺とエラメリアは鞄から布団を取り出した。
「じゃあ、ゾルフはこの布団を使ってください」
そう言ってゾルフに自分の布団を放ってやるエラメリア。
ゾルフは飛んできたそれをキャッチしつつ、はてなと首を傾げた。
「あれ、いいのか? ステフのと合わせて二枚しかないんだろ。エラたんはどうすんの」
「ええ、構いません。私はステフと寝ますので」
「ふーん。・・・は? え、寝んの? 一緒に?」
「何かおかしなことでも?」
「い、いや。まあ、そういうことなら有難く借りることにするわ。あんがと」
「いえいえ」
淡々と話は進んでいく。
二人はすんなりその方向で話を進めていったが、一番鋭敏に反応したのは何を隠そうこの俺だ。
「ちょっと待ったァ! それってどういうこと?」
「どうって、そのまんまですが・・・」
「いやいやいや。聞き間違いかな? 俺とエラが一緒に寝るとかどうとか聞こえたんだけど・・・」
「その通りですが」
「あ、やっぱり? ですよね良かったー・・・ってオイおかしいだろ!」
思わずノリツッコミをしてしまう程エラメリアの返答は自然なものだった。
即答である。
しかし、冷静になった頭は必至に現状を読み込もうとする。
ありえない事態に俺のアラームがビービー鳴り響いていた。
「少し考えさせてね、それって必要な事なのかな?」
「必要です。でないと風邪をひいてしまいます」
「火も焚いてるし気温も暖かいから大丈夫じゃない? なんだったら俺は地面で寝るよ」
「朝方は冷え込みます。ちゃんと布団を掛けて寝ないとだめです」
「で、でも! ゾルフは今まで布団無しで寝てたんだよな?」
「おうよ。オレはよっぽどじゃねえと布団で寝ないぜ」
「じゃあ悪いけどその布団をエラメリアに返して、火の近くで寝てくれないか? 風邪も昨日よりあったかいし大丈夫だろ」
「・・・ウッ急に腹が・・・・・・すまんステフ、やっぱ温かくして寝ないとヤヴァイ」
「嘘つけぇ! ・・・とにかくエラ、一緒に寝るのはマズいって。いやもうほんとに」
俺は必死でエラメリアと寝ることを回避しようとしていた。
何でかって?
・・・いやそりゃ、もうね。
ここで一般男性なら二つ返事で了承するに違いない。
そして確かに昔の俺ならきっとこのオイシイ話に飛びついていただろう。
だが、今朝エラメリアと床を同じくした俺は彼女と一緒に寝ることは強く憚られてしまうのだった。
というのも、エラメリアはここ稀に見る巨乳だ。
この世界ではどのくらいが標準なのかわからないが、少なくとも俺が知る限りではブッチ切りでトップの大きさだった。
そんなおっぱいが真横にあっては当然寝られるはずが無いだろう。
確実に明日に影響する。
それは今朝自分で証明した。
というか、そこまでいくと欲望を自制できる気がしない。
理由はそれだけでなく、エラメリアの容姿も深く関係している。
彼女の様な絶世の美女と夜を共にするなんて、考えただけでも胸の高まりが収まらない。
一緒に寝て激しく波打っている心臓を聞かれるなど恥ずかしすぎて、というか恐ろしくて出来そうもなかった。
それがきっかけで俺が実際は男だった、なんてバレてしまうかもしれない。
不安要素は摘み取っておくべきだ。
「そんなに私と寝るのは嫌ですか・・・?」
色々思案している最中に声を掛けられた。
恐る恐る振り向くと、エラメリアがうっすらと目に涙を浮かべてこちらを見つめている。
しまった、流石に露骨すぎたか。
俺は悪くないはずなのに、自然と罪悪感がわきあがってくる。
「そういうわけじゃ無くてな、ただ女の人と同じ布団で寝るのは、なんというか・・・ちょっと・・・」
「そんな、女性経験が無い男性じゃないんですから。私もステフも女の子ですので、気にする程の事でもないでしょう」
「うぐっ・・・いやそうなんだけど、でもやっぱりあるじゃない。最近では百合とかホラ」
何を言ってるんだ俺は!
「私は気にしません! むしろステフとなら大歓迎です!」
「いやそこは歓迎しちゃダメだろ! ・・・とにかく、俺は一人でも大丈夫だから。布団で寝ろっていうならゾルフと寝るよ」
「そんな・・・ゾルフ以下なんて・・・・・・」
「だから違くて・・・」
ああもう、メンドクセェ!
なんだってエラメリアはこんなに積極的なんだ・・・。
俺が頭を悩ませていると、獲物を見つけた狼の顔をしたゾルフも口を挟んできた。
「むっふっふ。エラたん、ここはオレに譲っちゃいなYO! ステフだってそういってるんだからサ。やっぱしエラたんより俺の方が信頼されてんのよ」
「それに、ゾルフだったら汗臭くても気にしなくていいし。例えどんなふうに思われようと、ゾルフなら気にしない。というかどうでもいい」
「ひでぇ!」
「だけどエラに嫌われるのはイヤなんだ・・・わかってくれ」
「ステフ・・・」
うるうると目をきらめかせるエラメリア。
かなり適当なことを口走ってしまったような気もするけど、その場を凌ぐには十分だったように思う。
言いたいことは伝わったようだけど、果たして分かってくれるだろうか・・・。
「ステフが臭いを気にするなら、布団に入る前に私が全部吸い込みます」
「エラメリアさん?!」
「間違えました、私の魔術でステフの身体を洗ってあげます、って言いたかったんです」
「そ、そうか。そうだよな、うん。間違いは誰にだってあるよねハハ」
物凄く不穏な単語に恐れ慄き、一瞬自分の聞き間違いかと思う程だったが、ただのエラメリアの言い間違いだったようだ。
ふう、良かった。
この五秒間を記憶の底に封印する。
俺は何も聞いてなかったはずだ。
「にしても、そこまでしてもらうわけには・・・夜も遅いし、何より恥ずかしいし」
「じゃあどうしろっていうんですか!」
「俺を一人で寝させてって言ってんだよ! っていうか、エラがゾルフと寝ればいいんじゃない? ほら二人は同期なんだろ?」
「えっ」
論理も理屈も通ってない提案だったが、エラメリアは一瞬困ったようにゾルフの方を見る。
そのゾルフはというと、とっくに布団に入って横になっており、ウェルカムとばかりに布団の端を持ち上げていた。
それを確認すると、エラメリアはごろりとこちらに首を向けて答える。
「死んでも無理です」
「ひでぇ!」
心底嫌そうな顔だった。
ゾルフの悲痛な叫び声が響き渡るも、特に気にした素振りも無くこちらを見据える。
やはりダメだったか・・・。どうすれば納得してくれるんだろう。
ゾルフぐらいなら布団を奪っても問題なさそうだが・・・。ん、まてよ、というかそもそも何でエラメリアは・・・
「・・・どうしてエラはそんなに俺と寝たいんだ?」
「・・・・・・んんっ?」
エラメリアから動揺のうめき声が上がる。
あれ、何か変な事を言っただろうか。
先刻前の自分の発言を思い出す。
――そして、それの意味するところに気が付き俺は取り乱した。
「あっいや違っ、さっきのはそういうことではなくて・・・」
「そ、そ、そ、そうですよね。すいません私も気が動転してて・・・」
「ごめん、別にそういう気が合って言ったわけじゃないんだ」
「こちらこそごめんなさい。つい衝動的になってしまって。迷惑ですよね、こんなの」
「いや全然そんなことは無い・・・てか、俺もエラと一緒に寝れるなら全然嬉しいんだけど、ただやっぱ自分が抑えられないだろうというか・・・」
「私も暴走してしまいました・・・でもやっぱりステフを抱っこして寝たいんです。かわいくて温かくて、気持ちよく寝られるんです」
「・・・え?」
「・・・ん?」
おいおい、妙におかしな雰囲気になったぞ。
なんか察したところ、どうやら俺たちは発言の認識に食い違いがあったみたいだ。
だが、ちゃんと明確に話し合って誤解は解いておくべきなのだろうが、先ほどの会話にはお互い何かしら爆弾発言が含まれていたように思う。
ここはあえて詮索は避けて流しておくべきではなかろうか。
というか、この間はどうやって埋めればいいんだ? 軽く死にたいんだが。
そんな生死の狭間をゆく葛藤の中、触れずにおこうと思ったのは俺だけだったらしく、エラメリアはさっきの話を思い出して顔を真っ赤にしていた。
それが自分の発言に対してなのか俺に向けてなのか、本人以外知る由もなかった。
そして勝手に思考が爆発してしまったらしく、なにやら物凄い勢いで布団に潜り込んでいた。
自分だけ逃げて、ズルいぞ!
俺は心の中でそう叫んだ。
どうしていいかわからず呆然としていると、ふと視線が気になってゾルフの方を見てみる。
焚き木を挟んでこちらを見ていたゾルフが笑いをかみ殺すような顔をしていた。
アイツ・・・むかつくな。
湧き上がる殺意。ほぼ八つ当たりに近いそれは確実に俺の心を蝕んでいった。
「ゾルフぅ・・・うわっ!」
しかし怒りで頭に血が上っているときに、俺は唐突にバランスを崩した。
ベタンと尻もちをつく。
痛くは無かったが、唐突な転倒に驚いて足元を見る。
すると、そこには耳まで真っ赤にしたエラメリアが布団から顔と手だけを出しており、その手はしっかりと俺の足首をつかんでいた。
エラメリアにこかされたのか。
一体何のために?
疑問に思ってエラメリアの方をみていると、急に足をつかんでいる彼女の手に力がこもった。
ズルズルと彼女の方に引っ張られる。
待て待て待て。これってオイ。もしかしなくてもそういうことだよな・・・?
地面に手をつき必死で抵抗をするも、掌は砂粒をつかむだけでなんの役にも立たない。
「エラ、ちょっと?」
「・・・」
彼女は何も言わない。
ただただ、強い力で俺の身体を引っ張っていく。
うっすらと開けられた布団が、まるで化け物の口か何かのように待ち受けていた。
「おい、エラ! エラメリアさん! ・・・う、うわあああああ」
ずむり。
小柄になった俺の身体はあっさりと布団という名の化け物に飲み込まれてしまった。
外にはい出ようとするも、布団を操っている本人さんが俺を抱きしめて離さない。
しかも正面で向き合うように拘束されてしまったため、エラメリアの特大のそれらが俺の顔に強く押し付けられてしまう。
それを認識した途端、俺は鼻血が噴き出したかのような錯覚にとらわれた。
体に力が入らず、パクパクと口を開閉する。
それに合わせてエラメリアが身をよじった。
「エ・・・ラ、」
「んっ、しゃべらないでください。くすぐったいです」
返事をするのも躊躇われ、少しだけ頷くことで意思を伝える。
なおも彼女は耳元で囁いてきた。
「先ほどは取り乱してしまいすいませんでした。でも、ステフと一緒に寝たいのは本当です。だから、本当に嫌じゃなければ許してくれませんか?」
この身体になって初めて気が付いたこと、それは俺は耳が滅茶苦茶弱いということだ。
エラメリアの声と息に耳を撫でられ、最初は我慢して耐えていたものの今では完全に脳が蕩けてしまった。
その甘美なる刺激は正常な判断を根こそぎ奪っていく。
エラメリアの謝罪ならざる謝罪は俺の理性を粉々に砕いてしまい、力を抜くことで服従の意を表すことしかできなかった。
諦めて素直にエラの背中に手を回す。
結果、二人は抱き合うような形で横たわっている。
息を吸えば、とても風呂に入っていないとは思えないほどの甘く清潔な香りが鼻孔をくすぐる。
俺は臭くないだろうか。
肩甲骨まで伸びていた長い髪は朝方触ったときはちょっぴりぬめっていたかもしれない。
そんな心配事も、秒を重ねるごとに薄れてゆく。
彼女の匂いと人肌の温もりに当てられ、俺は意識の奥底に沈んでいくのを感じていた。
おやすみ、エラ・・・。
完全に意識を手放す直前、俺は自分の頭を優しく撫でられたのに気が付く。
髪を通じて伝わる体温は俺を安心させてくれる。
それはどこか懐かしさを感じさせる感覚だった。
恥ずかしさや興奮、虚しさや寂しさといった感情が、ぐるぐると渦を巻いて意識とともに霧散していく。
なんかもう、どうにでもなってしまえ。
心のつぶやきを最後に、俺は快楽の波へと飲まれたのだった。
なんだか官能小説っぽい文章になってしまいましたが、筆者は至って本気です。