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第十二話-詠唱への憧れ

 旅路を行きながら、ゾルフに魔術についてもう一つ大事なアドバイスを貰った。

 魔術を使用する際の”掛け声”についてだ。


「ゾルフが俺を助けてくれた時に魔術の名前みたいなのを唱えてた気がするんだけど、俺がさっきやってた術にはそういうものがないのか? もしかしたらそっちの方が俺に合うのかもしんないんだけど」


 そう問うたのがきっかけだった。


 詠唱とか術名を口に出すだけで魔力が形となって現れてくれればどれだけ楽だろうか。

 さっきまでの頭が痛くなるような鍛錬なんてやらなくて良くなるのでは?

 それに杖の能力は雑念が混じりやすい。

 武器や技の名前といったものの暗記は昔から得意だったので、そういうのがあるなら俺に丁度いいのではと考えたのだ。


 ちょっとセコイ希望の元、早速その疑問を口に出してみる。

 しかし、ゾルフの答えは芳しく無いものだった。


「あー、ステフにはまだ無理かな」

「まだ?」

「おう。術を展開する時に口走ってるヤツは、特に意味を持ったモノじゃねえんだ」

「えっ無いのか。じゃあなんであの時?」



「それは・・・ちと説明しにくいな。生命力を魔力に変換するっつう面倒な過程を全部すっとばしてカタチにしたい時、言葉にすることで自分の中でのイメージ?みたいなんを簡単に作れるようになるんだ」



「難しいな。黙ってやるより、口にしながら術を組んでいった方が分かりやすいってことか?」



「ざっくりと言えばそういう感じだな。正確には口にした語に体が勝手に反応して魔術を組んじまう、ってのが近いんだがな。コレにはまず、術の出し方をカンペキに理解しなきゃならねえ。生命力の変換から魔術を生み出すまでの感覚を体に叩き込むんだ。そして自分の中で立った流動のイメージをそのまま最もわかりやすい言葉に表す。さらにその言葉を口に出しながら魔術を展開する練習を繰り返すことで、唱える度に条件反射で魔術が出てくるようにすんのさ」



「なるほど。魔術の組み方を簡単な言葉に詰め込んでるってことか」



「ああ。だから同じ術でも人によって違ってたりする。俺は強めの炎魔法を出すとき威力に合わせて”〇〇ファイヤ”って言うようにしてるが、人によっちゃ”生命力を右手にこうして炎をトウ!”とか”我の内に秘めし力よ。血と汗の結晶よ。今こそ我の願いに答える時だ。命を削り此の右手に其方らの力を集結させ、邪悪な火炎を以てその怒りを見せつけよ!”みてえな長いのもある。酷いのじゃ”そうそうそう右手に来た来た来た・・・はいはいはいハイ!(発動)”なんてのもあったりするんだぜ」



「うわ・・・二つ目のはともかくそれ以外ので一気に夢が無くなった」



「ははは。だろ? ステフが元々唱えるという行為にどういう考えを持ってたのか知らねえが、あんまり憧れる程のモンじゃねえし、まして魔術が苦手なヤツなら尚更難しいのがコイツの欠点なんだな」



「最初にやってた、時間がかかるけど無詠唱での発動の方がいくらかかっこいいな」



「そんなもんだ。それにちょっとした詠唱とか術名なんかで発動されちゃオレらも迂闊に話せなくなるし。口にしても最低限のイメージは持っとかねえと発動しない、ぐらいの制限はつけとかねえと便利過ぎて逆に使い物にならねえ」



「確かに。ってことは、俺も詠唱魔術とかを極めたいならまず素で魔術を組めるようにしなきゃならないのか・・・」



「まったくその通りなんだが、これを聞いてもまだその方向で術を使いたいとか・・・どんだけ命名(ネーミングセンス)に自信があんだ・・・?」

「や、そういうことじゃ無くてだな。ホラ、あれだよ、えーと・・・仲間! パーティで戦う時なんかに魔術使用者が何をしようとしてるか、味方もすぐわかるようにしたほうが良いだろ!?」

「滅茶苦茶とってつけたような言い訳だが、まあそういう時もあるわな」

「だよな!?」



「でもフツウは術者は近接戦の奴らから要請があって術を使うもんだし、第一基本的な立ち回りは味方の回復と足場確保などのフィールド調整だ。全員で連携組んで綺麗な戦い何ぞや超上級パーティ様でも難しいんだぜ」



「・・・はい」


 こんな感じで俺の夢はまた一つ潰えてしまった。


 少々魔術を舐めていたようだ。

 なんでもかんでもご都合主義って訳にはいかないんだな。


 楽になりたいならそれ相応の努力と才能が要るってのは現世と全く変わらない。

 文化や価値観が違う俺にはかなりハードな世界だったようだ。

 元からあった転生モノの知識が全く活きる気がしない。


 というか、今まで読んできた本の知識が参考になる機会が全くねえ。

 ここは現世での異世界のイメージと違いすぎる。

 魔術ってもともと全てにおいて都合のいい存在なんじゃなかったのか?

 まあ先人の暇つぶしがきっかけで生み出された程の物らしいからそんなもんなのかね・・・。


 現実を見せつけられ思わず溜息が漏れる。

 俺の心境を察してか、ゾルフがにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。


「おいおい、もうギブアップか? オレやエラたんに追いつく、とか言ってたがアレは口だけか?」

「なっ! んなわけあるか! ちょっと俺の思ってたのとズレてて驚いただけだ。バカにすんなよ」

「へいへい。・・・そうだ、あの時は羨ましくて黙ってたんだが、オレらが最初に出会ったとき実はステフから底知れぬ才能が感じられてたんだワ」

「えぇっマジ? ・・・くく、そうだと思ったんだよ。俺もなんとなーく、自分は一度勢いがついたらグンと成長していくタイプなんじゃないかと思ってたんだ」

「ソウソウ。オレもうかうかなんかしてられないネ」

「のんびりしてると簡単に置いてっちまうぞ?」

「イヤー怖い怖い。抜かされないように頑張らないとナー」

「ぬははは。まあどんなにゾルフが強くなってもいずれは抜かすつもりでいるんだけどな!」

「オレのナニをヌかすつもりなんだ」

「ん? なんて言った?」

「なんでもねえ。ステフに抜かれるのは危ないって言ったんだ(色んな意味で)」

「そうだろそうだろ。まあ笑ってられるのも今の内さ。でも大丈夫、俺が天下を取ったらゾルフも直属の部下として丁寧に扱ってやるから安心してくれ」

「んぷっ、身に余る光栄でございます・・・この子アホや」

「ん? なんか言った?」

「なんでもねえ。ステフの才能が怖いって言ったんだ」


 そうか? ならいいんだが。

 一瞬馬鹿にするような単語が聞こえた気がしたが、気のせいだったようだ。


 しかしゾルフもなんだかんだで俺に一目置いてくれてたみたいだな。

 まあ当然のことだろう。


 現世ではゲームなど数時間もあれば並み以上の実力は習得できていたからな。

 一部では賢者と呼ばれて崇められていたりもする。

 自分の好きなことでは簡単に上位に食い込める、隠れ天才タイプなのだ俺は。


 だがそれを鼻にかけたりはしない。

 なんたって上には上がいるんだから。

 経験から俺はそういうことも理解できる大人だったりもするのだ。

 いやはや、我ながら自分のスペックには驚きですな。ガハハ。


「・・・ステフも心配ですが、ゾルフもあまりからかわないでください」


 エラメリアが不満そうな目で振り向いた。

 先ほどの会話に物申したいことがあったらしい。

 ちょっぴり頬が赤らんでいる。


 俺が心配? どういうことだ。それにからかうとは何ぞや。


「悪ィ悪ィ。でもステフがマジで面白いから。エラたんもご一緒にどう?・・・いやすまん嘘、発言には気を付けますので除名は勘弁してください」


 エラメリアが本気の目で圧力をかけたことでゾルフが大人しくなった。


 だからさっきから二人が何を話しているのかわからないんですが・・・。

 この間の件もそうだけど、俺を置いてけぼりにして二人だけの世界に入らないで欲しい。


 仲が良いのを邪魔する気は無いが、俺だけ仲間外れ感があって少し悲しいのだ。

 はぐれっ子には慣れたつもりでいたが、俺もまだまだだったようだ。


 あと、なんか子供扱いされてるみたいで嫌だし。

 今の見た目がどうなのかよくわからないが、ガキの頃から脳は停滞してるとはいえ中身はれっきとした大人(19)なのでその辺も配慮してくれると有難い。

 まあ子供っぽく振舞ってる自分に少し酔ってるのも認めるけどさ・・・って何を言わせる。


 俺の何か言いたげな顔に気付いてか、エラメリアは「なんでもありませんよ」とにっこり笑いかけると再び前を向いて歩きだした。

 誤魔化された事にはすぐ気が付いたが、彼女の笑顔の前に俺が文句を口にすることなどあり得なかった。

 美人はこれだからズルいのだ。

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