≪エラメリア=シーストーン≫
初のエラ回です。
先日、獣族が住んでいる村へ訪ねました。久々に私の友人に会いに行っていたのです。
一ヵ月程滞在し、その間様々な経験をさせていただきました。
畑仕事をお手伝いしたり、新しい武器を取り入れた狩りの現場などを見学したり。他にも現地の子供たちに剣術を教えたりもしてました。
見返り、と言ってはなんですが、お礼にご馳走を振舞っていただいて大変満足した時間を過ごさせてもらいました。
あそこはいつ行っても暖かく迎えてくれます。
そしてあっという間に予定していた滞在期間が過ぎてしまいました。
名残惜しく感じつつも、この後も予定があるので仕方がありません。
村人達の見送りを背中一杯に受けながらその村を出発しました。
また来ますね。
元来から旅好きな私は、折を見ては昔お世話になった方々や友人を訪ねて回るのが趣味なのです。
突然押しかけても皆さん快く受け入れてくださいます。たまに忙しいようであればまた別の機会に訪れます。
目的をもって出発するのが常ですが、特にこれといったアテもなく旅をすることもあります。
一人で有名どころを見分するのも魅力的ですし、旅先で出会った方々とお話ししたりパーティを組んで冒険したりするのもいいですね。
とにかく、私はほぼ一年中旅をして過ごしています。母国に帰ってることなんて殆どないですね。
私には親がいません。
物心ついた時には孤児院で生活していたので、親が私を捨ててしまったのかそれともとっくに死んでいるのかわかりませんでした。
ただ、そのお陰か寂しいと思ったこともありませんね。
顔も知らない親なので特に思うこともありませんでした。
それに孤児院ではとても良くして頂いたというのもありますしね。
なので私がいつどこで何をしていようと、誰も心配してくださる方はいません。
ですが私の放浪癖も相まってそれを悲しんだことはありませんでした。
色々と都合のいい性格で助かってます。
そんなこんなでこの日も私は林を歩いていました。
次に向かうは巨大な神殿を持つ国、ハルミトン王国。
ラノヴァ神殿と呼ばれる世界トップクラスの建築物を中心に発展し、大陸の一角を占めている大国です。
そこには私がお世話になった師が住んでいらっしゃるので久しぶりに会いに行こうと考えています。
その師にはよくゾルフや仲間たちと拳骨を食らわされたものです。
殆どがゾルフの蛮行がきっかけでしたが、仲間たちと馬鹿なことをしたというのはいい思い出ですね。
師はお元気でしょうか。
過去に思いを馳せながら歩いていると、いつの間にか陽が真上に来ていました。
この時期は昼が短いので困ります。まあ急いでる訳でもないのでいいのですが。
少し行った先に大きな木が立っているのが見えました。
枝がいい感じに日陰を作ってくれています。あそこまで行ったらお昼にしましょう。
私がのんびりと木に近付いていた時でした。
「あっ!」
そんな叫び声が聞こえてきました。空の方から。
風を切る音が近づいてきます。私はとっさの判断で地を蹴って飛びのくと、空から降ってきたそれを目撃しました。
何かモコモコしたような毛糸玉・・・動物の毛でしょうか?
「かハッ」
落ちてきたモコモコは地面に衝突するとそんな怪しげな音をたてました。
「ん・・・うぅ・・・」
どうやら生き物のようです。そうと分かればゆっくりしていられません。私は急いで駆けつけました。
モコモコは案の定生き物でした。それは人型をしていて、モコモコして見えたのは髪の毛でした。ところどころ砂埃にまみれて目を回しています。
「ちょっと! しっかりしてください!」
大声で呼びかけるも反応がありません。
私は頭上を見上げました。
木の皮が一部激しく削られたような跡を発見。地面から結構高い位置にそれはありました。
・・・まさかこの高さから落っこちたのでしょうか。頭から。
呼吸や脈を確認したところ以上はありませんでした。
軽い脳震盪を起こしているようです。
私はその子を木のそばで寝かせてやり、起きるまでそばにいてあげることにしました。
見れば見る程その子はとてもかわいらしい顔立ちをしています。
濃いめの紺色の長い髪に、小さな顔。目鼻立ちはよく整っていて、ちょこっとだけ中性的な顔立ち。
大きな目は瞼を閉じていてもよくわかります。
胸はうっすらとですが服を押し上げていました。女の子で間違いないと思います。
小柄な体つきから察するに、おそらく10歳辺りでしょうか。
こんな華奢な身体でよく木登りなんてしようとしたものです。起きたら注意しておかないと。
いつのまにか彼女に魅入ってしまっていました。
気が付いたら結構時間が経っていました。
この子は正直に言って、私の好みの顔です。別に変な意味ではありませんよ。
でも何か庇護欲をそそられるんですよね。
無防備にも四肢を投げ出し、すうすうと気持ちよさそうに眠る顔は同性であれど目が離せません。
そう言えば昼ご飯を食べ忘れていました。
恐らくこの子も食べていないので、一緒に作っちゃいましょう。それにいつまでも眺めてるわけにはいきませんからね。
そう無理やり自分に言い聞かせて、私は女の子に背を向けました。
・・・うん、やっぱり後ろが気になります。もうちょっと眺めていたい。
己と葛藤しながら調味料を取り出していると、急に後ろから激しい視線を感じました。そして何者かが急接近してくる予感。
完全に自分を見失っていました。急いで回避しようとするも間に合いそうにありません。
焦った私は何もすることが出来ず、その巨大な気迫に飲まれてしまいました。
がしっ
「?!」
命の覚悟を決めた途端、お尻に激しい圧迫感。何者かが私のお尻にしがみついていることはすぐにわかりました。
一体誰が・・・そもそも、後ろの女の子は大丈夫なのだろうか。襲われてないと信じたい。
恐る恐る振り返ってみると、さっきまで女の子がいたところには何もおらず、代わりに私のお尻に紺色のモコモコしたものが張り付いていました。執拗にモコモコを擦りつけてきます。いや女の子かい。
「なにするんですか! 私のお尻にだきついて!」
思わず魔術を使って吹き飛ばしてしまいました。
いけません、突発的な使用だったので手加減を誤っていたら最悪です。女の子は大丈夫でしょうか・・・? てなんで私が心配しているんでしょう。
そんな私の不安をよそに、女の子はむくりと起き上がりました。そして何を言われてるのかわかって無いようで、ぼーっとした顔でこちらを見つめてきます。
一瞬彼女が平気だったことに安心し、すぐにさっきまでの怒りを思い出して声を荒げます。
「なんでそんなきょとんとした顔をしていられるんですかアナタは! ご自分のしたこと解ってます?!」
そう言うと初めて女の子は自分のしたことを理解したようです。
驚いた顔をした後、みるみる恐怖に顔が歪んでいきます。私に怒られると思ったのでしょうか。
確かに最初はかなりびっくりしましたが、別にそこまで怒ってるわけでもありません。もちろんちゃんと注意もしますが。
さっきの魔術による怪我はないか、確認も兼ねて女の子に近付きました。
するとどうでしょう。怯えていた顔が一転、覚悟を決めた者の顔をしているではないですか。
自分から謝ろうとしているのでしょうか。
少なくともさっきまでの弱さは微塵もありません。
コロコロ変わる表情にこのあと少女がどんな行動にでるのか、私は若干期待しながらも近付いていきます。
もし素直に謝るような偉い子でしたら少しは褒めてあげましょう。
仮に逃亡するようなことがあれば・・・捕まえてお尻ぺんぺんです。
そんな思いを胸に私はその女の子の前まで来ました。その子はしっかり私の目を見据えます。来る。
結論から言わせて貰えば、私が思っていたのとは真逆の行動に女の子は出ました。
なんと私の胸に飛び込んできたのです。そしてそのまま盛大に揉みしだかれてしまいました。
「ぎゃああああああ?!」
とっさのことで私もそんな色気のない悲鳴を上げてしまいます。
そして二度目の魔術(無意識)。
女の子は宙を舞いながら、やり遂げたと言わんばかりの笑みを顔に張り付けていました。
そのまま頭から着地、今度こそ女の子は意識を失ってしまったようでした。
またやってしまった・・・でも今回ばかりは絶対に謝りませんからね。
こうして私と後にステフと名乗る女の子のバタバタ忙しい最初の交流は成されました。
その後色々あって一緒に旅をすることになります。
何はともあれ出会いが最悪すぎる。
女の子は一人、幸せそうな顔で地面に沈んでいました。
さて、起きたらまずどうしてやろうか。お尻ぺんぺんなんかじゃ済ましませんよ。
親方空から女の子がー!展開がここにきて発動です。