1. 暁月紫苑の愛
※セリフほとんどなくて読みにくいかもしれません…!
やあ、君か。はじめまして。君は何か叶えたい願いなんて、ある?せっかくだから少しお話でもしない?いやあ、僕は怪しいものではないよ。お話って言っても、ほんの世間話のようなものだから。まずは自己紹介から。
X X X
僕の名前は暁月紫苑。乙女座、AB型。年齢は…知らないんだ。実を言うと、この名前だって本名じゃない。もっと言うと、乙女座、AB型っていうのもそうだったらいいななんて思ってるだけだしね。自分のことはほとんど知らない。何せ、小さい頃から独りぼっちだったから。両親の顔は知らないし、育てられた環境も酷いものだった。今思い出しても、我ながら可哀想な少年時代だ。あれほど不幸な体験をした人なんて、そうそういないよ。
そして、僕がそんな目に遭ったのは全て、人間のせいなのさ。一から十まで全部ね。一度、騙されてなにもかもが奪われたこともあった。世の中には「騙される方も悪い」なんていう人もいるけれど、そんな理屈が通じない程に酷い手口だった。そのほかにも死にたくなるくらい不幸な出来事はあったけど、数えだしたらきりがない。
ん?結局何が言いたいのかって?いやいや、別に不幸自慢がしたいんじゃないんだ。それに、僕が誰よりも不幸だったのは、誰よりも幸福な出来事だったんだ。だって、人間のおかげで僕は愛を知ったんだからね。まずは、その辺から話すことにしようか。
X X X
気づいたら、僕の両親はこの世にはいなかった。本当に何も覚えていなかったから、悲しいとも寂しいとも思わなかったむしろ、哀しくて淋しかったのは、僕を保護する人がいたことだ。僕は盥回し(たらいまわし)みたいにされて、遠い親戚に育てられた。両親のどちらとも血が繋がっていない人だよ。
それは子供がいない新婚の夫婦だったんだけどね、毎日酷かったよ。お互い顔を合わせれば、暴言を吐き合うんだ。よく疲れないよねっていうくらい。暴言を吐き合うだけなら僕は何とも思わなかった。でもね、その2人はストレスの捌け口に僕を選んだんだ。朝は2人ともいて、顔を合わせれば喧嘩をする。昼間は女の方がいて、僕を棒で殴る。夜になると女の方は家を出て行って、代わりに男の方が帰ってくる。男の方は素手だったけれどね、とても力が強かった。一度だけ死にかけたこともあったよ。今となっては懐かしい思い出だね。
でも、そんな生活が続いたのは僕の身長が140センチを越えたくらいまでだ。多分あれは…世間では明日はクリスマスだとかって騒いでた夜だね。夫婦は2人とも愛人のところに行っていて、真っ暗な家には僕以外誰もいない。どうにも暇だったから、見ることを許されていないテレビをつけたんだ。たまたま押した端っこのボタンのチャンネルでは、クリスマスだというのにつまらなそうな哲学の番組なんかをやってた。楽しいものを見るような気分じゃなかったから、ぼーっとしてそれを見てたんだ。それは正しい選択だった。3秒後に僕の人生を導く言葉に出会ったのだから。
『憎む前に知れ。憎む前に愛せ。そうすれば新しい世界がみえる』
誰が言っていたのか、その後どういう話が続いたのかも覚えていないけれど、その言葉だけははっきりと覚えているんだ。
それから行動するまでは、カップラーメンができるよりも短かったんじゃないかな?…それは冗談としても、すぐにテレビを消して準備にかかったよ。もともと持っているものはほとんど無かったから、肩掛け鞄一つでも大きすぎるくらいだった。
え?なになに?あ、言ってなかったね。僕は家出をすることにしたんだ。ずっと人間が憎くて憎くて仕方なかった。主な原因はあの夫婦だったけれど、僕を盥回し(たらいまわし)にした人たち、気づいているのに助けようともしない人たち、そして行動を起こさない僕自身…。でもね、僕は知らなかっただけ、見ようとしなかっただけなんじゃないかって思ったんだ。だから僕は、もっと人間のことを知りたいと思ったんだ。
そしてかなりの時間が経った頃、一つの結論に辿り着いた。僕は人間の自己中心的なところが憎かった。でもそれは、人間が欲望に正直なだけなんじゃないかってね。そう、欲望に嘘偽りなく、生きている。欲望に正直になろうと思えば嘘もつくだろう。そのほうが業が深いかもしれないけれど、僕にとっては欲望に嘘をつかない方が美しいし、愛おしく思えた。それに気づいた瞬間、僕はやっと心から、人間を愛していると感じたんだ。
X X X
おっと、少し長くなってしまったね。ご清聴ありがとう。また僕の話が聞きたくなったらおいでよ。いつでもここにいるから。僕も楽しかったよ。今度は僕の仕事…まあ、趣味に近いけれど、そういう話を聞いてほしいな。
ああ、夕暮れが綺麗だね。君もそう思ってる?そう。あれを自分のものにしたいと思う?まあ、叶わないと分かっていれば、望まないよね。僕もね…しまった、いけないいけない。ついまた話を長くするところだったよ…。じゃあ、日が落ちる前にお家へ帰らないとね。
また会える日を、楽しみにしているよ。
次回予告は紫苑くんがだいたいやってくれました。
紫苑くん、病んでますね(笑)
これからどうなるのか分かりませんが、次回もお付き合いください。