彼の渾名は住職さん
短めの話
仕事というモノは己の身を削るものだ。
カタカタとキーボードを叩く音が鼓膜を叩く。
目は画面上に羅列する文字を追っていた。
机の上に転がる褐色の瓶。
ドリンク剤である。
″肝油″と書かれた缶に手を突っ込み一粒手に取るとそのまま口の中に放り込んだ。
「お身体に悪いですよ、部長?」
話しかけられたのでピタリとキーボードを叩く手を止め、顔を上げた。
「…住職か」
坊主頭の人の良さそうなスーツ姿の男性が俺の机の前に立っていた。
本名、丸米 禊。
あだ名を住職という。
「もっと体調管理をして頂かないと…。貴方が倒れたら貴方の仕事が私に回って来るのですから」
「相変わらずだなお前は…」
にこにこしているくせに言葉にトゲがあるのは、あまりにも俺が休まないから怒っているのである。
書類が回って来てもこいつは全くと言っていいほど怒らない。
凄く良い奴なのである。
面倒見もいいので沢山のやつから慕われている。
再び仕事を始めた俺の書類やらなんやらで汚い机の上に住職が何かを置いた。
それは温かそうに湯気を上げる緑茶だった。
「苦めに淹れたので目が覚めると思いますよ」
「おう、わざわざすまねぇな」
湯呑みを掴み、俺はぐいっと緑茶を口に含んだ。
緑茶独特の苦味を味わいながら飲み込んだ。
「にげぇ…」
手の甲で乱暴に口を拭った。
住職は呆れながら俺を見た。
「苦いって言ったでしょう?」
「あぁ…。目が覚めた」
口にまだ苦味が残っている。
俺は口直しにもう一度肝油を口に放り込んだ。
「さて…もうひと頑張りだな」
持つべきモノは良い友ってな。
俺は再びキーボードを叩き出した。