ラスト・フール
四月になった。
私達は中学を卒業した。
桜が咲いた。
私達は遊園地に行く事になった。
春休みの真っ盛り、この時期は何処も混んでいて無駄にいちゃつくカップル親子連れが多く見られる。
そんな人混みを掻き分けるようにして約束の場所に着いたのは、待ち合わせ十五分前だった。
「…あっ」
遊園地入口の噴水前、そこには先着があった。
まだ染めていない短髪、バスケ部で鍛えられた大きな身体。手にしているケータイが小さく見える。
――坂下だ。
ふと、彼が顔を上げた。
ガタイの良い身体つきとは対照的な線の細い輪郭、すっと通った鼻筋、こちらに向けられた切れ長の瞳は、何故か少し厳しかった。
かち合う視線が何だかもどかしく、私は坂下と不自然な距離で足を止めてしまった。
「小野田…遅い」
「は?」
紡がれた第一声。いつも通り意味不明。
「遅い」?まだ約束の時間まで十五分ある。
「いつもなら小野田は三十分前には来てる」
「…そうだけど」
もしも道に迷ったら、バスに乗り遅れたら、電車が止まったら――。
色々想定していつも前々に家を出ると、結局暇なくらい早く待ち合わせ場所に着いてしまう。
でも、今日はあれやこれやと準備しているうちに、予定の出発時間を越してしまったのだ。
…全く、誰のせいよ。
「これじゃ、あまり時間かけられないじゃん」
坂下は朝から膨れっ面だ。あんたがやっても可愛くないって。
「ほら、」
突然、カバンの中から小さな箱を取り出した。
「何?」
「誕生日」
「え、っあ…」
覚えてくれてたんだ。
それだけでこんなに嬉しいものだなんて。我ながら自分の単純さに呆れた。
勿論顔には出さないけど。何というか…意地だ。
「開けていい?」
「うん」
おもむろに、箱を開けてみた。
私は、こぼれそうになる驚きを寸手の所で抑えた。
シルバーのシンプルな指輪。
「これ…」
「あげる」
「っ…、ありがと」
何だかそれだけじゃ伝わらない気がして、私は指輪を取り出すと、自分の指に通そうとした。
「おい」
「っえ?」
いけなかっただろうか。
動きが止まる。
「違うだろ」
坂下は苛ただしそうに指輪をひったくると、私の手をとった。
そして、指輪を通してくれた。
――左手の薬指に。
「え…?」
流石に驚きを隠せない。
「っ、あんた一体何を――」
「今日は四月一日だろ?」
「そうだけど」
「エイプリルフール」
「はい?」
「だから、今日はエイプリルフールだろ」
「…あー」
つまり、これは嘘ってことで。
呆れた。怒る気も失せた。
危うく信じるところだったと、私はまた守りを固くした。
そんな気も知らず、坂下はウザったいほどに罪深くも笑う。
「今日が最終戦だ、絶対負けない」
「まだやってたの?」
勝手に一人でやってろ。
ホント、サイテー
「付き合えよ」
その言葉はもう、私をときめかしたりなんてしなかった。
噴水の前に集まって来るのは、中学で関係が密だった子たち。
私、小野田智春と坂下翔、板倉琥珀、瀬戸淳彦、涼森早苗、辻綾乃。
いつもの六人。
最後の六人。
仲間が一人、また一人とやって来る度に、坂下はつまらなそうな顔をした。
その左指には、私と同じ指輪が危なっかしく光っていた。
私は彼と極力目を合わせないようにしていた。
しかし、俯き加減にやたらよく喋る私を不自然に思ったのかもしれない。とうとうそのことに気がついたのは綾だった。
「あれあれーチハ、何かいいもの付けてんじゃん」
このまま隠し通せるかと思ったけど駄目だった。流石に綾は鋭い。普段から人の服装や髪型をよく見ているだけある。
それに、綾とは今まで一番一緒にいる時間が長かった。毎日そばにいたからこそ、ちょっとした私の変化も見破ってしまう。
遅ながら他の人達もそれに気付いたようで、私の周りには瞬く間に人集りが出来た。
「えっ…そういや智春ちゃん、今日から十六歳だね」
幼稚園の頃から付き合いのある早苗も、私の誕生日を覚えていた。
「すげー、まさか智春が一番にゴールインかよ」
「まさかは余計でしょ、コハ」
綾が板倉を嗜める。二人は同じマンションに住む幼馴染だ。
「んで、」
しかしその奥で、綾の瞳は好奇心をちらつかせていた。
「お相手は誰なんですか?チハさんや」
「えっ、あー…その」
「何勿体ぶってるのーウチら小学生からの仲でしょ」
「だ、だって…早苗っ」
「私達は幼稚園からの付き合いだもんねー、智春ちゃん」
「そんな殺生な!」
この中に私の味方なんていなかった。
動転した私は、不覚にも坂下に視線を送ってしまった。
皆もそのまま彼へと目を向け、
「……っえー!翔ちゃん達ってそういう関係だったの?」
校内の恋愛事情にやたら詳しい綾も、流石にこのことには驚いたらしい。
やってしまった。
興奮気味に坂下を囲む皆の陰で、私は頭を抱えた。
坂下は笑っていた。それが何より悔しかった。
「まぁな、サプライズってヤツ?」
「すごーい、あんたらまだ中学卒業したばっかりなのにもう青春真っ盛りなんて。二人ともおめでとうね。何か実感湧かないけど」
「ああ、どーも。ま、末永くよろしく、智春」
「っ!この…!」
ヘラヘラした坂下のだらしない顔。
私は、殴りたくなる衝動を必死で抑え込んだ。
それを照れてると捉えたのか、周りは頻りに囃し立てるばかりだ。
ホント、サイテー
「あ、でもさ、そういえば今日ってエイプリルフール…だよね……」
瀬戸が、おずおずと口を開く。
助かった。
優しい瀬戸は、唯一の私の味方になってくれた。
だから、瀬戸は何も悪くない。なのに、坂下が睨みをきかせたせいで、瀬戸は縮こまってしまった。
「…あー、なるほど、道理でおかしいと思ったわ」
数秒あって、全てを理解した綾は心底がっかりしたらしく、声のトーンが幾分か下がっている。
「なんだよ翔、その割には随分凝った嘘だなー」
板倉はまだいじり足りないのか、ニヤニヤしている。
「ったく、お前は――」
「嘘だよ」
坂下の言葉を、私は遮った。
これ以上何かされたらたまらないから。
「今日誕生日だからこそ出来るとっておきの嘘でしょ?皆すぐ引っかかるんだからー」
案外、スラスラ言葉が出てきた。
でも、坂下の表情を伺う余裕までは無かった。
ただ、微かに彼の舌打ちを聞いたような気がした。
「気に入らねぇ」
坂下の口からこぼれた小さな呟き。
しかし私には十分効果があった。
だからそれ、やめてよ。
「えー、つまんない。私達、やられっぱなしなの?」
そんなことも知らない早苗が、残酷なほど無邪気に余計なことを言った。
その時ふと、彼の笑みを視界の隅に見た。
そう、いつもそんな言葉を吐いた後に見せる、冷たい笑みを。
「…分かったよ」
その声には、またいつもの調子が戻ってきていた。
指輪を外そうとする私の手を強引に自分の手と絡める。途端に、女子群から歓声があがった。
「!ちょっと、何よ」
「エイプリルフールはまだ終わってないよな」
ナニカンガエテルノ、ヤメテ
「償えよ」
「は?」
「今日一日、嘘を通せ」
「なっ…!」
まだ私に嘘をつけと?
まだこれをはめていろと?
マダコノキモチヲカクシトオセト?
繋いだ手に光る指輪は、皮肉にも綺麗だった。
「気に入らねぇ」
坂下がそう呟くようになったのは、去年の夏休み明けからだった。
低い声、暗く澱んだ瞳。
そんな冷たい彼を初めて見た時、私は心の底から恐怖を覚えた。意地でもそれを顔に出さなかったのは、我ながらよく頑張ったと思う。
それは放課後のことだった。
学級委員長だった私は教室に残っていた。
夕日が閑散とした教室を温かいオレンジ色に染める。
なんだかそのオレンジ色が勿体ないような気がして、せめてもと机をきちんと揃える。
私はこの時間が好きだった。
ふと、自分の机を揃えようとした手がピタリと止まった。同時に溜息がでた。
真っ白だった、チョークで。
このまま明日の朝、先生が来るまで放置しておこうかと思ったけど、それも面倒なのでやめた。雑巾で綺麗に拭いてやる。
「気にいらねぇ」
その時だ、坂下は舌打ち混じりにそう言った。
「何?突っ立ってないで手伝ってよ」
彼も、一応学級委員だった。
クラスの皆に仕事を押しつけられた私と違って立候補でなったというのに、坂下は基本何もしない。ただ私の後ろで、私のすることをいつも黙って見ているだけ。
「気にいらねぇって、言ってんだ」
「こういう下らない嫌がらせが?構うだけ時間の無駄よ」
「違う、お前が」
「……」
私はただ黙っていた。
本当は寒気がした。首筋に冷たいものを当てられているような感覚がして。
「私の、何が?」
いざ口を開けても、後ろを振り向く勇気なんて無かった。
チョークの粉を拭きとったら、今度は落書きが現れた。しかも、ご丁寧に油性ペン。
私は、鞄から除光液を取り出す。これくらい、お見通しだ。
「そういうとこだよ」
「分かんないよ、それじゃ」
作業に没頭することで、なるべく彼を気にしないようにしていた。
「自分のことだろ、分かれよ」
「あんたが見て思ったことでしょ、私のことじゃない」
「ったく、つまんねー」
正直、意味が分からなかった。
私の何が、いけないんだろう。
その時、坂下は私の心を見透かしたかのようなタイミングで言ってのける。
「分かったよ、お前が分かってないんじゃ俺が気付かせてやる」
「……」
「勝負だ」
「は?」
「お前が自分を通したらお前の勝ち、俺がお前を変えたら俺の勝ちだ」
「え?ちょっと、何いきなり」
「俺が勝ったら、言うこと聞けよ。絶対負けない」
勝手に宣戦布告して、坂下は教室を出て行ってしまった。
「…何よ、ホント」
私はしばらく、他の机より綺麗になった自分の机を眺めていた。
あれから、特に彼は私に何も仕掛けて来なかった。ただいつものように私の後ろで、私を黙って見ている。
強いて一つ変わったというならば、以来彼が時折そういう表情を作るようになったことだ。
「気にいらねぇ」
彼はその度に吐き捨てるように言った。
分からない。
だから結局、私もそのままでいた。
勿論、それこそ彼を余計苛立たせていたんだろうけど。
知ったこっちゃない。私は私だ。他人に干渉される覚えなんてない。
しかし、どうやらそれも今日が最終戦らしい。
他人事みたいに思うのは、坂下が一体何と戦ってるのか、結局私自身には分からないからだ。
実際、今日で寿命は五年くらい縮んだと思う。
絶叫マシンが苦手なんじゃない。
隣の彼が厄介なのだ。
「…なんで手を繋ぐわけ?」
「言っただろ、嘘だよ」
坂下は平然として絡めた手を放そうとしない。
後ろで皆がニヤニヤしているのが嫌でも分かる。
そしてそのまま乗り物に二人で座るのだ。
「いっつもこれじゃつまんないでしょ!たまにはペア変えようよ」
「駄目」
「ねえ、綾」
坂下じゃ話にならないので、私は後ろの友に助けを求める。
「駄目―」
…裏切り者。
「じゃあ、早苗。一緒に乗ろうよ」
「え、あの…」
何故だか早苗は戸惑い気味。
すると隣で様子を伺っていた瀬戸が、「駄目―。僕が涼森と乗るから」
天使の笑みを満面に浮かべて悪魔のように酷い仕打ちを私に与える。
早苗は耳まで真っ赤にして俯いていた。
お前も同罪だ!
「そういうことだ」
「どういうことよ!」
満足そうにほくそ笑む坂下が気に食わず、私はわあわあ騒ぐばかりだ。
ホント、サイテー
「ねぇ、」
次のアトラクションに並んでると、綾がこちらを覗き込んできた。
「翔ちゃんも翔ちゃんだけどさ、チハがこういうのに協力するなんて珍しいね」
「んー、なんだか断れるような雰囲気じゃなくて」
そう言って愛想笑いを返す。
一瞬、彼に睨まれたような気がした。
「ならいいんだけど…大丈夫?」
「え?」
「チハ、下手な無理はしないでね」
綾は、本当に心配そうだった。
綾はやっぱり、鋭い。
そんな私の態度に気づいたことじゃない。
いつもなら白黒はっきりつけたがるところを、綾は何も本質を聞かずに黙って見守ってくれているのだ。
それから先も、綾は時折そういう顔をした。
大丈夫だよ。
その度に、私はオルゴールのように繰り返した。
神様は皆に平等に二四時間あたえているはずなのに、それでも今日はあっという間に過ぎてしまった。
気が付けば周りも暗くなって、私たちはまた、待ち合わせた場所に戻ってきた。
「ったー。疲れた。すっごい疲れた」
板倉が長く息を吐いた。
「どうしたの、終わった瞬間」
「だってこれから帰るだけじゃん。現実に戻ったと思ったらどっと疲れが…」
「コハ暗すぎー」
他愛ない会話ができる綾が羨ましい。
心の底から笑うなんて、今の私にはできない芸当だった。
「――帰るか」
急に真剣な顔つきになった板倉に、皆は静かに頷いた。
ここでお別れだ。
ここからは、皆別々に帰っていく。
「…じゃあ僕、帰るね」
先に切り出したのは瀬戸だ。
「あ、うん。じゃーね」
反射的に言うと、何故か綾に小突かれた。
「チハ、ちょっと…」
「え、何?」
何故か声のボリュームが最小限だった。
二人でひそひそしているうちに、
「…私もやっぱり帰るね!」
いきなり早苗が駆けていった。
それを見て、綾はにんまりすると、
「うん、頑張ってねーっ!」
その背中に、綾はエールを送った。
持つべきものは友だ。
そして私は、最後まで彼女の友になりきれなかったことを悔やんだ。私の鈍感。
ちょっと遠くてよく見えないが、追いついた早苗が涼森に何か話している。
早苗はそんなに喋ることが得意ではない。それでも一言一言、彼の目を見て伝えようと一生懸命だ。
優しい瀬戸は、ちゃんと彼女の真正面を向いて、話に耳を傾けている。
時節相槌し、最後に大きく頷くと、
彼は笑顔で彼女に右手を差し出した。
早苗は俯きながらもそれに答え、
二人は手を繋ぎながら歩いて行った。
ひゅうっと、板倉が短く口笛を吹く。
「やるじゃん」
「ね、早苗は頑張った」
綾がしきりに頷く。
「ったく、どいつもこいつも結局そうかよ」
「翔ちゃんはもう少し素直になりなさい。もうあの二人見ててずっともどかしかったんだから」
それでも余計な世話を焼かなかったのは、早苗が意志の強い人なことを分かっている証拠だ。
「よし、じゃあ二人のこれからを祈って俺たちは二次会といきますか?」
板倉は相変わらずだ。
「何よその便乗」
綾はケラケラと笑っていた。
きっと二人はこれからも変わらないんじゃないかな。
見ていてとても微笑ましかった。
でも、
「いや、俺は帰るかな」
坂下が、気怠そうにその場を離れた。
――私たちは?
「じゃーな、皆」
もうこちらを振り向くこともなく、彼は軽く手を振ると、ずんずん歩いていった。
サヨウナラ
それに答えるように、私も軽く手を振った。
「いいの?」
「綾…」
「翔ちゃん、行っちゃうよ?これでバイバイなの?」
「っ…」
彼の背中が、どんどん遠くなっていく。
……なのに、足が竦んで動けない。
私の顔を覗き込んで、綾はふっと微笑んだ。
「ったく、あんたは。少しは早苗を見習いなさい。行って来な、今度マックシェイクね」
「…ありがと」
私は走った。
行かなきゃ、彼のとこに。
ちゃんと、サヨナラしなきゃ。
嘘つきなのは、紛れもない私なのだ。
「坂下っ!」
彼の姿が大きくなる。なのに、それと反比例するように私の決意はどんどん小さくなっていく。
怖い。
振り返った彼の表情は、あの時のように冷たかった。
震える手で、少しもたつきながら指輪を外した。
「これ、返す」
言わなきゃ、サヨナラって。
なのに、
「嘘つきな私なんかには勿体ないよ。高校に入ってできる彼女にでもあげたら?」
なんで?どうしてなの?
やるせなくなってきて、気がつけば前が滲んできた。
「…バカっ、分かるわけないじゃん!あんたは何が気に入らないの?」
涙が、後から後から止めどなく溢れてくる。いくら拭っても止まらなくて、余計泣けてきた。
「いっつもそう、あんたはそうやって気に食わない顔で…。教えてよ、私はどうしたらいいの?」
もう分からない。
どうしていいのか、どうしてほしいのか。
ましてや、
――目の前にいる本人が笑っているとなれば。
「――俺の勝ちだ」
「…え」
「やっと、見せてくれた」
ふと、視界が暗くなった。
気がつけば、私は彼の腕の中にいた。
「……坂下?」
「ずっと気に入らなかった。本当はこんなに華奢で、中だって弱いくせに…。クラスでいじめられても、俺がこんなに傍にいても、お前はいつでも澄まし顔で」
「っ…」
「見せてほしかった、小野田の弱い姿。俺に、見せてほしかった……。そしたら、こうやって抱きしめてやりたいって、俺がいるからって言ってやりたいって、ずっと思ってた」
私はようやく顔を上げた。
そこには、誰よりも優しく微笑む彼がいた。
イルミネーションが彼を温かく照らす。
綺麗だなと、素直に思えた。
入学式が来た。
私は高校の門を一人で抜けた。
クラスと出席番号が、昇降口の前に貼り出されている。
大丈夫。
一人でも、ちゃんとやってける。
左指にはめてある指輪は、まだちょっと恥ずかしいけどとても頼もしく思えた。
「俺の勝ちなんだから、言うこと聞くよな?」
あの後、坂下はすっかりそのことを忘れていた私にそう言った。
そして、青ざめる私に命令したのだ。
「指輪、一生つけてろ」
とんでもなく遠回しな台詞に半ば呆れたが、私は律儀にそれを守り通している。
結局お互い様なのだ。
「おい、何にやけてるの」
「ってうわぁぁぁっ!」
「声大きい!何だよいきなり」
背後から声をかけられたことにびっくりしたんじゃない。だってそこにいたのは――。
「…なんであんたがここにいるの?」
紛れもない彼だったから。
「え、同じ高校って言わなかったけ。てか、同じクラスだぞ」
「ウソ……」
掲示物を凝視する。穴が開くくらい。
でも虚しいことに事実は変わることなくそこにあって、
確かに私たちの名前は同じ組に記されていた。
「……ここ都立だよ?坂下って私立に行ったんじゃ…」
「まぁ受かったけど」
こいつ、相当のバカだ。
「何してんの!あんたならもっと上のところ、いくらでも狙えたのに…」
「まぁまぁ、入ってきちゃったものは仕方ない」
「この阿呆!たかが私ごときにそんな大事なこと棒に振って――」
「じゃあ責任とれよ」
「は?」
「精々、この高校に来たこと後悔させんなよ」
「っ!…るさい」
顔が嫌でも赤くなる。
これだから。
そんな私を見て、彼は優しく笑ってくれた。
私だけが知ってる、彼の本当の笑顔。
だから私も――
「ま、精々頑張るよ」
彼だけが知ってる、特別な笑顔を満面に浮かべた。
ああ、でもちゃんと笑うのっていくらかぶりだ。頬が引きつる。
それでも、私の心はいつもより軽かった。
二人の間に輝く指輪は、これからの道を照らしてくれているかのようだった。
素直になるって難しいけど大切なことですよね。ほとんどの方がはじめまして。竜胆です。
まず甘い。チョコレートの砂糖漬けのごとく甘い。途中で蕁麻疹出るかと思った。肌に合わないものを書くんじゃないですね…。
そして登場人物が多くなると描写が機械的になるという悪い癖が出ました。ゴメンナサイ。精進します…。
あと、設定ですね。本来4月1日に誕生日の何処かの誰かさんは本当はこの時点で高校2年生手前の1年生なはずなんです。設定が設定なだけに1年ずらすっていうね。見苦しいことしてすいません。
何はともあれ、ここまで耐えて読んで下さった方々、ありがとうございました!