天使と悪魔
父親は悪魔、母親は天使。
そう聞いたのは私たちが20歳になったその日。
私たちは双子として生まれてきた。
二卵性双生児で、私は姉として、そして同い年の弟がいる。
ただ、その話には驚いた。
「うそ…だろ?」
誕生ケーキを食べようとして、落した弟が聞き返す。
私だって聞き返したい。
「本当よ。お母さんの本当の名前はエリフム。天使の中でも最上位に位置していた天使よ」
「でも、なんで悪魔と知り合いに?」
私が二人に聞く。
「……あれは偶然の産物だったわけだ。なあ」
「ええ、そうね」
両親が話してくれた話を簡単に言えばこういうことだ。
神の使いとして地上に降りてきたお母さんは、見張っていた家の傍で、お父さんと出会って、それからデートを繰り返したりしているうちに、愛するようになったと。
そして、神の許しを得て、地上界、つまりこの世界へ降りてきて、お父さんと結婚して、私たちを産んだと。
そういうことらしい。
「…そんなこと急に言われても、信じることできないじゃないか」
弟が両親に言う。
確かにその通りだ。
「なら、証拠を見せてあげよう。こっちに来なさい」
お父さんが私たちを地下室へ案内する。
いつもは入ってはいけないと言う部屋だ。
コンクリート打ちっぱなしの階段を足音を響かせながら降りて行くと、そこは高校の教室ぐらいの大きな部屋があった。
「では見せよう。自分たちが悪魔であり天使である証拠を」
そう言って、両親は部屋の対角線にたち、私たちは一段高い階段のところからみることになった。
聞き覚えのない言語の呪文を互いが唱えると、床が波打った。
そして、誰かがやってきた。
「ふむ、役者はそろったようだな」
「神よ、お久しぶりです」
お母さんが敬礼していた。
お父さんはそのままたっている。
「そうか、この者たちが……」
私たちを見つめて、神は言った。
「若き子供らよ。そなたたちこそが、次の神だ。心せよ」
「意味分かんねえよ」
はっきりと弟が言う。
「それでよい、今は。それで……」
意味深な話ではあるが、神と呼ばれた彼は、薄くなり、そして消えた。
「……だれ?」
私が聞くと母が教えてくれた。
「神さま。私の元上司」
私たちは、何も言えなくなった。