表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

花火

線香花火







私は、暗い道を一人で歩いていた。


いや、9ヶ月前までは二人で一緒に歩いていた。


その人には、もう二度と会えない。


その人の名前は、相模遥 《さがみはるか》


彼女は9ヶ月前、いや、1年9ヶ月前に死んでしまった。


事は、9年前にさかのぼる。


小学4年生の時、彼女が転校してきた。


一番最初に私と友達になった。


私自身、この頃まで友達がいなかった。


そして、小学校6年生の時事件が起こった。


それは、うちのクラスでいきなり男子が投げていたボールが窓に当たり、その窓が割れたという簡単な内容だが遥が命を落とすきっかけとなる物だった。


「優衣ちゃん、危ない。」


その声と同時に遥がジャンプして、私が受けていたはずの破片が遥の胸に刺さった。


私が、保健室まで連れて行った。いや、正確には連れて行こうとした。


その時、遥の体が不意に重く感じた。見ると、意識を失っていた。


急いで抱きかかえて、保健室に連れて行った。


そして、状況をすべて話した。


先生は、実に迅速に119をプッシュして救急車を呼んだ。


そして、私は帰っていいと言われたが心配だったので、ついて行った。


医者の話だと、胸を貫通して、心臓に突き刺さっていたらしい。


そこで、心臓の裁縫をしたということだ。


ところが、そこで瞬く間に次の事件が起こってしまった。


それは、遥の両親が自動車事故で亡くなってしまうという非常にショッキングな事件だった。


だが、遥は意識を失ってしまっていたので、両親の初七日にも参加できなかった。


そして、中学に復帰した。


その時、日下部未来くさかべみきと友達になった。


ところが、事件は中学校の卒業式練習の時に起こった。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


というすさまじい悲鳴がした。


遥がものすごい形相でもがいていることから発作が起きたのだとわかった。


残念なことに遥は卒業式に出られなかった。


そして、高校に進めたのは未来と私の二人だけだった。


入学式の帰り、未来が唐突に提案してきた。


「ねえ、優衣、遥のお見舞いに行こうよ」


ということだが、私は


「変わっていく遥を見たくない」


といってのけた。


実際、見たくなかった。


高校1年生の時の夏休みのことだった。


私は遥のお見舞いに行った。


その遥を見て、涙があふれ出してきた。


だって、遥が今にも息絶えそうなんだから。


「あのさあ、許可も取らずにくんなよ。」


というきつい言葉をかけられた。


前ならこんなことは言わなかったに違いなかった。


「うるせえな。だいたい、親の葬式にも来ねえなんて、親不孝でも何でもねえよ。今すぐ死ね。」


といい返してしてしまい、はっとなった。


すると、いきなり苦しそうにもがきだした。


ちなみに、遥は人工呼吸器につながれている。


深く目をつぶってしまった。


医者が、大急ぎで遥を運ぶ。


だが、すぐに私のところにいいにくる。


「相模さんは残念ですがお亡くなりになられました。」


だけど私はすぐに言う。涙ながらに。


「でも…せめて1日でいいので延命することは…できないんでしょうか。」


無理だというのはわかってる。でも、あきらめきれなかった。遥の命を、友達として一緒に過ごすことになった日々を……………………………


「できますよ、一応1年だけ、生きている状態を保つことは。意識もはっきりしています。」


その言葉で、救われた気がする。


そして、その夏、お祭りに行ったり、色々してきた。


秋になったら、文化祭に行った。


冬も、一緒になって笑い合う。


そして、遥が得意なピアノでコンクールに参加をした。


私は燃えた。ここで、遥が、催しに出るのはおしまいだと思い、一生懸命な遥を励ました。


コンクール当日、遥が優勝した。


しかし、悲しいかな。夏が近づく。だが、一緒にやろうと、花火を買ってきた。


だが、遙は、泣き出しながらこんなことを言ってきた。


「私、優衣に何もできなかった、ごめんなさい。」


といわれた、何も言えずただただ抱き合って泣くしかなかった。


そして、8月15日が来てしまった。


遥が、倒れてしまった。いや、すでに時遅く、息絶えてしまった。


要するに即死だった。


一応救急車を呼んだが、手遅れだった。


もう動かない遥の遺体をただ抱きしめてやることしかできない。


息が詰まりそうだった。


そんなとき、未来がそっと抱きしめてくれた。


ちょっとしたことで折れてしまいそうな私の体全体を。


そして、9ヶ月たった今日、線香花火をしている。


その線香花火を見て、詩を作った。


 


線香花火          島田 優衣


 


今まさにしている線香花火は実は


 


私が触れることのできるこの世界から


 


私の目の前から


 


無情にも消えてしまった君と一緒に


 


しようとしていた線香花火だって


 


知ってた?


 


だから今


 


もう二度と会えない君のことを思い出そうと


 


線香花火をしている。


 


火花を派手に散らしては消えてゆく


 


まるで君の命みたい。


 


無情にも消えてしまった君の命みたい。


 


 


ねえ、遥。遥の命は1年で消えてしまうって分かってはいたけれど、もしかするともう少し伸びると思ってたんだよ。


あほみたいだけど、ほんとだよ。


遥の命は線香花火みたいだね。


最初はちょっとだったけど中盤から激しい火花を出して、最後は中盤よりもっと激しくなって燃えていく。


ねえ、遥にとってあの時間は、線香花火で言うとどれぐらいだったの?


私の勝手な解釈で悪いけど、私は、ちょっと早めに落ちた線香花火だと思うよ。


楽しいまま終わることを余儀なくされた線香花火だと思うよ。


不謹慎だとは思うけど、苦しんで死んでしまった人より幸せだと思うよ。


私は遥が見てるから大丈夫。


隣で並んでいるはずの遥は居ないけど、十分思い出だよ、ありがとう。


そして、家に帰り布団に着いたが、後悔が私の頭の中で駆けめぐる。


そしてそれを友人でもあり、私の壊れかけた心を支えてくれた未来に打ち明ける。


「私ね、いやになったの。遥を不幸にした悪辣な口も、遥を死なせてしまった、鈍感なこの体も、遥を梁気持ちにさせたまま死なせてしまったこの悪辣で脆弱な心も。」


未来は、その私の言葉を、


「優衣ちゃんは、そんな人じゃない。遥が死んだのだって、優衣のせいじゃない。」


と返してきた。


でも、納得できない。


「あたしなんかのこと嫌いでしょ?遥を不幸にした私なんて、嫌いでしょ?だったら…」


私は胸の中に隠しておいた包丁を取り出す。


「今すぐあたしをこれで殺して。」


といった。おそらく私を必要としている人など一人もいないのなら、私は、消え失せてしまった方がいいはずだ。


でも、未来は、そんな私を平手打ちした。そして、私は、未来の家から出て行った。


私は、家に帰って、思いっきり泣いた。


悔しい。自分がただ泣く事しかできないって言うのが最高に悔しい。


流した涙は、布団の上でシミを作る。ねえ、遥、こんなときどうすればいいの?


そう心の中で語りかけるが、当然返事はない。かまわず私は続ける。


遥はこんな私を許してくれるの?この行き場のない悲しみは、どうすればいいの?


誰もわかってくれなくて、悔しい、悔しいよ、遥。周りの人たちは、友達をなくしたことを哀れんでるけど、あたしは、こんな気遣いいらない。いつも通り接してほしい。こんな思い、どうすればいいの、


「ねぇ、答えてよ遥ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


思わず泣き叫んでしまう。でも押さえられない。この行き場のない気持ちを………………………。


ねえ、遥。あんたの死ぬときの苦しみは計り知れないけど、あたし、遥のこと、一生忘れないから。これからも生きてゆくよ、こんなあたしを許して、遥。


あたしは、夜空を見上げた。がんばるよ、あたし。遥を忘れずに。無理しないから大丈夫。だから、遥もあたしの事忘れないでね。忘れたら、あたし、怒るからね。


あたしは、再び夜空を見上げた。遥があたしを忘れたら、絶対絶対怒ってやるぅ!!


 


end





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして(・∀・)♪ 読ませていただきました* とても面白かったです\(^O^)/ これからも頑張ってください(*^-^*)
2012/09/02 19:41 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ