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百鬼夜行~天上の華~  作者: 雛子
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参ノ刻 深淵に潜みし徒花

「いい?この子は、希望の光なの」


「この子を…お願いね」


「これは、私とあの人の願いなの」


 女はそう言って、深淵の底へと消えていった。



―――――――――――――――――――――――――**



 六合りくごうの私室に現れたのは、黒いローブを着た、男。


「に、にげ… 六合…さま…っ!」


 倒れた葵は最後の力を振り絞って、逃げるように、と六合に言った。しかし、そこで力尽き、力なく倒れた。

 その葵の横を通り過ぎ、六合の寝台の傍に寄った。朦朧とした意識の六合に、悲しい表情を向けた。


「リク…。行こうか」


 男はそう言って、六合を抱き上げると、窓から立ち去っていった。


 その後、ひと足遅く、騰蛇とうだたちが部屋に到着した。扉の前には葵が倒れており、急いで太裳たいじょうが抱き起こした。


「葵ちゃん!?」

「うっ… り、りくごうさまが…」

「…誰が?」

「は、八将神はっしょうじんの…っ」


 その言葉に、騰蛇の表情はより一層険しくなった。


「くそ…っ!」


 自らを責めるように吐き捨てた。


―――――――――――――――――――――――――**


 根の国


 亡くなった人間が次に行く場所。“黄泉の国”とも呼ばれる地の、奥深くにある国。人を忌み嫌う八将神はっしょうじんの拠点でもある。


「…ん」


 六合が目を覚ました時、そこは見知らぬ部屋。朦朧とする意識の中で、必死に状況を把握しようと思考を巡らせる。そうしているうちに、ここが八将神の屋敷で、自分は椅子に縛り付けられていることにようやく気がついた。


「! ここは…っ」

「あ、気がついた」


 突然、六合の顔をふっと覗き込んだのは、黒髪の青年。その顔は心配している様子で、六合の顔を見つめた。


「大丈夫…?」


 青年の言葉を聞いて、六合は少し低めの声で聞き返す。


「…歳刑さいぎょう?」

「うん。そうだよ」


 歳刑と呼ばれた青年は、ニッコリと笑った。六合は、この笑いが少し憎らしかった。


「解けよ」

「え、ヤダ。それよりさ~その傷」

「傷? あ、これか」


 彼が指差したのは、六合の右手と左足だった。壊疽して包帯の巻かれた痛々しいその姿に、歳刑は少し眉をひそめた。心配してくれている歳刑の様子に、六合は混乱した。


「…お前って、僕の敵…だよな?」

「? 俺は、いつでも六合の味方だよ。十二天将が嫌いだけど」

「…ふーん」

「…で、その傷。怨霊?」

「え、あ、うん。仕事中に…」


 すると、歳刑は突然六合の右手を掴み、壊疽した傷にそっと手を翳すと、傷の部分が青く光った。そして、みちみるうちに傷が治っていった。

 傷が完治した六合の腕をいとおしげに見つめると、歳刑は傷のあった場所に恥ずかしげもなくそっと口付けを落とした。


「ちょっ! さ、歳刑!!」

「良くなりますよーに」

「…っ恥ずかしいやつ」

「……やっぱり、ここにいよう」

「?」


 歳刑は苦しそうな顔で、六合の細い体を抱きしめた。突然の行動に、六合はどうしたらいいのか、とオロオロした。


「さ、歳刑?」

「あそこにいちゃダメだ。ここにいよう? 六合」

「ぇ…」


 歳刑は静かに六合を抱き締め続けた。


―――――――――――――――――――――――


 現世


 怨霊を捜して捜索をしている7人の十二天将たち。ビルの屋上で見張りをしているのが、十二天将の長である、天乙てんいつと、勾陣こうちん

 見回るのが、朱雀すざく青龍せいりゅう

 鼻の利く天空てんくうは、白虎びゃっこを連れて人ごみの中を歩いていた。


「なぁ~。なんで、天后てんこうがいねぇンだよ~」

「うるさいわね。黙りなさいよ、勾陣」


 千里眼で見張りをする天乙を邪魔する勾陣は、退屈そうに大あくびをした。


「…なぁ、天乙。今夜、俺様の屋敷に遊びにこないか?」

「お断りよ。意地悪しないで、天后を呼んであげればいいじゃない」

「だってよ~。まだ目的・・、達成してねーし」

「…フン。この女ったらし」

「はっ! 何とでも言え」


 二人の口げんかはどんどんエスカレートしてきていた。

 その時。


『あはは。“ケンカするほど仲が良い”って、よく言いますよね。二人とも』


 二人の口ゲンカを仲裁したのは、見回り中の通信機ごしの青龍だった。


「「仲良くない!」」

『息ぴったりですね。ね? そう思わない、朱雀くん』

『はぁ? 知らねーよ。んなことより、俺は一刻も早くあの怨霊をぶっ殺してェンだよ』

「随分張り切ってンなぁ、朱雀。やっぱ、嬢ちゃんがやられたからかぁ?」


 朱雀を茶化す勾陣は、楽しそうにケラケラ、と笑う。

 すると、天乙の通信機にノイズが入った。その声は、白虎だった。


『…聞こえるか、天乙殿』

「あ、白虎ね。どうしたの?」

『現在、人ごみの中を捜索中だが、人のにおいが強すぎて、天空の鼻がきかないようだ』

「あー、そう。わかったわ。『全員に通達! 全員私のもとに集合! 作戦を立て直す!』」

『了解』


 全員が通信機から返事をする。

 その時。


「天乙!!」


 突然、天乙のもとにやって来たのは、玄武げんぶ太裳たいじょうだった。


「玄武、太裳!? どうしたの」

「六合が八将神に攫われた! それを追って、騰蛇が根の国に行ってしまった!」

「はぁ!?」



――――――――――――――――――――――――――



 根の国


「やっぱり、一緒にいよう。リク」

「…ごめん。僕はあそこにいなきゃ」


 六合は静かに首を横に振った。


「…どうしても?」

「うん。ごめんね、歳刑」


 六合はしっかりわかっていた。歳刑は自分のことを、ただ心配してくれているのだろう、と。しかし、六合はその手を振り払った。

 歳刑は、何も言わずその場を立ち去った。


 その時、窓ガラスを割って部屋に何者かが侵入してきた。その正体は、騰蛇だった。


「ほ、焔!?」

「六合! ったく、世話焼かせんじゃねーよ! おら、帰ンぞ」

「え、うん」


 六合は騰蛇の手をとり、引っ張られるままに屋敷から飛び去った。


 あとに残ったガラスの破片を、歳刑は恨めしそうに踏み潰す。

 すると、そこへ歳刑と同じ黒いローブを着た男がやって来た。


「歳刑、何故六合を逃がした?」

「…リクがそれを望んだから。 それより、六合を襲った怨霊を放ったのは、アンタ? 太歳たいさい

「あぁ。傷つけずに捕獲しろ、と命令したはずなのに、まったく」

「…またリクを傷つけるようなことがあれば、俺はアンタ相手でも、許さない」


 歳刑はそう警告すると、部屋を出て行った。

 残った太歳たいさいと呼ばれる男は、そっと呟く。


「早く、早く六合の力で、龍脈りゅうみゃくを…」



 少しずつ、六合を中心に、運命が動き出す…。

*次回予告*


「…焔。…ごめんね」「…ふん。実は、例の内通者の件なんだが…」「…大丈夫よ、きっと」「…その名を口にするな」「…焔が、泣いてる」


 次回『裏切りの影を滅せ』

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