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百鬼夜行~天上の華~  作者: 雛子
3/6

弐ノ刻 邪を払う者。十二天将

 この世は、神が創った箱庭だ。

 天帝が暇つぶしするために創った。動く人形の入った箱庭。

 この箱庭に穢れは無用だ。

 美しきこの庭に、人の醜い穢れなど不要だ。


 全て…  すべて……



 *** ***



 東京 某所


 人のあふれた街中のとある会社のビルの屋上。赤いパーカーのフードを深く被り、口には棒つきキャンディーを咥えて、双眼鏡で何かを見る少年が一人。少年の名は、十二天将の如月六合きさらぎりくごうであった。監視役を任された六合の肩に、一羽のスズメがとまり、ピィピィと可愛い声で鳴いた。


「ん?どうしたの」


 ピィピィと鳴く小鳥の声に耳を傾ける。


「… そっか。わかったよ、ありがとう」


『おい。そっちはどうだ』


「あ、ほむら!」


『焔じゃねェ…。騰蛇とうだだ!!』


「うっ… ゴメン。こっちは問題ないよ。でも、ターゲットがこっちら辺にいる、ってスズメが…」


『わかった。今そっちに俺と朱雀が行く。大人しく待ってろよ』


「う、うん。わかった」


 通信機ごしに怒られ、六合はしゅん…と落ち込んでいた。

 落ち込んだ様子の六合に、スズメはすり寄る。スズメの慰めに、六合は少し元気を取り戻し、見張りを再開する。

 人ごみに紛れて浮遊する黒い影。あれは、怨霊。人の死後に発生する陰の部分の塊。それを祓うのが、天仙より選ばれた十二人の天将たち。六合もその一人であり、まだ新人。


「…あれ?」


 六合が少しの間考え事をしていると、見張っていたターゲットの怨霊が、突然視界から消えた。六合はおかしい、と周りを見回すが、見当たらない。

 その時、ゾッと背筋に悪寒のようなものが走った。もしかして、と後ろを振り向くと、恐ろしく冷たい生気のない顔が怪しく笑い、その背後には他のたくさんの怨霊を連れていた。


「っ!…ひっ」

「≪ケ、けんジョウ……ッ。 アノおカタニ… ケンじょうせネバ…≫」

「け、献上…?」

「≪ツれテイクぞ…!!≫」

「っ!(ほ…っ)」



              ―――――ほむら…ッ!!―――――





「…?」

「ん?何だよ、騰蛇」

「…いや」


 ビルからビルへ飛び移っていく2人の青年。向かっているのは、どうやらさっきの少年がいたビルの屋上。


「…!?朱雀!!」

「ん。わぁってるよ!!」


 騰蛇の声を合図に皐月朱雀さつきすざくが先に飛び出し、屋上に群がっている怨霊の黒い影に跳び蹴りし、着地する。真っ黒な影に似た怨霊たちが集まっていた場所には、木で盾をつくって身を縮めて震える六合の姿が。


「六合!!」

「うっ…」

「くそ…っ。離れろ!クソ雑魚共!!」


 朱雀は手から放った鬼火で、六合の上に乗っている怨霊たちを焼き払っていった。

 全部焼き払うと、六合を守っている木の枝をどかして六合を抱き上げる。六合の右腕、左足には怨霊に掴まれた痕があり、壊疽を起こしていた。


「おいっ騰蛇!“癒しの葉”を出せ!」

「はぁ!? ったく、世話焼かせやがって」


 そう言って、腰のポーチから緊急用に持たされている、竹の葉のような葉っぱを取り出し、それを壊疽している部分に巻きつけた。


「よし。とりあえず、応急処置はした。早く高天原たかあまのはらにっ」


 朱雀は六合を抱きかかえ、高く飛び上がって姿を消した。


 *** 天上界・高天原たかあまのはら ***



 天将殿てんしょうでん・六合の私室



 天将たちの住む高天原にある宮殿・天将殿。現在、この宮殿には10人の天将が住み、残りの2人は個々の屋敷を住まいとしていた。


 倒れた六合は、自室に運ばれて治癒術に長けている天将たちのリーダー・天乙てんいつに診てもらっていた。


「 …とりあえず、壊疽していた部分は治しました。しかし、今日一日は絶対安静です。わかりましたね、六合」

「は、はい…。わかりました」

「よろしい。 騰蛇、六合の看病は頼みましたよ」

「はぁ!?俺が?」

「えぇ。他の天将たちは、例の怨霊捜しに出てしまうので、アナタしかいないんです。お願いしますね」

「ぐっ!…くそ」


 騰蛇は、天乙に逆らえないため、渋々引き受けた。

 

 未だ苦しそうにする六合と、それを傍で見ている騰蛇。そこへやって来たのは、六合の世話を任されている天女官のあおいだった。冷水とタオルを持って来て、冷水で冷やしたタオルを、六合の傷に当てた。


「騰蛇様、玄武様がお呼びでした。六合様は、私にお任せください。どうぞ」

「あ? …あぁ」

「…… ほ、むら?」


 去って行こうとする騰蛇を引き止めたのは、意識のはっきりしていない六合だ。ボソッと彼の生前の名(・・・・)を呟いて、手を伸ばす。


「…その名で呼ぶんじゃねェ。…すぐ戻ってくるさ」

「……うん」


 騰蛇は、優しく六合の頭を撫でると、そう言って部屋を後にした。



 騰蛇が向かったのは、自分を呼び出した玄武の研究室。その中央にいるのは、白衣を着た眼鏡の男。


「フン、やっと来たか。遅いぞ、騰蛇」

「あぁ。 …なぜ、太裳たいじょうまでここに?」


 と、騰蛇が部屋の端で酒瓶片手に立つ巫女服の女性を睨む。


六合アイツの御守を任されたんだっつーの。ほら、早く本題に入れよ、玄武」

「あぁ。実は、私の警備機器がこの高天原で怪しい気配を感知した。色は赤。おそらくは… 」

八将神はっしょうじん

「!?」


 八将神。それは、十二天将と敵対し、高天原とは逆に世界の深淵といわれる、根の国(ねのくに)に住む異形の者。彼らの目的はわからないが、彼らは何故か六合のことを狙っている。


「…っち。俺は六合アイツのところに戻る!」


 そう言って研究室を飛び出そうとする騰蛇を玄武が制止する。


「まぁ、待ちたまえ」

「何だ!?」

「アイツのことは、太裳の人形・・が見ている。大丈夫だ」


 玄武は騰蛇を宥めると、もうひとつの話を始める。


「だが、いくら八将神といえど、この結界には入れまい。 …内側に内通者がいなければ…、な」

「!?内通者…だと」

「あぁ。容疑者として、有力な候補がいる」

「?誰だ」

「それは…」


 ガチャ…ッ


 3人のいる研究所の扉が重々しく不気味に開く。そこから現れたのは、太裳の造った人形だった。青色の着物を着た女性型の球体関節の等身大人形は、カタカタと音を立てて、3人にゆっくりと足を進めてきた。そして、外れた顎が小刻みに動き、言葉を発する。


「あ…っあずさ?」

『ゴ…主人…サ…マ…。 オ逃ゲくダサ…イ…ッ!』

「!?」


 グニャグニャと関節を歪めて、近づいて来る人形は段々足を走らせ、太裳たちに襲ってきた。


「!?やめろっ梓!!」

『ア、アァ… ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛!!!』

「ッ!………?あれは…」


 玄武が気づいたのは、人形のうなじに蜘蛛がついていることだった。そして、その蜘蛛がなんなのか、知るのにそう時間は掛からなかった。


「あれは…っ水蜘蛛! ということは……」

「「!?」」




 六合に近づく黒い影、あり。

*次回予告*

「この子を…お願いね」「リク…。行こうか」「…歳刑さいぎょう」「「仲良くない!」」「やっぱり、一緒にいよう。リク」


 次回『深淵に潜みし徒花』

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