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勇者パーティーを追放されたので流行りの成功法則にのってみた。~真の実力者たちのセカンドライフ〜

作者: 野志田千亜
掲載日:2026/04/19

追放ものです。タイトル通り流行りに乗ってみました。追放ものってまだ流行ってますよね?

「クソッ……、なんでだよ……!」


 手に握りしめたのは、冒険者ギルドから届いた一枚の書面。そこには、俺が勇者パーティーを追放された事実が無機質な文字で記されていた。


 俺は戦士として、常に死線の一歩先を歩いてきた。強敵の牙を盾で受け、仲間の身代わりになって傷を負う。俺がいなければ、あいつらだって今頃は魔物の胃袋の中だったはずだ。それなのに、リーダーのクリフトは直接顔を合わせることすら拒み、ギルドを介して「クビ」を宣告してきた。


「直接言うのが、リーダーとしての筋だろ……!」


 吐き捨てた言葉は、誰もいない安宿の部屋に虚しく響く。

 ぶん殴ってやりたい。だが、元来の気の弱さが邪魔をして、結局は黙って身を引くことしかできなかった。

 奈落の底に突き落とされたような絶望。しかし、このまま泥水をすすって終わるつもりはない。


「……いや、見てろよ。ソロでも成功した奴はいくらだっているんだ」


 震える手で書面をくしゃりと丸め、俺は顔を上げた。

 どん底なら、あとは這い上がるだけだ。見返してやる。俺という「壁」を失ったことを、あいつらに後悔させてやる。

 意気込みを胸に、俺はソロへ転身するために登録を書き換えるべく、冒険者ギルドへと駆け出した。






「『戦士』アランさまの冒険者登録変更は、これで終了になります。お疲れ様でした」


 ギルドの窓口職員は、事務的にそう告げた。これからソロデビューするというのに、なんとも味気ない対応だ。自分にとっては人生最大の決断だというのに、マニュアル通りの言葉で片付けられてしまうと、少しばかりテンションが下がる。

 だが、これが冒険者ギルドという場所なのだろう。


 ギルドを出ると、入り口の掲示板に一枚のポスターが貼ってあった。件の、成功した追放冒険者の自伝を宣伝するものだった。


「参考になるかもしれない」


 俺は一目散に本屋へ向かった。

 それなりの値段はしたが、その内容は実に有意義なものだった。


「この人もパーティーでひどい目に遭ったんだな……」


 自伝には「仲間とソリが合わなかった」「自分の意見が伝わらず苦労した」と書かれていた。同じ経験をした身としては、読んでいるだけで涙が出てくる。


 俺は、仲間たちと過ごした過去の出来事を思い返した。





 これは高難度の魔物討伐任務での話だ。


 相手は、Aランクの魔物「キマイラ」。獅子の頭、山羊の四肢、蛇頭の尾を持つ混獣の魔物だ。

 俺は前衛として、仲間のために必死に戦った。なのに、クリフトをはじめとした仲間たちは、俺の後ろで指示を飛ばすだけだった。

 やっとの思いで倒したキマイラも、何もしていないクリフトが手際よく解体し、貴重な部位を全て持っていってしまった。


(なんて奴だ……。倒したのは俺だぜ?)


 骨の折れた腕を擦りながらクリフトを睨んだ。怪我は魔法使いのハンナが応急処置をしてくれたが、彼女の表情は、俺への呆れで染まっていた。重傷を負うようなヘマをした俺への、無言の圧力のようにも思えてくる。

 昔はよかった。と思ってしまうのは仕方がないだろう。

 クリフトと俺は同郷の幼馴染だ。

 田舎の小さな村でガキ大将コンビだった俺たちは、ずっと一緒だった。地元じゃ負け知らずの悪ガキで、ケンカもしょっちゅうしていたし、大人になったら一緒に冒険者になろうと誓い合った親友だったはずなんだ。


 その俺をこんな扱いにするなんて、あいつはもう親友なんかじゃない。

 思い出してしまい、怒りがワナワナと湧き上がってくる。それを深く深呼吸して鎮める。再び本に視線を落として読み進める。


「『イノベーションが受け入れられなかった。多数決では正しい判断がされない。自分の意見は常に反対され、私は孤独だった』……。うーん、わかるなぁ。俺もあいつらに意見しても聞き入れてもらえなかったもんな……」


 目尻に涙が浮かんでくる。自分の斬新な戦術が理解されないせいで、何度も討伐任務が失敗に終わり、その度に仲間が次々と離れていったことか……。あいつらは、俺の先見の明が怖かっただけなんだ。

 過去を振り返りつつ、涙を拭い本の続きに目を通す。


「この人は、ダンジョン攻略で成功したのか! なるほど!」


 ダンジョンは、魔物と宝の宝庫。攻略できれば一攫千金だ。ソロで攻略して多額の金を手にして大成功した、とそう書かれている。


「よし! 俺もダンジョンに繰り出すぞ!」


 決意を新たにし、俺はダンジョン攻略に向かうのだった。





 巷では、パーティーを追放された冒険者が、ソロに転身して大活躍しているそうだ。

 宿の部屋で一人、窓の外をぼんやりと眺める。そんな俺は、先日パーティーのメンバーを一人追放した。


「あいつ、今ごろどうしてるかな……」

「後悔しているのですか? アランを追放したことを」


 部屋の隅で本を広げていたのは、僧侶のミリーだ。見た目こそ少女の風貌だが、実年齢は俺よりずっと上の淑女である。彼女から見れば、俺の悩みなど子供の戯れに見えるのかもしれない。


「後悔……なのかな。俺、あれでよかったんだよな」

「何を今更。彼とこの先、旅を続けるのは不可能ですわ」

「んな言い方すんなよ。あいつとは幼馴染なんだぜ?」


 窓辺で不貞腐れるように呟く。俺がリーダーを務めるパーティーの前衛だった「戦士」アランは、同郷の幼馴染だ。


「クリフト、幼馴染だからとどれだけ彼を甘やかしたと思っているのです? アランのせいで、ハンナはずっと眠ったままなのですよ」


 促されるように、部屋の中央のベッドに横たわる女性に目をやる。

 彼女は魔法使いのハンナ。俺たちのパーティーの大切な仲間だ。その美しい顔には今も苦悶の表情が浮かび、深い眠りから覚める気配はない。


「そろそろ包帯を取り替える時間ですわね。ほらクリフト、部屋から出てくださいまし!」


 懐中時計を確認し、ミリーが立ち上がった。俺は彼女に追い出されるように、強引に部屋の外へ追い出されてしまった。

 閉ざされた扉をぼけっと眺めていたが、廊下で立ち尽くす俺に訝しげな視線を向ける宿泊客たちに気圧され、トボトボと宿の外へ出ることにした。





 巷では、パーティーを追放された冒険者がソロに転身して大活躍しているそうだ。

 宿を出て街を見渡せば、件の追放経験者による成功自伝の宣伝が溢れている。

 思えば、こういう流行りは前にもあった。

 異世界から召喚された勇者の奇抜な政策。

 不当に婚約破棄された貴族令嬢の躍進。

 自称「元人間の転生者」である魔王の建国。

 数奇な境遇を持つ成功者たちが、度々世間の話題を攫っていく。


「アランの奴、もしかしてこれに乗っかったりしないよな……」


 だが、あいつならやりかねない。

 想像して、クリフトは大きなため息をついた。


「あいつ、自分が何をしたか分かっているのかな……」


 どこまでも広がる青空を見上げて、クリフトはアランとの思い出を振り返った。

 アランは同郷の幼馴染だ。と言えば聞こえはいいが、故郷は田舎すぎて同世代の子供が俺たちしかいなかったに過ぎない。

 学校への通学も遊びも、常にアランが隣にいた。子供の少ない村では、大人たちは皆、俺たちを宝物のように甘やかした。

 それに胡座をかいたのがアランだ。

 アランは所謂、イタズラっ子というやつで、物心ついた頃から村中で悪さを働いた。最初は大人をからかう程度の可愛げのあるものだったが、成長するにつれ、その内容は徐々に過激さを増していった。

 物を壊し、人から盗み、誰かを傷つける。標的は玩具やお菓子から、年々高価なものへと変わっていった。

 当然、何かある度に同い年の俺まで揃って疑われた。


「一緒に冒険者になろう!」


 ある日そう誘ってきたのはアランの方だった。だが現実は、悪行が重なりすぎて村八分になったあいつが、居場所を失って村を逃げ出すための口実に「冒険者」という肩書きを使っただけだった。

 そして俺は「アランの幼馴染」というだけで同罪にされたのだ。

 いつも一緒にいたのは事実だが、決して悪事に加担したわけじゃない。むしろアランを止めていたのは俺の方だ。だが、いくら制止しても、あいつが聞き耳を持つことは一度もなかった。

 その場に居合わせたから。

 アランと一緒にいるから。

 ただそれだけの理由で、俺まで村を追われた。とばっちりもいいところだ。狩猟を生業にしていた実家の跡を継ぐはずだった俺は、結果として親を裏切ることになってしまった。


 冒険者になった後も、その地獄は続いた。

 ギルドの適性検査で俺は「勇者」、アランは「戦士」の判定が出た。二人でパーティーを組み、足りないメンバーはギルドの仲介で紹介してもらうことになった。

 しかし、アランの悪癖はパーティーを組んでからも治らなかった。

 仲間の財布から金を盗み、それを咎めれば暴力に訴える。滞在先の宿屋では酔って暴れ、止めに入った主人や他の客と喧嘩を繰り広げ、部屋を破壊し尽くす。絶え間ないトラブルに耐えかねて去っていった仲間は数知れない。

 それすらも、アランは何もかも俺の不甲斐なさにすり替えた。


 そんな折、新たに魔法使いのハンナと僧侶のミリーが仲間に加わったのだが、そこでも奴の性根は変わらなかった。

 金を盗み、宿屋で暴れる日々。

 キマイラの討伐任務では、作戦も無視して先走った挙句に無様に負傷した。それを叱責すれば「リーダーのお前が不甲斐ないからだ」と逆ギレし、呆れ果てたハンナが溜息を吐きながら手当てをする──そんな光景ばかりだった。

 キマイラを討伐できたというのに、パーティーを包む空気はいつも鉛のように重かった。

 そして、ついにあの決定的な事件が起こった。


 あれも魔物の討伐依頼に向かった先でのことだ。

 前衛として盾になるべきアランが、こともあろうにハンナを盾にしたのだ。

 ハンナは一命を取り留めたものの、意識不明の重傷を負った。魔物自体はアランが仕留めたが、仲間を身代わりにするという愚行を見過ごすわけにはいかない。俺は即座にギルドへ走り、アランの解任手続きを行った。


 あれから一ヶ月。ハンナは無事に目を覚ましたが、傷の回復は遅く、今も安静を余儀なくされている。

 この判断が正しかったのかは分からない。だが、今の俺は、ずっと背負い続けていた巨大な重荷をようやく降ろしたような、そんな軽やかさを感じていた。





「それではこれでインタビューは終了とさせていただきます」


 記者がメモを閉じ、席を立った。今日はとある著名人との対談だった。


「お疲れ様でした。ミリアリアさん……、いえ、ミリーさん」

「こちらこそ、お疲れ様ですわ」


 記者が礼を言ったのは、クリフトのパーティーの僧侶・ミリーだった。記者に美しく笑いかけるその所作には、隠しきれない気品が漂っている。


「いえ、本当に貴重なお話でした! 元貴族令嬢が肩書きを捨てて冒険者になって成功だなんて、とっても素敵です!」


 目を輝かせて記者はミリーを褒めちぎる。


「ええ、本当に素晴らしいお話でしたよ。正に波乱万丈な人生を、見事生き抜いた英傑の物語のようですな」


 ミリーを称賛したのは、対談相手の大柄な男。今話題の「パーティーを追放されソロで大活躍している冒険者」──ハウストだ。


「いいえ。所詮は王太子に婚約破棄された、悪役令嬢の成れの果てですわ……」

「あ……、いや……、そういう意味では……」


 バツが悪そうにミリーに弁明するハウスト。


「でも、ミリーさんのお話はとても興味深いです。破綻したパーティーの再建なんて、誰もが思いつくことではありませんよ」

「単にギルドマスターに泣きつかれただけですわ。実力はあるメンバーなのに活躍がイマイチなパーティーの、指導をしてくれと……」


 記者が熱心に語るが、ミリーはそれをさらりと受け流してしまう。


「ですが、実際ミリーさんの指導が入ったパーティーの躍進は凄まじいですよ」


 ハウストもまた、ミリーの手腕を高く評価していた。


「俺もミリーさんの助言がなければ、ソロに転身しようなんて考えもしませんでした」

「あなたの場合は、何でも一人でこなせてしまうから、パーティーの中で浮いてしまっていただけですわ。ソロならその辺りもやりやすいと思ったまでのこと。でも、申し訳ないとも思っているのです。『追放された』などという形で、あらぬ話題を呼んでしまったわけですから……」

「そんなことは気にしてません。あの頃の仲間とも今では仲良くできてますし、世間の誤解なんて身内が分かっていれば十分ですから!」

「ならいいのですけれど……」

「それより、今いるパーティーの噂、聞いてますよ。次々とメンバーが脱退を望んでいるって……」

「そうそう、一体何が起こっていたんですか?」

 記者の問いに、ミリーは静かにため息を吐いた。

「そうですわね……。一人問題児がメンバーにいまして。彼の愚行に耐えかねて、次々と仲間が離れていっておりましたの。リーダーには、直ぐに彼を解雇するよう何度も助言しましたわ」

「愚行?」

「一体何を?」

「仲間から金を盗み。大切な武器や道具を壊し、喧嘩もしょっちゅう……」

「そんな奴が実在するんですか!?」

「なのにリーダーは、同郷の幼馴染だからと中々解雇に踏み切れず……。ついに先日、仲間の一人が大怪我を負ってしまいましたの」

「それは大変だ」

「その方は大丈夫だったんですか?」

「命は取り留めましたわ。まだ復帰には時間がかかりそうですけれど……」

「そうなんですね。よかった……」

「ええ、まあ……」


 そんな会話を続けていると、突然、部外者が取材のために用意された部屋に乱入してきた。


「ちょっと! ここはまだ取材中で……」

「申し訳ありません、緊急なんです!」

「……本を出してくれた出版社の編集者じゃないか。どうしたんだ?」


 ハウストが慌てふためく編集者に問いかける。


「実は……あ、あの本を読んだのに失敗したと、編集部に男が乗り込んできたんです!」

「なんだと!?」

「何者なんですの?」


 驚くハウストの隣で、冷静な声で問いかけたのはミリーだ。


「確か、アランと名乗るソロの冒険者です」



「ゲェ……ッ!!」



 元貴族令嬢とは思えない、蛙が潰れたような声がミリーから発せられた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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