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評価ゼロの俺を切った会社を、潰れる前に俺が買うことにした 最下位営業の反撃――粉飾決算と裏切りに支配された会社の終わり  作者: かーすけ


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最終話 「反撃」

 夜。

 オフィスの灯りは、ほとんど消えていた。

 残っているのは、数人。

 その中で——

 蓮は、一人で立っていた。

 スマートフォンを握ったまま。

 通話の余韻が、まだ残っている。


「……選ばせろ」

 佐伯の声。

 揺れていた。

 だが——

 折れてはいない。

 (あいつ……)

 分かる。

 今、瀬戸際にいる。

 すべてを取るか。

 自分を残すか。

 その二択。

 そして——

 その選択を、自分に委ねてきた。

「……面倒なことを」

 小さく呟く。

 だが、その目は——

 逃げていない。


 数分後。

 ビルの外。

 夜風が、少し冷たい。

 蓮は、歩き出す。

 向かう先は——

 あの場所。

 交差点。

 二人がぶつかった、あの部屋。


 ドアを開ける。

 中は、暗い。

 だが——

 いる。

 窓際。

 背中。

 佐伯。

「早いな」

 振り向かずに言う。

 蓮は、ドアを閉める。

 静かに。

「急ぎだったので」

 短く返す。

 数歩、近づく。

 距離は、前よりも近い。

 だが——

 埋まってはいない。


 佐伯が、ゆっくりと振り向く。

 その目は——疲れている。

 だが。

 鋭さは、消えていない。

「条件、来た」

 一拍。

「取れる」

 事実。

「でも」

 少しだけ、笑う。

 乾いた笑い。

「俺は外せ、だとよ」

 空気が、わずかに沈む。

 蓮は、何も言わない。

 続けるのを待つ。

「どう思う?」

 佐伯が聞く。

 試す。

 最後の。


 蓮は、数秒考える。

 そして——

 答える。

「妥当です」

 はっきりと。

 容赦なく。

 空気が、凍る。

 だが——

 嘘はない。

 佐伯は、笑った。

 少しだけ。

「だよな」

 納得している。

 その上で——

 視線を上げる。

 まっすぐに。

「で」

 一拍。

「どうする」

 問い。


 だが——これはもう。

 単なる相談ではない。

 選択の委譲。

 蓮は、ゆっくりと息を吐く。

 そして。

 言う。

「受けます」

 短く。

 確定。

 空気が、動く。

 佐伯の目が、わずかに揺れる。

「……即答か」

 苦笑。

 だが——どこか、納得している。


「その方が、いい」

 蓮は続ける。

「契約は成立する」

 一拍。

「組織としては、正しい」

 完全な合理。

 だが——

 それだけでは終わらない。

 蓮は、一歩踏み出す。

 距離を詰める。

「ただし」

 低く言う。

 空気が、変わる。

「条件があります」

 佐伯の眉が、わずかに動く。

「何だ」

 短く。

 蓮は、まっすぐ見る。

 そして——

 言う。

「この案件」

 一拍。

「俺が引き継ぎます」

 空気が、止まる。

 数秒。

 沈黙。

 佐伯は、動かない。

 だが——

 その目が、変わる。


「……なるほどな」

 小さく呟く。

 理解した。

 すべて。

「お前が、取り切るってか」

 確認。

 蓮は、頷く。

「ええ」

 迷いなく。

「最後までやります」

 その言葉。

 責任。

 継続。

 再現性。

 すべてを背負う。

 佐伯は、ゆっくりと笑った。

 そして——

 小さく頷く。

「いいじゃねえか」

 短く。

 その声には——

 悔しさと。

 それ以上に。

 どこか、満足がある。

「じゃあ」

 一拍。

「任せる」

 決断。

 すべてを、手放す。

 その瞬間。

 何かが、終わる。

 そして——

 何かが、始まる。


 翌日。

 オフィス。

 空気が、ざわついている。

「決まったらしい」

「マジで?」

「でも、あいつ……」

 名前は出ない。

 だが——

 誰のことか、全員分かっている。


 会議室。

 蓮は、席に座っている。

 目の前には、役員。

 そして——

 契約書。

「今回の件」

 一人が口を開く。

「よくまとめた」

 評価。

 シンプル。

「責任は重いぞ」

 一拍。

「分かってるな」

 蓮は、頷く。

「はい」

 短く。

 その目は——

 もう、迷っていない。


 その頃。

 別のフロア。

 佐伯は、一人で荷物をまとめていた。

 段ボール。

 書類。

 最低限の私物。

 誰も、声をかけない。

 かけられない。

 静かな空間。

 だが——

 その中で。

 佐伯は、ふと手を止める。

 窓の外を見る。

 街。

 動いている。

 変わらず。

「……チッ」

 小さく舌打ち。

 だが。

 その顔には——

 笑みがある。

「悪くねえ」

 小さく呟く。

 負けた。

 だが——

 終わっていない。

 ポケットから、スマートフォンを取り出す。

 新しい連絡先。

 新しい名前。

 新しい“外”。

「さて」

 一拍。

「次、行くか」

 その目は——

 まだ、死んでいない。


 夕方。

 オフィス。

 窓の外。

 夕焼け。

 蓮は、一人で立っていた。

 契約書を手に。

 重みを感じる。

 (取った)

 結果。

 だが——

 その過程。

 その代償。

 全部、分かっている。

 そのとき。

「お疲れ」

 声。

 振り向く。

 麻衣。

 いつもの笑顔。

 だが、その目は——

 すべて見ている。

「どう?」

 一拍。

「気分は」

 蓮は、少しだけ考える。

 そして——

 答える。

「普通です」

 正直に。

 麻衣は、笑う。

「いいね」

 その一言。

 評価。

 そして——

 去っていく。


 再び、静寂。

 蓮は、窓の外を見る。

 街。

 人。

 流れ。

 すべてが、動いている。

 その中で。

 自分も、動いている。

 同じように。

 選んで。

 切って。

 取って。

 繰り返す。

 だが——

 ふと、思う。

 (これでいいのか)

 一瞬の疑問。

 だが。

 すぐに、消える。

 答えは、まだ出ない。

 それでいい。

 今は——

 進むだけ。

 蓮は、静かに息を吐く。

 そして。

 小さく、呟く。

「……まだ、終わってない」

 その目は——

 前を見ている。

 はっきりと。


 遠く。

 別の街。

 雑踏の中。

 一人の男が、歩いている。

 佐伯。

 振り返らない。

 立ち止まらない。

 ただ——

 前へ。

 その背中が、消えていく。


 物語は、終わらない。

 これは、まだ——

 始まりだ。


 完

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