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評価ゼロの俺を切った会社を、潰れる前に俺が買うことにした 最下位営業の反撃――粉飾決算と裏切りに支配された会社の終わり  作者: かーすけ


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第19話 「越境」

「奪いに来てるのは、どちらだと思います?」

 蓮の言葉が、会議室に静かに落ちる。


 沈黙。

 役員たちの視線が、揺れる。

 どちらにも理がある。

 どちらも、同じ深さまで来ている。

 ——決め手がない。

 そのとき。

 佐伯が、ゆっくりと息を吐いた。

「……なるほどな」

 小さく呟く。

 そして——

 視線を、蓮から外す。

 役員たちへ。

「じゃあ、分かりやすくします」

 その一言。


 空気が、わずかに歪む。

 蓮の眉が、ほんの少し動く。

 (来るな)

 直感。

 佐伯は、ポケットに手を入れる。

 スマートフォン。

 取り出す。

 だが——

 それは、ただの資料提示ではない。

「今から、一本電話します」

 淡々と言う。

 役員の一人が、眉をひそめる。

「どういう意味だ」

 当然の反応。

 だが、佐伯は止まらない。

「見てください」

 発信。

 スピーカーにする。

 コール音。

 数秒。

 そして——

「……はい」

 低い声が、繋がる。

 蓮の目が、わずかに細くなる。

 (その番号……)

 知っている。

 元の会社の——

 主要取引先の責任者。

「佐伯です」

 名乗る。

 空気が、凍る。


「例の件、今すぐ進めてください」

 一切の前置きなし。

「え? いや、まだ——」

 相手が戸惑う。

 当然だ。

 だが。

「今です」

 被せる。

 低く。

 強く。

「この後、正式に契約を流します」

 断定。

 まだ決まっていないことを——

 決まったこととして扱う。

 ルールの外。

「……大丈夫なんですか?」

 相手の声が揺れる。

 リスクを感じている。

 そのとき。

 佐伯が、ゆっくりと言った。

「責任は、俺が持つ」

 その一言。

 覚悟の重さ。

 電話の向こうが、黙る。

 数秒。

 そして——

「……分かりました」

 受ける。

 決まった。

 通話が切れる。

 静寂。

 完全な。

 空気が、変わる。

 不可逆の領域。

 もう、戻れない。


 役員たちが、佐伯を見る。

 その目にあるのは——

 驚きと、興味。

「今のは」

 一人が口を開く。

「御社の正式な判断か?」

 当然の確認。

 だが——

 佐伯は、首を振る。

「違います」

 あっさりと言う。

 そして。

「俺の判断です」

 言い切る。

 空気が、一気に張り詰める。

 会社を通さない。

 承認も取らない。

 完全な独断。

 ——越えた。

 ルールを。

 倫理を。


「リスクは?」

 別の役員が問う。

 冷静に。

 佐伯は、迷わない。

「全部、俺が被ります」

 短く。

 だが、重い。

 沈黙。

 数秒。

 その中で——

 蓮は、じっと佐伯を見ている。

 (そこまで行くか)

 理解する。

 これは、勝ちに行く一手ではない。

 生き残るための一手。

 すべてを賭けた。


「……面白い」

 役員の一人が、小さく笑う。

 評価が変わる。

 リスクを取れる人間。

 その価値。

 だが——

 同時に。

「危険でもある」

 別の声。

 当然の評価。

 両極。

 そのとき。

 全員の視線が——

 蓮に向く。

 無言の問い。

 お前は、どうする?

 ここで。

 同じことをやるか。

 それとも——

 別の道を選ぶか。


 沈黙。

 長い。

 だが——

 蓮は、動かない。

 ポケットにも手を入れない。

 電話も取らない。

 ただ。

 ゆっくりと、口を開く。

「……それは」

 一拍。

「コントロールではありません」

 静かな声。

 だが、はっきりと。

 佐伯の目が、わずかに動く。

「ただの“賭け”です」

 言い切る。

 否定。

 真正面から。


 空気が、再び揺れる。

 役員たちの視線が、動く。

 比較が始まる。

「御社が欲しいのは」

 蓮が続ける。

「再現性です」

 リスクではない。

 安定。

 制御。

「一回の成功ではなく」

 一拍。

「継続できる仕組み」

 核心。

 その瞬間。

 役員の一人が、わずかに頷く。

 刺さっている。

「彼のやり方では」

 佐伯を見る。

「今日しか勝てない」

 そして。

「明日は、崩れます」

 断定。

 沈黙。

 重い。


 だが——

 確かに、響いている。

 佐伯は、何も言わない。

 否定しない。

 できない。

 分かっているからだ。

 自分の一手の本質を。

 そのとき。

 中央の役員が、ゆっくりと口を開く。

「……決めよう」

 空気が、止まる。

 全てが、収束する。

 視線が——

 二人の間で、止まる。

 そして。

 ゆっくりと。

 その指が——

 一人を指す。

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