第15話 「奪う側」
昼。
別のオフィス。
静かで、整った空間。
蓮は、ガラス越しに外を見ていた。
遠くに見える、元いた会社のビル。
あそこは、もう——
“終わった場所”。
「感傷?」
後ろから、麻衣の声。
振り向かない。
「いいえ」
短く答える。
「じゃあいい」
興味を失ったように言う。
そして。
「仕事」
その一言で、空気が変わる。
テーブルに、資料が置かれる。
顧客リスト。
元の会社の。
「ここ、取りに行って」
指で示す。
大口顧客。
売上の柱。
「もう動いてるよ」
競合も。
当然だ。
「早い者勝ち」
シンプルなルール。
蓮は資料を見る。
頭の中で、組み立てる。
関係性。
決裁者。
タイミング。
(いける)
感覚で分かる。
「条件は?」
確認する。
麻衣は、あっさり言う。
「何でもいい」
値引きでも。
条件変更でも。
「取れれば勝ち」
それだけ。
完全な“奪い合い”。
蓮は、小さく息を吐く。
そして——
スマートフォンを取り出す。
番号を打つ。
コール。
数秒。
繋がる。
「——もしもし」
相手の声。
少し警戒している。
当然だ。
会社は潰れたばかり。
混乱の中。
蓮は、静かに口を開く。
「神谷です」
名乗る。
一瞬の沈黙。
そして。
「……何の用だ」
冷たい声。
信頼は、ない。
当たり前だ。
だが——
蓮は、迷わない。
「御社の件で」
一拍。
「新しい提案があります」
言い切る。
外の人間として。
その瞬間。
自分の立場が、完全に変わったことを実感する。
守る側ではない。
奪う側。
「……話だけ聞く」
相手が言う。
扉が、開いた。
蓮は、わずかに笑う。
「ありがとうございます」
その声には、迷いがない。
通話を切る。
麻衣が、横で見ている。
「早いね」
評価。
蓮は、肩をすくめる。
「時間がないので」
事実。
麻衣は、小さく頷く。
「いいよ」
そして。
「それが“外”だから」
当然のように言う。
蓮は、もう一度窓の外を見る。
崩れた会社。
その残骸。
そこから、価値だけを拾う。
それが——
今の自分の仕事。
静かに、息を吐く。
そして。
次の番号を、押した。
もう、止まらない。




