第13話 「崩れる音」
朝。
オフィスは、いつも通り始まった。
「おはようございます」
「おはよう」
コーヒーの匂い。
キーボードの音。
何も変わらない——はずだった。
9時12分。
最初の違和感は、小さかった。
「……あれ?」
経理の一人が、画面を見て首を傾げる。
「振込、通らない」
隣が笑う。
「またシステムでしょ」
軽い空気。
だが——
9時17分。
電話が鳴り始める。
一本。
また一本。
「はい、営業部——」
対応した社員の顔が、固まる。
「……え?」
声が、わずかに震える。
「ちょっと待ってください」
保留。
周囲が気づき始める。
「どうしたの?」
「入金、止まってるって……」
空気が、揺れる。
9時23分。
今度は別の声。
「こっちもだ!」
「取引先、契約見直すって——」
ざわつきが広がる。
9時30分。
電話は、鳴り止まない。
怒鳴り声。
問い詰める声。
「どういうことだ!」
「説明しろ!」
対応する社員の顔色が変わる。
「確認しますので……!」
だが、確認先が——
ない。
9時41分。
経理の席。
「……ダメだ」
低い声。
「全部止まってる」
完全に。
資金が、凍結されている。
その一言で——
空気が、壊れた。
「は?」
「そんなわけ——」
否定の声。
だが。
事実は変わらない。
9時48分。
誰かが、叫ぶ。
「社長、出てこいよ!!」
感情が、表に出る。
怒り。
不安。
恐怖。
それが、一気に溢れる。
10時02分。
会議室の扉が開く。
部長が出てくる。
無表情。
だが、その一言で——
全てが決まる。
「本日をもって——」
一拍。
「全業務、停止する」
静かな声。
だが、重い。
誰も、すぐには理解できない。
「……は?」
遅れて、声が漏れる。
「詳細は後ほど説明する」
それだけ言って、部長は去る。
残されたのは——
崩れた空気。
「……終わり?」
誰かが呟く。
答えはない。
ただ。
会社は——
終わった。




