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評価ゼロの俺を切った会社を、潰れる前に俺が買うことにした 最下位営業の反撃――粉飾決算と裏切りに支配された会社の終わり  作者: かーすけ


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第11話 「内と外」

 「……面白い」

 部長が、静かに言った。

 その声には、怒りはない。


 代わりに——

 冷たい興味。

「バックアップ、か」

 一歩、距離を取る。

 追い詰めるのではなく、測る動き。

「どこまでやる気だ」

 蓮は答えない。

 視線だけで返す。

 その沈黙が、十分な答えだった。

「いいだろう」

 部長は小さく頷く。

 そして。

「なら、やり方を変える」

 空気が、わずかに歪む。


 その一言で——

 “正面からは来ない”と分かる。

「佐伯」

 名前を呼ぶ。

 佐伯の体が、わずかに強張る。

「ついて来い」

 短い命令。

「……」

 一瞬、迷う。

 その視線が、蓮に向く。

 助けを求めるように。

 だが——

 蓮は何も言わない。

 選ぶのは、佐伯自身だ。


 数秒。

 そして。

「……分かりました」

 佐伯は、目を逸らした。

 そのまま、部長の後ろに回る。

 距離が、できる。

 完全に“向こう側”。


 中原が、小さく息を吐く。

「……終わったね、あの人」

 感情はない。

 事実だけ。

 蓮は、静かにドアへ向かう。

「行きましょう」

 中原に言う。

 ここにいる理由は、もうない。


 二人は、部屋を出る。

 廊下。

 空気が変わっている。

 静かなのに——

 どこか“見られている”感覚。

 (来るな)

 すぐに。

 内側からの圧。

 だが同時に——

 (外も動く)

 ポケットの中で、スマートフォンが震える。

 画面を見る。

 麻衣。

 タイミングが良すぎる。

 (やっぱり見てるな)

 通話に出る。

「——終わった?」

 開口一番。

 確認ではない。

 把握している声。

「データは確保しました」

 短く答える。

「いいね」

 少しだけ、満足そうな響き。

 だが、すぐに。

「でも、遅い」

 空気が変わる。

「もう動いてるよ」

 背筋に冷たいものが走る。

「……どこまで」

 蓮が聞く。

 麻衣は、淡々と言った。

「銀行、止まる」

 意味は、一つ。

 資金凍結。

「取引先も」

 続ける。

「切り始めてる」

 完全に外から攻めている。


 小野寺側が。

「——早すぎる」

 思わず出る。

「当然でしょ」

 麻衣は即答する。

「“値段”は落ちる前に決めるものだから」

 冷たい現実。

「今から来て」

 指示。

 場所は言わない。

 言う必要もない。

「分かりました」

 通話を切る。

 その瞬間。

「来るよ」

 中原が言う。

 視線の先。

 廊下の奥。

 数人の社員が、こちらに向かってくる。

 無言。

 だが——

 明らかに普通ではない。

 (総務か……いや)

 違う。

 動きが揃いすぎている。

「止めに来てる」

 中原の声が低い。

 完全に、内側の動き。

 蓮は、一瞬で判断する。

「階段」

 エレベーターは使えない。

 監視されている。


 二人は走る。

 足音が、静かな廊下に響く。

 後ろから、声。

「待て!」

 命令。

 だが、止まらない。

 角を曲がる。

 階段へ。

 ドアを開ける。

 飛び込む。

「上?」

 中原が聞く。

 蓮は、首を振る。

「下」

 出口へ。

 だが——

「塞がれてたら?」

「その時考える」


 走る。

 一段飛ばしで降りる。

 息が上がる。

 だが止まらない。

 そのとき。

 ——上から足音。

「……挟まれてる」

 中原が呟く。

 上と下。

 両方から。

 完全に、読まれている。

 (なら)

 蓮は、急に足を止める。

「こっち」


 非常扉。

 普段は使われないルート。

 ドアを開ける。

 薄暗い通路。

 外へ繋がっている。

「そんなの……」

 中原が一瞬躊躇する。

「行きますよ」

 時間がない。

 二人は飛び込む。

 背後で、ドアが開く音。

 追いつかれる。

 走る。

 出口が見える。

 外の光。


 その瞬間——

 前に、人影。

 立っている。

 逃げ道を塞ぐように。

「……マジかよ」

 中原が息を呑む。

 その人物が、ゆっくり顔を上げる。

 ——佐伯。

 息を切らしながら。

 だが、その目は——

 決まっている。

「そこまでだ」

 低く言う。

 後ろからも、足音が迫る。

 完全に、挟み撃ち。

 逃げ場はない。


 数秒の沈黙。

 そして——

 佐伯が、一歩踏み出す。

 蓮を見る。

 まっすぐに。

「……なあ」

 小さく言う。

 その声は——

 さっきまでと、少し違った。

「まだ、間に合うか?」

 意味の分からない言葉。

 だが——

 その目。

 (揺れてるな)

 まだ、決まりきっていない。

 完全な敵ではない。

 その一瞬。

 蓮は、静かに笑った。

「どう思います?」

 問い返す。

 選択を、突きつける。

 佐伯の拳が、強く握られる。

 後ろの足音が、すぐそこまで来ている。

 時間は、ない。

「俺は——」

 言いかけて、止まる。

 そして。

 次の瞬間——

 佐伯が、横に動いた。

 道を、開ける。

「行け!」

 叫ぶ。

 空気が、一気に弾ける。

 蓮は迷わない。

 中原の手を引く。

 走る。

 佐伯の横をすり抜ける。


 その瞬間。

 背後で——

「佐伯ぃ!!」

 怒号。

 衝突音。

 誰かが掴む音。

 振り返らない。

 振り返ったら、終わる。

 外へ飛び出す。

 夜の空気。

 冷たい。

 だが——

 自由。

 息を整える暇もなく、走る。

 遠ざかるビル。

 その中で——

 一人が、取り残されている。

 (……借り一つだな)

 蓮は、心の中で呟く。

 そして。

 ポケットの中のスマートフォン。

 そこにある“バックアップ”。

 それが——

 次の戦場への鍵になる。


 外では、すでにゲームが始まっている。

 内では、崩壊が加速している。

 そして、自分たちは——

 その両方を、握っている。

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