表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価ゼロの俺を切った会社を、潰れる前に俺が買うことにした 最下位営業の反撃――粉飾決算と裏切りに支配された会社の終わり  作者: かーすけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

第10話 「選択の代償」

 沈黙。

 張り詰めた空気の中で——

 佐伯が、一歩前に出る。

 部長と、蓮の間に立つ。

「……佐伯」

 部長の声が低くなる。

 警戒。

 当然だ。

 だが——

 佐伯は振り返らない。

 視線は、まっすぐ蓮に向いている。


「それ、渡せ」

 短く言う。

 空気が凍る。

 中原が息を呑む。

「……やっぱり」

 小さく呟く。

 疑いが、確信に変わる。

 蓮は、無言で佐伯を見る。

 その目を、外さない。

「渡せって言ってる」

 もう一度。

 今度は少し強く。

 後ろでは、部長が動かない。

 見ている。

 判断を待っている。

 (なるほどな)

 蓮の中で、繋がる。

 佐伯は——

 (使われてる)

 だが。

 それだけじゃない。

「……それで?」

 蓮は静かに言う。

「渡したらどうなる」

 佐伯の目が、一瞬だけ揺れる。

「助かる」

 短い言葉。

 だが、その裏は——

 薄い。

「誰が?」

 さらに踏み込む。

 佐伯は、答えない。

 代わりに。

「いいから渡せ」

 焦りが混じる。

 その瞬間。

 蓮は、わずかに笑った。

「無理ですね」

 はっきりと言う。

 空気が、張り詰める。

 後ろで、部長が一歩前に出る。

「神谷」

 低い声。

「それは会社の資産だ」

 正論。

 だが——

「違いますね」

 蓮は即答する。

「これは、“値段”です」

 その一言。

 部長の目が、わずかに変わる。

 理解した。

 何を持っているのか。

「……どこまで知ってる」

 声が低くなる。

 蓮は答えない。

 その沈黙が、答えだった。


 そのとき。

 佐伯が、動いた。

 一気に距離を詰める。

 手が伸びる。

 USBを奪うつもりだ。

 ——瞬間。

 蓮は一歩引く。

 かわす。

「っ……!」

 佐伯の手が空を切る。

 その勢いのまま、体勢が崩れる。

「佐伯、やめて!」

 中原の声。

 だが、止まらない。

「渡せって言ってるだろ!」

 今度は本気。

 掴みにくる。

 その目は——

 焦りと、恐怖。

 (追い詰められてるな)

 蓮は冷静に見る。

 そして。

「お前、取引したな」

 低く言う。

 一瞬。

 佐伯の動きが止まる。

「……」

 沈黙。

 それが答えだった。

「条件は?」

 蓮が続ける。

「助ける代わりに、情報を持ってこい……そんなとこですか」

 図星。

 佐伯の顔が歪む。

「……生き残るためだろ」

 吐き捨てるように言う。

「何が悪い」

 正論。

 だが——

「遅いんですよ」

 蓮は静かに言う。

「その判断」

 その一言で、佐伯の表情が変わる。

 怒り。

 そして——

 焦り。

「ふざけんな……!」

 再び掴みにくる。

 だが、その瞬間——

「もういい」

 低い声。

 部長だった。

 空気が、一気に変わる。

 佐伯の動きが止まる。

「下がれ」

 命令。

 佐伯は、歯を食いしばりながらも、一歩下がる。

 従うしかない。

 完全に、立場が出ている。

 部長が前に出る。

 蓮と向き合う。

「交渉しよう」

 静かに言う。

 意外な言葉。

 中原が息を呑む。

「そのデータを渡せ」

 まっすぐに言う。

「悪いようにはしない」

 どこかで聞いたような台詞。

 だが——

「信用できませんね」

 即答。

 部長は、わずかに笑う。

「だろうな」

 あっさり認める。

 そして。

「だが、選択肢はある」

 一歩近づく。

 圧が増す。

「ここで終わるか」

 一拍。

「外に出て、生きるか」

 その言葉。

 意味は明確。

 見逃す代わりに、渡せ。

 そういう取引。

 沈黙。

 数秒。


 中原が、小さく言う。

「……どうするの」

 不安が滲む。

 佐伯は、何も言わない。

 ただ、見ている。

 縋るように。

 蓮は、ゆっくりと息を吐く。

 そして。

「——いいですね」

 そう言った。

 空気が、一瞬緩む。

 部長の口元が、わずかに動く。

 だが——

 次の瞬間。

「ただし」

 蓮が続ける。

 全員の視線が集まる。

「条件があります」

 その一言で、空気が再び張り詰める。

「俺たち三人、全員見逃すこと」

 中原と、佐伯。

 その名前は出さない。

 だが、意味は明確。

 佐伯が、目を見開く。

「……なんで」

 小さく呟く。

 裏切ったはずの自分を。

 なぜ、含めるのか。

 部長は、少しだけ考え。

「いいだろう」

 あっさり言う。

 条件は成立。

「データを渡せ」

 手を差し出す。

 そのとき。

 蓮は、ポケットに手を入れる。

 USBを取り出す。

 全員の視線が、それに集中する。

 ゆっくりと。

 差し出す。

 あと数センチ。

 ——その瞬間。


「残念」

 蓮が、呟いた。

 同時に。

 USBを、床に落とす。

 ——バキッ。

 踏みつける。

 乾いた音。

 空気が、凍る。

「……は?」

 佐伯の声が震える。

 部長の表情が、初めて崩れる。

「何を——」

 言い終わる前に。

 蓮は、静かに言った。

「バックアップ、取ってます」

 その一言。

 全てが、ひっくり返る。

 中原が、息を呑む。

 佐伯が、固まる。

 部長の目が、鋭く細まる。

「どこにある」

 低い声。

 蓮は、わずかに笑った。

「教えるわけないでしょ」

 当然の答え。

 沈黙。

 そして——

 部長が、小さく息を吐く。

「……やるな」

 初めての評価。

 だが、それはもう意味を持たない。

「交渉の主導権は、こっちです」

 蓮が言う。

 静かに。

 だが、はっきりと。

「あなたたちじゃない」

 その言葉で——

 完全に、立場が逆転した。

 誰も動けない。

 均衡が、崩れる。


 そのとき。

 佐伯が、ゆっくりと蓮を見る。

 その目には——

 恐怖と。

 わずかな、希望。

 (ここからだな)

 蓮は、静かに息を吐く。

 ゲームは、次の局面に入る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ