表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れ物専門、言の葉郵便局  作者: 輝久実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/16

郵便局の朝

『言の葉郵便局』の朝は、巨大なネジを巻くような音で始まる。


 中央ホールで行われる朝礼。蓄音機の仮面を被った局長が、言葉を一切発さず、ただその場に「存在」するだけで、空気がピンと張り詰める。


「――以上。今日の配達予定は掲示板を確認すること。ハル、ぼさっとしない!」


 ミス・カラスの厳しい声に、ハルは肩を跳ねさせた。ベールの奥の冷ややかな視線を感じながら、慌てて掲示板に目をやる。


 横では、人間に化けたクロが


「あーあ、また怒られてやんの」


と、わざとらしく欠伸をしていた。


 朝礼が解散になると、ハルは吸い寄せられるように、地下にある『修復室』へと向かった。そこは、現世で傷つき、摩耗してしまった「想い」を治すための、静かな工房だ。


「……ツムギ君、入ってもいい?」


 返事の代わりに、カチカチという精密機械をいじる音が返ってきた。


 眼鏡を光らせた少年・ツムギが、拡大鏡を覗き込みながらピンセットを動かしている。


「ハルか。……前回の『白い花』、完全に開花させたみたいだね。花の芯だけが戻ってきたよ。はい、これ」


 ツムギが差し出したのは、ガラス瓶に入った小さな光の粒だった。


「それは『感謝の残滓ざんし』だ。君のペンダントに少しだけ吸わせておいたよ。……でも、君自身の記憶は、まだ全然だね」


 ハルは胸元の空っぽのペンダントを触った。確かに少しだけ、昨日より温かい気がする。


「焦っても仕方ないよ。……ところで、さっきウツロさんが変な顔をして戻ってきたけど、何かあったのかな?」


 その時。


 修復室の壁に溶け込むようにして、フードを被った青年・ウツロが姿を現した。ヘッドホンを首にかけ、スマホのような端末を弄りながら、彼は気だるげに口を開く。


「……あー、いたいた。新人君、ちょっといいかな。次の案件、かなり面倒なやつ引いちゃった」


 ウツロが端末を空間にかざすと、そこにある「忘れ物」の情報がホログラムのように浮かび上がった。


「これ、見てよ。普通は『物』とか『言葉』なんだけど……今回の依頼品、**『自分の名前』**なんだよね」


「……名前?」


 ハルが首を傾げると、ウツロは少しだけフードを上げた。その瞳には、不可解な戸惑いがある。


「そう。ある若者が、自分の名前をスマホのデータと一緒に『ゴミ箱』に捨てちゃった。それ以来、彼は自分の名前を誰も呼んでくれないし、自分でも思い出せなくなってる。……でも問題はそこじゃない。その捨てられた名前が、現世で**『意志を持って歩き回ってる』**らしいんだ」


「名前が……歩いてる……?」


 ハルは絶句した。今まで届けてきた「想い」とは、あまりにも性質が違う。


「面白いじゃねえか」


 いつの間にか背後にいたクロが、獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべた。


「自分の名前を捨てた男と、勝手に動き出した名前、か。ハル、お前の責任感で、そいつを捕まえてこいよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ