表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れ物専門、言の葉郵便局  作者: 輝久実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/16

捨てられた約束

現世のゴミ集積場は、境界線の霧とは違う、鼻をつくような現実的な悪臭と重苦しさに満ちていた。


 降りしきる雨の中、ハルとクロ(猫の姿)、そして今回は「現世の地理」に詳しいウツロが同行していた。


「……あそこだ。あのゴミの山の中に、強い『想いの残香』がある」


 ウツロが指さしたのは、無造作に積み上げられた粗大ゴミの山だった。ハルは泥に汚れながら、必死に手を動かして何かを探し始める。


「……あった。これだ」


 ハルが引き揚げたのは、泥にまみれた「古びたスケッチブック」だった。


 ページは雨を吸ってふやけ、多くのページが破り取られている。しかし、残されたページには、たどたどしいけれど温かい筆致で、「幸せそうな家族の食卓」の絵が描かれていた。


「これ、ただの落書きじゃない。……色が、すごく温かい。でも……」


 ハルがスケッチブックに触れた瞬間、胸の奥がキリリと痛んだ。


 この忘れ物は、「返してほしい」という願いではなく、「僕なんかが、こんな夢を見ていてごめんなさい」という、深い絶望と謝罪に染まっていた。


「ハル、これを見ろよ」


 クロが足元で何かを指し示した。それは、スケッチブックと一緒に捨てられていた、真っ二つに割られた「新品の絵の具セット」だった。


「……親に捨てられたんだな」


 ウツロが冷ややかに、けれど少しだけ悲しそうに言った。


「依頼人の子供は、今、街の外れの児童養護施設にいる。親からネグレクトを受けて保護されたんだ。その時、親が『お前にはこんなもの必要ない』って、目の前でこのスケッチブックをゴミに捨てた……。子供にとっては、それが自分の『未来』を捨てられたのと同じだったんだ」


 ハルは、泥だらけのスケッチブックを抱きしめた。

 冷たい雨の中、ハルの心に少年の泣き声が響いてくる。


「……ひどい。こんなの、忘れ物じゃない。奪われたものだ」


 ハルの瞳に、これまでにない激しい怒りが宿る。


 いつもは弱々しいハルの指が、スケッチブックを壊さないように、けれど決して離さないように強く力を込めた。


「責任を持って、届けるよ。……彼に、絵を描くことは悪いことじゃないって、伝えなきゃいけないんだ」


「……だが、ハル。相手はまだ生きてる子供だ。しかも施設にいる。普通に行っても会わせてもらえないぜ?」


 クロがニヤリと笑い、人間の姿にバサリと変わった。


「郵便局員の出番だ。ウツロ、あいつの『夢の通り道』を探せ。眠っている少年の夢の中に、このスケッチブックを直接叩き込みに行くぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ