最愛の人になら、殺されてもいい。
スレイ視点
勇者は、絶対に俺が殺す。
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――勇者、ミレイ。
世界を救った勇者の名。
そして私の名前でもある。
世界は魔王の目覚めにより、魔物が活発化。
魔物を率いた魔王により数多の国家が落とされた。
そんな中、女神からの神託により、勇者が選ばれた。
ただの村娘だった私は、勇者の剣を携え、魔王討伐へと旅立った。
私により人類は瞬く間に領土を取り返していった。
そして数多の困難を乗り越え、遂に人類の悲願であった魔王討伐を成し遂げた。
私は強かった。
いや、強すぎた。
私の強さは誰も追いつくことができなかった。
当初は、パーティーを組んで動いていたが、パーティーを組んでいることにより動きづらくになることもあり、最終的には常に独りで戦うことを余儀なくされていた。
だが、一緒に戦う事は出来なくとも、物資の補給や情報の伝達、日常での雑事等を行う人間は必要だった。
そこである時、一人の男性が側付きになった。
その人は補給、伝達、雑事等、全てを高水準で行ってくれた。
その人のお陰で魔王を討伐できたといっても過言ではない。
それほどにその人、スレイの影響は大きかった。
そうして二人で魔王城に乗り込み、死闘の末、魔王を討伐した。
だが、魔王は最期に私に言葉を言い放った。
『フハハハッ!まさか我が倒さられるとはなッ…!だが、覚えておけッ!ニンゲンの勇者よ!我が死んでも、ニンゲンにとっての魔王はまだこの世に存在しているかもしれぬことをッ――』
私にはよく分からなかった。
だけどスレイが、少しだけ焦ったような声で私にトドメを刺すように促してきたことを覚えている。
その後、王都へ凱旋した。
王都は大歓声で包まれ、泣いて感謝する人もいた。
私もこの人たちの生活を護ることが出来て良かったと、心から思えた。
王様との謁見。
そこで私は領地だったり、爵位だったり、金品だったりと、かなりの物を与えると言われた。
だけど、断った。
謁見の場で睨んでくるような貴族もいたし、面倒事はゴメンだった。
それよりも、なによりも、私には成し遂げたいことがあった。
それは、これからもスレイと一緒にいること。
険しい道を乗り越え、魔王を討伐し、その間はずっと支えてもらっていた。
――好きになるなという方が無理だった。
だから願った。これからもスレイと一緒にいることを。
スレイは横で驚いていたように思う。
王様は少し顔を引きつらせながら、承諾した。
そうしてスレイと二人、王都の喧騒とは無縁な自然豊かな森に家を建て、住み始めた。
その日々は幸せだった。
スレイがご飯を作ってくれたこともあった。
私が土砂崩れに巻き込まれた時には、土の中で身動きが取れない私を、スレイが見つけ出してくれた。
そんな日々を過ごしていたある時、スレイから散歩に誘われた。
そこは誰もいない小高い丘。
周りにあるのはどこにでも咲いているような花が一輪だけ。
そこでスレイが跪く。
『俺と結婚してほしい。』
それはずっと待ち望んでいた言葉。
誇張抜きに世界で一番強い人間。そんな女性と結婚したい人間なんているのか。ずっとそう問い続けてきた。
元はただの村娘だ。器量は良くない。肌は色白では無いし、髪の質だって悪い。身体なんて戦いで傷だらけだ。
そんな私が選ばれるなんてありえない。
それでも一緒にいたいから。
王に願ってしまった。
浅ましい女。
スレイにも、なにか事情があるのは分かってる。
たまに辛い顔をするから。
でも、今は、
今だけは。
例え長く続かないとしても。
――夢を、みたい。
「これからも、ずっと一緒にいてね。」
『――あぁ。死ぬ瞬間まで、ずっと一緒だ。』
そう言ってスレイの目から一筋の涙が流れる。
その涙には気付かないふりをして、私はスレイに抱きついた。
それから数年。
スレイと一緒に過ごした。
その日々は幸福で、スレイへの愛情が溢れるばかりだった。
だけどスレイは、胸を抑えることが増えた。
大丈夫?ときけば、大丈夫と返ってくる。
その頻度は徐々にあがっている。
原因は私には分からない。
ただ、スレイが辛い事だけは分かった。
少しだけ、ほんの少しだけ。
――殺意のようなものを感じる事があるから。
スレイに殺されるならいいよ。
ずっとそう思って過ごしていたある日の深夜。
隣で眠っているはずのスレイが動く音で目が覚める。
その時が来たのだと、思った。
スレイが何かを取り出す音。浅くなる呼吸。
最期に一目だけ、スレイの顔を見て逝きたい。
目を開ける。
そこには今まさに、私の胸に刃を突き立てる為、振り被っているスレイ。
スレイを見て、微笑む。
「――いいよ。」
私はそれだけ言って目を閉じた。
刃を振り下ろす気配。
今までの幸せな記憶が胸をよぎり、
瞳から溢れた。
スレイ。
ずっと。
ずうっと、
――愛してる。
そこからどのくらい経っただろう。
いつまでも来ない衝撃。
刃を片付ける音。
私を抱きしめるスレイ。
「いいの…?」
スレイに聞く。
スレイは震えた声で言葉を返す。
『もう…もう、いいんだ――。』
苦しそうなスレイの声。
――終わったんだ。
分からないけど、スレイは私を選んだんだ。
嬉しかった。
だから言うことを決意した。
スレイが私を選ばなかったら必要の無かった言葉を。
『あのね、もしかしたら、
――出来たかも、しれないの。
貴方が私の事をどうにかするつもりなら、言わないでおこうと思ったんだけどね。
――もう、いいんでしょ…?』
スレイが驚く気配。
そして私を抱きしめる腕に力が籠る。
そして力強い声で言う。
『――大丈夫。ミレイと子供は、俺が最期まで絶対に護るよ。』
誇張抜きに世界で一番強い人間。
それを護ると言いきれる人間がどの位いるだろうか。
スレイのこういう所に惹かれたのだ。
愛しているのだ。
「ありがとう――」
――――――――――――――――――――
――あれから何十年、経ったのかねェ。
アタシらにゃ孫もできて、あれからの人生は順風満帆と言えるんじゃないかねェ。
今、アタシは目を閉じて、横になっている。
息子、娘、孫、一族すべてに見守られながら。
医者から、最後の挨拶を、と言われて皆集まったんだ。
皆が思い思いの言葉を告げていく。
意識は有ったり無かったり、アタシは言葉を返すのもやっとだよ。
そして最後は爺さんの番。
もうカラダは動かないし、声一つ出せやしない。
冗談抜きに、死んでるようなもんだ。
でも、爺さんとの別れだけは、きちんと済ませたい。
爺さんは、皆には二人きりにしてくれと出ていってもらっていた。
「婆さんや…。
いざ最期となると、伝えたい事が多すぎて、うまく言葉にできんのぅ――。」
――そうだねェ。色々あったからねェ。
爺さんの眼から涙が零れる。
「色んな事があったがよ。婆さんの最期は、儂だけで看取ると決めてるんじゃ。」
嬉しいねェ。アタシも、アタシの最期は、スレイだけに見てもらいたいよ。
スレイのプロポーズの時、アタシは言った。
『ずっと一緒にいてね。』と。
その約束を守ってくれて、嬉しい。
スレイがアタシの顔を覗き込む気配。
思い返すのは幸せな思い出ばかり。
魔王討伐から始まり、結婚して、出産して、子育てして、余生を楽しんで。
沢山の、数え切れない程に沢山の幸せを与えてもらった。
このままじゃ終われない。
――伝えなきゃ。スレイに。
感謝を。
幸せを。
愛を。
これが最期だ。
アタシは、勇者は、私はッ、世界最強、なん、だ――ッ!
私の目が薄く開く。
そしてスレイの頬に手を伸ばし、少し、微笑んだ。
スレイ。
私の最期を看てくれてありがとう。
私を選んでくれて、ありがとう。
心から、
貴方の全てを、
愛して――




