第一章 隔離、1
森の奥へ足踏み入れた。脳の奥がざわついた。異様な気配ーーそれは、言葉では説明できない本能的な拒絶だった。体が後ずさろうとするのに、頭のどこかでは前へ進めと命じている。まるで、脳と肉体が別々の意志を持っているようだった。
それでも、僕は足を止めなかった。
森の奥は、ほとんど闇だった。林冠を突き抜けて届く光がなければ、一歩先すら見えない。僕は片手を振った。淡く小さな光が、玉となって宙浮かんだ。
その光は、糸で僕と繋がっている風船のようにふわりと漂い、足元をやさしく照らしていく。白い輝きが周囲の闇を押しのけ、静寂の森に淡い輪を描いた。
簡単な呪文ではあるが、それでもマナを消費する。この世界にはマナが満ちているーー「生き物の心」とも呼ばれる。それは、米粒ほどの小さな虫から、王都の城の隣にそびえ立つドラゴンにまで宿っている。まるで海のように寄せては返すマナ。その流れがどこから来て、なぜ存在するのか、誰にも分からない。博識な哲学者でさえ、その正体を語れたものはいない。
とはいえ、マナが世界に溢れているからといって、誰もがそれを扱えるわけではない。意志でマナで操れる者は、この世界の履歴の始まりからごくわずかだった。
そのなかで最も名を残したのが、ソロンという魔法使いだ。魔法の師に巡り合うことがほとんど不可能なので、ソロンは誰もが基礎を学べるように、魔法理論を簡潔にまとめた書を書いた。それが今では「魔法使いの便覧」と呼ばれている。分からないことはまだ多いが、基本的には魔法は、使い手の感情や精神に従うらしい。




