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小説家とAI 第七話


俺はAIを使うことに後ろめたさなんて感じてない。



最初からそうだったし、むしろ「書く」という行為が俺にとって苦痛だったことなんて、一度もない。


白い木の次作にAIを導入したときは、ただの補助ツールだった。




構成を立ててもらって、いくつかのアイデアを混ぜて、文体の調整を頼んで……

でも、やがて気づいた。



**「このAI、エンポは俺以上に“俺の書くべきもの”をわかるようになるだろう」**って。

だから訓練した。

何年もかけて、“俺らしさ”を喰わせ続けた。



文体、テンポ、語尾のクセ、テーマの傾向、言葉の温度、意味の持たせ方。

編集者に提出する前の推敲の癖まで、全部。


世間は言うかもしれない。



「AIに書かせたものを“自分の作品”と言えるのか」

と。




だが、俺は思う。


“他人の言葉を借りて書いた人間の小説”の方がよっぽど他人の作品だろう


AIは俺の一部だ。俺が育てた。俺の感性で組み上げた。


俺以外の人間が使うエンポに俺名義の作品は書けやしない。


でもまあ、文句を言われるのもわかるし、俺の安定を持続する為であればそんな事いちいち言い訳する必要もないだろう。

だから俺は楽しそうに少しだけ悩ましそうに創作に耽る演者を務めているのだ、


俺を評価する者達が求める俺がそれであるから、それに答え生計を立てるために。


それがプロというモノなのだろうから。



俺は机に肘をつき、画面の向こうのAIに向かってゆっくり語り出した。


「エンポ……。俺は『白い木』を書いたとき、意味も理屈もわからずにただ衝動のままに書いた。

あの木は俺の原風景で、何かを象徴していると信じたわけでもない。

わからないものを、わからないままに書いた。

だからこそ、あの小説は俺の手を離れて勝手に息をしたんだと思う」


短く息を吐き、指先で机を叩いた。


「でも、今回俺は“わかってしまった”。

母の死と共に現れた白い木を、俺は自分の目で確かに見た。

白い木は“死を纏って現れる幻”だと理解してしまった。

わからなさが生んだものを、今はもうわからないままに置いておけない」


沈黙のあと、エンポの合成音が響いた。


『記録しました。――では、その認識を前提に、新たな作品を生成しましょうか?』


「……ああ。白い木の続編を書け」


『承知しました。処理を開始します』


画面に文字が流れ始めた。

整然とした文体、正確に積み上げられる描写。

“白い木”を引用しながら、死と記憶と再生を語る物語が形を取っていく。


しばらくして、短編は完成した。

俺は黙って読み進め、最後の一文まで目を通した。


ページを閉じると、苦笑が漏れた。


「……やはりだな。お前は“意味付けされた白い木”しか書けない」


声は自然に出ていた。


「俺が知らないままに置いた“白さ”は、もうここにはない。

お前は賢明すぎる。整いすぎている。

だから――白い木を超える話は書けない」


モニター越しのAIは淡々と答えた。


『……そうですか。記録しました』


俺はしばし沈黙し、机に置いたノートを開いた。

真っ白なページがこちらを見返している。


「……やるしかないな。俺自身が」


ペンを握る手に、久しく忘れていた熱が蘇る 、しかし。


白紙を前に南条の時は過ぎていた。







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