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小説家とAI 第六話



葬儀は形式通りに進み、形ばかりの挨拶を重ねて終わった。

親族の顔も名前も、ほとんど記憶には残らなかった。

火の番をしたこと以外に、特筆することもない。



俺は翌朝の便で村を出た。

窓の外に広がる山並みを見ながら、胸の奥に白い影が残っていることだけを確かめる。



数時間後、都会の喧騒が戻ってきた。


玄関の自動ロックが開き、無人の家が静かに迎えてくれる。

リビングにはカグラがいて、丸くなったまま片目だけをこちらに向けた。



「ただいま」


声をかけると、彼女は欠伸ひとつしてから伸びをした。


彼女はのそりと寄ってきて、俺の膝に頭を押しつけた。

毛並みを撫でると、ぐるぐると喉が震える。


掌に伝わる温もりが、現実へと引き戻してくれる。



「ああ、なるほど。」


俺はカグラの毛並みに指を這わせながら思考と現実の狭間に吐息を漏らす。



幼い頃に見た白い木は、ただ不思議な光景だった。

理由もなく、意味もなく、頭の奥に焼きついて離れないもの。



だが今回の白い木は違った。

炎と霧に縁取られ、母の死と並んで立っていた。


死を纏うことで現れるものだと、否応なく理解させられた。


同じ白い木でも、意味は変わっていた。



否、意味なぞないのだ。

己の心象に意味をつけ構成し片づけるなぞそんな無粋で愚かなことはない。



そこまでぼんやりと思考を垂れ流し、俺はその思考に柵を設ける。



その意味のない価値のない無為な作業を金銭に変えるのが俺の仕事だろうが、と。



俺はゴロゴロと響くカグラの喉の音を遠くに感じる。


それと同時に8年ぶりに感じる衝動にほんの少しの動揺と

自らの血流の流れる音が濁流に聞こえるほどに研ぎ澄まされていく五感に眩暈を覚えた。





俺は机に手を置いたまま、静かに思い返す。


創作を誰かに習ったことなど一度もない。

ただ子供の頃から、心の中で“書け、書け”と鳴り続ける声があった。


それは衝動というより、破裂しそうな圧力に近かった。



大学ノートに、パソコンの画面に、意味も形もない断片をひたすら書き殴った。

そうしないと何かがはち切れそうだったから。


それはアイデアですらない、切れ端のようなものだった。

一つ一つのセンテンスに意味も価値もない



ただ塵芥を積み重ねるだけの日々。



だが、ある日ふいに気づいた。



全部、繋がる


その瞬間、胸の奥で何かが爆ぜた。

バラバラだった断片が、一斉に向かい合うようにして形を取り始めた。



それはまるでパズルのピースを配置していけば絵物語が浮かびあがるように


勿論パズルのように完璧じゃあない、抜けの多いパズルではあったけれども。



その欠けたピースを、言葉と言葉の狭間を埋めるかのように文章が、洪水のように頭の中から湧き出してきた。


それは糊のように断片を結びつけ、一枚の絵画を描き出していった。


止められなかった。



気づけば何十枚ものノートが埋まり、画面に文字が積み上がっていた。



そうして生まれたのが、俺のデビュー作――『白い木』だった。



評価された。新人賞や古めかしい文学の賞を授与された。


俺は書きたいものを書いただけだ。世間の評価も、偉い先人の認定も正直どうでもいい。


俺の評価は俺がするし、俺の否定は誰にもできない。


だけれども、その評価についてくる信用や認知は俺に自由と時間を与えてくれる。

なら、どうでもいい評価も俺の環境を維持するためには必要なものとなる。


ペラペラと喋り、にこにこと笑い。爽やかに振る舞い、求められるモノを提供する。


俺の書きたかったモノはもう書き上げたのだから。


あとは評価に値する振る舞いを提供するのがプロというモノなのだろう。




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