夫が突然、愛人を連れてきた
「セレスティーネ、この子を愛人として迎え入れたいのだが、良いだろうか?」
「愛人、ですか。陛下が迎え入れたいのであれば、いいのではありませんか」
「アイリーンと申します。皇后陛下」
「アイリーン、これからよろしくね。一緒に陛下を支えていきましょうね」
「はい!」
「では陛下、私は失礼致します」
「ああ」
「セシル、セレスティーネには全然意味なかったようなのだが」
「そんなこと私に言われても知りませんが?レオンハルト様」
「元々セレスは感情表現をあまりしない子だからね、後にならないと分からないよ」
「ルミナス、セレスティーネとは幼馴染なのだから、知っている」
「レオンは抜けているところがあるからね、セレスの兄である私が一応伝えておく義務があると思って」
「セレスティーネ嬢が嫉妬することはないのですか?」
「ないな」
「ないだろうね。例え嫉妬したとしても態度には一切出ないよ。それがセレスだから」
「セレスが怒るのも涙を流す姿も見たことがないな」
「そういう一見温厚そうな人ほど怒ると怖いと聞きますが、どうなんでしょう」
「一度怒る姿を見てみたいね、兄として少し心配だからさ」
「ルミナス、怒られるのは私になるのだが」
「陛下が1番適任ではありませんか」
「こういう時だけ陛下呼びをするんだな」
「ところでレオンハルト様、何故私が女装をしなければならないのでしょうか」
「セシル、我慢してくれ」
「女装をしてバレない、レオンの我儘に付き合える人はセシルしかいないからね」
「こんな頼られ方は嫌なのですが」
「陛下、皇后陛下がいらっしゃいました」
「陛下、アイリーンに与える部屋と使用人の準備が整いました」
「あぁ、感謝する」
「アイリーン、いつまでもその格好では示しがつきません。一度着替えるためにも部屋に行きましょう」
「へ?私はこのままで大丈夫です」
「私が大丈夫ではありません」
「本当に大丈夫です」
「では、私の買い物に付き合っていただけますか?」
「それなら...」
「では陛下、お借りしますね」
「あぁ」
「ルミナス」
「ええ、レオン」
「これはまずいかもしれない」
「私もそう思うよ」
「セシルが女装をしていることがバレる」
「へ?そっち?」
「それ以外に何かあったか?」
「じゃあ、私は知らぬ存ぜぬで通してもらうよ」
「ルミナス、教えろ」
「私は知らない」
「ルミナス」
「私はこの件には一切関わらないことにしたよ」
「共犯だろうが」
「…」
「はぁ、言うつもりは無いんだな」
「セシルが正しかった、と言っておくよ」
「?」
3時間後
「遅くないか?」
「女性の買い物とはこんなものですよ」
……
「陛下、お返し致します」
「アイリ?」
「つ、疲れました」
「セレス、アイリに何をした?」
「買い物に付き合っていただいただけですよ、意外と体力ないのですね」
「セ…アイリは体力はかなりある方だと思うのだが」
「あら、陛下はそんなところまでご存知ですのね」
「セレスティーネさま、そろそろ」
「ありがとう、フィーネ。次の用事がありますので、失礼致します」
「セシル、何があった?」
「ひたすらに着せ替え人形をさせられました」
「それだけでこんなに疲れるわけない」
「///…処女であるか検査されました」
「はぁああ?!!」
「セレスがか?」
「いえ、セレスティーネ嬢専属の医者です」
「どうなった?」
「最初は驚いたみたいですが、その後淡々と検査し、セレスティーネ嬢に報告してました」
「それは災難だったね」
「その後、お茶会をし、フィーネ嬢以外を全員下がらせた上でこれを渡されました」
「これはなんだ?」
「避妊薬と堕胎剤だそうです」
「さすがセレス、準備が早いね」
「感心してる場合か」
「それで、その後は何をしたの?」
「フィーネ嬢に一対一で話したいと言われ、話しました」
「へぇ〜、それで?」
「『セシルも妹を送り込むとは落ちたものね、あぁ、貴方に言ったわけではないのよ?貴方の兄が最低だと言っただけだから。愛人になったからにはレオン様を慰めて頂戴ね。貴方がここにいる限り、セレスティーネ様をレオン様の元に送るわけにはいかないから。あぁ、貴方がちゃんと愛人の役目を果たしているかは毎日聞きに行くから、サボっていたら承知しないわよ。もしセシルに会うことがあれば伝えておいてくれるかしら?クズの思い通りにはさせない、今後貴方と親しく話す日はないでしょう、と。』と言われました」
「フィーネは怒ると怖いからね」
「もしかして地雷踏み抜きました?」
「かもね」
「ちょっとレオンハルト様、どうにかしてください」
「私もフィーネは苦手だから、無理だ」
「私がフィーネ嬢を好きなことは知ってますよね?」
「それはすまない」
「すまない、じゃありませんよ!」
「いっそバラしたら?」
「絶対に嫌だ。嫉妬するまで続ける」
「…気が済むまで付き合ってあげてね、セシル」
「僕ですか?」
「アイリーンでしょう?」
「すぐに終わるものじゃないんですか」
「レオンが根負けするまで続くだろうね」
「はぁああ?!!」
………
1年後
「ルミナス、どうしよう」
「やっと気が済みました?」
「僕はもういいや、アイリーンの姿ならフィーネは最低限の会話をしてもらえるし、このままでもいいと思う」
「最近、セレスがアイリーンとの子はまだ出来ないのか聞いてくるんだけど!」
「さっさと折れておけば良かったんだよ」
「嫌だ、ここまできたら絶対に嫉妬させてやる」
「そうですか、私は関与しませんからね」
……
2年後
「どうしよう……」
「レオン」
「もう辞める、ちゃんとセレスに言う」
「やっと気が済んだんだね」
「これ以上続けても嫉妬させることはできないと思うから」
「それをもっと前に気づいておけば良かったのに」
「ルミナス、ごめん」
「私への謝罪はいらないよ」
「でも、」
「自業自得だからね」
「セシルもごめん」
「セシルに戻っても口聞いてもらえないと思うとこのままでもいい気がしますけど、僕もフィーネと向き合わないといけませんから」
「謝りに行こう」
「そうだね」
「はい」
……
「陛下、愛人を連れて何か御用でしょうか」
「セレスに会いたいのだが」
「……愛人を連れて、ですか?」
「あぁ、謝らなければならないことがある」
「……とりあえず、ここでお待ちください」
「わかった」
「セレスティーネ様」
「フィーネ?」
「陛下がお越しになりました」
「そう」
「お会いしたいそうです」
「分かったわ」
「陛下、お久しぶりです」
「セレス?」
「どうされました?」
「セレス?」
「あぁ、少し痩せてしまいした」
「その痩せ方は少しではないだろう」
「陛下は気にする必要のないことですよ」
「何故だ?私はセレスの夫だぞ」
「お飾りの、ですけどね」
「っ!!!」
「どうしてそんなことを?」
「誰だ?誰が言ったのだ?」
「さぁ、誰が言い始めたのか忘れてしまいました。そんなことはよろしいのです。どのようなご用件で?」
「そんなことではない!!セレスの体調も重要なことだ!!」
「だっ!」
「フィーネ、おやめなさい」
「でも!」
「あなたがこの3年いてくれたから、私はここにいるの。失うようなことはしないで」
「かしこまりました」
「それで陛下、ご用件をお聞きしても?」
「……」
「陛下、とりあえず言いましょう」
「そうだな」
「アイリーンは愛人ではない」
「そうですか」
「アイリーンはセシルの女装した姿だ」
「ええ」
「セレスに嫉妬して欲しくて愛するフリをした」
「そんなことだろうと思っておりました」
「「え?」」
「初めからセシルの女装姿とは知っていました」
「気づかない方がおかしいですよね、だって検査しているのですから」
「///」
「その前から知っていました」
「3年間、私を放置して楽しかったですか?」
「いえ、3年も放置するのですから、随分楽しかったようですね」
「陛下の言いたいことはそれだけですか?」
「……この3年は無駄だったということか?」
「そう言うことですよ、レオン」
「ルミナス、知っていたのか」
「知らないわけがないでしょう、セレスは私の妹なのですよ」
「何故言わなかった」
「それが愛人を迎えることを止めなかった私への罰ですよ」
「は?」
「ちなみに期間が伸びるごとに罰は増えるのですが、気付きませんでしたよね」
「知らない」
「後継者から下ろされたのもその一環ですよ」
「は?」
「私、軽率な行動をした陛下に怒っておりますの」
「へ?」
「私の立場を考えず、愛人を迎えた陛下の行動に」
「すまなかった」
「いいですよね、皇族は頭を下げずとも何でも許されるのですから」
「私は一つの些細なミスで噂になるというのに」
「セシルもアイリーンの姿とはいえ、フィーネと話せて良かったですね」
「あぁ、フィーネは渡しませんよ?」
「貴方も同罪ですから」
「知っていたと伝えた時、謝罪より無駄だったのかという疑問が出たのが本当に不思議なのですが」
「まぁ、くだらないことを常にする陛下のことですから、驚きもしませんでしたよ」
「それで陛下はどうやって償ってくれるのですか?」
「で、できることなら何でもする」
「まぁ、そう言っていただけて嬉しいですわ」
「じゃあ、私がいいと言うまで——————————————————」
ー 公務以外、声が聞こえず、目視できない位置にいてくださいね ー