オークション開催
オークション会場
ここ、“ディパーテッド・コロニー”で年に一度開かれるオークションでは
多数の金持ち、反社会勢力が人身の所有権を巡って大金を落とす。
それ故、会場は豪華絢爛な造りとなっており
その他にも宿泊施設遊戯施設等と、もてなしの為の創意工夫が多くなされている
オークションのメインとなるこのホールも座席毎に参加者のプライバシーが保護され
座席毎に区切られた空間が56席設けられていた。
これら全てを仕切るのはサーナダ・ファミリーである
「……ほんとに趣味が悪いわ」
その内の一席、5人がけの個室にいたのはルラル達“アキ”の船員で
その中央に座っているルラルがオークションの様子を見るやいなや言葉を零す
中央では今まさに一人の女性が競りにかけられている。
司会の男の話しではその女性は元サーナダ・ファミリー傘下のボスの妻であり
親組織であるサーナダ・ファミリーに反旗を翻した事の見せしめの一環として出品されていたのだ
「トロの番は3つ後だ、それまでは軽く流していこうぜ」
嫌悪感を示すルラルの肩を叩き隣に座るテレサが言う
「……ええ」とルラルは渋々答え、気持ちを落ち着ける
しかし会場は、それに反し盛り上がりを見せ
先程の女性は65万アース値で落札される
するとその時
コンコンッ
個室をノックする音で皆が一斉に振り返る
入り口に一番近い位置に座ったマクが警戒をしながら個室の扉を開ける
「失礼する」
そこで訪れたのはサーナダであり、挨拶だけを行い直ぐにルラル達の個室にある端末へ触れる
すると直ぐに、端末に表示された額に300万アースが追加されたのだ
その後、サーナダはルラルの隣の席へ何も言わず座る
「一応、お礼は言っておきます」
ルラルは不満げな顔をしつつもサーナダに向かい頭を下げる。
そして続けて言う
「私達では80万アースしか用意出来ませんでした」
「ここに来る前にあった中央銀行の端末で全員の金集めてもやっとこの額だ」
ルラルの言葉を補足するようにテレサが付け加えサーナダに伝える。
サーナダもそれに頭を軽く下げ、礼を返す
「峰君には借りが出来た……残りはその礼だと思ってくれ」
その頃には、既に2人目に男が壇上へ上がっており
その男は元軍人で銃器の扱いに長けるが、借金の為出品されたと紹介されていた。
「ところでその峰は一体何処に居るの?」
ルラルがサーナダに尋ね、彼が答える
「彼の消息は此方でも掴めてはいない……無事だと良いが」
その言葉でルラルがサーナダへ向け、敵意をあらわにする
「なにをそんな他人事みたいにっ!貴方が彼を巻き込んだんでしょう!!」
怒りのあまり立ち上がり、声を張るルラルの言葉を黙ってサーナダは受け入れる
それでもルラルの怒りはまだ収まらない
「トロと峰を利用して、自分の都合の良い風に動かして満足なのっ!?」
「どぉどぉ、ルラル落ち着け」
今にも暴れだしそうなルラルをテレサが嗜める
そしてルラルを一旦座らせた後、サーナダは口を開く
「君は誰かへの怒りを私にぶつけているね?」
「——っ!!」
サーナダの言葉にルラルは声を詰まらせ反論をしない
そうしている間に壇上の男には45万の値がつき、オークションは次へ進む
一方その頃
当の出品される身にある彼女は至って平静を保っていた。
出品されるものが一同に集められたこの一室において彼女の美しさは目を引くものがある。
純白のドレスにメイクを施し、
長いボサボサだった茶髪の髪は綺麗に後ろでまとめ上げられている。
「……あぁ良かったぁ〜」
そう言い彼女は宙を見上げ、
周りに人がいるのも関わらず一人、声を漏らしている
「嬉しいとつい声が出ちゃうものだよぉ……でも皆ちゃんとそっちに行けてるんだね」
椅子に深く背を落とし、彼女は笑みを浮かべている
しかし一瞬だけ不安そうな表情を浮かべ
「……峰」とだけ零し静かに目を閉じた。
「5番、トロラルル!時間だ」
部屋の監視を行っていた男が進行本部より通信を受け、控室全体に響き渡る声で彼女を呼ぶ
すると彼女はゆっくり立ち上がり
男の元へと胸を張って歩いていく
遂に彼女が壇上で競りにかけられる時が来たのだ
そして
壇上に上がった彼女をここまでと同様に司会の男が紹介する
彼女の美しさに、周囲はどよめき熱気が高まっている様子だ
「トロっ!」
個室で見ているルラルが思わず声を上げる
「トロラルルには恐らく100万から150万の値が付くはずだ……始まるぞ」
ルラル対してサーナダは冷静に話し、準備を促した。
ルラルもそれに応えるように端末を前に席に着き、端末に手をかざす
「50万っ!」
すると映し出された中央のモニターに、50万アースの表記と共に現在の価格が表示される。
「さぁ!50万入りましたっ」
司会がそう言うと直ぐに他の入札が入り
「——おっと!60万です」と司会が現在の更新された価格を告げる。
そして65万、75万と値段がどんどんと上がっていく
そこで
ルラルは満を持して端末に手を伸ばす
「……100万!」
おおおおおおお!!
会場に歓声が上がる。
モニターの表記は100万で止まり、次の入札の声が暫く止む
「居ませんか?他には居ませんか?」
司会が会場中を見渡しながら、手を広げ言っている。
「………」
会場は沈黙する。
そして
「……他に居ないようなら、らくさっ——」
「150万よ!」
ザワッ!
会場に直に響いたその声は男の声とも女の声とも取れる個性的なものだった。
「っ——マダム・プラダ……」
サーナダがここにきて初めて顔を歪め、声を漏らす。
その変化に気付いたルラル達は直ぐにマダム・プラダについての情報をサーナダに求める。
「奴はここらの娼館の主だ……」
そしてサーナダの表情が怒りに変わり始めるが、口調は崩さず続けて言う
「マズイぞ……奴の資金は我々の物を越えている」
ルラルは絶望した表情になり、サーナダを問い詰める
「もっと、もっと資金は無いの!?このままじゃトロが……」
サーナダは首を横に振る
「今回の件は私の個人的なものだ……ファミリーの金は動かせん」
「……そんな」
サーナダの答えにルラルは絶望を深めその場に座り込んでしまう
そうしている内にも「マダム・プラダが目をつけた女性なら」と
アチラコチラから入札が入り、値段がつり上がっていく
「300万!!300万がマダム・プラダから入りましたっ!!」
司会の声で正気に戻ったルラルはそっと手を伸ばし、祈るように入札を行う
「……さっ——380万」
「……」
380万アースはルラル達の持つ限界の額なのだ
つまり、これ以上値が上がると入札は困難になる。
一同、祈るように司会の進行に耳を傾ける。
「……居ませんかっ——」
「400万アァァァァスッ!!」
再び
マダム・プラダの個人的な声が響き渡り、勝敗が決する。
塞ぎ込むルラル
目を閉じ黙ったままのサーナダ
「……それでは、これで落札っ——」
誰もが諦めたその時
「ごひゃくまぁぁぁぁぁぁんっ!!」
ザワワッ!
会場にとてつもない大声が響き渡った。




