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私達ってなんなんだろうね


 翌日


 昨日タイランとの面談を経て、 “ディパーテッド”達の元での潜入ミッションを決意した俺であったのだが


 今いるのはこの場所だ


 男達の熱気が逃げない閉ざされた空間で、半裸の男達は今日も取り囲む様に円をえがいて立ち並ぶ

 

 そして、俺は


「“ディパーテッド”クラブ、ルールその1クラブの事は口にするな」

「ルールその2っ——」


 てな具合で

 その中心で思いっきり演説を行っていた。


—— これ気持ち良いぃぃぃ!!


 男達の歓声の中行う演説はなんとも言えない快楽を生み出し、俺の高揚感を煽っていた。


 しかしこれは別にミイラ取りがミイラになった、というわけではなく

 しっかりとした馴染む為の作戦であったのだ


「イケてんじゃん」


 演説を終えた後のタイランの言葉にもあるように、俺はタイランが理想とするエドワード・ノートンになる事が出来るのだ





「随分様になっているじゃない」


 演説を行ったものの、ファイトには参加せず周囲で観察している俺に話し掛けてきたのは桜庭千恵であった。

 

 桜庭はメンバーと行動を共にしているが、ファイトには参加せず俺の様に様子を見ている事が殆どだ


「アレはただの映画のパクリ」


「映画?」


「いや、なんでもない」


 きごちのない会話から察せる様に、俺は未だに桜庭千恵の立ち位置を把握出来ずにいる

 トロやサーナダの話では物わかりの良い、平和主義的な穏やかな女性といった印象を受けていた。


 しかし今ここにいる、現世代の桜庭はどうにもそういった限りではない

 黒く短い髪が活発さを表現し、凛とした佇まいで強い自己を持ち、男達の中にあれど自らを通す強さが見て取れた。


「同じ人間でも経験で変わるんだな……」


 俺は思わず口に出してしまう、しかし桜庭は気にもとめない


「一体何が目的なの?」


 桜庭は俺の方を見ず、タイランなどの男達へ視線を向けたまま俺に質問する


「目的は……」


 俺は答えに詰まる

 

 膨れ上がってしまった目的が多々有り、答えに困ったからだ

 

 しかし根本に立ち返り

 当初の目的を語ることにする


「ある女の子がいてな、その子はトロラルルって言うんだが——」

「何処か抜けた性格で放って置けなくて、でも頼りになる事もあってさ」


「え?なに急にノロケ?」


 困惑した桜庭が初めて俺に視線を向ける

 しかしそれで少し和まされた俺は笑みを零し、続きを話始める。


「違うって!まぁ最後まで聞けよ」

「その女の子が言うんだ『私の親友が“ディパーテッド”に居る、解放してあげたい』って」


「ふ~ん……私の嫌いなタイプの女ね!」


 桜庭の衝撃発言に胸を痛める

 トロの事なのに何故か俺が傷ついてしまったのだ



—— なぁにが『いつ会っても友達になる』だ!!

 

 

トロの言葉で2人は相性が良いものと思っていたが全然、全くそうではなかったようだ



—— ……女の友情は儚いものだなぁ


 

俺はこの言葉のせいでトロと前世代の桜庭の関係を話そうかと迷い、また沈黙が産まれる


 すると桜庭の方から口を開く


「……アナタ前の私に会った事がある?」


 この言葉で桜庭もまた自らが“ディパーテッド”、複製という立場に考えを巡らせている一人だと気がつく


「……っ」


 俺は直ぐには答えられなかった。

 俺も頭の中のでは複製であってもそれは別の人間、一人の命であると結論づけていた

 

 しかし彼等にとっては自分以前に別の自分が存在し、世の中に何か影響を与えたというのも事実で

 簡単に切り離せるようなものではない


 桜庭はじっと俺を見つめ答えを待つ

 なので俺は意を決し答える事にする


「直接は知らない……」

「……人伝で聞いた事なら」



 そう言いこれまで聞いてきた桜庭千恵という人物の事を話す

 当時のサーナダ・ファミリーのボスと結婚し子を授かった事、トロと友達になり、そして年老いて病気で亡くなった事を説明したのだ


「ちょっと待って!」

「貴方の言っていた女の子ってそのトロラルルって子の事!?」


「……はい」


 気まずい感じだ


 なんせ向こうはバリバリ友達気分で居るのにコッチはディスりまくっていた。

 俺は耳と目を塞ぎ、口をつぐみたい気分に苛まれる


「その子の何歳なのよっ!?貴方の話では若い女の子なんでしょ」


「あぁ良かった普通の反応だ」


 最近はもっぱら百年、二百年生きている人間が多くて感覚が麻痺していた

 時折『コイツら樹木かな?』なんて思うこともあった。


 だがこうやって同じ価値観の人間に会うと少し安心するというものだ


「トロは130歳位って言ってたかな」


「木じゃん!」


「そう、この時代の人間は木なんだよ」


 そのやり取りで桜庭の顔に笑顔が映る

 「なにそれぇ」と言って笑っていたのだ


 なので、俺はこの機にもっと親交を深めようと続けて話す


「この時代の“人類”はAIにとっては“人間”では無いって認識される位だからなぁ〜」


 本当に何気ない一言だった


 しかし、返って来たのは予想外の単語だった。


「AIって“ツクヨミ”の事よね?」

「まだ現存してるんだ……」


 俺の記憶が蘇る


 冷凍睡眠前

 確か冷凍睡眠のニュースを出勤前に見ていた時の事だ

 

 俺は確かに“ツクヨミ”という単語を聞いた事があった。

 開発中のAIがどうとかいう特集に入り俺は時間の為視聴を中断したが間違いなく聞いた。


「……今いるのは“マキナ”ってやつだけど」


 俺は戸惑いながら返答するが、どうにも引っかかっていた。

 少なくとも桜庭達“ディパーテッド”がこのプロジェクトに参加する段階では、人類を主導していたということだ



—— 何処で別のAIに変わったんだ?



 しかし、わからないことだらけで考えが纏まらない

 そうやって考えていると桜庭が呟く様に話しているのが聞こえてくる


「私が結婚かぁ……驚きだわ」

「……何歳で子供産んだんだろ」


 それに対し


「今桜庭は何歳なんだ?」と一見デリカシーのない質問をする

 この質問は一見デリカシーが無いように見えて、実のところ本当に無いのだった。


 それは桜庭の俺を見る目にも表れていた

 「普通そんな質問する?」と口には出さなかったが間違いなく思っていたはずだ


「あぁごめんデリケートな質問だったな」

「“ディパーテッド”の場合どこから歳数えるんだ?産まれた時?通算?」


 俺は持ち前の峰節を発揮しこの失敗をユーモアに変えようと努力する


「貴方サイテーね……ただ——」

「そうやってハッキリ言って貰える方が有り難いわ」


 これには桜庭も呆れた様に答えながらも遺恨は残していないようであった。


「なんなんだろうね……私達」


 改めて聞かれると俺も回答に困ってしまう

 しかしそれを俺が決める事ではないと感じ、率直に思ったことを伝える


「悪いけどさ、自己啓発セミナーなら他所でやってくれ」

「皆で円になって自己紹介から始めてさ!」



「あの洋画でよく見るやつ?」


「その洋画でよく見るやつだ」


 俺は親睦を深めつつ、ファイトの為円になった“ディパーテッド”の者達を見つめる

 思えばアレも自己啓発セミナーみたいなものなのだと感じてしまう


 恐らく彼等も生きている実感が欲しいのだろう

 そしてそれは死にかけている時ほど感じられるものだ




「自分探しの旅なんて何を馬鹿なと思っていたけど、今なら少しやってみたいわね……」



 


 この言葉で俺はある程度桜庭の立ち位置も理解し、これ以上詮索するのは忍びなく思い始めた。


 なので


 俺の知りうる限り、礼を尽くし真実を伝えることにする



「桜庭、真面目な話だ……」


 桜庭は少し驚いた様だが、直ぐに真剣な表情になり俺の話に耳を傾ける


「タイランは皆を巻き込んで死のうとしている」


「——なっ!?」


 桜庭は言葉に詰まっている

 しかし直ぐに理解し、考えを纏め始めた


「……なるほど、そういう事ね」


 どうやら桜庭も俺と同じ、タイランが生成システムの停止を気にしていない様子から納得したようだった。

 

「……それで、貴方はどうするつもりなの?」


 この問いに、俺はある提案を桜庭にすることになった。



「桜庭にはやって貰いたいことがあるんだが、良いかな?」


「それは——」 

 

 


 

 そして



 タイランの暴動決行日がやってくる

 


 

  



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