喧嘩すんな
「“ディパーテッド”にリーダーがいるのか……」
サーナダの言葉では“ディパーテッド”にもリーダーがおり組織だって動いている事を示唆している。
これは俺にとっては朗報でもあった。
何故ならある程度組織だって動いているという事は、理性が完全に失われていない事が分かるからだ
「ちなみに中枢システムは何処にあるんだ?」
大まかな位置は想像できる
新たに生まれた“ディパーテッド”は下のエリアから上がってくる
であれば恐らく“ディパーテッド”の影響範囲に、発生の中枢システムがあるのは間違いなかった。
「“ディパーテッド”発生の中枢システムはこのコロニーのメインシステムと繋がっている——」
「そして、それがあるのはエリア5“ディパーテッド”達の居住エリアの先にある」
—— やっぱりかぁ……
俺はこの先の苦労を思うとなんとも言えない気分になる
だが解決の目処は立ったし行動を起こすしかないと、自らを奮い立たせる
「じゃあそこまでの道じゅ——」
ドスッドス
そこまで言った所で廊下から重たい足音が聞こえてくる
そしてそれに伴い、何やら静止を促すような言葉も廊下に響いている
「待——て!待っ——さいって!」
「今——は、客人の相手を!!」
バッとと見るとサーナダは何かを察したように茶を啜るだけで落ち着き払っている
しかし、俺は違った。
迫ってくる何かに本能的に恐怖を感じ立ち上がる
そして今まさに開かれようとしている襖を凝視する
バンッ!
勢い良く開かれた襖の先にはそれはそれは大きな大きな何かが立っている
そしてその大きさからその物体の全容は見えない
「でっかい……なにこれ——」
そこまで言ったが
のそっと姿勢を屈め此方へ入って来る姿を見て、初めて人だと認識する
「——って!うおぉぉぉい」
「人だぁ!バカデケェ人だぁ!!」
そのでかさからハルクか何かだと思ったが、
服装はドレスっぽく優雅で横に広がっており、また顔にはケバいばかりの化粧を施し横に広い
以上の点から俺は女性である、もしくはそれに近い人物なのだろうと推測する
「マツコデラッ——」
「ちょっとサーナダ!あんたあの女捕らえたんですってねぇ!!」
「アタシに報告が無いのはどうゆう事よっ!!」
俺の言葉はバカでかい声に遮られ、サーナダに向けた怒声だけが部屋に響く
とゆうより恐らく屋敷中に響いてた。
耳をおさえる俺の隣で二人が話始める
「あの子はワタシの所の女達を何人も連れてっちゃったのよ!穴埋めはしてもらわないといけないのっ!!」
「元々職業は自由に選んで良いもの、それは女性達の自由では?」
どうやら話の断片を繋ぎ合わせると、トロがこの女性?の職場から女性を引き抜いたとのことだが
恐らく、その女性達は
「ちょっと良いかな?」
俺が発言をすると大柄な女性が此方を見る
「誰?この坊や」
「……トロラルルの旦那だそうだ」
その言葉を聞くと同時にその女性?の大きな腕が俺に喉輪絞めをするため飛んでくる
「ぐえぇ!」
「どうもぉ〜始めまして娼館“エトワール”の主マダム・プラダですぅ」
その社交的な挨拶からは想像もつかない程暴力的な挨拶をされ、俺は女性?の肩の高さまで持ち上げられる
「……ぐるじぃ」
「あなたの嫁のせいでワタシは損をしちゃったの、埋め合わせはしてくれるんんでしょう?」
皮肉げに笑顔を向けられるがコッチはそれどころではない
なんでえっちもしてない嘘の嫁の為に命かけなきゃいけないのか、俺は激しく後悔する
すると
「トロラルルには一生ワタシの元で働いて貰うわ……あなたにもそうして貰おうかしら?」
その言葉で
俺は流石にキレた
「……るせぇ——デカブツ」
マダム・プラダの表情が殺意に染まる瞬間、音声が響く
『マスターの危険を感知、対象を排除します』
すると
俺の腕に擬態していたアメノハバキリの一部が無数の触手の様なものを伸ばし俺の腕から広がっていく
それは勢い良くマダム・プラダに向かって飛び出し攻撃を仕掛ける
「っ!?」
マダムは堪らず俺の喉から手を離し、俺から一歩下がる
しかし、伸びた触手は止まらず襲いかかる
「どぉどぉ!どぉ」
マダムの面前に迫った触手は俺の掛け声で停止する。
マダムは言葉を失い啞然としていた
なので俺はなんとかこの場を取り繕おうとすることにする
「はぁ……もぉやめようよ、こんなこと!」
「だいたい今時、三竦みなんて流行んないって」
マダムは開いた口が塞がらないようで俺の話を黙って聞く
しかし、サーナダは違った。
「つまり、峰君は我々に手を組めと?」
「そうそこだ!今のトレンドは主人公サイド対悪の単純な構造なわけ!」
「タイトルで全部説明しちゃう様な分かりやすいのがウケるのよ」
もっぱら最近のラスボスは鬼〇の刃然り、呪術〇戦然り純粋な悪が居てそれに向かって立ち向かうというものが流行っている
そのてん三竦みはややこしい共闘や裏切りなんてもってのほか
「大体、三国志から一体何千年三竦みやってんだって話よ!!」
渾身の力説
しかし
「のれない相談だねぇ……」
口を開いたマダムは俺の提案を否定する
しかし、マダムには理由があるようだ
「ワタシの所の従業員は“ディパーテッド”の女達も多い——」
「サーナダの目的は、奴らの再構築を止める事なんでしょう?」
「産まれてくる命を奪う権利は私たちにはないわ」
—— あぁ、そういうことね
マダムが恐れているのは稼ぎが減る事もあるのだろう
“ディパーテッド”は死ぬか、もしくはバイタル反応の喪失で再構成が行われる
つまり、美人だったりの人気娼婦となったものが身請けをされ、
どこかに引き取られても再び、再構成されて産まれてくる
何度も何度も、その恩恵にあずかれるというわけだ
「何時まで、死者達の力を借りるつもりなんだね?」
マダムの言葉にサーナダが反応する
「死者達の魂は、未だこのコロニーにとらわれているのだ……」
「もう、解放してやるべきだろう」
俺は双方の話を聞くことで二人の認識の違いを比べることが出来た。
簡単に纏めると
サーナダは、“ディパーテッド”を連続した一つの命として考えている様だった。
一種のクローンである“ディパーテッド”はそれぞれの個体ごとにオリジナル同様の個体であり、
考え方によっては一人の人間が永遠に生き続けていると言えるだろう
方や
マダム・プラダの方は同一の特色を持った個体としながらも、別の命として考えているともとれる再構成された時点で別個の命
魂と言い換えてもいいものを持って生まれる
この考えならば確かに装置を止めることに抵抗を感じるのだろう
「あんたの母親が“ディパーテッド”なのかもしんないけどねぇ——」
「母は未だにこのコロニーにっ——」
俺が考えている間にも二人は言い争っている
おちおち考えを纏めることも出来やしない
俺はサーナダを見る
そしてマダムの方も見て様子を伺う
しかし、一向に両者の主張が交わることはない
次第にエスカレートし、まずマダムがサーナダの肩を押す
「……貴様触るな」
そう言い次にサーナダがマダムの肩を押す
「止めなさいよ!」
そういった頃には二人共、既に取っ組み合いになっていた。
「はいはい!止め止め!」
俺は二人に割って入り、話を纏める
—— 子どもの喧嘩かよ、まったく
「マダムが反対なのは分かったし、もう止めないよ」
「ただ……俺は“ディパーテッド”を解放する」
「あんたサーナダに肩入れするつもり!?」
俺の決断はマダムにそう思われても仕方がないことだろう
ただ俺にはそんなつもりはない
俺は——
「俺はトロの頼みだからやるんだ」
ぶっちゃけ俺にはサーナダの考えも、マダムの考えもどうでも良かった。
大事なのはトロが頼んできたということ
アイツには借りがある……いや、無いわ
実質プラマイゼロ位だがまあ良いや
そんな事を思っている内
俺の言葉を聞いたマダムの顔は怒りで次第に赤くなり、部屋の出口へ向けドスドス歩き出す
「覚えてなさいよっ!」
そう言い残し部屋を出る
「悪かったね、峰くん」
静かになった部屋で先に話を切り出したのはサーナダであった。
「マダム・プラダとは同い年でね……昔からこうなんだ」
その言葉からサーナダの寿命は他の者達より短いということが分かる
何故ならサーナダは既に見た目で70歳そこそこ、マダム・プラダは化粧をしているとはいえ悪くて40後半といったところだろう
「あんたの寿命は——」
そこまで言った所でのサーナダの方から告げて来る
「私には母の遺伝子が入っているからねそこまで長生きは出来ないだろうね」
—— ……やっぱりそうか
“ディパーテッド”は今から7千年に近く前に生きた人間をベースに遺伝子を記録している
恐らくそれがサーナダにも受け継がれたのであろう
「そうして自らの死に向かい合ったとき思ったんだ——」
「魂を解放しないとあの世で母には会えない」
そう言うサーナダは少し寂しげに見えた。
俺は惑星LANDP315で出会ったクリストの事を思い出す
クリストは後から遺伝子操作を受け長寿を手に入れていたのだ
ならサーナダもそれが出来るのではないかと考えた。
「遺伝子操作は?」
サーナダは笑う
「うちの若い衆にもそう言われた、だが親から貰ったこの身体をいじる気にはなれなくてな」
「いわばこれが、私が私である証明」
俺は「そっか」とだけ言い、部屋を出ようとする
だが、その前にサーナダに一つだけ頼みがあるのを思い出した。
「そうだ!1回だけトロに面会させてよ」
「いいだろう、若い者に案内させる」
その言葉を聞き俺は部屋を出る
その後
マクとフィストは一旦報告の為に船へ帰らせ
サーナダの若い部下に案内され、俺はオークションに出される人が集められた収容所に来る
マクとフィストは一旦報告の為に船へ帰らせ
収容所はなんの変哲もない、例えるなら倉庫の様な見た目をしていて、中には無数の部屋があった。
その部屋は俺が“アキ”でカークに囚われていた部屋とは違い物理的な鉄格子により閉ざされており、物々しさが増す作りになっている
「……ここだ」
サーナダの部下が止まった部屋を俺は覗き込む
すると部屋の隅のベットに体育座りで顔をうつ伏せ座るトロが見えた。
俺は安心から自然と笑みが溢れる
「おい、お前唯一の友達に置いて行かれて拗ねてる奴みたいだぞ」
俺の声にトロがゆっくり顔を上げる
そして力なく
「あぁ〜峰ぇ」
と言い立ち上がる
「お前嵌めやがったな?」
「嵌めてないよぉ〜借金の事は本当に忘れてたもん」
トロが言うには本当に忘れていたらしく、温かく迎えてくれると思っていたが、囚われていた落ち込んでいるらしい
—— 本当にバカじゃん
そう思いながらも限られた時間で話を済ませようとする
「友達の為なんだな?」
「そうだよぉ〜」
「私と桜庭千恵が出会ったのは、40年前でね……」
そう言ってトロが昔の話を俺に聞かせようとする
しかし
「いえ、結構です!」
「……」
「………えぇ」
トロと案内役の男が揃って声を漏らす
「だって長くなりそうじゃん」




