走れ!峰浩二
「殺すわけがないでしょ!」
警報の中、速歩きで歩くルラルに付いていく俺は、冗談にマジレスで返された事よりも、流石に1万年後の人間にこのネタが通じなかったほうに、少しの寂しさを覚えた俺に対し、ルラルが今度は歯切れが悪く言う
「貴方にはやってもらいたいことがあるの」
「貴方にしかできない事」
「いえ、できるかもしれない事を」
つまり、ルラルにも良く分からないという事であろう。
良くはわかってはいないが、危険を冒してまで何故か俺を無理矢理起こし、誘惑し、連れ出す。
クソ馬鹿じゃん
この心の声を伝えるため、もう少し具体的に形成し、出来るだけ棘のない言い方に変換する。
「意外と考え無しなんだな」
その言葉を聞いたルラルは通路が十字路にさしかかった所で立ち止まる。
言い方を間違えたかっ
そう考えると同時に、具体的に俺に何ができるのか思考を巡らせる。
結果、何も出来るはずはない、という結論に行き着く。
それもそのはずであり当たり前の事だ。人類が1万年をかけて進歩し、対応してきた事柄に対して、俺は何一つ対応していない、一万年前で止まったままである。
俺が生活していた2030年から1万年前というと、日本では後期旧石器時代にあたり、狩猟を行い洞窟等で暮らしていたのだ。
つまり、それくらいの差があるという事、結論を言うとこの時代の人類のルラルが出来ない事を俺に出来るわけは無いと言うことである。
そこまで考えた時には差し出された手を素直に取ろうとは思えなくなっていた
。
するとルラルは俺の方へ向き直り
「私たちも必死なの」
と、まるで乞うような瞳で見つめてきた。
もう流されないぞ
せめて、そう取り敢えずは何をやらせようとしているのか聞かないと、はっきり言って信用出来ない。
先程まではこの時代で唯一の頼れる人と思い付いて来たが、
今となってはぶっちゃけ怪しいお姉さんでしかない、それもセクシーな怪しいお姉さんだ。
「はっきりと教えて欲しい」
「何をやらせようとしているんだ?」
この時代に目覚め、初めて理性的に振る舞う。
映画で最後まで何故か生き残るおちゃらけ陽気キャラを捨てて踏み込んだ質問をした俺に
それは…と言おうと口を開いたと同時に見つめ合った二人の目線を切るように白い光が高速で抜ける。
瞬く間の静寂の後、一本また一本と光がルラル目掛けて飛んでくる。
俺達は堪らず十字路の左右にわかれ飛び込むが
何が起こっているのかを把握しているのは恐らくルラルだけであろう。
ビビり散らかしている俺に反し、反対側のルラルは少し身を出し光の飛んできた先を見やる。
するとまたもや光の束がルラルに集まり、慌てて身を隠す。
「くそっ!戦闘用ドロイドか」
ルラルの言葉が微かに聞こえたが次第に何かが歩いてくる足音が聞こえ出す。
それも、複数が向かってきている。
しかし、二度目に飛んできた光は壁の縁にいくつか命中し
少し壁が焦げている事を確認した俺は、初めてそれが攻撃兵器の様なものだと理解する。
「ガチっでやべぇじゃん」
頭の中で思うだけのつもりが、つい口を突き出てしまうほどに焦りを感じ、咄嗟にルラルの顔を見る。
するとルラルはこちらに手を伸ばし、
「今は信じられないかもしれないけれど!」
「私が絶対に貴方を守るから!」
と声を張って言う
トゥンク
胸の鼓動が高鳴るのを感じ、おねショタって良いもんだ、と再び下心がうずき出したが、
違う、今ではない
「俺は、地球に帰りたいんだ!」
ルラルに負けない程に声を張る。
俺は両親や妹達が寿命かなんかで命を終えようとしている時にさえ、気付かずに眠り続けていたような人でなしだ、ましてや目覚めて早々美人にデレデレするどうしようもない男。
それでもなにか、自分の気持に区切りをつける為にも墓前に花を添える位はしたい。
「誓え!ルルラルルラララルフナノブフジコ!」
「俺を地球に連れていくと!」
俺の目見たルラルは、俺の真剣さをすぐに汲んでくれ、次第に光が飛んでくる頻度が上がり、足音が大きくなる中
「誓うわ!今の時代を創った貴方達に敬意を払って!」
「私の60年の人生と両親、亡き夫に誓う!」
その言葉が聞けた俺は直ぐに身を起こし、光が止んだ一瞬の隙に飛び出す。
その刹那光が来る先をみると2足歩行の機械が通路いっぱいに体を成して並んでおり
戦闘の奴がこちらに銃口の様なものを向けていることに気づいた俺は血の気が引いていくのを感じていた。
死ぬ
そう思ったが意外にも光は飛んでこず、ルラルに強く手を引かれた俺は反対側に逃げ込み、そのまま手を引っ張られ通路を走っていく。
助かった事で少し落ち着き、心臓の鼓動が正常に落ち着き出した頃に、ルラルの言葉を思い出してしまった。
亡き夫に誓って?
人妻で未亡人で金髪セクシー美魔女って盛ったなぁ属性。
と人妻だったことに少し傷つき俺は走る
のであった。