コラ!コラァ!コラッ!
死んだ者達
このコロニーではそれを“ディパーテッド”と呼び、何か関わるのもはばかられる様なそういった存在の様に住人達は話す
だがどうだろう
実際に彼は生きている
生きているの定義にもよるが、少なからずは生物として活動している彼を指して死んだ者達とは違和感を覚える表現だ
「でもコイツ生きてるぞ……」
「いや……死んだと思ったけど、ん?」
「死んだのに生きている?」
もう俺の頭は沸騰しちゃいそうになっている
ここで、宿屋のおっちゃんは俺達外部の者にも分かるように説明を始めてくれる
「死んでも蘇る……いや、死んだら蘇ると言ったほうがいいか」
「私達住人も良くは分かっていないんだが、つまり死んだ個体はそのままこのコロニーの中枢設備から蘇ってくるんだ」
中枢設備、この言葉で俺はコロニーの前身となった全自動宇宙開拓施設の説明を思い出す
「全自動で人間のクローンを生み出しているのか…労働力として」
恐らく開拓施設としての名残
惑星開拓をAIと共に行う為選ばれた人間が施設にデータとして残って居るのだろう
それを施設は放棄された後も律儀に実行し続けている
「でもこの施設はAIに放棄されたんだろう?“レプリケーター”の支配域に近いという理由で」
「ああ、そう聞いている——」
「このコロニーへ人が流れ出したのはおおよそ300年前、私が来たのもほんの50年前だ」
混乱した頭でもこの時代の人間との時間感覚のズレには毎度驚かされる
—— 50年前が“ほんの”ってどうなってんだ半世紀だぞ
だがおっちゃんは次々と新たな情報を出してくる
俺は何とか必死に付いていこうと傾聴することにした。
「私が来るずっと前、このコロニーで起こっていた事を伝聞だが教えるよ——」
このコロニーに人が流れ出した300年前の出来事
当時、地球連邦政府に追われたあるマフィアの一団がこのコロニーから何度も宇宙船が発進している痕跡を見つけ
AIネットワークに情報の無かったこのコロニーであれば自分たちを受け入れてもらえると考え入港してみることにしたのだそうだ
船のドックには数隻の船と自動建造中の船が一隻あったものの、今ほど大きくなかったにも関わらず、コロニー内には人影を見つけることは出来なかった。
不審に思ったマフィア達は、数日かけて潜み様子を伺うことにする。
すると数日後、システムの中枢のある階層に動きがある
急に稼働し始めた中枢システムから次々と人が現れ船の中の一隻へ乗り込んでいき、暫くしたのちその人々を乗せて飛び立って行った。
それは数か月に一回起こった
そして数回その様子を見ていたマフィアの一人が気が付く、中枢から現れていたのは全て同じ人物達であったと
直ぐにシステムの中枢へ侵入し解析を始めたマフィアの連中は驚愕したようだ
このコロニーはAIが放棄してから千年休むことなく惑星開拓の為のシステムを実行しており、そのフェーズは必ず決まったところで中断され再試行されていた。
そう
データから再構成された優秀な開拓員達が目的地へ向かう途中で死に、バイタル反応が途絶えた時再試行するようプログラムされていた。
「ちょっと待って……その向かってた先って」
俺は話の途中ゾッとして割り込んでしまう
聞きたくない、はっきり言って聞くと後悔する自信がある
「そうそのまさかです……彼ら開拓員は数百年の間、何度も再構築され——」
「“レプリケーター”の支配域へ向かっていたのです」
—— ……何だよそれ
「馬鹿げてるっ!!」
俺は怒りに似た感情を抱くが、この怒りの向ける先がないことに絶望する
何度も、何度も何度も何度も何度も何度も
そのデータにあった開拓員は再構築という方法で命を得て、何も知らないまま計画に従い“デッドゾーン”を超え、そして“レプリケーター”に殺されて来た。
その人数は恐らく数えきれないほどでその一つ一つの命を考えると気が狂いそうになる
「だが今は、そんな事は起こっていないように見えるが」
ここでマクの言葉で我に返り心が落ち着く
「そうだ、今は解決したんだろ?おっちゃん」
「……“レプリケーター”の支配域への突入は無くなった」
「そのマフィアってのが今の“サーナダファミリー”でな、彼等が止めたんだ」
おっちゃんの話では、当時のそのマフィア達こそ今のサーナダ・ファミリーであり彼等が説得を行う事で一時は止まったのだという
しかし彼等は宇宙開拓時代の人間をデータ化したもので、記憶も当時のものであったし何より寿命が短かった。
俺と同じく調子が良くても80歳前後までしか生きない上に、度重なる構築でデータは劣化し多くの者が数十年もしたら死んでしまった。
彼等は記憶も引き継がない為
また新たに産まれてきた者を説得してと繰り返す内に、中から理性が欠如した個体が産まれ始めた。
「それが“ディパーテッド”って事か……」
俺は自らが捕らえた男を見て先程の説明の裏付けとする
確かに目の前にいる男は理性と言うものがまるで感じられず怒りを直接的に表現しているようであった。
「彼等は一体どうするのですか?」
フィストが次に質問をして、おっちゃんがまたも答えてくれる
「稀に紛れ込む、理性を失った“ディパーテッド”が現れたら“サーナダ・ファミリー”に報告することになっている」
“サーナダ・ファミリー”には俺達も用があった事を思い出す
大人の遊園地を見ての興奮からバチクソ重い話への流れで俺の感情は疲弊状態だった。
なので俺は一旦当初の目的へ立ち返る事とする
「じゃあさ一旦ここで待って、やってきたファミリーの連中にトロのこと聞いてみようぜ」
「それが良いかもな」
「ええ分かりました」
マクとフィストの同意を得て俺達はこの場で待つことにした。
数十分後
「つまりですね、純粋さこそ価値でありそれは幼さの中に現れるのです」
俺達はフィストのかなり危険な性癖を聞きながら時間を潰していた。
というのも目の前に広がる大人の遊園地を前に俺達は指をくわえてみていることしか出来ず、悶々とした俺達が性癖について語り始めるのは必定であった。
「つまり、それってお前……ロリコ——」
俺が口に出そうとした時、道路の向こうから怖そうな見た目の男が二人歩いてくる
男達はスーツをビシッと決めており、サイバーパンク的な街並みに似つかわしくない恰好であった。
「お前らがコイツを捕まえたんか?」
男の一人が俺達に向け話しかける
「そうだよ」とだけ俺は言い男達の様子を伺った。
男達は慣れた手つきで捕獲した“ディパーテッド”を抱え
「ったく最近多いな」
「ああ、きっと何処かに抜け道があって手引きしてるやつが居るんだろ」
などと話しているのが聞こえてくる
俺は椅子代わりにしていた階段を飛び降り、男達の下へ歩いていく
そして
「なぁあんたらが連れてったトロラルルヴァっ——」
「トロラルル……あぁ!言いづれぇ!!」
「トロって女の子何処に連れてった?」
と尋ねる
しかし、男達は「……誰?」といいあまりピンと来ていないようにだったので
「ほら小柄で…茶髪で長髪のぉ……かわいらしい」
「……あぁ?」
「とにかくなんかだらしない服装で、風呂に一週間は入ってないような匂いのする女の子だよ!」
「あぁ!」
なんとか互いに人物の共有が出来た事で話が前に進み始める
「おい、どうするつもりだ?」とマクが俺に尋ねて来るが俺の考えは始めから決まっていた。
「俺をあんたらのボスの所へ連れてってくれ」
「なんだぁ?てめぇコラてめぇ!」
「てめぇコラアイツの知り合いかコラ!」
—— ちょコイツキャラ濃いな
名前も知らないいかにもモブ的な奴のキャラの濃さに思わず遅れを取りそうになってしまう
「何者じゃコラてめぇコラッ!」
—— 負けてられない……インパクトのある事を、何かっ!
キャラが食われそうな恐怖に俺は思わず新たな後付け設定を口にしてしまった。
「俺はアイツの旦那じゃコラッ!!」
「……おぅ、旦那か」
「い…いい趣味してんじゃんコラァ……」
晴れて俺は一週間風呂は入らないし、便所のドアは開けっ放しで用を足す女性の自称旦那になってしまった。




