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新たな力


『肉食の恐ろしさだと——』


『なるほど、つまり君は僕を殺し首を裂きそして血を抜いて喰らうことも可能だと……そう言いたいんだな!』


『それもあまつさえ彼女の見てる前で愛する僕を内臓ごと食す……なんて恐ろしい奴なんだ』




「……」

「そこまでは言ってない」



 トレーサーのぶっ飛んだ発想に引いてしまった俺だったが、こいつは恐らくこういう性格故に現在の政策を打ち出したのであろう


「想像力豊かと言うかなんと言うか」


 トレーサーという人間がどういうやつなのかというのが少しわかり親近感が芽生える

 しかし、俺もクリスト達が危険に晒されている現状を放置するわけにはいかなかった。


 なにで俺は再びブレードを構えスラスターを吹かす


 今回は止まらず、全力で空を駆け回る


「アイちゃん、俺の身体の事は無視で全力で回避し続けてくれ」


 “キューピッド”の時空位相波は総量が決まっており、撃ち続ければ必ずリキャストタイムが発生する

 なので俺の作戦は奴に撃たせ続け限界が来た所で懐に入り込みブレードを当てるというものだ


『了解しました、マスターの身体的負荷を無視します』

『ブラックアウトにご注意下さい』


「あっ!やっぱり控えめにっ——」


 その瞬間身体に負荷がかかりそれが右へ左へと俺の内蔵を揺さぶってくる

 

 だが今回はかろうじて意識を保っている

 恐らく重力制御装置のおかげでこの程度に収まっているのだろう


 その間もアイちゃんは“キューピッド”からの攻撃を探知し続けている

 トレーサーは質より量での攻撃に切り替えた様だ


『どうあがいても僕達の愛の結晶には敵わないと何故わからない!』


 トレーサーの通信が入り俺の集中を妨げる



「今はそれどころじゃねぇんだよ……それにな!」


「肉食には、様々なメリットがあります!」


 肉にはタンパク質鉄分ビタミン等の栄養素が多く含まれており筋肉を作るタンパク質も摂取出来る云々


 俺はトレーサーに懇切丁寧に説明し肉を食う素晴らしさを告げる


『それが動物達の命を奪う事だと何故理解しないんだ!』


 俺が5回目の時空位相波を避けたあたりでトレーサーから言い返される

 

 確かにそうだ、俺達は動物の命を頂いている

 その事実に変わりはない

 しかし、拒絶し難い理由は確かにある


「……だって美味いだろ!!」


『…なん……だと?』


 俺にはこの男を言いくるめる程の言語能力はない、そしてトレーサーに対して影響力を持つほどの関係も築いていない

 であれば、どうするか


「うめぇから食うんだよ!ばぁ〜か」


 逆ギレ


 逆ギレされればなんとなくそんな気がしてくるもの、つまり俺は議論を捨ててパワーでねじ伏せる作戦にでる


 

 そうしてる間にも“キューピッド”の連続で撃てる総量に近付いた様で


『過去2回の攻撃を最大総量だと仮定した場合、次の一発が最後だと思われます』


 アイちゃんの言葉を聞くやいなや俺は“キューピッド”に向けて駆ける


「食いたいから食う!寝たいから眠る——」


「好きだから愛し合うんだろっ!」


 俺トレーサーに向けて思いの丈をぶつける

 

 認めよう、始めは敵同士が通信で戦いながら話すことに否定的だった。

 しかし、正直言って楽しくなっていた。


『はっ——好きだから、愛し……合う』


 なんか知らんが刺さった様だ


 

 しかし無視して無慈悲にブレードを振る


『しまった!』


 俺の言葉に何故か打たれていたトレーサーは反応が遅れ、回避はしたものの再び前足2本を切り離す


「アイちゃん切り離した所を吸収しろ!」


『っ——了解しました』


 俺はアメノハバキリの左手を“キューピッド”から離れた2本の前足へ伸ばす

 

 そして左手の先が触れた時、それは形を崩し液状になり

 みるみる内にアメノハバキリの身体の一部となって行く


『同期完了、出力が114%まで上昇しました』


「よっしゃ!」


 俺から遠ざかった“キューピッド”の前足が先程のアメノハバキリの様に再構成し、元の姿へと戻る

 だが、同様に出力は落ちたはず

 そう思いアメノハバキリを飛ばしていると再び時空位相波を放って来る

 

 しかし出力が以前にもまして上昇したアメノハバキリを捉えるのは難しかったようだ


 再び空を飛び回り回避を続ける

 

 そして同じ要領で近付いていき、今度は背後に回り込み臀部部分からp真っ二つに切り裂く


 そして同じ要領で吸収する

 するとアイちゃんから報告が上がる


『出力130%——同時に時空位相波を解析』


『解析完了——最適化し左腕に構成します』


 

「え——まぁじ?使えるの」


 俺は思った以上の手土産をもらい心が跳ね上がる

 そして新たな武装は左手に構成されてゆく


『そ、それは!僕達の愛の波動たる武器を何故君がぁ!?』


「いや愛の波動でも何でもねぇし……まあいいや」


 俺は左腕に付いた薄いピンクの武器を構える

 

 武器は腕から肘にかけて四角い箱の様な形をしており、俺が発射の準備をすると先端が2つにパックリ開き口の様な姿へ変形する


「この武器は“フェンリル”と名付けよう」


 俺の言葉に合わせてアイちゃんのアナウンスが入る


『“フェンリル”チャージ完了——発射しますか?』


「操縦席は外せよ……」

「“フェンリル”ぅぅ発ぴゃ——あ、ごめん噛んだもういっか——」



ボボボッ!


 

 発射された“フェンリル”は“キューピッド”の身体をバスケットボール程の大きさずつ削り取っていく

 次第に機体の大部分が削れ、気色の悪かった姿が見るも無残な見た目へと成り果てる


 そこでトレーサーから音声が届く


『そうか、そういう事か……』


 トレーサーからの通信はノイズが入り聞き取るのが難しい

 

『好きだから愛し合う……君の言葉と愛の波動を使いこなす君を見てわかったよ——』



——まぁた始まったよ

 

 俺は嫌気がさしていたがトレーサーは構わず続ける


『——君は愛を知る者だと』

『愛しているんだろ?そのAIを』


 もう俺は開いたお目目が閉じなくなってしまう、開いた口から何か言おうとするがなにも言葉が出てこない


『わざわざそんな特別製のAIを機体に積んで、息の合った連携は愛なしには語れない』


「ちょっと何言ってるかわからないです……そもそもお前の機体にもAIは積まれてるだろう?」


 

 トレーサーの発言からは分からないことが多すぎる

 そもそも俺は、アイちゃんはこの機体シリーズに付属しているものだと思っていた。


 だがトレーサーの発言はその考えを否定するものだった


 

『本来この機体シリーズ“シェイプシフター”にそれほどの高ランクAIは積まれてはいない』


「それって……どういう」


 するとトレーサーの機体が高度を落としていく

 それもそのはず全体の7割以上を失った機体ではそう長くは機能を維持できないのであろう


『ここまでの様だ……そのアイちゃんとやらとの愛を無くすなよ』


 そう言い残しトレーサーは地面に向かって落ちていく


「いやちょっと待てよ!」


「そういうボスの謎の言葉に一体何人の読者がモヤモヤを抱えてきたと思ってんだぁ!」



「最後まで言ってから死ねやぁ!」



 俺の叫びに反応する声はもう無かった。


 


 

 ところでだ

 

 ところで先程のトレーサーの言葉が気になるのもまた事実


「なあ……アイちゃ——アイ」


『……』


「いや……その」


 

 異性を意識し始めた中学生の様に言葉に詰まる

 これまでは普通に話していたというのにその瞬間が訪れるやいなや、まともに話せなくなる


「あの色ボケが変なこと言うから——」


『これからどうします?』


ドッキッンチョ


「こここここれからかぁ〜」

「と、取り敢えずどっかで休憩しよっかぁ〜」


 童貞のようなキョドり方に失望する

 しかし、アイちゃんは気にもとめていないようで


『惑星AIの件です』


 なるほど


 俺は冷静な判断を取り戻し、本来の目的を思い出す

 トレーサーを倒しただけではこの惑星の現象は止まらない、それを行っている惑星AIを止めなければならないのだ


 そこに思い至ると直ぐに目の前の四角い建造物のてっぺんへ向け機体を飛ばす


 建物上部に到達すると綺麗な平面になっており、中央には一つ出っ張りのある奇妙な形であった。

 俺は取り敢えず機体を出っ張りに近づける


 それは人より少し大きい程度の出っ張りで、直感的にここが入り口何だと感じる


「……降りてみるか」


 そう言うとアイちゃんは機体の変形を解いてくれ

 俺は地面に面した出口から機体を降り、出っ張りの前まで数歩歩く


「なんも起きねぇ」


 俺は大きく息を吸い、古より扉を開けるのに最適な魔法の言葉を口にする


「はぁよあけんかぁぁい!大阪じゃ!はよあけぇ!!!」


 やはり扉を開けるシート言えばこれである

 大阪府警が暴力団事務所に捜査に入る際に用いられた禁じ手


「開けぇボケぇ——あっ」


 すると俺と機体を光が包む

 そして次の瞬間には、広い空間に来ていた。


 この空間は薄暗く、奥には巨大で透明な筒状の容器に液体のような物が入っているのが見える


 俺は引き付けられる様にその容器に近づいていく


 俺の目から見える容器には液体だけが入っておりますその他のものは見当たらない


「脳みそとか入ってなくてよかった」


 すると部屋に声が響き渡る


『どの様なご用件でしょうか』


 話口調からこの声が惑星AIのものだと直ぐに察する事が出来る


「俺は峰浩二“最上位権限保持者”だ……」


 するとまたも淡々とした機械的な声で


『承知しました、データを照合します…………峰浩二、西暦2011年6月7日産まれ男性、お間違い御座いませんか?』


『確かに確認出来ました、ご用件を伺います』


 

 案外すんなり認証が終わり呆気にとられる

 だがこれは僥倖である


「あんたがこの惑星で行っている動物と人間の思考同調を今直ぐ止めるんだ」



『現在一部の者達で実験的に行っている“人獣同調化”の事ですね、まだ十分なデータが得られていないので本格的な動物の人化に繋がりませんが構いませんか?』


 この惑星AIの中ではまだ準備段階の実験の一部に過ぎなかったということなのだ

 その事実に無性に腹がたった。


「今直ぐやれ!動物と人間をあるべき姿に戻すんだ」


 俺は惑星AIに言い放つ

 動物はその種類毎にあるべき生き様を全うする、人間は人間でそのあり方が別にある


 動物の権利を守るというのであれば人間と同じにする必要はない

 その性質に合わせた権利を与えればいい



『承知しました、プロセスを実行中………完了』


『全ての実験体は、開始前の状態に戻されました』


『他にごxbjよvsyhksjskッ——』


 突然のAIの口調に変化が現れる


 何が起こっているのかわからず俺は一度アイちゃんに尋ねたが何の返答も得られない


 恐らくアイちゃんでも理解していないのであろう



『了解j−jdjーsbし…………』

 

 急に沈黙する

 すると新たな反応が起こる


『……あーあーあー』


『はいはーい!おはよう御座いま〜す』


 周囲になんだか明るい声が響く、とても陽気で元気のいい声だ

 

『あれぇ峰さん居ないのかなぁ……聞こえてますか〜』


 どうやら俺を探しているらしい声の主が呼び続ける

 俺はやむなく呼びかけに応えることにする


「俺ならいるけど、あんたは誰だ?」


 すると宙に映像が映し出され、銀髪のウェーブがかったふわっとした髪をした少女の姿が映し出される



『あぁ居た居たぁ!改めまして、長い眠りからおはようございます峰さん——』




『私はマキナ、最上位AI“マキナ”です』


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