くっ!殺せ!
こんな事ばかり考えていたのでは話が進まない。
そう考えた俺は、そこからルラルと落ち着いて話し、廊下に出てルラルの後についていくこととなった。
ルラルが言うには、この後会ってもらいたい人がいるから少し船で移動しないといけないとの事である。
廊下には白い壁が続き、10歩程度の間隔で俺が寝ていた部屋の扉と同じものがあり、この扉はキーを持つものが前に立つと消えて中に入れるという仕組みらしい。恐らくこの部屋一つ一つに冷凍睡眠をしている人がいるのだろうと考えるとまるで霊廟のようで少しゾッとする話である。
また、廊下には照明と呼ばれるものが何一つなく、それでいてなぜか明るく光っている。
これも奇妙さを感じる要因となった。
この光景を見た俺は未来に本当に来たんだなと実感する。
しかし、またここで2点引っかかることが浮かび上がってきた。
一つは、俺たち以外の人影が見えないということだ、こんな未来であれば当然全て自動化されていて人の手がそもそも必要ないとも考えられる。
だが、それはそれで別の疑問が湧き上がる。がこの疑問に関しては良くない予感がしたので、蓋を閉じ、今はそっと胸に仕舞うことにした。
ここで残る一つの疑問に関しては直接ルラルに聞いてみる。
「さっきの言語形態についてだけど」
先ほど、ルラルの名前のくだりの時、言語形態が1万年前と違うと言っていたが、それであるならあり得ないはずなのだ
。
「俺がルラル姉さんの言葉がわかるのはおかしくない?」
そう、ルラルが俺の言葉を理解するのはまだわかる。
ゲームハードに後方互換があるように言語にもあってもおかしくはない。ましてや翻訳装置などを所持していても何ら不思議がないくらいに進んでいる。
しかし、逆は絶対にあり得ない。
俺にはそんな装置はないし瞬時に言語を理解する知能もない。
こんな突発的なトラブルに巻き込まれているというのに綺麗な女性に見惚れて鼻の下を伸ばしているような人間だ。
ではなぜ
なぜこうも当たり前に会話が成立しているのだろうか?
「峰の脳に共通言語に翻訳するチップがはいっているからよ」
「知ってるでしょ?」
なんだって?
そんなの入れた覚えがない、そもそも俺が眠り出した時にそんな代物は開発されていなかった。
だったら寝ている間に誰かが埋め込んだ?
いやまて、睡眠中に埋め込めるものなのか?
様々な憶測が溢れ出した俺はルラルの後ろを歩きながらも、ここに来て初めて神妙な面持ちで考えこむ。
「どういうことだ?」
つい口をついて疑問が飛び出す。
すると、ルラルが気を使ってか
「ちょっと調べてみましょうか?」
と助け舟を出してくれた。
良いのか?と聞くと同時にルラルがこっちに来てと俺を呼び、両手で頭を抑え胸に押し当ててくれた。というのは語弊がある、正確に言うなら調べたかったのは俺の後頭部で、わざわざ後ろに回るのが面倒だったのであろう、わざわざ正面からやってくれたわけだ、マジ感謝。
ラッパーばりに感謝を伝えてた俺にルラルは
「おかしいわね・・・」
空気をこれ以上不穏に追いやるのはやめて欲しい
「確かにチップが入っているのだけれど・・・」
「これ、千年程前に埋め込まれたものね」
千年前といえば俺はぐっすり就寝中、当然起きた記憶もなければ、頭ホジホジされてチップを埋め込まれる覚えも無し。
疑問が逆に増えてしまい頭を抱えそうになった時、
ビィィィィィィィ
激しい警報音のようなものが鳴り響く
「しまった!」
ルラルがポロッと細かく吐き出した言葉を俺は聞き逃さなかった。
「ルラル姉やん・・・あんた、まさか」
エセ関西弁風のイントネーションでツッコミのウォーミングアップをする
「ギクッ!」
擬音をそのまま口に出してもうてますやん、というツッコミをしそうになったが、
違う、ここではない
ここで俺が先ほど挙げた2つの疑問に立ち返る。
そう、自動化されていて人がいないであろう施設にルラルはいる、他に人がいないのがいい証拠だ。
人がいない施設に忍び込み、あまつさえ自分より30も年下の男を色気と言葉を巧みに操り連れ去る。
これは間違いなく
「エッチなお姉さんやぁぁぁ!」
くそぉうなんて卑劣なんだ、30歳の少年の心をもて遊びやがって!
続けていった俺はこの後一体どんな仕打ちを受けるのかと想像し、そのあられもない自らの姿を思い浮かべる。
そして、悔し涙を滲ませながらこう言い放つ
「くっ!殺せ!」